よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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22 政治的駆け引き

第22話

 

 

 

 夕方。

 秋の夕方は貴重なんです。だって日が暮れたと思ったらそのままあっと言う間に真っ暗ですから。リリリーなんて聞こえてくる虫の声とか、寂しそうに風に流れ動くススキ。秋ですねー。

 

 

 

 ってことで宴会です! 越後国府の広間にて新任の越後介到着をお祝いするための宴会です!!

 要するにオレが主役のオレの為の宴会ですね!

 

 いやー、それにしても凄い人数ですねー。まだ始まってもいないのにそこら中の席と言う席で賑やかに談笑しているのが見えます。

 これだけ賑やかだと越後の国人衆は石高の大小を問わず全てがこの宴席にいるみたいです。うーん、これ以上増えたらこの広間に収まらなくなるんじゃないかなー。

 昨日国府へと辿り着いたというのに、こうも集まってくれてるって事は何日も前からこの辺で泊まっていてくれたのかな。

 

 オレみたいなチンチクリンの為にこれだけの人がわざわざ遠いところから集まってくれるのはちょっと恐縮してしまいますね。

 だって、新任の介殿(すけどの)を祝いに来てみたらまさかの十一歳の幼女で、しかも上座に堂々と鎮座してたら凄い違和感を感じるでしょ? まあ、事前に『今度の介殿は幼女のようだぞ』なんて情報が入っていれば驚きは少ないんでしょうけどね。

 

 それでもオレは基本的にお酒は嫌いじゃないから、こう言った宴会はわりと好きですし気分もまんざらじゃないんですよ。いや、逆にここまでしてくれると嬉しかったりします。

 

 

 

 

 

 

「……それでは新しき介殿(すけどの)の前途を祝して乾杯!」 

 

 前任の越後介(えちごのすけ)だった人が乾杯の音頭をとると、みなさんが膳からこちらに向きを変えて思い思いに盃を上げる。

 

「乾杯!」

 

「かんぱーい」

 

「乾杯です」

 

 オレはそれに答えるように盃を上げて一気に飲み干した。

 美味い。やっぱり新潟の酒は美味いなー。現代にも続く美味さの原点はこの時代にはすでに確立されてたんだね。

 飲み干した盃を膳の上に乗せると広間に拍手が巻き起こる。うひゃー、なんかこうまで歓迎されると嬉しくなるねー。照れてしまいますわー。

 

 

 

「お初に御目文字致す。それがし五泉新三郎と申す者。介殿、ささっ一献」

 

「おお、そこもとが五泉新三郎殿ですかー。お噂はかねがね。剛力無双で十人力とか。そのような豪傑から酌をされるとはこの少納言感激でございます」

 

 事前に梶川くんから渡された虎の巻に目を通しておいてよかったわー。これが無かったらどんな人か判らなかったもの。まあ、元の情報を誇張して言ってはいますけど。

 都にまで噂が来てるなんてことは勿論無いですけど、たぶんこの五泉さんは体格がいいから十人力とか言っておけばいいんじゃないかなー? まあ、酌をされたんだからこっちからも返しますかー。

 

「なんと! 都にまでその様な話が伝わっておるのですか!? これはもっと精進しなくては。いやーあっはっはっはっ」

 

 なんかこのオヤジさん。すっごい上機嫌だねー。そりゃ、そうか都にまで名前が広がってるなんて言われれば嬉しいよねー。……ごめん口からでまかせだけどオレは名前を覚えておくからさ。許してね。 

 

 

 

「私は吉田六左衛門と申します。越後ご着任おめでとうございます。これからは我らを存分にお使い下され!」

 

「はい。私が少納言美盛(しょうなごんよしもり)です。今後とも越後の為よろしくお願い致しますね」

 

 吉田さんの挨拶ににっこりと微笑んで答える。当然相手の目をしっかり見て。

 さっきからオレの席へ来る人にはこうやって返していますけどみんな少なからず目をそらして恥ずかしそうに照れます。まあ、それもこれもオレがあまりにも可愛いからですね! いやー、前々世のオッサン視点で今のオレを客観的に見ても凄く可愛いもんな。

 そりゃあ、こんな十一歳の釣り目ロリっ子ににっこりとされたら照れてしまいそうになるわなー。うひひ、いたずらしちゃうぞ!

 

「介殿。お流れ頂戴」

 

「え、ああ、はい。どうぞ」

 

 オレの使っていた盃を吉田さんに渡して、お上品に両手を添えて注いで(ついで)あげる。

 どうだ! これが都の作法だぞ! 特と見やがれー! って内心でドヤ顔しながら都ならではの上流階級なやり方で注ぐ(つぐ)と吉田さんは飲み干した後、関心したのか目を丸くして盃を返してきた。

 お酒の飲み方一つでもビシッと上品に振舞うと相手をのんでしまえますからね。今日からはこの国の現場の最高司令官になったんです。この辺ももう気を使って呑まないと後々舐められても困りますから。

   

 

 

 もう、何人もの人から酌を受けたり、返杯したりでちょっとほろ酔い気分になってきました。でも、お酒はこのくらいからがエンジンスタートですよねー。

 

 エンジンスタートと言えば梶川くんや畠山さん達も酒を持って色々挨拶周りをしてるみたい。

 本当はオレから向かって右側は越後の国人達の席が。左側は都からの直属の家臣達の席があったんですけど、今はみなさん席を離れて無礼講みたいにはなってますね。

 

 

 

 

 

「介殿、この様な田舎へわざわざのお越し頂き感謝致します。ささっ、まずは一献」

 

 この人は紀親友(きのちかとも)さん。昨日までは越後の代官をしていた人で成親卿の遠い親戚なんだそうです。まあ、何かと上役に取り入る能力は高そうですから都では出世するんでしょうね。これだけ貢ぎ物をくれるんですから……。

 

 そう思うとオレの横にある豪華な反物やらきらびやかな重箱を目に入れる。くれるって言うんだから頂くけどねー。

 

 

 

「……あの村とこの村ではまだまだ余剰米が沢山取れますから税を特に上げた方が宜しいですよ。それに越後特産の青苧(あおそ)御用の商人から少なからず実入りがありますから都へ(まいない)を渡すと……ああ、その辺は平家の少納言様ですから判りきった事でありますね。あはははーっ」

 

 膳の前で地図を広げると、どこからか出してきた筆で赤い丸を付けていく。そこにまだまだ搾り取れる村があるんだそうな。

 たぶんこの人は自分と同じで嫌々越後に来たと思っているんだろうなー。

 

 その後も色んな為になる(・・・・)話を聞いたんだけど、越後の村と言う村に重い税を負担させて都の成親卿へ賄賂を沢山贈っていたみたい。

 頭は切れるんでしょうけど典型的な小役人ですねー。その智謀や才覚をお国の為、さらには民の為に使っていればいいものを……。とっても残念ですよ。

 って言うか、八公二民とかありえんでしょ!

 

 でも、そんなやりたい放題も去年までの話で、成親卿が失脚して後ろ楯が居なくなったもんだから平家一門のオレに媚びてきたんでしょうネ。判りやすいね。

 しかしこのままこの人をここへ置いたら面倒な事になりそう。早々に都へ帰ってもらいましょう。まあ、帰っても居場所があるのかは知りませんけど。

 

「なるほど! 今までご苦労様でした。後はこの私に任せてそこもとは都へ大手を振って凱旋して下さい」

 

「あ、あの介殿……」

 

「都へと帰還出来ればご家族もお喜びでしょう」

 

 ここで一端言葉を切って佇まいを正す。そして相手の目をしっかりと見てそのまま言い放った。

 

「長い間、大儀であった! これからのことはゆるりとお考えなされませ」

 

 

 

「介殿。お待ち下され! この者は決してお役に立てぬわけではござりませぬ。故あって色々と為にならぬ事もしたとは思いますが、それもこれも越後の為を思えばこそ」

 

「そうです! 今もって紀殿は稀有の人材。これを手放すはまことに惜しいですぞ」

 

「まことにその通り!」

 

 近くで耳を欹てていた(そばだてていた)七人程の国人がオレの目の前まで来ると口々に言い放った。

 さすがに今のオレは力も弱いただの幼女。なので、いきなり七人もの男性がにじり寄ってきて凄い勢いで怒鳴られると恐怖を覚えるんですけど! もう泣きそうなんですけど!! 泣き笑いの様な顔で後ずさりそうになるのを必死で我慢して平静を保ってるフリをする。

 うう、すっごく怖いー!!

 

 た、たぶんこいつらはこの前任の越後介である紀殿と一緒に甘い汁を吸っていやがったな。だから紀殿を越後に留めて置きたいってこう言うわけですね。

 しかし七人もの国人からこう言われては新任のオレでは政治的な地固めも出来てないから頷かざるをえないのが現状。断腸の思いですが、ここは耐え忍ぶほかありません……。

 

「判りました。では引き続き紀殿には越後介を引き受けていただきます。よろしいですね」 

 

「ははっ、この親友かならずやお役に立ってご覧に入れます」

 

「おお、さすがは平家の姫公達じゃあ。話が判る」

 

「よかったですなー、紀殿!」

 

 周りの国人達が紀殿に祝福のエールを送る。それをにっこりと笑顔でオレも祝福する……。

 でもね表情と心の内では全然違うんですよ。本当は悔しくて仕方が無いんですけど、それを表情に出したら更に泣きっ面に蜂。ここは我慢です。

 我慢我慢……。

 くそっ! やっぱり気が収まらない。肝心要の最初の政治的駆け引きで負けてしまった! 顔には出しはしませんけど心の中で悪態を付いてしまう。越後国府赴任の初手からこんな事になるなんて!

 悔しい。とっても悔しいです。

 

 本当ならここで紀殿を更迭してオレが越後の実権を握り、そのまま八公二民なんて言うバカな税率を改善して上々のスタートを切るはずだったのに、まさかの紀殿の慰留……。

 紀殿を残してしまっては、同じく越後の甘い汁を吸っている国人達とともに、オレの改革やら源氏への備え等を邪魔してくるのは目に見えています。

 

 

 

 紀殿は眩しいくらいの笑顔でオレに色々と話しかけてくる。でもオレはそれに答えるだけの余裕が無くてただにこにこと微笑んでいるだけ。

 この紀殿は一応は都育ちなのでちゃんと女芯丹は飲んでいる様で、本当は三十路らしいけど外見は十代中盤の可愛らしい女の子。髪は左右に二本の三つ編みにしているからなのかは判りませんけど、傍から見れば清純な印象を与えます。オレも最初に目にした時はそう思いましたし。

 でも八公二民なんて実施するんだから、民の事なんて事は考えもしないすっごい小悪党なんだろうなー。

 

 

 あーあ、こんなんでは都から供に来てくれた家臣や与力の畠山のみなさんに申し訳がない。

 ごめんね。これから苦しい戦いになるかもしれないよ……。

 

 はあ、この後どうしよう……。

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