よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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24 酒田姉妹

第24話

 

 

 

 オレがいるこの世界は時代で言うと平安時代末期です。でも、それと同時に元のオレが住んでいた世界の平安時代とは大分違う異世界なんです。

 だって武将とか名門公家の当主やら何やらに女性が多いんですから。いや、勿論、男性の当主だって沢山いますけど。

 それでもオレのいた世界とは全然違うんです。

 

 だからかもしれませんけど、色々とこれって実は違うんじゃないのー? って事がたまに見られるんです。

 その一つが兵力の問題です。

 

 

 

 前の人生の時はあっけらかんと日々をぬくぬくと過ごしていましたから、戦火が近づいてきても『源平合戦の時代になってきたなー』くらいの認識しか持っておらず、他人の家の火事程度にしか思ってなかったのですよ。

 

 んで、前線の平家軍が次から次へと敗北を重ねてしまい、まさかの平家都落ちですよー。

 

 この辺りで流石のオレもヤバさを感じ始めたんですけどもう既に時は遅かったんですね。

 都落ちの更にその後、オレは一の谷で敵の足軽達に純潔やら何やらを無理やり奪われた直後に気付いたわけですよ。オレは当事者だったんだって……。

 

 そこから再度産まれ戻ったんですけど、今度はスケジュールが押しているのが前世の経験から判るので、十歳くらいまでは平家衰亡の分岐点である鹿ケ谷事件(ししがたにじけん)の事しか頭に無いわけですよ。

 それが去年の話で 事件前から事件後にかけて、短期間のうちに惚れ薬だー! 成親(なるちか)卿だー! 越後赴任の準備だー! って忙しすぎて兵力に対する疑問なんて二の次って感じで優先順位からは大分落ちてたんです。

 

 でも、ここに来てようやくそれを優先順位のとても高いところに据える事ができたんです。

 遅すぎなんですけど、一応は前世みたいに一の谷の廃屋で手足を押さえつけられてから後悔するわけじゃなくて、今の段階でそれを思案出来るってのは実は幸せな事なんじゃないかなーって思ったり。

 

 

 

 で、考える事は一つです。

 よく奥州藤原さんところの兵力は旗本十七万騎って言われてるんですけど、どう考えてもそんなに養えるわけ無いですよねー。

 陸奥の石高が二十五万七〇〇〇石なので実高は多めに見積もって三十五万石ってところでしょうか。

 お上にどのくらいの税を納める事になるのかは存じ上げませんので実高を全て計算に入れてみましょう。

 一般的に一万石につき兵二五〇人が相場なので、それを基に計算しますと兵八七五〇人。凄く多いですけど十七万騎には遠く及びません。

 

 この事からも伺える様に、実は兵数って水増しが多いんじゃないかって気がしてくるんですよ。

 だから、今現在のうちらの総兵力、約七〇人ってのはじつはそれほど少ない数字ではないのではないか? って思えるんですけど。

 

 越後の実高は十二万石。でも都の朝廷と国主の親父に税として六万七五〇〇石は納めなければいけませんから、実質五万二五〇〇石ですかー。越後の国は、全部で五万二五〇〇石の中から勢力がまとまるんでしょう。

 

 さて、これを兵の数に換算しますと一二五〇人とちょっと。

 まあ面倒なんで一三〇〇人としましょう。

 

 うーむ。さっきはそれほど少なくはないんじゃ? なんて考えましたが、それでもやっぱり一三〇〇の中の七〇だと少ないですよね……。

 

 でもこれからオレの領地七五〇〇石分の兵を雇ったとしたらどうでしょう? 全部で二〇〇の兵にはなりますね。あ、それに畠山さんの五〇人を足せば、さあ大変。国府方の兵は二五〇人にまで増えちゃいます!

 一三〇〇の中の二五〇だったら二割強です。これはもう越後の豪族を何家か与力にすることができれば兵の過半数を越えるくらいは夢じゃないのではないでしょうか。

 

 こうなると私達の目下の政敵である紀越後権介(きのえちごごんのすけ)さんところの勢力が気になります。

 今はまだ詳細な情報が集まっていませんので判りませんが、確か先月の宴の席では七人の与力がいましたよねー。まずはその方達の素性を洗う事からはじめましょうか。

 

 

 

 

 

 

 もう越後の山々の頂上辺りは雪景色に変わり、とたんに寒さが身に凍みる季節になりました。十一月なんですから当たり前ですね。

 うう、寒い寒い。囲炉裏の側からは離れたくないです。

 でも今日はこれから政策担当の酒田姉妹の姉の経成さんと会って話を聞きませんと……。しかし十一歳のオレに政策の話をして普通は判ると思っているんでしょうかねー。

 本当は全ての生涯の年齢分を足すと六十歳近くになるんですけど、これは秘密です。

 

 

 

 庭の見えるいつもの吹きさらしな廊下を歩いています。寝殿造りの廊下なんですから上に屋根は付いていますが庭先と一体化した様な廊下です。

 

「姉様」

 

「はいはい。今から姫様に話を通してから、そのまま中越(ちゅうえつ)勢のやつらの目の前まで行って妥協してくるよ」

 

 (くだん)の廊下を進んでいると、執務の部屋までもう少しってところで赤毛の美人姉妹の姿を確認しましたよ。

 酒田姉の方はいつもの様に赤毛をツインテールにして横へたらしています。薄い肌色地に赤い紅葉を描いたお着物ですねー。あれ? でもこの寒いのに内掛けは着ないのでしょうか?

 一方酒田妹の長成さんは赤毛のボブ。お召し物は、単純な白いお着物の更に上にも白地の内掛けですね。内掛けの絵柄はススキですか。

 二人とも秋ですねー。 

 

 二人を見てると、パタパタとせわしなく動いているから凄く可愛いですね。

 でも、まあ、双子姉妹は十八歳ですから年齢的には年上なので、可愛いとかは言いにくいですけど……。

 

 

 

 酒田姉と酒田妹は連れ立って忙しそうに部屋を出たり入ったりしている。丁度母親のアヒルに子供のアヒルが着いて行ってるみたい。 

 その光景が面白そうなのでそのまま見ている事にしよう。あっちも忙しいからオレには気が付いてない様ですしね。

 

「姉様っ」

 

「今回のは楽でいいよ。自分達の屋敷に通じる道を公金で修復して欲しいって言うんだからね? そんなどうでもいい事に妥協するだけで相手は我々国府に借りを作る事になるんだから」

 

 書類の入っている専用の袋を脇に抱えながら、器用に前を歩く酒田姉に追いすがって何かを説明しようとする。

 でも姉の方は、自分の双子の妹の呼び掛けにはまったく応ずる事もなく、自分の言いたい事だけを機関銃の様に言い放つ。

 そしてそのまま一旦廊下に出た酒田姉は頭を軽くポンと叩くとまた部屋に戻る。どうやら着物の上着を忘れた様ですね。

 

「だからー、姉様ってば!」

 

「ええ、判ってますよ。もっと身だしなみをキチンとしろって言いたいんでしょ。でもどうせ妥協してすぐにとんぼ返りなんだからそこまでしなくても」

 

「ですからー、今日の会議は中止ですって!」

 

「……えっ? なんで?」

 

「中越の方から断ってきました」

 

「いつ?」

 

「たったいまです。姉様が出かけようとしてた矢先に使者の方が来て、そう言ってくれって。私も何度も言おうとしたんですよ! でも姉様がまったく話を聞かないから……」

 

 酒田妹は無口なはずなんだけど、姉と二人の時はそれなりにしゃべるんですねー。こんなに喋ってる姿を見るのははじめてですよ。

 あ、中越ってのは越後中央辺りの地方を言います。ただ、ここで言う中越って言うのは地方の事と同時に()さんたちの縄張りって意味で言っているんでしょう。

 ずっとここで姉妹を伺っていると冷えてきそうです。そろそろ行きましょう。

 

 さりげなく廊下の柱の間から顔を出すとすぐに酒田姉に見つかりました。

 

「あら、これは姫様。今日もご機嫌麗しい様で何よりです」

 

「あ、あ、あーー! 姫様にはしたないところを見られてしまったー!」

 

 双子姉妹は二者でまるで反応が違いますね。

 姉の方はなんとも社交的で人当たりもいい。翻って妹の方は……泣きそうな目でこちらを伺っています。

 まあ、普段通りなんでしょう。

 

「おはようございます。経成(つねなり)さん。長成(ながなり)さん」

 

 そう言えばおはようってまだ言っていなかったなーと、頭を軽く下げて挨拶をする。

 じつは今着ているお着物と内掛けが凄く可愛いいので自慢がてらに見せびらかそうってのが、廊下を出た理由のひとつです。

 寒いから本当なら部屋の中で報告に来る酒田姉を待っていればいいんですからねー。

 わざわざ出てきたのはそう言う意図が大きいのです。

 

「おはようございます。姫様」

 

「お、おはようございます……」

 

 ようやく自分を取り戻したのか、酒田妹は無口キャラを前面に出すように無表情を決めて朝の挨拶をする。

 でも、よく見るとまだまだ顔がぎこちない。

 わざわざ指摘するのもなんですし、放置して無口キャラの体を存分にさせてあげましょう。

 

 

 

「おや、姫様。そのお召し物は最近手に入れられましたか?」

 

「はい。今朝はじめて着てみたのですけど、どうでしょう? 似合っていますかー?」

 

 おおお、流石は酒田姉! 気付いてくれるかー。

 自分から自慢するのもなんだか格好悪いですから気が付いてくれて本当によかった。

 

「はい! とってもお似合いですよ! 白地のお着物に銀の帯が清潔さをかもし出していますし、それに朱の内掛けに可愛らしいウサギが二羽飾り付けられているところが姫様の女らしさを存分に引き出しています」

 

 うわっ。なんだこれ。

 そこまで言われるとすっげー嬉しいんですけど、元男なのに女らしさとか言われて嬉しいのもアレなんですけど、心の底から嬉しい!

 

「……姫様。可愛い……」

 

 酒田妹もボソっとだけど羨ましそうに呟いてくれる。

 うひひっ。凄く鼻が伸びるんですけどー。あー、ピノキオみたいになったらどうしよう?

 

「梶川殿がいれば独り占めしてしまいそうなくらいお綺麗ですよ」

 

「姉様。……姫様が寂しがるのでそう言う事は口には出しませんように……」

 

 そうなんですよねー。今日は朝早くから急な出張で梶川くんはいないんですよねー。

 一泊二日の国内巡視の為、桜川の爺さんと一緒に国府からは出払っているんです。

 

「そうなのですよ。こう、可愛いお着物を見せびらかしたい時とか、いつも肝心な時には居ないのです」

 

「求めている時に男なんていないものですよー」

 

「姫様。かわいそう……でも明日には戻ってきます。元気出して」

 

「気を使って頂いてありがとうございます長成さん。お蔭で元気が出てきましたよ」

 

「それで姫様。梶川殿のどの辺に惹かれたのですか?」

 

 酒田妹に慰められてると酒田姉が畳み掛ける様にオレにコイバナを仕掛けてくる。

 

 おお、これがガールズトークってヤツか!

 しかし、女子って本当にこう言った話が好きだねー。

 

 オッサンだった頃なら、他人の色恋沙汰に首を突っ込んでもいい事なんて何もないって考えだったから、この手の話は避けてきたんだけど、今じゃオレもその中の一員に。

 しかもオッサンの時とは逆でとても関心があるんだよね。だからコイバナを聞いていると妙にウキウキするんだ。あー、オレの女も板についてきたなー。

 

 おしゃべりをこのまま続けていたいんだけど、今はそんな事で来たわけじゃないんだよねー。名残惜しいけど仕事に戻りますか。

 

 

 

 

 

 

「ところで何やら忙しそうですけど何かありましたか?」

 

 妹の方と別れて、酒田姉から執務室に通されるとお茶とお菓子を出された。

 そのお茶を『ずずずー』って飲む。うん。寒いから暖かいお茶が美味しい。

 

「後ほど姫様にもお伝えしようと思っていたのですが、例の中越の件は相手側から断って参りました」

 

「あら、そうなんですか?」

 

「はい。向こうから公金を使って整備を頼むと言って来たのに断ってくるとはどう言う了見なのか。少々腹が立ちまする」

 

 酒田姉は立腹してる様ですね。

 まあ、相手側から頼んできて、やっぱりいいやじゃ通用しないですから怒るのも当たり前です。

 

 ただ、まあ、これで私もやる事が無くなってしまいましたねー。どうしましょう。

 

「こんな事なら阿賀北(あがきた)殿に頼まれてあった案件を優先するんでした」

 

 阿賀北(あがきた)殿ってのは(じょう)殿のことですよね。

 確か阿賀野川から北を治めている事から来た渾名ですね。

 

阿賀北(あがきた)殿からは何を頼まれていたのですか?」

 

「都の流行の舞を一度でいいから見たいので、その道の巧者を紹介してほしいと頼まれていたのですよ」

 

 はあ。何とも微妙な頼みごとですねー。

 旅の一座みたいなのではダメなんでしょうか?

 

「そ、そうなのですか。都に憧れているのでしょうか」

 

「そうなんでしょうね。表向きは」

 

「表向き?」

 

「はい。多分、阿賀北殿はこう思案しているのだと思います。都の舞を伝手にして中央との接点を持ち、最終的には官位を授かりたいのでしょう」

 

「なるほど!」

 

「越後内では最大勢力の二万石を有する豪族の筆頭です。そうなれば無位無官はやっぱり面白くないはず。とすれば都で轟く我ら平家と接点を持ちたくなるのは人情というもの。しかも国府にはその平家の役人ではなく、一門の美盛姫様がおられます。これは利用したいでしょうね」

 

 ニヤニヤしながら酒田姉は嬉しそうに話してオレに聞かせている。

 酒田姉の意図がようやく読めました。暗に(じょう)殿に恩を売って起きませんか? って言っているんでしょう。

 判りました。その恩は売ろうじゃないですか。

 

「判りました経成さん。それでは早速準備に掛かりましょうか」

 

「はい」 

 

「それでは私は手始めに城殿の今迄の功績を見繕って書状をしたため、父上に出しておきます。官位は従六位下(じゅろくいのげ)辺りでよいかしら?」

 

「はっ! 姫様のご慧眼畏れ入ります」

 

 よし、忘れないうちに書状を書いておかなければ。

 そして返事が来たらそれを持って城殿に会いに行ってみよう。こちらから会いに行くのは足もとを見られそうだけど、真心を込めればたちまち誠意となるのです。

 

 んー、やっぱり酒田姉は頼りになりますね。政略云々は彼女を軍師にしておけば間違いは無さそうです。

 

「それと近いうちに阿賀北に参るので、準備をお願いしますね」

 

「判りました」

 

「いまひとつ。経成さん、貴女にも着いて来て頂きますよ」

 

 そうです。とにかくまずは越後を一つにまとめる事です。こうまで政敵が幅を利かせているこんな状態じゃ、いざ他国から攻め込まれたらひとたまりもありませんから。 

 そのための布石を一つづつ、付けていかなければ。

 

 

 

 

 

 




阿賀北は本来、揚北とも言うらしいです。



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