よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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25 初デート

第25話

 

 

 

 チュンチュンって鳥が鳴いているな。この鳥は大三元でも狙っているんじゃないのかとつまらない事を考えながら鳥の声につられて段々と覚醒する。

 あー、知ってる天井だなー。

 大きな部屋の真ん中に子供用の布団が一つ。なんだか『ぽつーん』って効果音が聞こえてきそう。自分の部屋なのだけど寂しい部屋だなー。ここは女の子らしく大きなぬいぐるみでも沢山集めてぬいぐるみだらけのファンシーな部屋にしてみようかな?

 いや、やっぱりそれはちょっと……。さすがにオレの男の部分が邪魔をする。

 

 

 

 ……おはようございます。起きたばっかりなのでまるで元気の無い美盛(よしもり)です。そこんところよろしく……。

 

 このままうだうだ(・・・・)やってると二度寝をしてしまいそうなので上体だけ起き上がり力一杯背伸びをします。

 

「うーーーーん!」

 

 ボキボキって背中の骨が鳴る。そのまま今度は長い黒髪を胸の前にまとめて手で押さえると、頭を軽く左右に振ります。こうすると先程の背骨と同じ様に首がボキボキって鳴るんです。

 髪を手で押さえるのは、首を振ると髪が長すぎてバラけるのを防ぐ為です。

 朝は起きるのが嫌なんですけど、これだけは楽しみなんですよ。このボキボキ鳴る音を聞くと、生きてるなーって実感出来ますから。多分癖になってるのかも?

 

 しかし寒い。起き抜けで体も温まってないのを加味したとしても、とても寒い。

 息を吐くと白い湯気が出てくる。雪はまだ降ってないとしても十二月だもんね。そりゃあ寒いわけだ。

 

 布団からは出たくないけれど仕方ない。起きますかー。

 

「ごほごほっ」

 

 起き上がろうとした矢先、大きく咽てしまった。

 あれ? 喉が痛いな。もしかすると風邪を引いたのかも。

 勘弁してくれよなー。今日はようやく休みが貰えたのに風邪を引くとかありえないんですけど!

 休みって言っても市中巡察の事なんですけどね。仕事の内容は、市中を越後介(えちごのすけ)自らが配下と共に民の暮らしぶりを見て回るって公務となっております。

 ようするにあのへたれな梶川くんとデートイベントって事なんですよ!!

 

 親父に出した城殿への書状の返事も着ていませんから、今が今年最後ののんびりできるチャンスなのです。

 

 それが当日になって風邪を引くとか!! これはいったいなんなんだっとそう言う話。

 昨日の晩に、初めて履く真っ白な下当て(パンツ)胸当て(ブラ)を選んだり、激しく短いお着物を試着したりで楽しみにしてたんだけどなー。

 あーあ、せっかく梶川くんが喜ぶ様にわざわざ、しゃがんだだけでパンツが見えるくらいの短いやつを選んだのに!

 

 ここは一丁、みんなに風邪を悟られないようにしなくては!

 

 

 

 勢いよく立ち上がると用を足しに部屋を出て歩き始めた。

 うん。熱で頭がくらくらするとか言った症状はないですね。喉が痛いだけなのでいっぱい喋らなければ問題ないでしょう。

 

 

 

 

 

 

「それではみなさん行って参ります!」

 

「い、行って参ります」

 

 朝餉の後、少々の雑務と今日の分の決済を軽く済ませると玄関に集まっているみんなの前で出発の旨を伝える。その後に続いて梶川くんも恥ずかしそうに挨拶をする。

 二人並んで手を繋ぎながら挨拶ってのも初々しくて、なんとも気恥ずかしいんだけどこのくらいの恥ずかしさがデートっぽくていいんじゃないかな。

 

「姫様、そのお召し物すっごく可愛いですよ!」 

 

「ありがとう!」

 

 酒田姉にお着物を褒められる。嬉しい。

 今日は赤地に沢山の色の花を描いた可愛い系のお着物に茶色の内掛け。お着物の生地は厚めなのですけど裾は膝上のミニ着物ってやつです。

 このミニスカの様なお着物で梶川くんを悩殺ですね! 今回は前に成親(なるちか)卿を誘惑した時と同じくらいかそれ以上にお洒落しましたから、髪型もお着物も全てチェック済みです!

 顔のチェック? 顔は美少女だから! 元から可愛らしいから!

 

「もうひとつ。梶川殿、ちゃんと姫様を楽しませてあげてくださいね。その後の展開は貴方が強引に手取り足取りを教えて差し上げればいいのですから!」

 

「日中はわりと暖かいのですが、もはや師走。厚めの生地のお召し物とは言え体調には十分に気を付けて行ってきてくだされ。それと梶川殿、姫様の事よろしく頼むぞ。寒そうにしていたらそんな風に手を繋いでるだけじゃなくてキチンと抱っこして暖めてあげなくてはいかんからな」

 

「は、はい!」

 

「わ、判ってます。いつでも美盛ちゃんを優先に事を運びます!」

 

 酒田姉から着物を褒めて貰ったり、うちの郎党筆頭の神田先生から体調管理について注意を受けたり……って、うちの郎党は母ちゃんばっかりなのかと。

 いや、嬉しいですけどね。

 

 え? それ以外にも色々言われてるじゃんって? 酒田姉から手取り足取りとか、神田先生からは抱っこ云々の事? そんなの恥ずかしすぎてコメントできません。

 いやー、下着を新しくしたりしたんですから、その辺の肉体的なアレも目的のひとつなんですけどね。面と向かって言われると意識しすぎてさ……は、恥ずかしいんだよ!

 言わせんな恥ずかしい!!

 

 

 

 

 

 

 国府の門の前から、侍女やら郎党やらから手を振られながら道に出ると市井を目指します。大丈夫、まだまだ体調は健やかです。

 体調はまあ、なんとかなっています。でもでも、この二人きりのデートを意識してしまうともうダメ。何を話したらいいのか? どこへ行けばいいのか? なんて事は全て頭から抜け落ちてしまい、ただただ歩くだけの作業となってしまっています。手を繋いでいるのだけがなんとかこの状況を持たせている状況……。

 

 今までも二人だけで何かをしたことなんて沢山あったのですけど、いざデートとか言うイベントを意識した途端まるっきり会話の出来ないうちら……。さて、これからどうしましょう。

 

 

 

 さりげなく隣でカチンコチンになって歩いている梶川くんを見つめると、向こうもこちらに気が付いたのか『ギギギ』なんて擬音でも聞こえるかの様に首を傾けてオレに笑いかけてきた。

 

 すっげー笑顔です! ぎこちないとはこう言う笑顔を言うのでしょう。ありがとう梶川くん。勉強になりました!

 しかも、国府を出てから会話らしい会話が一つもありません。梶川君の緊張も極限なんでしょうね。オレも人のことは言えませんけど。

 うーむ、うちら二人にはまだまだデートは早すぎたのかも……。

 

 

 

「美盛ちゃん!」

 

「は、はい!?」

 

 手を繋いで並んで歩いていると、いきなり梶川くんから大きな声で声を掛けられた。びっくりしたなもう。

 

「あ、驚かしてごめん」

 

「え? ああ、はい。別にいいですよ」

 

 なんだか緊張しているみたい。

 

「か、会話が無いなーなんて思ったからちょっと質問してみようかなーなんて……。あははは」

 

「ああ、そうですねー。私も緊張して何を話したらいいのかって……。あははは」

 

 多分、梶川くんは勇気を振り絞って質問してきたんでしょう。

 こちらから先に声を掛けなくて良かった。だってこの状況で女の子の方から先に声を掛けると男としては複雑だもんなー。

 女の子に助けられるほど男にとって辛いものはないからね。

 うん。今日は梶川くんに任せましょう。フォローはするけど主導権は梶川くんって事で。

 

 

 

 

 

 

「好きな食べ物ですかー? 季節を度外視したのなら、バーベキューソースをたっぷり掛けた焼肉とキンキンに冷えたビールですね」

 

「それはまあ、なんとも十一歳の言葉とは思えないんだけど」

 

 さっきの質問に答えながらテクテクと歩く。勿論手は繋いだままですよー。

 それにしてもやっと会話が普段通りになってきました。オレもだけど、梶川くんも緊張は解けてきたかな。

 

 

 

「ごほごほっ」

 

「さっきから美盛ちゃん大丈夫? 風邪?」

 

「いえ、ちょっと咽ただけですよー。大丈夫大丈夫」

 

 危ない危ない。せっかくのデートだと言うのに風邪でやめましたじゃあ勿体無い。体調は悪くはないのですから今日一日くらいは持つでしょう。

 帰ったら風邪の薬でも飲んで早めに寝てしまえばなんとかなるはずです。

 

「それならいいんだけどさ」

 

 

 

 更にどうでもいい会話を楽しみながら進んでいくと市井に出ました。都に比べれば全然アレだけど、越後国府前の市井もそれなりの活気がありますね。特に今は師走です。年末に向けての最後の追い込みとかあるのかもしれません。

 

 出店やなにやらを見て回っていたら、大きな商家が目の前にデーンと建っている。屋号を見ると呉服越後屋……。

 これはアレか、お代官様とか出てくるのか?

 隣を見ると梶川くんも同じ事を思ったらしく、ニヤニヤと笑ってる。

 

「なんだか面白そうですね。入ってみませんか?」

 

「うん。いいよ。美盛ちゃんも女の子だなー。やっぱりこう言うところには興味あるんだー」

 

「まあ、可愛いお着物を着てみたいくらいには興味はありますね。こうみても女の子ですから!」

 

「うわー、そこまで女の子アピールしなくても!?」

 

 失礼な! 元男なだけであって、現在は心はともかく身は自他共に認める可愛い女子なんですから!

 

「何か言いまして?」

 

「いいえ……、なんでもありません」

 

「よろしい。じゃあ入りましょう」

 

 

 

 暖簾をくぐって中に入ると青や赤と言った沢山の色合いのある反物が得物掛けからぶら下がっていたり棚の中に納めらていたりと、所狭しと飾られています。

 おおお、流石は高級店! これはなんだか胸が踊りますわー。

 

 店に入ってきたのが身分のある人間だと判ったんでしょう。店主は挨拶もそこそこに店の奥にある更に高級な反物を持ってくる。

 うん。良い物ではありますね。でも、今オレが着ているお着物に比べれば一段……いや二段くらいは落ちますね。

 悪い物ではないのですけど。

 

「店主?」

 

「はい。なんでございましょう」

 

 越後屋の店主は手を揉みながら笑顔でこちらを向いている。

 

「悪いのですがもう少し良い物はないでしょうか? 目利きが出来るのならば私の着ている物で判断できるでしょう」

 

「う、申し訳ございません。これがこの店の一番の品物でございます」

 

「そうですか。残念です。私も都からは大分離れてしまった身。これからはここを贔屓にと考えたのですけれど……」

 

 いや、本当に残念ですよ。都と越後では距離が離れすぎていますからどこか拠点となる店が欲しかったのですけど。

 

少納言(しょうなごん)様。そう店の主を困らせるものではありませんよ」

 

「そうは言いますけどやっぱり妥協はしたくありませんから」

 

 梶川くんが店のフォローをする。まあ、梶川くんだって男だもんね。反物の良し悪し(よしあし)は判るはずもない。オレだって男の頃は一定の品質ならそれ以上は気にもしなかったからね。

 でも、女の身になってみると見方がまるで変わってくるんですから、面白いものだなーって自分でも歓心します。

 

 その後店主が意地でももっと素晴らしい反物を取り寄せるから、うちを贔屓にしてくれとせがむので、来年にもまた来ますと言って店を出ました。

 あの意気込みようじゃ凄いのを用意してくれるんじゃないかな? ちょいと楽しみですね。

 

 って言うか、現代ならこう言うデートイベントの服屋めぐりってさ、可愛らしいミニスカを試着した勢いでパンチラしたり、着替え中に試着室のカーテンが開いたりでそう言うラッキースケベが起こるはずなんだけど、どこで間違った……。ちゃんと『きゃああああ』なんて黄色い声を上げて梶川くんの横面をひっぱたく準備までしていたというのに。

 そして紅葉(もみじ)型のほっぺたにしてふくれっ面な梶川くんと、やりすぎたって謝りながら歩くオレ。こんな青春っぽい道中を期待したんだけどなー。

 

 

 

 

 

 

 その後も小間物屋だの露天だのを回り、腹も減ったのでお昼を近くの一膳飯屋で取っている時、本格的に風邪の症状が出てきた。

 でもせっかく二人で楽しんでいるんだから見破られないようにしないと!

 

「この川魚は美味しいで、ごほごほっ……いやー、喉の変なところに入っちゃったなー。もー」

 

「本当に大丈夫?」

 

「え? 何が? いやー、この燗酒美味しい!」

 

 わ、わざとらしいかな……。

 

 

 

 

 

 

 うう、頭が痛いかも……。それにくらくらして吐きそう。でも梶川くんの楽しそうな顔を見てるとここでやめちゃうのは悪いからなー。もう少しは我慢しないと……。

 しかし、全然気付かないんだなー。まあ、中学生ですし、それに男はこのくらい鈍感じゃないとね。

 

「今度はこの小間物屋に入ってみようぜ」

 

「はい。どんなモノがあるんでしょうね」

 

 細かい細工物やらなにやらがいっぱい飾ってある店内。でも、でもねどんなに良い物でも今は見ている余裕がなかったりします。立って歩くのがやっとなのですよー。

 

 ああ、気持ち悪い……。うう、ダメだ倒れそう……。でももう少しだけ我慢するぜ! 元男だ! このくらいは耐えてみせる!

 って思ってた時期がオレにもありました……。

 

「梶川さん、ちょっとくたびれましたね……。そろそろ帰りませんか?」

 

 うん。ごめん。オレにもやっぱり限界ってのがあります。

 ここらへんが限度ですわ。

 

「うん。暗くなる前に帰ろうか」

 

 店を出ると少しだけ風が出ていた。やや寒いですね。って言うか風邪の悪寒で少しくらいの風ならあるのも無いのも同じなんですけどね。

 

「はい。これも着なよ。ちょっとは暖かくなるよ」

 

 そう言うと梶川くんは自分の上着を掛けてくれる。男物の上着だけどなんだかその心遣いが嬉しくなるので早々に身に着けてしまうオレ。これなら風邪なんて一発で治ってしまうんじゃないか?

 いや、治りませんけどね。言葉の比喩です。

 

 そして、そっぽを向きながら右手を差し出してくる梶川くん。それに手を添えると梶川くんの手の暖かさが感じ取れる。うん。その心配り点数高いよ! 気持ち悪いから今は何もしてあげられないけど、今度色々やってあげるよ!

 

 

 

 

 

 

 ああ、やっと国府の館が見えてきました。もう少しです。頑張れオレ!

 

「だ、だいじょうぶ? すっごく顔色が悪いよ?」

 

「えー、全然大丈夫ですよー。ただ、くたびれただけですよ」

 

「それならいいんだけど」

 

「平気平気!」

 

 やせ我慢をしながらガッツポーズを見せる。正直物凄く体調が悪いんだけどせっかくのデートを台無しにしたくないからね。我慢だわー。

 それにもう見えたならすぐですよ。すぐ。

 

 

 

 ほらね、なんだかんだで国府に着きましたよ。

 

 

 

「ただいま帰りました」

 

 玄関で履物を脱いで何食わぬ顔を資ながら酒田姉に帰宅の挨拶をする。

 帰宅って言葉でいいんだよね?

 

「あら、早かったのですね。私はどこかでしっぽりと体を温めあってくるのかと思ってましたよ」

 

 やっぱりその辺りを聞いてくるかー。でもこちとら十一歳なんだからね! その辺を間違えないでね!

 

「あははは、そうはなりませんでしたよ。健全に楽しく過ごしてきました」

 

「だから言ったであろう? 姫様は普通に帰ってくると」

 

 神田先生と酒田姉で意見の相違があったようですね。

 主にオレが健全に帰ってくるか、女になって帰ってくるかで。本当は色々オレにも予定はあったんですけどこの体調のお蔭で何一つできませんでしたよ。

 いや、まあ、楽しかったんですけどねー。

 

「はい。それじゃあ、私は少しくたびれましたから部屋で休みますね」

 

「判った。夕餉には呼びに行くから」

 

「はい。梶川さん今日はとても楽しかったです。……また一緒に……」

 

 ゴトン。

 あ、オレ力尽きたみたいだ……。

 そこまで言ったところで視界が真っ暗になった……。

 

「よ、美盛ちゃん?」

 

「きゃああああ、姫様ー!」

 

「おお、姫様!! 誰か医者を! 医者を呼んで参れ!」

 

 廊下に崩れるように倒れたところまでは目は見えていたんだけどな……。ごめんオレが倒れた事によって梶川くんに迷惑をかけることになるかもしれない。でも梶川くんは何も悪くないんだから。オレが無理をしただけなんだから。

 

 しかし、本当に風邪なんだろうな? もっと重たい病気は嫌だからな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






そう言えば、マスクデータの病弱設定って生かされてないなーって思って作ってみました。
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