よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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28 初潮

 

 

 

 

 

第28話

 

 

 

 十二月もあと三日。新年を迎える前にどうにか風邪は治ったよ。うん。風邪はね。

 でもさ、治った途端に初潮が来るなんてそんなピンポイントな出来事は無いだろうっと。

 そう、風邪の症状が治まってようやく喉の具合やら頭痛等が無くなってすやすやと昨晩は眠ったんです。そして朝起きたら腰が重いなーって感じて、風邪がまたぶり返したのかななんて思いながら、違和感のある下半身辺りが気になって布団をはぐったのです。

 そうしたら下当て(パンツ)とその周りの布団が赤黒く変色していて……うわあ。

 

 こりゃヤバイ。こんなに下血してたらオレはもしかすると死ぬぞ! なんて焦ってしまい、すぐにその正体を確かめる為に下着を脱いでみたらお股に付いているつるつるな筋から血がドロリっと出てたんですよ。

 それを見た時、下血じゃないとは認識できたんですけど別の可能性に思い当たって久しぶりに血の気が引いたんだ。前世から十年ぶりだもんね。そりゃあ血の気も無くなるよ。

 

 って言うか、前世ついでに言うけど前の時は十二歳の春だったんだよ。それがなんで十一歳も終わろうかとしている今なんだよ! 歴史が変わるものだと言うのは判るけど体の構造も変わるのかよー。

 ああ、もう! これは困った事になったぞ。

 

 

 

 さて、困ったのはまあいいや。いや、よくは無いけれど。

 たださ、まずはこの汚れた敷布団と下着を替えたい。それとお股の辺りが血でぬるぬるして気持ちが悪いからなんとかしたい。

 だから、ここは一つ、侍女を呼びますか。とりあえず初めてってことで演技も付けて。

 すーはーすーはー。よし!

 せーのーでー!

 

「だ、誰かー! 早く来てー!」

 

 部屋の中なので誰も見てはいないのですけど、べっとりと赤黒い血の付いたお股を凝視しながら頭を抱えて大声で助けを呼ぶ。

 ど、どうかな。ちょっとした迫真の演技をしてみたんだけど。

 

 

 

 オレの声を聞きつけたのかどたどたと廊下を走る音が聞こえてきた。

 そしてしばらくするとオレの部屋の襖の前で侍女と男衆と思われる声が聞こえてきた。

 

「姫様。姫様。いかがなされましたか!?」

 

「姫様。ここを開けますぞ! よろしいな?」

 

 先に声を出したほうがいつもの侍女で、後の方は……うわー、おっちょこちょいの赤橋だ! 待て、待ってくれ、こんなところを口から産まれて来た様な赤橋に見られてしまったら、ところ構わずに言いふらされるのは目に見えている。

 そんな事をされたらもう恥ずかしくてお嫁に行けないじゃないかっ!!

 

「ちょ、待……って」

 

 右手をじゃんけんの『パー』にして、混信の力を込めて届くはずもない襖に手を伸ばす。

 しかし混信の力も虚しく、すーっと襖が開けられて外から陽の光と朝の澄んだ空気が部屋の中に入り込む。ああ、ちょっと遅かったー! オレが声を上げた時にはもう襖が開け放たれていましたとさ。

 あー、そうだよねー。朝だもんねー。明るくなりますよねー。

 

「あっ! す、すみません赤橋様! 今すぐ後ろを向いて下さい」

 

「ん? 何事ぞ? 少しそこをどかぬか。見えぬではないか」

 

 よし、よくやった! オレはいつもの侍女に心の中でお礼を言うと赤橋に対して叫びました。

 

「あ、赤橋! 危険を感じて駆けつけてくれたのは感謝しますが、これはその、そうです。男は見てはならないのです。ともかく後ろを向いて持ち場へ戻って下さい」

 

「はあ? 判りました。姫様がそう仰られますなら……」

 

「みなには大事無いとだけ言って置いて下さいね」

 

「判りました。それでは失礼致します」

 

 

 

 ふう。一時はどうなる事かと思いましたよ。しかしさすがはいつもの侍女! 瞬時に事を察知する情報観察能力はとてもするどい。

 

「危ないところでございましたね」

 

「はい。おかげで助かりました。それで、あの……この血はなんなのでしょうか?」 

 

 知ってるんだけど、今は知らないフリをして侍女に聞いてみましょう。

 知っていたから何? って話ではあるのですけど。

 

「これはですね。姫様が大人になった証拠なのです。これで子供が産める体になったのです。おめでとうございます」

 

「子供ですか。まだその様な事は考える(いとま)もありませんけど……。そうですかー、子供が産めるのですかー」

 

「はい。いずれの事ではありましょうが、姫様が産む子供ですもの。とてもよい子が生まれるに決まっていますよ」

 

 嬉しい様な恥ずかしい様な。そんな気持ち。

 自分では判っているんだけど人に言われるとなんだかほっとするのは何故でしょう?

 

 

 

「体調の悪いところはございませんか? お腹とか大丈夫ですか?」

 

「はい。少しお腹が痛みますけど差し支えありません」

 

 どうやら今生も生理は軽い様です。よかったー。

 

「それでは布団の片付けやお召し物のお着替えなどにあたりますので何人か呼んで参ります。しばらくお待ちください」

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 その後、侍女達がやってきた。そして言われるがままに汚れた寝巻きと下着を脱ぐ。布団の類も持っていくあたりその辺も取り替えるのでしょう。汚れてしまいましたしね。

 そして色んなことを全て彼女達に任せて、オレは別の事に意識を埋没させていった。

 

 梶川くんの事を……。

 

 

 

 あーあ、しかしせっかく楽しみにしてくれていた梶川くんになんて言って説明すりゃいいんでしょう!

 

 うう、もしかするとアレだけこっちから言っておいて、生理が来たのでやっぱり出来ませんなんて言ったら……き、嫌われないかな……。セクロスの出来ないただのロリっ子ではもしかしたら用無しになってしまうんじゃ……。

 そんな事を考え始めたら手足がガクガクと震えはじめた。

 嫌われたくない。それは嫌だ。それだけは絶対に嫌だ。

 

 うーん。とってもとっても、とーっても危険なんですけど、それでも若気の至りってやつがありますから雰囲気に負けた事にして、強行してしまいましょうか。

 それで梶川くんが満足してくれるなら……。

 

 うん。必ず出来ちゃうわけじゃないんですから……そうだ! 出す直前でお腹とか顔に出してもらえばいいんだよ。でも、梶川くんの事は信じていますけど、もし、もしも梶川くんが中に出したい衝動に駆られたら……。逆にオレがその場の感情で中に出してほしいなんて言い出したら……。

 流石に『間違って出来ちゃった! てへぺろー』なんて親父に言った日には勘当されかねんし。

 

 うーむ。

 

 

 

 

 

 

「姫様。新しいお布団に換えておきました。とにかく横になってお休みください」

 

「はい……」

 

 いつもの侍女に色々と世話を焼いてもらい、ようやくお布団の中に戻って横になるオレ。本当はどうするといいのかは判るんだけどとりあえずは初めてを装い全て侍女にお任せしました。さすがに局部だけは自分で拭きましたけど。でもそれさえも侍女に言われたとおりに優しく丁寧に清潔(・・)な布で拭いたんです。

 

「それでは姫様。私は隣の部屋で控えていますので何かありましたらお呼び下さい」

 

「判りました。色々ありがとう」

 

「とんでもない。それではお休みください」

 

 そんな事を最後に言って侍女は戸を閉めて部屋から出て行った。

 うーん。眠いから一度寝ますか。

 梶川くんに初潮が来た事を言うのは気が引けるけど、今は寝てしまいましょう。あーあ、またオッサンだった頃の夢を見るんだろうな……。

 

 

 

 

 それから数日が流れ、オレの方もようやっと元気を取り戻しつつあります。梶川くんに対して気まずいのはそのままですけど……。

 

 師走は風邪やら、肉体的に女性(・・)になった事やらで大変でしたが、遂に年が明け治承三年の正月がやってきました。

 前の治承三年は色々ありました。でも今生では、前世と違って小松様が健在なので入道様が院を幽閉して院政を停止させる理由が見当たらないから、そんな事態には発展しないとは思うのですけど、さてどうなりますやら? 

 

 

 

 

 

 

 新年明けましておめでとうございます。元号も改まって治承三年になりました。

 

 そして元号と同じくオレの方も明けて十二歳になりました。『数え』で十二ですよ。『満』じゃないです。そこんところよろしく。だからなんだと言われると困るんですけどね。

 

 それで今日は正月の一日です。屋敷の外の雪は深いので外へ出る事も出来ません。だから昼間から国府の身内だけで新年のお祝いをしています。

 宴の始まる前にオレがちょっと挨拶をして、それに続いて乾杯の音頭を郎党筆頭の神田先生が取ります。さあ、あとは無礼講です。オレを上座に郎党やみなさんで縦に膳を並べて、もう派手などんちゃん騒ぎ。

 顔を真っ赤にした畠山の庄司殿と次郎殿親子。酒が全然呑めない酒田妹に詰め寄ってなんとか呑ませようと画策するその姉。みんな酒の席なので何だかんだで楽しんでいますね。

 

 そして宴たけなわになって来ると、もうみんな出来上がってしまっています。オレもですけどねー。

 

 

 

 宴席の膳と膳の間にある通路みたいな空間では酔った酒田姉と赤橋とで凄い変な踊りに興じています。踊りなのか舞なのか判断が出来ないところですけど……。

 でもでも、見てる分にはとても面白いですね。

 

冠者は妻設けに来んけるや(かじゃはめもけにきんけるや)

 

 赤橋がこう舞口上を言って酒田姉を追いかける真似をすると『きゃー』なんて言いながら酒田姉も逃げるフリをする。

 そしてそれに釣られる様にまわりのみんなも手拍子を交えながら同じ口上を合唱する。

 

冠者は妻設けに来んけるや(かじゃはめもけにきんけるや)

 

 みんなお正月ですから上機嫌です。脇を見ると梶川くんも二人を見ながら腹を抱えて笑い転げてる。それをみてるとオレも当然の様に楽しくなってきます。

 うん。楽しい! でも……梶川君にはまだ何も言えてない。

 

 いやいや、待てよ! 暗くなる事を頭で考え始めると止まらなくなってしまう! そう一瞬で判断すると、両手で顔を『パン』と張る。いけないいけない。今オレが悲しそうな顔になったらこの新年会の雰囲気がぶち壊しになっちまう。それだけは避けなければ。

 オレが梶川くんに対して後ろめたい気持ちは所詮は私事。

 みんなで楽しんでいる時にこんな事を考えちゃ台無しだね!

 

かまへて二夜は寝にけるは(かまえてふたよはねにけるは)

 

 また新しい舞口上を言ったとばかりに酒田姉の方を掴む赤橋。しかしそれもパッと肩透かしを食らい、またみんなが爆笑の渦に巻き込まれる。

 

三夜といふ夜の夜半ばかりの暁に(みよというよのやはんばかりのあかつきに)

 

 今度は酒田姉が舞口上を口にすると同じ向きに二人で重なり合い、首を左右に行ったり来たりさせ口を膨らませる。

 そしてもう一度同じ口上を言うと後ろの酒田姉が前にいる赤橋を突き飛ばす。

 

袴取りして逃げにけるは(はかまどりしてにげにけるは)

 

 そして最後に四番目の舞口上を離れた二人が同時に転がりながら言って、真ん中で背中合わせになって変なポーズを決めてフィニッシュ。

 なんとも息の合った絶妙のコンビだなー。面白いし酒の席でやるととても映えますね!

 

 案の定、みんなから拍手喝采です。

 それに対して照れながら元の席に着く二人。

 いや、面白かったですし、何よりもカッコイイと思いましたよ。

 

 

 

 

 

 

 星が見えてくる頃に宴会もお開きになって、みなさんは順次部屋に戻っていく。そして最後にオレと梶川くんだけが残った。上座と宴席とは言え、オレも梶川くんも一応はとても近い場所に座っている。

 先程までの喧騒から一気に静まり返った部屋。本当にさっきまで楽しげな新年会が行われていたのか? それさえも疑わしくなる程にとっても静かです。

 しんしんと雪は降っているんでしょうけど全く音なんて聞こえてきません。

 

 宴会のときからそうだったんですけど、実を言うと梶川くんと一度も目を合わせてなかったりします……。いや、違うね。目を合わせられなかったと言う方が正しいですね。

 だってすっごく申し訳無くって、どうやって謝ればいいのかすら頭に浮かんでこないのですから。

 

「美盛ちゃん。なんか俺に言う事があるんだろ? 言ってみなよ」

 

 !! えー! なんで判るの!? 

 

「え? なんで……」

 

「だって、さっきからずーっと泣き笑いみたいな表情をずーっとしてるんだから、判らない方がおかしいよ」

 

 そうなんだ。オレってずっとそんな顔してたんだ。

 

「それに目もそうだよ。ずーっと泳いでる」

 

「あははは……」

 

 これはもう覚悟を決めて正直に言おう。嫌われて捨てられてもいいや。梶川くんに嘘はつきたくないし。

 あー、嫌われたら心が痛いだろうなー。

 

「あー、あのですねー」

 

「うん」

 

 真剣な目でこちらをまっすぐに見る梶川くん。あー、もうごめんって言葉だけでは謝罪をし足りないよ。

 あんなに楽しみにしていてくれたのに、当のオレが出来なくなったんだもんね。

 

「ごめんなさい!」

 

 謝罪の言葉を口から出すと同時に目を強く瞑って、長い黒髪なんてお構いなしで頭を思いっきり下げた。

 あー、言っちゃった。これでもう後戻りは出来ない。進みたいくないけど前に進むしかないかー。

 これで梶川くんを失うのは嫌だなー。オレの生理が悪いんだけど……。

 

「ついこの間子供を作る練習をしようって言ったけど、あれは無しって事にして下さい!」

 

「ええ?」

 

 一瞬、ほんの一瞬だけど、凄く残念そうな顔をしたのは見逃さない。でもそこまで楽しみにしてくれてたと思うとなんだか嬉しい。オレのこの体でも役に立てるかもしれなかったんだからね。

 でも、これで終わったかな……。色々と……。

 

「実はですね。風邪が治ったその日なのですけど唐突に初潮が来てしまいまして……。布団や下着が血だらけになっちゃったんですよ。あはははは」

 

 うう、やっぱ初潮なんて言葉を男に向かって言うのは恥ずかしいものですね。

 

「ですから……。ですから、梶川さんといろんな事をするって企画はご破算になってしまいました……。楽しみにしていたところ、本当にごめんなさい」

 

 もう一度頭を下げる。ホントにごめん。

 

「え、あ、うん。そうなんだ……」

 

 がっくりと肩を落として寂しそうな目をこちらへ向けてくる梶川くん。

 判るよ。判る。だって元男だもん。もういつでもやる気まんまんだったんだもんね。そりゃあ、いきなりこんな事言われたら本当にガックシ来ますよねー。

 

「さすがに父上の手前、結婚前に子供が出来るのはちょっと困るので……」

 

「だよねー。はあ、判ったよ! でも美盛ちゃんの始めては絶対に俺が頂くからね。もうちょっと辛抱するよ!」

 

「え? 怒ってないのですか? エッチ出来ないんですよ?」

 

「何を鳩が豆鉄砲を食らったような顔してるんだよ。怒るも何も無いよ。すっごく残念だけど仕方が無いしね」

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間。両手を広げて梶川くんに抱きついていた。

 だってまさか許してくれるとは思わなかったから! 

 なんていいヤツなんだ君ってヤツはー! また惚れ直したよ! うん。こんなにいいヤツの梶川くんにはオレも真心をもって報いなければね。

 

「梶川さん。今日はこのまま私の部屋に行きましょう!」

 

「えーっと。でも生理が来てるんなら出来ないんだろ?」

 

「本番は出来なくても手とか口とかなんでも使えますよ。それに胸は小さくて挟めませんけど努力は出来ます!」

 

「おおおぉぉ、まじか!」

 

 お、梶川くんの目が輝きだしたぞ。それじゃあ膳は急げです。

 そう思うとオレは彼の手を掴んで無理に立たせるとそのまま俺の部屋に連れ込んだのだった。

 

 

 

 

 




部屋に連れ込んだ後のエピソードは
『夜』の方にあります。
よろしければどうぞー。
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