よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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30 評定

 

 

 

第30話

 

 

 

 今日の分の執務を終えて客室までの廊下を歩く。

 客室まではやや距離があるから、いつもの様にいやらしい事を妄想しながらね。

 

 たぶん妄想してる時のオレはふやけた饅頭みたいな気持ち悪い顔をしているんじゃないかな。

 こんな美少女が真昼間からすっげー気持ちの悪い顔をして薄ら笑いを浮かべているのはどうかと思う。オレ自身でさえそう思うんだからそれを他人が見るとどうなるのか……。

 

「これは(すけ)様。ご機嫌麗しゅう……げっ」

 

「うむ。苦しゅうなーい」

 

 侍女の一人と廊下ですれ違う。

 オレは真ん中を通るけど侍女は横に避けて頭を下げて挨拶をする。

 そして顔を上げた侍女の『げっ』なんて空耳が聞こえた。でもね、気になんてしないよ。

 だってオレは今現在幸せさんだからね!

 

 

 

 そう、梶川くんとムフフな展開となった日からずいぶんと経ちました。今は春も盛りを過ぎてもうじき初夏に差し掛かろうと言う季節。まあ今年は少し暑い五月みたいです。

 

 梶川くんとはその後どうなったか? 毎日はしないですよ。毎日はね。

 それに、してるって言ってもまだ本番は出来ないからそれ以外のアレコレを……。

 いやー、恥ずかしいねー。うひひ。

 

 

 

 で、今日は越後国府御用達の呉服屋の越後屋を呼んでいるのです。たぶん客室にいるはず。

 越後屋にはオレが前から考えていたお着物を特注で仕立ててもらったのですが、今回はそれを持ってきてもらいました。

 

 執務室から客室へと行くとやはりそこには越後屋が座って待っていた。

 

「おお、よくぞ来てくれました」

 

「はい。介様にはいつもご贔屓にさせていただいております。今日は先月頼まれた物が仕立て終わったので持って参りました」

 

「それはありがたい。早速見せてもらいます」 

 

 おおお、遂に出来ましたか! どれどれ……。

 そう思うが早いか目の前の高級そうな漆塗りの木箱を手に取り、蓋をそっと開ける。

 

 箱の中には何処となく和服っぽいチェック柄のプリーツスカートが三枚と、同じく和服っぽい白のブラウスが三枚入っていますね。

 これこれ! これを待ってた! さすが越後屋です。よい仕事をしますねー。

 

 手を箱に突っ込んで一枚のプリーツスカートを取り出し、目の前で掲げてみる。これは可愛い。とても可愛い。

 掲げたプリーツスカートを右手に持って、左手でスカートの中をペロリとめくってみる。オッサンだった頃から気になって仕方がなかった女子高生のスカートの内側。それを触っているだけでもハアハアしてくるのに、指で摘んでめくっているなんて、ちょっとした背徳感に甘酸っぱい汁が脳みその細胞を駆け巡る。だがそれがいい。

 めくってみるとサラサラとした生地が裏地として縫い付けてあった。それを指で触りながら越後屋に顔を向ける。 

 

「その裏地は皮膚の弱い女性の足を布ずれから守ろうと取り付けたのでございます。いかがでしょうか?」

 

 顔を向けられた意味を察知した越後屋は裏地を付けた経緯を説明する。

 少しだけ得意げな顔をしたように見えたけど、まあ気を使ってくれてるんだろうね。

 

「これはとても助かります。布ずれは時が経つにつれ痛くなってきますからね」

 

「はい。喜んで頂けて私共としましても嬉しく存じます」

 

 そう越後屋は言うと立ち上がる。

 

「今日は合議があると聞き及んで御座います。いつもの様に長居してはご迷惑でしょうから、私はこれにて」

 

「お気遣い感謝します。また近いうちに店の方も寄らせて頂きますね」

 

「はい。それではご免下さりませ」

 

 

 

 越後屋が帰って行くと木箱を小者に持たせて自室へと向かいます。自分では重過ぎて運べないからね。仕方ないね。

 

「ありがとう。そこへ置いて下さいね」

 

「へい。承知しました」 

 

 木箱を置いてもらい、小者を下がらせると自分の部屋の姿見(すがたみ)を前にしたオレが自分自身を映し出す。そしておもむろに先程の木箱から制服(・・)を取り出して、さーっと着替える。

 着替えて再度姿見を見ると、そこには女子高生の制服を着た小学生くらいの美少女が立っていた。

 うん。やっぱりオレって超可愛いよな……。釣り目で黒髪ロング、更に小柄なんて言うと紫ナコに似てるかもしれないな。肌の色は健康的な肌色だから紫ナコみたいに浅黒くはないけどね。それでも可愛らしさは微塵も損なう事はない。

 

 よ、よし、可愛い子がスカートをめくられるとどうなるかを実験してみよう。うん。実験なんだから仕方がないよなー。や、やりたくてやってるわけじゃないもんなー。

 誰も聞いてないのに自分で言い訳を考えると恐る恐る自分でスカートの端を摘み、そのまま横パンが見えるまでめくってみる。

 うわー、姿見に映るパンチラがすっげーそそるわー。どうしよう。オレ自身なのにどうしよう!

 

 今度は背中を姿見に向けて首を捻り、眼だけで姿見に映った背中を見る。この体がやわっかくて良かったわー。硬かったら後ろを見るのも一苦労しそう。

 姿見に映ったブラウスの背中。その背中にはブラジャーの跡がはっきりと見える。

 

「よし!」

 

 声に出すくらいにガッツポーズを取る。だって背中越しの透けブラだよ。これが興奮しないわけがないじゃないかー。

 ……自分の透けブラだけどね。でもこれはこれで興奮する。

 

 よーし、今日の評定はこれを着て出ましょう!

 

 

 

 

 

 

 国府館内はいつになく忙しい様に見える。それもそのはず今から越後国評定が始まるからね。

 

 オレも女子高生の制服でこの評定に臨んでます。

 そしてこの足の露出度で男共の視線は釘付け! でも今日は大勢いますからパンチラは諦めてくださいね。心の防御力は最大ですから!

 それでもハプニングでチラリと見えたら、貴方は運がいい。存分に堪能してください。

 

 オレは元男ですから、男の味方を自負しています。

 だから、スカートの下にズボンみたいなのを履いたり、パンツ防御の為の変な黒い半ズボンなんて履いたりしません! 見えたら貴方の勝利です。存分に誇ってください。でも守る時は本気で守りますからね。ミニスカートだからと言ってすぐに見えるなんて思わないことです。

 その防御を掻い潜った者だけが白いパンツを見る事が出来るでしょう。チラリと!

 

 

 

 うーむ。

 話が凄いずれたけど、現在この館の中でも一番の大広間には越後各地から有力豪族が集まってきています。

 中でも大物と言われるのがこの二人。

 

 越後一の勢力を誇る城氏からは当主代の城資長(じょうすけなが)殿。

 前越後介(さきのえちごのすけ)紀友親(きのともちか)殿。

 

 更に他の豪族達と付き添いの者達。

 この大広間には場所が狭しと人間が参集しているのである。

 

 

 

 大広間から廊下に出る。目の前に新参の猫がいる。ちょっと喉が渇いたからお茶をもらいましょう。

 

「猫さん。少々喉が渇きました。お茶を頂けないでしょうか?」

 

「はーい。わっかりましたー。只今お持ちいたしまーす」

 

 うーむ。笑顔は可愛いけど相変わらず自由な人だなー。

 

 あの後、その日のうちに国府で侍女として雇ったんです。でもあまりの身なりと匂いに辟易した侍女ーズの人達が猫をお風呂場へ強制連行したのもその日のうち。

 まあ、洗ったらすごく可愛らしくなって出てきたので、右手を握り締めて心の中で『ぐっじょぶ』って思ったものですよ。可愛い女の子ならなんでもおっけーです!

 

 

 

「はーい。お待たせいたしましたー。粗茶でございまーす」

 

「あ、はい、ありがとう」

 

 まだ時間じゃないので、戻って上座に座ってぼーとして待っていると猫がお茶を持って来てくれた。おお、ようやく来ましたね。これで生き返るわー。

 って言うかさ、自分の主に出す茶を粗茶なんて言うか普通?

 まあ、いいけど……。

 

 

 

 一同の顔ぶれを見るとオレを中心とした国府方。紀殿の中越派閥。あとは日和見が何人かいる。

 ここで全票数を数えてみましょうか。

 

「経成さん?」

 

 周りの喧騒で騒がしい時分。

 オレ一人で考えているよりも他の人とも話をしようと、傍らに居るオレの軍師の酒田姉を呼ぶ。呼ぶって言っても隣に居るんですけどね。

 

「何か御用ですか姫様?」

 

「はい。もう一度票の割り当てや数の確認をしたいのですけど、説明お願いできますか?」

 

「ああ、はい。勿論ですよ」

 

 酒田姉はそう言うと持っていたお茶を一口飲む。さっき猫が煎れてくれたお茶かな?

 唇も潤ったところで、まずはと前置きしてから説明を始めました。

 

「姫様もご存知の様にこの越後の国は今現在二〇の票があります。この二〇票を使って多数決を取り、全ての案件を取り決めます。ここまではいいですか?」

 

「はい。どうぞ続けてください」

 

 話の腰を折るのもアレなので、そのまま話を続ける様に促します。

 途切れるのも嫌だろうからね。

 

「それで、その二〇票を漠然とした分け方で言いますと我ら国府方が七票。そして紀殿を中心とした中越勢が九票。さらに日和見と目されている豪族が四票をそれぞれ持っています」

 

「うんうん」

 

「一票を得る為の条件としましては、一〇〇〇石以上を有する当主が一票の権利を得ます。これは越後全土で十五人いますね。えーっとですねー、補足するならこれは一〇〇〇石だろうが五〇〇〇石だろうが一票は一票です」

 

「なるほどなるほど」

 

「姫様、実は大体の事は判っていますよね?」

 

 先を促す為に『うんうん』とか『なるほどなるほど』なんて相槌を打っていたら、酒田姉は『もしかしたら私の話を適当に聞いているだけなのですかー?』なんて顔でオレの顔を悲しそうに見つめてくる。

 そんな悲しそうな顔で見るなよー。こっちが悪者みたいじゃないかー。

 

「判っていますよ? ただ、聞きもらしとかがあるといけないので再度説明を求めているのです」

 

「そ、そうですか。これは失礼致しました」

 

「いえ、その様な事気にしないで下さい。私が聞きたいだけなので」

 

 別にいいんだよ。そんなに恐縮しなくても。

 酒田姉が怯んだ時、赤いツインテールがぴょこぴょこ揺れてとても可愛らしいね。

 口に出しては言わないけど。

 

「はっ、それでは説明を再開します。……コホン。先程の票の件ですが、石高以外では官位による取得も出来ます。官位一つに付き一票が得られます」

 

「ふむふむ」

 

「これらを合わせて、例えば姫様を例にしてみますと、姫様は七五〇〇石取の領主でいらっしゃいますからこれでまず一票。それに従五位下権少納言(じゅごいのげごんしょうなごん)の官位で一票。更に越後介(えちごのすけ)で一票の合計で三票が得られます。……このような説明でしたが判って頂けましたか?」

 

「はい。とてもためになりました。説明ありがと!」

 

 そう言うと酒田姉は安堵した様な表情を見せ、またオレと隣り合わせになって脇息に肘を付きはじめました。

 説明ご苦労様。

 

 要するに前に聞いたのと同じですね。勘違いとかも無く、他の人と認識は一緒でしたよ。

 よかったよかった。間違ってたら悲惨だもんね。

 

 

 

 今までの説明は現在の話。

 じつは去年オレたちが赴任するまでは全部で十三票と今の二〇票よりも少なく。しかも十三票の中で中越勢がいつでも九票を固めていたので、他の豪族は出る幕が無くいつも良い様にされてきたって言う現実があります。

 

 そこで中越勢ではない三家にはあらかじめ手回しをしておいたのです。所謂、阿賀北の城氏を筆頭にした五泉氏と吉田氏。この三家です。

 この三家、一応は日和見と言うカテゴリーにさせて頂いていますが実質は国府方なのですよ。

 

 城氏はこの前の官位授受でこちら側に就いてくれ、それに伴い五泉、吉田両家にも国府方に就いてくれる様に裏で手を回してくれたのです。

 城氏様々ですよ。もう!

 

 で、そうなると、票数もおのずと決まってきます。要するに中越側は以前と同じく九票。そしてオレ達国府側は十一票。

 これはもうどの案件であろうとも我々の思うがままに決定する事が出来ます。

 うひひ。

 

 

 

 

 

 

「えー、それではこれより越後国評定を始めます」

 

 評定の司会進行は国府(うち)から神田先生が出ています。

 司会頑張ってね!

 

 そしてオレの傍らには軍師兼相談役の酒田姉が。梶川くんは評定員の一人ですから皆さんと一緒に大広間の一席にどっかりと腰を下ろしています。

 頼もしいですね!!

 

「では姫様。お願いします」

 

「はい。平越後介(たいらのえちごのすけ)です。よろしくお願いします。さて、此度の評定ですが我々国府からは二つの案件を提示したいと思います」

 

「その案件とは如何なるもので御座いましょうか?」

 

 オレの二つの案件が気になるのか、()殿が言葉を挟んでくる。

 そうだわなー。気になるわなー。

 今日の紀殿は白いお着物に赤い帯。それに深緑の内掛けを上に着ていますね。緑はいいねー。紀殿は敵対勢力の長だけど女として見ると可愛いんだよなー。胸もそれほど大きくないみたいですし。

 追放しようとして、なんだけど、ちょっと好みかもしれない。 

 

「はい。まずは越後国府のこの館の修築の事です。この館、みなさんもご存知の様に日本海に面しており塩での被害がおびただしいのです。それゆえ館を囲う壁を全て修築したいのです」

 

「なるほど。そう言う事なら我らも反対など致しません。存分に修築するとよろしいのではないですか?」

 

 紀殿もそれはまあ仕方ないかー。などと思ったのでしょう。でもね、続きがあるんですよ。

 

「それに合わせて国府館の防御力を上げる為に新規で空堀も作ろうと計画しています」

 

「空堀!? それはまず…………コホン。失礼。空堀はすこしやり過ぎではないでしょうか? 介殿? 私はそれについては反対で御座います」

 

「まあ、それは後ほどの事。それではいま一つの案件ですけど、山寺三千坊の増築を提案したい」

 

「うーん。山寺三千坊をで御座いますか……」

 

「はい。かの寺院群は最澄の昔からここ越後に根を張る大切な天台宗の建物です。これを増築して更なる隆盛を続けてもらいたいのです」

 

「うーむ。そうですか……」

 

 山寺三千坊と言うのは天台宗の寺院がたくさん建ち並ぶ越後一の寺社勢力です。僧兵の数も多く。越後一ノ宮の弥彦神社をも凌ぐ規模らしい。

 位置的にも国府からそう遠く無い場所にあるので国府側のオレ達としてはよしみを通じて置いた方が何かと都合もいいですしね。

 

 紀殿も悩むところでしょうね。山寺三千坊とはよい関係を望んでいるでしょけど、ここで増築を許可してもオレ達国府方の手柄にしかなりませんから。

 国府館周りの防御力が上がるだけで中越としては全然メリットがないわけですよ。かと言って反対をしようものならその話が山寺三千坊に届いてしまい、紀殿の立場が面白くないところに行ってしまうでしょうし。

 

 まあ、オレ達には願ったり適ったりなんですねどねー。

 

 

 

「それでは議題も出したところです。それでは評決に移りたいと思いますがいかがでしょうか」

 

「待って頂きたい。まだ細かな工事の内容を聞いておりません。明確な改修規模と改修理由をお聞かせ願いたい」

 

 面倒なので素早く評決に移ろうかと思ったのだけど、紀殿が猛烈に反対をしてきました。

 まわりの中越の連中もそうだそうだ! とわめき散らしはじめ場が紛糾しだした。

 あー、もう。周りがうるさくてかなわない。あんまりうるさいので司会進行役の神田先生に休憩の合図を出します。

 早く休憩にしてよ!

 

「あー、それではこれより休憩にします」

 

 

 

 

 

 

 オレ達国府方のみなさん、それと中越の人はそれぞれの別室へ行き。一応日和見の人はとりあえず大広間の奥の方にいてもらってます。ばれるといけないからね。

 

 

 

「それでは段取りをおさらいしますよー」

 

 酒田姉が張り切ってこれからの段取りを説明しだします。

 いや、本当に嬉しそう。こう言うのが好きなんだろうねー。

 

 オレや梶川くん、それに畠山さん親子が入札箱へ札を入れるまでの流れを一つ一つ伝えていく。事前にすませてあるとは言え確認することは大事ですよね。判ります。

 

「まあ、経成ちゃんがあんなに張り切ってるんだから安心だよ」

 

「はい。私も安心していますよー」

 

 梶川君がオレの前に来るとそう言って酒田姉を言葉で持ち上げる。

 

「で、それはいいんだけどさ、その服って女子高生風?」

 

「はい! よく気が付きましたね! 褒めてあげますよ」

 

 うーん。頭を撫でてあげようとしたんだけど如何せん身長不足で梶川くんの頭にまで手が届きません……。

 オレが背伸びをしてるのが判ったのか中腰になってくれる梶川くん。

 さすがだ! オレとは一身同体の仲だけの事はありますね!

 

 中腰で頭をさげてくれたので背伸びをせずにそのままの体勢で頭を撫でる事ができます。

 なでなで。

 なでなで。

 

 中腰になったおかげで目が下を向いているから、オレの可愛らしい足を存分に見ることが出来ますよー!

 良かったですね梶川くん!

 

「どうですか? この制服姿は?」

 

「うん。とっても可愛いよ。そのもう少しで見えそうで見えない絶対領域がまた何とも言えないよ」

 

「今はダメですからね。見せてあげませんから」

 

「えー、いいじゃん。ほんの一瞬だけでいいから。ね!」

 

「もう、ダメですってば」

 

「あのー……もう休憩は終わりですよー」

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

 周りを見るとオレと梶川くん。それと酒田姉以外はもう居なくなっていた。たぶんもう大広間へ戻ったのでしょう。

 って言うか、ものすごく恥ずかしい。なんと言う会話を聞かれたんだろう……。

 梶川くんも照れ隠しに口笛を吹いていますし。もう穴があったら入りたい気分ですよ!

 

 

 

 

 

 

 休憩が終わって評定が再開した途端、紀殿が提案をしてきた。

 

「司会進行役殿。私も一つ議題に乗せたい案件があります。まずはそれを聞いて頂きたい」 

 

「承りましょう」

 

「実を言いますと私の城も長年の風雪により傷みが大きくなっているのです。そこで国府と同じく修築をして頂きたいのですがいかがでしょう?」

 

 いや、ちょっと待ってくれ。

 紀殿の城が傷んでるのはお困りだろけど、それは個人所有の城でしょう? そんなの自前で直してくれよなー。

 なんで公金の使いどころを決める評定でそんな事を言うのか意味が判らん。

 

 たぶん、今迄はそれでやってきたんでしょう。公私の区別を付けずになあなあで……。

 

 

 

「紀殿? お手前の城を直すのに公金を使うと言うのはどうかと思いますけど?」

 

 流石に言っちゃったよ。

 あんまりにも素で言ってきているところをみると、まさか反対するとは思わなかったんでしょうね。

 でもね、オレとしましては超反対なんですけど!

 

「え? う……む。しかしですな……。あっ、そうです。介様。これを容れて頂ければ国府修築と山寺三千坊の件もすんなりと可決できますよ? 我々も反対など致しませんし……」

 

 あー、ちょっと得意げな顔してますねー。

 ……紀親友(きのちかとも)さん? 可愛いからってあんまりお茶目ばっかりしてるとダメですよ。

 

 まあ、八公二民とかする人ですからこんなもんだろうとは思ってたけど、あんまり調子に乗ってると痛い目を見ますよ?

 

 

 

「はあ、判りました。私は紀殿の案件に対しては反対するものとします」

 

「なんですって! 介様。貴女はそれで本当によろしいのですか? 我々中越の票が全て逆方向へ行くのですよ!?」

 

 オレが反対を表明すると紀殿はものすごい剣幕でオレの顔を睨みつけてくる。

 こ、怖いんですけど!! まじで怖いんですけど!!

 

 

 

「それではこの案件を先に決を取ります。紀越後権介(きのえちごごんのすけ)殿の意見に賛成の者は賛成と、反対の者は反対とこの札に書いて目の前の箱へ入れてください」

 

 順不同でそれぞれ札に賛成・反対を書いて箱へ入れていく。

 オレは三枚分の札を渡されて、それに全部『反対』と墨をたっぷりと付けてデカデカと筆を走らせて書く。

 やつらめ、ギャフンと言わせてやる!

 

 

 

 箱の中に全員分の札が入れられると司会進行役の神田先生がみんなの前で鍵を開け、札を一枚一枚取り出しては賛成・反対を読み上げていく。

 そして最後の札を読み上げた時、紀殿が大声を上げて叫んだ!

 その声は大きく、都にまでも聞こえるんじゃないのかと思われるほどに。

 

「待ってください!! これは何かの間違いです。我々が負けるなんてっ」

 

 気が高ぶっているのか、まるで周りが見えていない。

 どう見ても十一対九で反対が賛成を二票上回ったのですけどね。

  

 

 

 だから……その後の展開も自ずと知れるものだったんです。

 

「……賛成。賛成。反対。賛成。賛成。……と言うわけで国府館修築案に賛成の方は全部で十一票。反対は九票で、国府修築案は可決されました」 

 

 札の入った箱を開けて票の数を数える司会の神田先生。そして可決の報告をするとみんなで拍手をします。

 

「よし! やったぞ!」

 

「ええ、国府は票の数でも勝ちました! 猫さん! みなさんに報告してきて!」

 

 梶川くんがガッツポーズを取って喜ぶと、オレもグイと右手に力を込めて嬉しさを体で表現する。そして猫に向かってみんなに報告してくるようにと言う。

 

「わっかりましたー」

 

 猫はそう言うとそのまま走って行ってしまいました。

 ちょっと、はしゃぎすぎなんじゃないのかなー。

 

 

 

「な、な、んですって……? バカな私達が全て負けるですって……」

 

「これはどうした事じゃ。権介(ごんのすけ)殿! 話が違う! 説明をしてくださらぬか!」

 

「わしらは勝つはずではなかったのか!? これはわけが判らぬ!」

 

 対する中越の人たちは一様に紀殿に対して話が違うだの、わけが判らぬなどと大きな声で言い散らかす。

 

 続いて山寺三千坊の増築案も我々国府側の勝利で懸案事項は全て可決されたのだった。

 一つは否決。そして二つの案が可決されると紀殿をはじめ中越の方々は渋々承知して館から去って行く。まるで敗軍の将が落ちて行く様に……。

 

 

 

 紀殿などをお送りしてきた桜川の爺様はオレの横に並ぶ。

 

「これは、このままでは済みますまい。必ず何かありますぞ。姫様、十分に気をつけられよ」

 

「はい……」

 

 そして何かを予感せずにはいられなかった。

 

 

 

 







山寺三千坊とは、猿供養伝説の乙寺があったのではないかと言われている寺院群です。
場所は定かではありませんが遺構とされる場所が上越地区にあります。

奈良時代から鎌倉初期までは存在していたらしい。
その宗派もよく判っておらず、天台宗なのかもしれないし真言宗かもしれない。
まさに伝説の寺院群であります。

その乙寺が、土砂崩れかそれとも戦乱で消失したのか判りませんが寺院群の中では比較的移築が可能だったらしく、現在の中条にある乙宝寺に移転したようです。


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