よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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37 六波羅 ●清盛様視点

 

 

 

 

 

「おーい、主馬や? いないのかのう?」

 

 さっきから廊下沿いにある部屋を片っ端から開けて盛国爺を探しているのじゃが、どの部屋を見ても見つからない。そのくせ部屋に居る者からわざわざ挨拶を受けて、そしてわしもそれに答えてなんてやっていると時だけが掛かってしまいどうにも効率的じゃないのじゃ。

 まったく、新しい舶来物が手に入ったと言うに盛国爺めはどこへ行ったのじゃろうか? 肝心な時におらぬではつまらんではないか。

 

 

 

「ああ、はい。入道様。主馬判官(しゅめのほうがん)様は厳島神社へと詣でておりまする故、今月来月はおられません」

 

 いくら探しても見つからないので、もうひと目を気にせず後ろにずっと付いて来ている侍女へ問うてみたのじゃが、すぐに答えが返ってきおった。判っておるなら最初から教えてくれてもよいじゃろうに。

 

「おお、そうじゃったそうじゃった。歳を取ると忘れっぽくていかんな」

 

 目の前にいる年若い侍女に盛国爺の所在を教えてもらうと、烏帽子をポンと叩いてうっかり感を殊更に前面に出す。だって耄碌したなどと思われたくはないからの。

 まあ、わしだとて見た目は若くとも中身は世間で言うところのおばばじゃからの。

 

「それにしても入道様。その、横での二つ分けの髪型はとても可愛くてお似合いでございますよ」

 

「ん? そうか。似合うておるかー」

 

 よしよし。わしもまだまだ若いもんには負けておらぬかー!

 うむうむ。侍女のおだてにのれるくらいにはわしだとて容姿には自信があるからの。

 

「それにそのお着物も入道様に似合ってございます。やはり御自分で選び抜いた一級品でございましょう」

 

「あ、うん。その通りじゃ! 都一の仕立て師に特別にしつらえさせた特注品じゃ」

 

「まことに! ああ、可愛らしいです!」

 

「そうじゃろうそうじゃろう」

 

 うう、宗盛ら三人の娘に選んでもらったお着物をそのまま着ただけなんて言えない! とても言えないのじゃ!

 

 

 

 

 

 

「入道様!」

 

 ん? あの赤と黒の唐衣は時忠ではないか。まだ朝議までは時間があるのにどうしたのかのう?

 

「おお、大納言。今日はやけに早いの? 朝議はまだの様じゃのに? いかがしたのじゃ?」

 

「ははっ、ちょいとお耳を拝借」

 

 そう言うと時忠はわしの耳元で声を抑えながら話し始めた。

 

「草の者の言う話によれば……越後にて……反乱……」

 

「なんじゃと! 越後で反乱じゃと!?」

 

「しーっ! お声が大き過ぎまする!」

 

「おおぉ、いかんいかん。冷静にせねばな。うん。で、詳細はどうなっておるのじゃ?」

 

 反乱じゃと。今のわしに歯向かうものがまだおったとは。しゃらくさい者じゃ。

 

「はい。報告によれば少納言殿が越後への帰路で不逞の輩に遭遇して乱戦の後、生死不明との事。それに合わせて越後にて反乱が起こった由」

 

「なんと! 少納言が!! くっ……張り切って越後を治めていたのにのう。無念であったろう……」

 

 むむむ、まさかあの美盛が……。別れてから一ヶ月も経っておらぬと言うのに。女芯丹(にょしんたん)を飲んでとても喜んでいたと聞いておったが……。そうか……美盛がのう。

 経盛にどう言おうか。あやつは自分の子供には目が無いからきっと嘆くであろうな。

 

「少納言殿の事、そうお嘆きになりまするな。まだ命を落としたと決まったわけではありませぬ故。それよりもこの反乱騒ぎ、裏に以仁王(もちひとおう)がいるらしく思われます」

 

「ぬぬぬ、あの以仁王か……。院の子息であったがために寺領没収で収めてやったと申すのに……憎きヤツじゃ!」

 

 美盛をやったのは以仁王か! 許せぬ!

 八つ裂きにしても足りぬわ!

 

「……判った大納言。朝議の後に主だった一門を集めてくれなのじゃ。そこで越後の事を話してみよう」

 

「相判りました。全てこの悪別当(あくべっとう)にお任せください」

 

 そう言うと時忠がにやりとした目でわしを見る。その目は昔から変わらぬなー。今でこそ唐衣などを着た女公卿じゃが、幼少の頃はふたりで市井を駆け回り色々と悪さなどした仲じゃからのう。

 人生何があるか判らんものよ。

 

「うむ。わしが平太と呼ばれた幼き頃を覚えておるか?」

 

「はい。それはもう忘れたくても忘れられませぬ」

 

「そうじゃ、貧乏所帯の生活を人一倍忘れぬ者はわしとお主だけじゃ。重盛や宗盛等もようやっておるがやはり平家の中心はわしらふたりじゃ。力を合わせて我ら平家を盛り立てていかねばのう」

 

 まあのう、経盛や教盛、頼盛も忘れてはおらぬじゃろうが、あの頃の武家の地位の低さを憂いておったのはやはり時忠とわしじゃなあ。

 じゃからこの平家の世を、武士の世を終わらせてはならんのじゃ。ここでしくじればわし等はまた元の公家の番犬へと戻ってしまう。それだけは絶対に避けねば!

 

「ははっ。身に余るお言葉。恐悦至極! それでは御免」

 

 

 

 

 

 

 我が六波羅の館の一室には有力一門が並んで座っている。まずは棟梁のわしじゃ。

 そして向かって左側に次期後継者の嫡男内大臣(ないだいじん)重盛。その隣に朝廷内に大きな派閥のある長女右大将(うだいしょう)宗盛。向かって右側には我が平家の舵取り、悪別当(あくべっとう)時忠。そして本当は軍専門の盛国爺がいるはずなのじゃが、今は生憎と厳島詣出の真っ最中だからここにはおらぬ。

 本来はこの五名が平家の中枢なのじゃがのう。盛国爺は此度は不在じゃから四名じゃな。

 

「越後にて反乱ですって!? それはいつの事なのかしら大納言殿?」

 

「うむ。私の耳に入ったのは今朝の事だ。反乱の起こった日時は七月十五日。今日は七月の二十一日だから六日前の事だな」

 

 時忠の大まかな説明を聞いた我が娘の宗盛は顔の手前に来ていた灰色の巻き髪を手で後ろへとやると、膝を一歩前に乗り出して大きな声をあげる。

 それに日時を添えて順に説明する時忠。理路蒼然として隙のない回答に宗盛も膝を元へ戻し宛がわれている場所へと戻った。

 

 この宗盛は我が娘ながら代々の平家の女特有の体型をしていない唯一の女だったりするのじゃ。要するに巨乳なのじゃよ! 平家の女ともあろう者が巨乳とは何か天変地異の前触れではないのかととても心配じゃ。

 こ……この巨乳め! 娘なのに……。わしの腹を痛めた娘なのに……! なぜ巨乳なんじゃ! うらやま……うらやましくなんて無いんじゃからね!

 

「は、母上! どうなされたのです!?」

 

「ふん。どうもせぬわ」

 

 横にいる重盛がわしの態度を見て俄かに驚いて言葉を発してくる。

 んもう、なんでもないんじゃ! ただの個人的な事じゃ!

 

「そ、そうですか。それなら良いのですが……。それで美盛殿……いや、少納言殿は無事なのか大納言殿?」

 

「いえ内府殿、それは我らも皆目判り申さず。越中守殿の書状によれば六月の二十日に少納言殿一行が越中国府を出たと言うからそれ以降に襲われたのであろう事以上は判らぬのだ」

 

「そうかー。無事でいてくれればよいが……」

 

 重盛が幾分肩を落として俯いてしまう。わしも同意権じゃ。せっかく越後を頑張って治めていたのにのう。可哀想な事をさせてしまった。まだ年も若いのに、本当に不憫じゃ。

 

「兄上。無事を祈ってばかりもいられません。まずは越後に救援を差し向けませんと」

 

 宗盛が、嫡男の重盛へと辛辣な一言を送るのが見える。そうじゃなー。美盛の捜索も大事じゃが最優先は越後の事じゃな。これをなんとか鎮圧せねばならぬ。

 わしだとて美盛は可愛がっておったし無事に見つけられれば一番じゃとは思う。じゃが、大局も同じくわしは見なければならん。それゆえどちらかを天秤に掛けねばならぬとなったら、やはり越後の方を取らざるを得ぬのじゃ。ただ、此度は二者択一の仕儀ではないのじゃから同時に行っても良いのじゃ。じゃから越後への仕置きと美盛捜索を同時に行えば良いだけの事。

 

「大納言。どうじゃ? 越後へは如何ほどの兵を送ればよい?」

 

「入道様。それはちとお待ち下され」

 

「なんと!! 大納言殿は越後に援軍は送らないとそう言うのですか!?」

 

「待たれよ右大将殿。そうは言うてはおらぬ」

 

 宗盛の大きな声にめずらしく時忠が押され気味だの。赤と黒の唐衣に、いつもの乳白色の巻き髪を揺らしている時忠のすまし顔に少々焦りが見え隠れするようのう。うーむ、時忠ほどの女をここまで焦らせるとは流石は我が娘と言うべきか。

 

「ではなんなのですか!? そうとしか受け取れませんわ!」

 

「私が思うのはこうだ。北陸の国々を一門で任せたのは何の為か? こう言う時の為であろう? 全ての事に六波羅が介入してはとても六波羅は立ち行かぬ。それゆえ、此度は北陸諸国へと任せてみたいと思う。どうだ右大将殿?」

 

「えー、うん。そうですわね。私もそれが良いと思っておりましたのよ。おほほほほ」

 

 時忠の言に我が娘も納得したのか反対などせずに頷いてみせる。焦らせるのは良いがやはりまだまだ役者が違う様じゃのう。

 それともうひとつ。巨乳のくせに『おほほほほ』とか似合わないと思うのじゃがどうだろうの? 巨乳ならもっとこう……虚しくなるからわしは考える事をやめたのじゃ。

 

「内府殿は如何か?」

 

「ふむ。そうですな。その考えも良いですな。ただ、こちらも知ったからには何も送らぬでは体裁が悪い。物資のひとつでも送った方が良いのではないですか」

 

 腕を組んで頭で一つ一つ考え込んでいた重盛も時忠の問いに対して答える。

 重盛には重盛の考えがあるのじゃから、それも聞いておかねばの。

 

「ふむ。なるほどその辺りが落としどころでしょうな。では入道様。この様な仕儀と相成りましたが御裁可を願います」

 

 時忠がこちらを向くとわしに最終的な決定を促してきた。じゃからみなの意見をくんで全てを丸く決めてあげようではないか。

 

「判ったのじゃ。越後の反乱鎮圧には北陸諸国に命ずるものとする。その際ある程度の物資を送り(いくさ)を長引かせぬ様に迅速に手を打つのじゃ!」

 

「判りましたわ母上」

 

「承知仕った」

 

「ははっ」

 

 わしが裁可を決定すると三人ともこちらを向くと元気良く返事をしてくれた。

 やはり我が平家は家族愛が強いのう。一門全部の幸福を願ってはじめたこの平家政権も間違いではなかったかのう。

 ああ、そうそう、これも言うておかねばなるまいて。

 

「大納言、美盛の捜索も早急にのう」

 

「承って(そうろう)!」

 

 美盛も無事でいてくれれば良いのじゃが……。

 

 

 

 

 

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