よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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40 医者の言う事は素直に聞く事

第39話

 

 

 

 最悪な目覚めって言うのがある。今がまさにそれだったりします。

 例によって体調が思わしくない為か、また前々世での交通事故の夢を見ました。それも濃厚な描写で。まったく、スーパーで買い込んだツマミの内容まで描写するのはやめれって思うよ。食べたくなるじゃないですか!

 

 食べるといえば、一ヶ月以上もこんな山小屋で昏睡状態だったのでまるっきりと言っていい程食べていません。いつもの侍女の話によれば、意識の無いオレの口に果物の汁などを含ませてやっていたくらいだそうです。

 まあ、背中からお腹を貫通するくらいの矢傷なんですから食べられないって言えばその通りなんですけどね。

 

 しかし、こんな不衛生な山小屋で深手を負った子供がよくもまあ生き残れたものだなーなんて感心してしまう。たぶんいつもの侍女の手当てと看病に助けられたんじゃないかとそう思うんだ。いつもの侍女様々ですよ。本当に。

 

 

 

 赤橋がここを出たのが昨日。今のところ越中国府からの連絡だったり医者が来る気配は無いですね。わざわざこんな山奥まで来てもらうのは恐縮するのですけど体が傷だらけで動けないんですからどうしようもない。

 こんな傷は早く治して梶川くんや越後のみんなにも会いたいところなんですけど、桜川の爺様が討死したのは言い出しにくいなー。ホントにどうやって切り出そうか……。

 

 そう言えばいつもの侍女がいませんね。どこかへ行ってしまったのでしょうか?

 周りをキョロキョロと目で伺って誰も居ない事に気が付く。目だけを動かすのは、顔を動かすのがまだ今のオレにはレベルが高すぎるから。だって顔を動かすと首に力を掛けるじゃん。そうすると背骨、ひいては腰に負担を掛けてしまうんですよ。ですから首を動かすとお腹と背中の傷がとても痛むのです。

 また『んぎぎぎー!』なんて女子らしくない叫び声は上げたくはありませんし、なにより痛いのは嫌ですから。

 

 

 

 

 

 

 しばらくぼけーっとどうでもいい事を考え込んでいたら次第に表が騒がしくなってきました。遠くから聞こえてくる声で判断すると、たぶんいつもの侍女だと思う。でもひとりじゃないようです。何人かと話しているみたいに聞こえますから。

 その声が次第に大きくなってきて遂にはこの山小屋の入り口の戸の手前まで近づいて来た。

 誰なんだろう? 村人を伴ってきたのかな?

 

「ここです。お入りください」

 

「判りました。それではちょいと失礼しますよ」

 

 そんな声とともにいつもの侍女が見慣れない顔をした中年男を連れて中へと入ってくるとオレの横に静かに座った。えーっと、よく見るとその後ろにも何人かの連れが居る様ですねー。

 更に目を凝らして最大望遠にして見ると連れの人数は四人だと判った。たぶんこの中年男の連れだと思うので知り合いか何かかなーなんてアタリを着けて置く。

 

 うーむ。こんな狭い山小屋に大勢の人間が入るとすっげー窮屈そう。

 布団で寝ているヤツが居るから狭いんだろうって? ふふん! オレはいいんですよ。オレは。だって怪我で寝てるんだもの。動けなきゃどうしようもないからね。

 そんな感じでみなさんが山小屋の中へと入ると最後に赤橋が戸を閉めていつもの侍女の真向かいへと腰を下ろした。赤橋、居たんだね……。

 

「姫様、赤橋様が越中国府から医者を伴って参りました」

 

 いつもの侍女がオレに伝えるように耳元で囁いてきた。

 いやー、今は耳が聞こえなくなる程の最悪の状態じゃあないんだから、そんな耳元で言わなくても聞こえるんですけど? 

 でも、まあいいか。それよりも返答返答っと。

 

「そうですか……。赤橋。っく。ご苦労様でした。ありがとう」

 

「いえ、家臣として当然のことをしたまで」

 

 赤橋の方に首を回して少し大きめな声で感謝の言葉を伝える。『居たんだね』なんて考えてごめんなさい! 

 痛たたた。やっぱり首を動かすと傷が痛むなー。

 

「では、そろそろ医者殿……」

 

「判り申した。どれ早速、脈を拝見しますぞ」

 

 赤橋が麻で出来ている直垂(ひたたれ)を着ているみすぼらしい医者に向かってオレを診てくれるように頼むとそのまま医者がオレの怪我や体調を診はじめた。

 うーむ。ここまで来たら死ぬのは嫌だなー。せっかく三途の川? から生還したのにさ。どうにか良い診立であって欲しいものです。

 

「ふむ。薬草の使い方がとてもよろしい。傷口も膿みもせず体調がよいのはこのお蔭ですな」

 

 オレの傷口に塗られた薬草の調合を見てそんな事を医者殿は言って感心する。

 

「うちの侍女が看病をしてくれましたので、それでしょう」

 

「それは良い侍女をお持ちですな」

 

 いつもの侍女を褒められた。とっても嬉しい。我が事の様に嬉しい。

 目を動かしていつもの侍女を見ると本人も恥ずかしそうに下を向いている。態度では判りづらいけど嬉しいんだろうな。

 

 そんな事をしながら医者はオレの脈を計るとその後はお腹の傷、それと背中の傷を、そして最後に折れた足を診て一応はホッとした顔を作ると診立てを述べ始めた。

 

「私の診立てを申し上げれば、少納言様の傷は腹と背中両方とも塞がってはいますが未だ予断を許さぬ状態と診ました」

 

「予断を許さぬとはどう言う状態なのですか?」

 

「はい。端的に申しますれば傷口が膿んでそこから毒が回らぬかと懸念しております。それに何も食しておられぬようで体の力も弱まっておられるご様子。もっと精の付く物を食べねば治るものも治りませぬ。言わせて頂ければ、言葉は悪いのですが骨と皮ばかりとはこの体の事でございます」

 

 うっ! 骨と皮だけって……医者殿ー! それを言っちゃあおしまいだよ。何も好きでこんな傷だらけの体になったわけじゃないんだからさー。すこしは乙女心(・・・)も考えろって言うんだよ! 元男だけど!

 前々世のオッサンだった頃は体系維持とか何も考えてなくて太るに任せる様ないい感じなメタボだったんだけど、女子になってからと言うものずーっと体型には気を使ってたんだから。

 痩せすぎず太りすぎずを維持してきたというのに、骨と皮って……。

 

「うぬ! 医者殿! 言うて良いものと悪いものがあろうに、なんと言う事を!」

 

「待ちなさい赤橋。その様に激高するものではありません」

 

 心の中では赤橋に『いいぞ! もっと言ってやれ!!』なんて思ったけど、やっぱここで止めるのが上に立つ者の定めなんだよね。

 上に立つって面倒くさい。

 

「ぬっ。判りました……」

 

「医者殿、続きをお聞かせ願いたい」

 

 オレは赤橋を引き下がらせて、また話を再開させた。

 死にたくはないから医者殿の話はよく聞いておかなきゃ。

 

「判りました。それで先程の話の続きになりますが体の栄養が足りていない為、毒に体が負けないかと心配なのです」

 

「なるほど。されば、どうすれば良いのですか?」

 

 自分の体なのにちょっと人事過ぎるかな?

 

「まず、この場所ではままなりませぬ。絶対安静が必須なのですが、そうも言っていられない状況ですので危険を承知で越中国府までお連れせねばとは医者としては思う次第でございます」

 

 その言葉に赤橋といつもの侍女が顔を見合わせる。

 オレを早く治療したいのだけどこの山小屋ではタカが知れている。でも越中国府までオレを動かすとなると傷口が開いて更に悪化するかもしれない。そのジレンマが見て取れるんですよ。

 でもさ、やっぱ越中国府へは行かないとダメじゃないかなー。だってこのままだとオレ、栄養不足と代謝の低下で死んじまうと思うんだ。

 だから……。

 

「ここでは治療もままならないとなれば致し方ありませんね。越中国府まで移動しましょう」

 

 こう言うしかないよね!

 

 

 

 オレの鶴の一声で急いで準備開始。先程連れてきていた男達はやっぱりオレを運ぶ為の担ぎ手だったみたい。運ぶって言っても背中に担いでとかそんなんじゃないよ。ちゃんと横臥出来るようにした特別な輿ね。

 まあ、最初から運ぶつもりで輿も一式そろえて来たんだろうけどね。

 最終的に現地でオレの容態を医者殿が診て動かせるようなら動かそうっとこう言う段取りだったんじゃないかな?

 

 で、オレは医者殿の御眼鏡に適って運べる許可が出たと。

 

 

 

 さあ、準備完了ですね。寝ている布団ごと戸板に乗せられたオレは一ヶ月ぶりにお外へと出る事が出来ました。

 イヤッホー! お外だー! 太陽が眩しい!! しかも、なんだかすっごく嬉しい。やっぱりお日様の光を浴びないと人間はダメになっちまうんだと心の底から思ったわけですよ、まる。

 

 戸板で運ばれている最中、梅雨で水分をたくさん吸って大きくなった草や、木の枝などが行く手を邪魔をして中々前へ進めない。だから前に向かって強引に進む為に前の人達が草を刀で払ったり、戸板ごと持ち上げたりして前へ前へと進んで、ようやくそれなりに大きな道が見えてきたんだ。

 で、道へ出るとそこにはわりと大きめな輿がポツンと置いてあった。これに乗るのかな? なんて思って安堵したのは束の間。今度は戸板から輿の中へどうやってオレを乗せるのかで悪戦苦闘し出すと言うハプニングが! 

 

 まあ、結局は無事に戸板から輿へと乗り換えは出来たんですけどちょっと皆さんに負担を掛けすぎた様な気がしないでもないです。てへぺろー。

 

 

 

 さあ、ここで最終確認です。

 乗り込む際に傷口とかが開いてはいないかとか色々を確認されたけど、まあ異常は無いって事で出発の運びとなりました。いやー、よかったよかった。

 

 

 

 

 

 

 輿に乗せられて進む道のり。ゆっくりと進む道中に色々と越後の事を寝ながら考えていた。

 寝ながらって言っても本当に寝てるわけじゃなくて体を休めながらって言ったほうが正しいかも。

 

 

 

 本当のところ、このまま越中国府に行って治療もしたいのですけど、本当は越後国府へと帰りたいんです。そして越後のみんなに無事を伝えたい。赤橋の話では、みんなはオレが一ヶ月もここで倒れていたなんて知らないんだろうし、一ヶ月も連絡無しでいたら心配するだろうからね。その前に襲撃された事が伝わっていたとしたらもう諦められているかもしれない。

 そんな事になったら梶川くんが一人ぼっちになってしまう。ボッチは嫌だもんな。

 

 それに生死の境を彷徨ったからなのか判らないけど、やっぱりちゃんとセクロスしておけばよかったって今は絶賛後悔中だったりします。

 中出し上等! 親父なんて怖くない……わけじゃないけど覚悟を決めればなし崩し的に結婚だって出来るさ! 梶川くんの身分を従五位下(じゅごいのげ)まで上げてもらって貴族にしてもらえば……ね。

 

 オレだって梶川くんと一緒になるのは吝かじゃないんだけど、流石に従七位上(じゅしちいのじょう)程度では世間様が許してはくれないんだよ。どうせならみんな丸く収まる様にしたいじゃない?

 だから、そのためには何か勲功を立てさせて位階を上げさせなきゃなー。

 

 あー、そう言えばまずは本人確認をしなきゃな。

 オレだけが先走って結婚結婚言うても、当の梶川くんが乗り気じゃなかったらどうしようもないか……。年齢で言えば梶川くんは十六歳だから高校一年生かー。高一で結婚話はちょっと酷かもしれないなー。うーん。難しいな。

 それでも処女だけは梶川くんにあげようなどと恥ずかしげも無く心の中で思うと、今日のあわただしさからか、だいぶ眠気が深くなって来た。

 ふあー、眠い……。

 

 ゆっくりと進む輿の中でそんな将来(・・)の事を考えながらオレはとっぷりと眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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