よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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43 真夏の蛭ヶ島 ●伊豆殿視点

第43話

 

 

 夏ですか? 夏ですねー。

 

 あ、あら、ごめんなさい。私、名を右兵衛権佐源頼朝(うひょうえごんのすけみなもとのよりとも)と申します。見ての通り人畜無害を肌着にしている何の取り得も無い普通の女子です。伊豆の皆様からは(すけ)殿なんて呼ばれる事が多いですわね。

 都からの囚われ人のひとりと思って頂き以後、お見知りおきを。

 

 しかし暑いですわね。暦で八月にも入ると暑くて暑くて……。今日はあんまり暑いので風のよく通るお気に入りの縁側で、日がな一日をぼけーっと胡坐をかいて過ごしているとこう言うわけです。

 風がよく通ると言う事は、その分私の長い髪は風と共にあっちへ行ったりこっちへ行ったりと大忙しなのですよ。

 

 ただ、気付いてしまうのですよね。女なのですから、あんまりだらしなくしてはいけないって。

 それで、面倒なのですけど姿を見る為に鏡台のある部屋の奥まで歩いて戻りました。風の通る部屋と鏡台のある部屋は廊下を三つも越えなければならないので少したいへんなんですよね。暑いのに歩くのはキツイ……。

 

 鏡の前に辿り着くと私の明るい茶色の長い髪が映ります。すると普段は纏まってサラサラしているはずなのに案の定、風に吹かれた為ぼさぼさとしていて、とってもだらしがない。でも自分で言うのもアレですけど顔の作りは本当に整っているので、この髪とお顔を比べた時のおかしさがとても気になるのですよ。

 

 顔がいいのは自慢じゃないのかって? ええ、自慢ですわよ。美人顔と言うのは信(まこと)に生まれ持った才能ですから。

 それ故、顔はとても可愛らしいのに髪がぼさぼさしてるのはちょいと……いえ、だいぶ評価を落としてしまいます。いくら私が面倒くさがりと言えども身だしなみくらいはなんとか致しませんと。

 私、これでも女性ですので。

 

 

 

 櫛やら香料などを使って、頑張って髪を整えると鏡台のある部屋を後にしました。

 さあ、戻りましょうか。先程の部屋へと戻るべくトコトコと足を踏み出します。

 風のよく通るさっきまでいた部屋は蛭ヶ島屋敷の数ある部屋の中のひとつで、浜辺にもっとも近いところにあります。そこは私の一番のお気に入りの部屋で、海の好きな私にとってはとても安らげる掛替え(かけがえ)の無い場所なのです。

 そうは言っても屋敷の高い塀がある為、外へ出なければ伊豆の海は見えませんが潮の香りのする海風だけは大きく吹いてきてくれるのです。

 

 廊下を降りて庭を通り抜けたりと色々な近道をしてようやくお目当ての部屋の縁側に辿り着きます。

 ああ、やっぱりここは風邪が気持ちいい。夏の暑さだって風があるだけで全然違ってくるから不思議ですね。風が私の薄地の浴衣をひらひらとめくり、下着が見え隠れするのですけど、どうせ誰も居ないのですし風のいい様にさせておきましょうか。見る人なんて今は誰も居ませんし。

 

 風が気持ちいい。縁側に座って、庭の木の枝や葉っぱが揺れているのをぼけーっと眺めて涼んでいると途端に眠くなってきました。

 ふあぁぁぁ……もういっその事寝てしまおうかしら……? はふぅ……。

 

 

 

 

 

 

「御曹司? 御曹司? 伊豆の御曹司?」

 

 誰ですか……五月蝿いですね。誰かが私の事を呼んでいる? まったく昼寝の邪魔をしないで下さい……。

 

「んん……誰ですか? いったい……ああ、叔父上でしたか」

 

「叔父上でしたかではありませぬぞ。妙齢の女子がこの様なところでひとりで昼寝など。襲われたら何とするつもりでござるか!? しかもその様な薄着で……わしだとしても目のやり場に困ると言うものですぞ!」

 

 このお方は源十郎行家(みなもとのじゅうろうゆきいえ)殿。父義朝の離れた弟で私にとっては叔父なのです。その我が叔父上は熊野から最近こちらへと越してきたのです。たぶん以仁王(もちひとおう)令旨(りょうじ)が目当てではないのでしょうか?

 あと、薄着は仕方ありません。こうも暑いのですから、下着の上に薄い浴衣だけの装いでも許しくれてもいいでしょう。 

 

「妙齢と言いましても私はすでに三十路ですよ叔父上?」

 

「何が三十路なものか。薬のお蔭で未だに平治の乱の姿のままではないか」

 

 薬……。ああ、女芯丹(にょしんたん)の事ですか。髪結いの儀で父上から頂いた物ですから、あれは十三の幼き思い出ですわね。懐かしい……。あの頃は父上も兄上達も弟や妹も健在で……。

 

「ああ、そうですわね。姿は十三歳ですわね。叔父上ごめんなさい。どうも私は人目を気にする事には無頓着なのですよ」

 

「まったく……」

 

 夏の日差しが未だに厳しいこの時間。あまりにも暑かったから、縁側から戸で影になっているところまで歩いて行くとどっかりとそのまま座ります。ここはいい場所ですね。風も入ってきますし先程よりはいくらか増しになりました。私のいるところが快適に思えたのか、叔父上も側まで寄ってきて同じ様にどっかりと座ります。

 それにしても叔父上も硬い事を言いますわね。屋敷の中ですし私がどこで昼寝をしていようがどうと言う事もありますまいに。

 

 

 

 さてと、頃合も丁度よい塩梅ですね。そう思うと体の向きを叔父上の方へと変える。そうすると叔父上の方も俄かにこちらへと向き直った。

 誰もそばにはいない様子。これなら大丈夫と、本来の目的である越後についての報告をお願いしますた。

 

「さて叔父上。それでは越後の情勢を聞かせて頂きましょうか。我らの立つ時期なのか否かを」

 

 正直に言えば、別に越後と歩調を合わせる気になんてなりません。ただ、私を担ぐ武者共や周りの武家が旗揚げをせっ突いて来るので形だけでも越後の情勢を調べてもらっているとこう言うわけなのです。

 当然、叔父上は私を神輿の様に担ぐ気まんまんですね。隙あらば私に旗を揚げさせようと狙ってきています。

 

 あーうー、面倒この上ないですー。本当は政子とずーっと一緒に暮らせれば何でもいいのですけど……。

 

「うむ。わしもつぶさに、かの国を見てきたのだが中越の者共はやる気があるのかと疑う程の士気の低さよ。それ故、未だに支城すら陥とせておらぬよ」

 

「そうですか。戦が始まって半月も経つのに……。これはそろそろ負ける事になりそうですわね」

 

「いかにも。一地方の反乱で手早く国府を陥とせなかった時点ですでに敗北は見えていた様なもの」

 

 そう、中越は孤立無援の弱小戦力。反乱を起こしたのも私利私欲の為からのもの。それでも手早く国府を押さえて越後全土を握ってさえいればまだ呼応する勢力も生まれたかもしれないのに、緒戦で手間取っていてはもう負けは確定したようなもの。

 ですから、この様な輩とはとても一緒に旗を揚げようなどとは思えません。

 

「このまま行けば遠からず中越は負けましょうね。今回は以仁王の令旨だけが収穫でありましたか」

 

 

 

 

 

 

「これは新宮十郎(しんぐうじゅうろう)殿、(すけ)殿とまた難しい話ですか?」

 

 その後も越後周りの話や都の話などで幾分か時間が経った頃に私の想い人が現れた。彼女の名は北条政子。伊豆の北条家の娘です。そして私が心奪われた一番の女性。同性と言う事で世間的にはあまりよろしくは無いのですけどちゃんと別に夫がいて子供さえ残せればとやかくは言わないと源氏ゆかりの者達に言われたので事無きを得ているのです。

 ですから嫌々ではありますが我が夫も別にいる事はいます。

 子を成したらもう会いたくもありませんけど。

 

「はい。政子の言う通りですわ。難しい話をしていたところですのよ」

 

「されば、わしはこれにて」

 

「あら新宮十郎殿。何も急いで帰らなくてもよいではないですか」

 

 そうは言っていますけど政子の目は急いで帰ってほしくてたまらない様子。ふふふ、可愛い娘ですわね。

 

「いやいや。用向きも終わりました故、若いふたりの邪魔も出来ぬでな」

 

「まあ、お上手です事」

 

「政子。あまり困らせないであげてくださいな」

 

 叔父上も空気を読んで手早く帰り支度を整える。このお方はそう言う機を見るに敏なところがありますからね。面倒だと想ったのでしょう。

 

「ははは。仲がよろしい事だな。では御免」

 

 そう思うや否やすぐさま玄関まで行き、そのまま履物を履いて屋敷から出て行ってしまいました。

 このお人は長生きしそうですわね。

 

 

 

「叔父上があわてて帰ってしまったではないですか。まったく貴女は、少しは自重してはどうなのです?」

 

「佐殿が私を相手してくださらないからですよ……」

 

「判っています判っていますって」

 

「いつもいつも難しい話ばかりして私の事なんか全然……」

 

 政子の愚痴を聞き流しながら物思いに耽る。

 

 ふうむ。越後ですか……越後、越後……。いずれ平家に連なる人物が治めているのでしょうが、自身の足元で反乱を起こさせる程度の人物なのでしょう。それはよいとして、越後はもういけませんね。反乱勢力だとてもう少しは掻き回してくれるとは思いましたけど半月でこの体たらくとは存外だらしないですね。

 まあ、仕方ありません。とにかく旗揚げはもうしばらく時期を待つ事にしましょう。

 平家の半分は入道相国で持っている様なものですし、私との年齢差も大きいですから。

 

 あちらは寿命にも気を使わねばなりませんが、私の方はまだまだ若いですから。

 若さ。これこそが源氏と平家の岐路を分かつ事となるでしょう。うふふ。

 ひとつ問題があるとすれば内府重盛……。この御仁が入道相国亡き後をうまく継いでしまうと厄介ですわね……。それにはどうすれば……。

 

「やっ……あぁ、佐殿ぉ。まだ昼間でございまする。その様に胸に手を当てられては……」

 

 気がつくと、いつの間にやら政子の豊満な胸に手をやっていたみたい。目の前では私に抱え込まれた政子が良い声で鳴いています。同性でまぐわうのは世間の風当たりが厳しいですけど、こればかりは直せませんし……。

 まあいいですわ。とにかく今は政子の柔肌を直に感じたい。だからここは女に狂うておきましょうか……。

 

 

 

 中越勢の敗北の報が届いたのは今より三日後の事でした。

 

 

 

 

 

 

 






さすがはうちの主人公!
源氏の御曹司からは、平家のその他大勢くらいの認識にしかなってない扱いです!



頼朝「平美盛? ああ、そうですね。いたかもしれましたねそんな人が」
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