よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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44 盛俊殿凱旋

第44話

 

 

 

 越中国府のオレのいるこの部屋は今日も変わらない朝を迎えていた。

 いつもの侍女とは毎日に用に顔を合わせてはいるけれど、それ以外は医者が往診に来るくらい。だからとても暇なのです。脇腹の傷と左足の骨折で動けませんしね。

 そんな暇を持て余しているところへと誰かが来てくれると、とても新鮮な気持ちになれるからすっごくありがたいのです。

 

 

 

「御免!」

 

「判官殿。おはようございます」

 

 上半身を起こして庭を眺めていると大柄な偉丈夫が部屋の中へと入ってきた。ここ越中国府の主、盛俊殿の子息盛嗣殿だ。

 盛嗣殿が今日もお見舞いに来てくれた。有難い事です。

 

「体調はどうだ?」

 

 どっかりとオレの布団の目の前で座るとまずは体調を気に掛けてくれる。ぶっきら棒なのになかなか細やかな気配りの出来る御仁だなー。さすがは平家一門に名を連ねるだけはあります。

 

「お陰様で今日は痛みも無く楽ですよ」

 

「ふむ。それは良かった。薬に不満があればいつでも言ってくれよ。薬草など道すがらいつでも取りに行ってやるからな」

 

「あははは。ありがとうございます。でも今の薬が体に合っている様ですね。だから治りも早いですし」

 

 盛嗣殿は恥ずかしそうに頷いてくれた。こんなにオレに尽くしてくれるのはやっぱりこの越中国内でオレを含めた越後一行への騒ぎを起こしてしまったからなのかな? 

 でもね、それはオレを襲ったどこぞのやつらが悪いのであって、別に越中国府の人が悪いわけじゃないんだけどね。

 

「まあ、何かあったらいつでも言ってくれよ」

 

「はい。常々ありがとうございます判官殿。判官殿がお見舞いに来てくれるから病人の私も話し相手があって楽しいですよ!」

 

「そ、そうか? そんなに嬉しいのなら、今度はなんぞ面白い話など聞いてきて話してしんぜよう」

 

「ありがとうございます。お待ちしていますね!」

 

「されば此度はこれにて」

 

 そう言うと盛嗣殿はこちらを見てちょっと楽しそうに笑うとそのまま部屋を出て行った。

 はあ、これでまた暇になるなぁ。

 

 

 

 

 

 

 それはその日唐突に現れた。

 いつもの様に部屋で上半身を起こしてぼけーっと庭を眺めていた時だった。その者は逸る気持ちを抑えられなかったのだろう。甲冑姿のままオレの部屋に礼も無しにずかずかと入り込み目の前に来ると片膝を付いて話し始めた。

 無礼を咎める気にはならなかった。

 

「申し上げます」

 

「苦しゅうない。言ってみなさい」

 

「越後反乱は鎮圧されました」

 

「それはまことですか!?」

 

「はい! 越後国府にて激戦の最中、越中守様の軍が到着。そのまま敵の横っ腹に突入し、我らも門を開け討って出て、国府・畠山城・越中勢で三方より敵軍を完膚なきまで叩きのめしました!」

 

「祝着です!」

 

 ああ良かった。報告を聞き終えた時にはオレの顔はとてもニコニコしてたんじゃないかな? だって嬉しいし! こんなに嬉しい知らせはあんまりないよ。本当に!

 

「それで、こちらの被害は?」

 

 本当は梶川くんや越後のみんなの事が聞きたいんだけど、ピンポイントでは聞けないからね。だからこちらの被害は?(・・・・・・・・)って迂遠な聞き方にしてみたんです。

 

「名のある将に死者怪我人はおりませぬ」

 

「そうですか。ありがとう」

 

 よし!! よし!! よっしゃー! みんな無事の様ですね!! 特に梶川くん。彼が一番心配だったんですけどよかったよかった。

 

「誰か? この者に酒と食事を用意させて」

 

「有り難き幸せ。さればこれにて御免」

 

 報告の使者が侍女のひとりに連れて行かれる。

 報告ありがとねー。酒でも呑んで疲れを癒してくださいね。

 

「良かったですね姫様」

 

「はい。とっても」

 

 いつもの侍女に言われて、ようやく心の底から安堵できました。

 ああ、早くみんなに会いたいな

 梶川くん、現代人だけど戦いとか大丈夫だったのかな? 血とか見て吐いたりしなかったかな? PTSDとかになってなきゃいいんだけど……。

 

 そうだ! 急いでお祝いの書状を書いてさっきの報告の者に渡そうっと。

 

「紙と筆をもらえないかな?」

 

「まあ、姫様! それはいいお考えです。すぐにお持ちしますね」

 

 そう言うとそのままいつもの侍女は部屋の隅にある小さな机から筆記類と紙を用意し始めた。

 流石はいつもの侍女だ。何も言わなくても思ってる事をすぐに判ってもらえる。

 

 じつはオレって書があんまり上手くはないんです。下手ってわけじゃあないんですけどすっごく上手でもないんですよ。それはたぶん平成の時代の文字が関係してるんじゃないかな。

 平成の頃だと一文字がビシッと決まっているじゃないですか。でもねこのくらいの平安末期って時代の文字はみみずなんだよね。みみず。

 だから、どうにもあの平成の文字みたいに一文字一文字、ビシって書いてしまいそうになるんです。みみずにしなきゃならないのに……。

 

 ただ、みみずで書くと絶対梶川くんは読めないと思うんだ。だからみんなへの書状とは別に梶川くんには別で平成っぽい字で書いてみようっと思う。ひとりだけ別に書いてあるからって贔屓してるわけじゃないから、その辺よろしく!

 

 

 

 

 

 

 書いた書状を伝令の者に託してから三日。傷も癒えてきたので立って歩く練習を始めました。早く越後へと戻りたいですからね。

 

 最初は筋肉が弱っているから侍女の肩を借りて部屋の中でちょっとづつ歩く練習を。折れた左足に負担を掛けないくらいにゆっくりとぐるぐるぐるぐる部屋の中を回る様に。

 

 そして次の日は部屋の中じゃなくて廊下を歩いて回る事に。夏ですからこんなに必死に歩いていますとやっぱり汗が滝の様に流れ落ちます。元々襲撃から今迄の一ヵ月半はあんまり飲み食いが出来なくて体もよわっていたのですけどこの歩く練習で運動をし始めてから食欲もだいぶ戻ってきました。

 うん。運動の甲斐もあって、夕飯時に晩酌が出来るくらいには回復しましたよ。まだ肩を借りないと歩けませんけどねー。

 

 

 

 

 

 

 八月も十日になるとようやく盛俊殿が軍勢を引き連れて戻ってきました。

 しかも中越の主だった謀反人も一緒に。

 

 オレは盛俊殿期間の話を聞くや、いつもの侍女に肩を借りて杖を突きながら街道筋で見物人の住民と同じく待っていたのです。

 

 行列の最初は、盛俊殿が馬にまたがりニコニコしながら周りの住民に対して手を振りながら通っていく。オレの事も気付いたみたいだけどちょっと片目をつぶってアイコンタクトだけするとそのまま通り過ぎていきました。

 そして最後尾。

 彼らは手を縛られた状態で馬に牽かれ、はだしで数珠繋ぎになって街道をとぼとぼと足を引きずりながら歩かされています。自業自得ですし桜川の爺様の(かたき)だと思うとはらわたも煮えくり返るのですけど、あまりにもその行進が哀れなのでなんとも同情してしまいそうになります。

 オレってこう言うのに弱いんだよなー。

 

 ああ、あれは紀殿だね。この乱の首謀者で見た目美少女な彼女だけど今はその面影も無いほどに衰弱しきっています

 せっかくの女芯丹がもったいなかったですね……。

 

 うーん。あんな顔になるくらいなら最初から大それた乱なんて起こさなきゃよかったのにね。しかし、彼女には彼女なりの勝算と勝った後の美味みがあったんでしょう。

 まあ、紀殿には色々と言いたい事もあるけどもう何も言わないでおきましょうか。どうせ斬首でしょうから。

 

 美少女の斬首かー。なんだかそれだけ聞くと嫌なもんだねー。美少女がひとり消えてなくなります。しかも女芯丹入りの不老な美少女が……。もったいないなー。

 

 

 

 その更に後方からも何人か来ますね。えーっとあれは……。

 ん? あれは!! あの姿は梶川くんだー! うはぁ、元気な姿でまあ! 心がとても躍りますよ、もう。

 しかもその横では酒田姉と赤橋のふたりも一緒にとことこと歩いています。

 オレは彼らの様子を見物人の住民達と一緒に見ていたんですけど、居ても立ってもいられなくなってしまいました。だから隣で肩を借りてるいつもの侍女に顔を合わせるとそのまま彼女に体重をかけて、右手をとても大袈裟に手を振ったんだ。梶川くんに判るようにさ。

 

 オレの大袈裟な手振りに気が付いた梶川くん。大急ぎでこっちに来ようとするんだけど隣の酒田姉に袖を引っ張られて止められてしまった。そりゃあそうだ。この沿道で近寄ってくるのはちょっと世間的にアレだよなー。仕方ない。まあ、越中国府に着いたらすぐに会えるしね。

 でも梶川くんはそう言うのは判らない様で、全力で酒田姉に抗議をしている。あはは、なんだか可愛いな。

 

 それでも不承不承に納得したのか、梶川くんもものすごく大袈裟に手をブンブンと振り回してくれる。あはっ、とっても嬉しいな! 

 本当に嬉しいよ。 

 

 

 

 

 

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