よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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05 お着物

 

 

 

 さあ、今日はオレの部屋から始まるよ。

 親父に言って部屋の大きさは八畳にしてもらったんだ。大きすぎても落ち着かないしね。

 入り口と言うと変だけど襖を明ければちゃんと日光も入ります。

 それに横の障子からも直接じゃないけれど割りと良い光が入ってきて、朝から夕方まで部屋としてはとても明るい感じ。

 明るいは正義だわ。暗いよりは断然良いね。夜はさすがに暗いけれど蝋燭を置いているから大丈夫……のはず。

 

 

 

 んでもって今は夜。たぶん戌の刻(午後八時)あたりだと思う。

 蝋燭だけの明かりだからちょいと薄暗い部屋。そして鏡台の前に立つ姉妹……。

 

「あのー、なんで姉様が私の部屋にいるのか問いただしたいのですが?」

 

 隣でオレの方を見てニコニコしている経俊(つねとし)姉様に向かって口を尖らせて言ってみる。『私不機嫌ですのよ!オーラ』はちゃんと纏えていただろうか?

 

「いいのいいの、私は美盛(よしもり)さんが明日どんなお着物を着て小松(こまつ)様までお使いに行くのかと気になって気になって」

 

 私とっても興味があるんです等と、経俊(つねとし)姉様はそんな事はまるで気にしていないかのように言ってのける。

 

「物見遊山じゃないいですから、そんな浮ついたお着物なんて着ていけるわけないでしょう」

 

 従兄妹とは言え本家嫡男の重盛(しげもり)様の屋敷までのお使いである。身嗜みはキチンとしていくのは当然だろうに。うちの経俊(つねとし)姉様ときたら、そっち方面じゃなくてどんな可愛らしいお着物を着ていくのかに興味しんしんなのですよ。女性だからそうなるのは判るけどさ。

 まあ、いいか。この前重盛(しげもり)様から頂いたお着物を着て行くことにしているのは確かな事だからね。

 頂いた物を身に着けていくと相手も喜ぶだろうしね。

で、その着物合わせを侍女に任せて鏡の前でしようとしていたと、こう言う訳。

 

 そうしたらこのざまですよ。

 経俊(つねとし)姉様が入ってきたと思ったら、侍女をどこかへやってしまい、自分でオレの着物合わせをはじめやがりましたと。

 

 

 

「はいはい。とにかくその寝巻きを脱ぎ脱ぎしましょうね」

 

 脱ぎ脱ぎだと……。

 いつもとちょっと違う口調に不安を抱いたオレは経俊(つねとし)姉様の顔を伺ってみた。

 

「!!」

 

 待て! やばい、あの目はどこかで見たことのある目だ! そうだ、生田の森の廃屋で隠れていた時のあの目だ!!

 こ、これは逆らってはいけない! 

 そう思うや否や、しゅるしゅるーっと帯を解いて、白の寝巻きに手を掛け、急いで肩からおろした。怖いよー。

 

「ぬ、脱ぎました。姉様!」

 

 白い上下の下着姿になったオレは確認を取るように経俊(つねとし)姉様に報告する。一応暖は取ってあるから部屋内は暖かいけどずっと下着姿では風邪を引きそうだ。

 それにこんな格好じゃ心許無くて胸とお股に手をやって隠してしまう。言っておくけどこれは素だ。演技でもなんでもない。

 

「はーい。よく出来ましたー。でも美盛(よしもり)さんは下当てはともかく胸当てはまだいらないんじゃない?」

 

 人差し指を口の辺りまで持ってきて、うーんと首をかしげている経俊(つねとし)姉様。

 あ、胸当てはブラの事、下当てはパンツの事です。

 

「うぐ! なんて事を言うんですか姉様は! 世間では小振りなほど感度も良いともっぱらの噂です!」

 

 ソースはオレね。

 元ロリコンのオレが言うんだ間違いない。これは真理だ! ……たぶん。

 

 

 

 と、とりあえず、着物に袖を通すところまでは来た。いや、やっとの思いでここまで来た。

 もう、今何時だよ! 明日の昼間には重盛(しげもり)様のところには行きたいのに、行けるのかこれ。

 そう悪態をつきながらも白地に薄い桃色がかったお着物を着る。次は帯だ。腰の部分に赤い帯を経俊(つねとし)姉様から締めてもらい、その上からこれまた真っ赤な地に白い雲を何重にもあしらった内掛けを羽織る。紅白でお目出度い感じ。

 元の平安時代は知らないけど、オレなんかは普段お着物に内掛けで過ごす事が多い。まあ、まだ昇殿できる官位を持たないから必要は無いけどそのうち唐衣なんかに袖を通す時も来るはずだ。

 前世では従五位の身分のまま源平合戦に突入しちゃったから昇殿する機会はなかったけど今生ではどうなるのか今のところはまったく不透明なんだよ。でも、出来る事ならこのまま平和が続いてオレも唐衣に袖を通したいなー。

 

 んで、話を元に戻すけど、オレはパーソナルカラーを赤にしている。要するに赤色が大好きだー! って公言してるわけです。だからみんな赤い物をよくくれるのだ。でもさ、目出度過ぎないかこれは……?

 そんなわけで最後は羽織った内掛けの内側から長い黒髪を全て外に払い出して準備完了。どうだとばかりにドヤ顔をして経俊(つねとし)姉様に向き直る。

 

「まあ、なんて可愛らしいんでしょう。ほらほら美盛(よしもり)さんも鏡を見て! 見て!」

 

 まるで自分のことのように喜んでくれるとちょっと恥ずかしいけど何ともいえない嬉しさがある。あははは、照れるなー。

 照れながら部屋の鏡台に映る自分を見る。顔中真っ赤にしたオレがそこにはいた。顔立ちは幼いながらに整っており、黒髪ロングでしかも前髪パッツンだ。オレの理想の女の子はこんなところに居たのだ。って……まあ、毎日鏡見てるから判るけどさ。

 

 しかし、さすがオレだ。とっても可愛い。元のオレだったら惚れちまうぞ。十歳児に!

 

 ……でだ。可愛いのは判った。黒髪だって自慢の一品だしこれも判ったよ。たださ、このお着物さぁ、凄く下半身部分が短いんですけど!!

 オレはなんだ、JKか!? JKなのか!?

 階段とか登ったり降りたりしたら、抜群のパンチラスポットじゃないか! 清水寺なんてこれで登ったら凄い事になるぞ!

 

「あの、姉様。このお着物とても気に入りましたけど。あの、その、裾が短すぎません?」

 

「なんてことを言うんです。これは小松(こまつ)様がしつらえて美盛(よしもり)さんに下さった物です。当然これを着ていくのが道理です。違いますか?」

 

 顔つきはとても厳しいんだけどさ経俊(つねとし)姉様。その視線……判りますよその気持ち。元男ですし。

 チラチラと、オレには知られないように何気なくお股と足を交互に見ているんでしょうけど。でもねそれって、まる判りですから!! ガン見と一緒ですから!!

 

「はい、まるで間違ってはいませんが、すごく恥ずかしいのですけど。特にお着物の裾が……」

 

「そんなのは慣れです。あまり我侭を言うと父上に言いつけますよ」

 

「え。そ、それは許してください姉様ー。このお着物で行きますからー」

 

 経俊(つねとし)姉様それは本当に勘弁して。親父は礼儀や作法には滅法厳しいから怒られると大変なんだよー。

 

「判ってくれればいいのです。さあ、ではもう一度脱ぎ脱ぎして終わりにしましょうか」

 

 脱ぎ脱ぎ……。なんなのださっきからその脱ぎ脱ぎって!!

 

 

 

 着替え終わって寝巻きに戻る。はあ、疲れたわー。

 たまに経俊(つねとし)姉様って暴走するんだよなー。

 

「それでは美盛(よしもり)さん、また明日。あのお着物を着ていったら、絶対小松様もお喜びになると思うわ」

 

 そりゃ、喜んじゃうよね。色んな意味で。しかし重盛(しげもり)様ってばロリコンだったのかなー。

 

「そ、そうですね。きっとお喜びになるでしょう」

 

「うん。おやすみなさい」

 

「おやすみなさい姉様」

 

 うーむ。疲れた……。経俊(つねとし)姉様は大分パワー充填したようだなー。

 逆にオレはパワー切れだけれども。

 あ、そうだ! 明日は経俊(つねとし)姉様用の激短いお着物を頼んでみよう! うひひひ。オレってば大天才!

 体の疲れもあるにもかかわらず、オレは全力で経俊(つねとし)姉様に何かをしてやる計画を立てている。こう言うのって考え出すと止まらなくなるよね。うん。楽しい。

 でも、じつは色々とほかに考えなきゃならないことが山ほどあるんだ。そのひとつが今まで言っていた重盛(しげもり)様の事。

 

 

 オレが重盛(しげもり)様のところへお使いに行くのはそれなりの理由がある。

 お届けする物やお使いの内容なんて物はどうでもいい。どうせご機嫌伺いだから。

 

 そうなのだ。重盛(しげもり)様とうちが繋がっているって事を確認する為の作業なのだ。ここが重要ね。

 要するにうちは小松(こまつ)家の派閥って事。重盛(しげもり)派だという事を世間に知らせるのが目的なのだ。

 

 普通に考えれば清盛様の嫡男の重盛(しげもり)様が次の後継者なのだが、最近第三子の長女宗盛(むねもり)様が力を付けて来ている。

 嫡男の重盛(しげもり)様と長女の宗盛(むねもり)様は両方とも清盛(きよもり)様のお腹を痛めた子なのだが旦那が別なのである。そこが難しい問題となって今に至っているのだ。

 しかも、第三子の宗盛(むねもり)様、第四子の知盛(とももり)様、第五子の重衡(しげひら)様の三人が同夫子って事で割りと勢力的に大きい。

 それに引き換え重盛(しげもり)様は、すぐ下の同夫弟の基盛(もともり)様を早くに亡くしており共に勢力を築こうとする親類に乏しいのだ。

 まあ、そんな理由だが、今現在の後継者は重盛(しげもり)様で決まりだろう。清盛(きよもり)様だって重盛(しげもり)様をずいぶん助けに思っているしね。鹿ケ谷の事件が起きない限りは……。

 

 そんな事を考えていると大きな音が鳴り響き始めた。

 

 うあ、この鐘は……、やばい亥の刻(午後十時)の鐘だ。早く寝なきゃ!

 そう思うと先程まで考えていた事など全て忘れ、蝋燭を消したかと思ったらすぐに布団に潜り込んだのだった。

 

 

 

 

 

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