よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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47 女は度胸

第47話

 

 

 

 九月! もう九月の二十日です! 越後の騒動が一段落してから一ヶ月ちょっとが過ぎようとしていますね。

 九月も後半なのですからあの暑かった夏ももう終わり、だいぶ涼しくなってきました。

 しかも九月と言えば、来月にはオレが越後に赴任してから丸一年となるんです。こちらへと赴任してからと言うもの、中越との政治的な駆け引きやら梶川くんとの初デートやら越後での騒乱やらと……一年が物凄いスピードで過ぎてしまった様に感じます。

 そう考えると子供の頃は時間の経過が遅くて遅くて仕方なかったと感じたものだけど、これはやっぱり転生しているからなのかな? なーんて思ってしまいます。

 これは平家に生まれ変わる前のオッサン時代の子供の頃が特に顕著ですね。

 

 

 

 さて、騒乱後の混乱からの今現在までの一ヶ月間をちょいとまとめて思い出してみます。

 ダイジェストなのでそこんところヨロシク!

 

 八月の一〇日。

 この頃には親父や六波羅からも見舞いの使者が続々とオレの元へと来ていました。オレの大怪我やら越後の騒乱まで色々と見舞いの内容は沢山ありましたね。

 

 その見舞いの書状のひとつに親父からのもあったのですけど、中を開けてみたら親父の心配事やらオレの怪我の具合等々、色んなお小言から娘を心配する父親的なものまで多岐に渡る中身でした。普通にこんなに心配させちゃったからすっごく心苦しいのですけど、心配してもらえる有り難さみたいなものも沢山感じ取れてちょいと嬉しくなりましたよ。

 叱られるのが嬉しいとかそんな思春期の女子中学生みたいな感情ですわ。うへへ。

 そして親父からの書状の最後に『許す! それ故梶川を従五位まで上げさせる様な功績を立てさせよ』とこんな感じな内容で締めくくられていたんだ。

 これは親父に梶川くんとの結婚の許可を求めた書状に対する返事だと思われます。

 この部分を何度も繰り返し読みまくったのですけどしばらくするととっても嬉しくなってきて遂には心の中で喝采を叫んでしまいました。

 

 『おっしゃー! 親父から結婚の許可を取ったぞー!』って事で、あとは世間で認められるだけの勲功を立てさせれば従五位にまで昇らせる事が出来るから、そこで晴れて梶川くんもお貴族様ですよ! 

 清盛様の覚えもめでたい梶川くんですから平家周りは元から心配はしてなかったからね。あとは他のお公家様達に後ろ指を差させないようにすればいいはずです。

 

 そんなわけで平家としては今回の越後における騒乱の終結を祝う為、及びこの勝利を殊更アピールする為に祝事を設けると言う前提で、オレと梶川くんの結婚式が大々的に行われる事になったのですよ。

 ですから越後国府では取り急ぎ結婚式の準備が始まったのです。

 

 

 

 八月の一九日。

 この日、その清盛様からの書状が届きまして、結婚の前祝いにと、梶川くんへ従六位下の叙任がありました。これで親父の許可と平家の棟梁からの許可をもらえました。あと残るのは従五位の壁ですけど、これはまあ、梶川くんにはとにかく従六位下でちょっと我慢してもらうって事になるんじゃないでしょうか? いますぐに、更に位階がアップするってのはちょっとありえないですからね。

 なので従五位は出世払いになるのかな?

 

 あ、あとはうちの親父なのですけど、清盛様の書状によれば結婚式の為に親父も都を出発してこちらへと向かったらしいです。

 

 

 

 九月一〇日。

 親父をはじめ招いた平家一門の面々や阿賀北の人々。更には朝廷関係の人達が続々と越後国府に到着しつつあります。二〇人くらいはいますねー。ですからその人達の寝床等々も手配しなければいけません。こりゃあ実行委員長の酒田妹も大変そうです。

 だって寝床に式宴会の手配。それに引き出物や席順等々……。もう、絶対休まる暇なんて無いと思うけど、それでもオレと梶川くんの晴れ舞台の為なのですから酒田妹にはもっともっと頑張ってもらわなければ!

 頑張れ酒田妹。オレはその額から流れ落ちる汗や疲れた顔は忘れませんから! 絶対だから! でも、結婚式を失敗させちゃったら激おこだからねー!

 

 さ、さて話は変わりますけど、今度は集まってくれたみなさんについて考えてみますか。

 

 二〇人と言う数字。これが多いか少ないかはちょっと判断に困りますがわりかし多いんじゃないでしょうか?

 平成の時代と違って交通の便も発達していませんし、更には遠方からと、この状況で二〇人も集まってくれてるのですからね。

 で、来て頂いた主な人物を見てみますと、うちの親父。経俊姉様。転生仲間の行盛様。北陸代表の教経様。阿賀北の城資永殿。同じく五泉殿。同じく吉田殿。伊豆へ赴任途中で立ち寄ってくれた山木判官殿。等々ですね。

 みなさん忙しい中、わざわざ集まってくださいました。本当に感謝ですよ。山木殿なんかは赴任時期が重なったからとわざわざ越後路経由で伊豆まで赴いてくれるんだとか。これは大感謝ですね。

 

 

 

 

 

 

 庭から見える月明かりでこの部屋の中まで青白い光の中、オレは緊張と言う感覚と一緒に時を過ごしています。

 

 月光に映し出されるオレの長い黒髪がまるで他人様の持ち物の様に綺麗に見える不思議。更に月明かりに映える様にと酒田姉から勧められた白い寝巻きと青の腰帯。個人的には赤系が好きなんだけどこれはこれで幻想的でいいかもしれないとひとりでにやにやとする。

 

 

 

 さて、結婚式の宴会(・・)は三日後に迫ってきまして、オレの心は躍ってるやら緊張で押しつぶされそうだったりと中々いい感じだったりします。うー、緊張するなー。

 

 まずは儀式から入るのがこの平安時代。先に式宴会は三日後なんて言いましたがじつは儀式的には今日からすでに始まっているのですよー。

 え? 今日から結婚の儀式ってどう言う事って? で、ですからもうじき儀式の最初の一幕が始まるんでだって! だから今すっごく緊張しているんですっ!

 

 

 

 コホン……。

 で、その今日から数えれば三日間に渡る儀式のスケジュールなのですが、初日から凄いんです。

 

 ま、まず、今夜なのですが、これから夫になる男が恋文を持って意中の女性の寝所に忍び込んできます。そして、女性は恋文を見てその男性を受け入れる気持ちがあるのなら一晩を共に過ごします。

 で、これを三日間続けて最終日の夜に宴会を設けて結婚成立っとこう言うスケジュールとなってるのです。

 

 えっ? またですか? 今度は何です? 何々、その男女について聞きたいって?

 

 そりゃあ、忍び込んでくるのが男ってのが梶川くんで、待っている女性がオレですよ。

 だ、だから、さっきから言ってる通り、今、とーっても緊張してるんですってば! 結婚出来るから嬉しいんですけど、すっごい緊張しているんです。

 だってほら、これから来る梶川くんの恋文を読んだあと、オレ……オレ……梶川くんを受け入れちゃうんだよ。う、受け入れちゃうんだよ!

 文字通りオレの体の中へ梶川くんを受け入れちゃうんだよー!

 ガクガクブルブル。とっても……とーっても嬉しいんだけどおっかない、この複雑な気持ちを何て表現すればいいんでしょう!

 あ、ああぁ、ほ、ほら月明かりで照らされているこの手を見てよ。ガクガクって手が震えてるでしょ。そ、それに心臓だってバクバク状態なんです!も、もうダメ。だ、誰か助けて下さい!

 

 

 

 

 

 

 ガサガサ。

 

 あわわわわわわ! 庭の方から物音が!! たぶん梶川くんです! ま、まだ心の準備が出来ていないのに来ちゃいましたよ! 遂に来ちゃいましたよー!

 あわわわ……。ど、どうしましょう。

 

「だ、誰ですか?」

 

 恐る恐る音のした方に顔を向けて問い質します。あわわわ、ちゃんと声は出ていたかな? う、裏返ってないかな?

 

「俺だよ。美盛ちゃん待った?」

 

「か、梶川さん」

 

 緊張とかその辺りの感情とは無縁なのか、梶川くんは『待ったー?』なんてそんな風に手を挙げるとひょっこりと庭の奥から顔を出してこちらへと歩いてきた。そして(きざはし)に足を掛けてそのまま部屋の中へと入ってきたと思ったら、そのままオレの目の前でストンと胡坐をかいて座ったのだった。

 ああ、もう入ってくるのはいいですけど靴くらい揃えて下さいな。あーあ、脱ぎっぱなしなんだからもう。

 

「ん? どうした?」

 

「い、いえ、なんでもありません。ただ緊張の極に達していてテンパっていただけです!」

 

「お、おう」

 

 ここでオレはともかく梶川くんもようやく緊張の為か何も話せなくなった様で、随分長い間沈黙してしまう。

 ああ、何か良い話題は無いか? この空気……緊張で張詰めすぎた心の糸も相まって、とてもじゃないですけど耐えられない。

 

 沈黙に耐えられなくなったのか梶川くんがこちらに顔を向ける。

 意を決した様な顔は月の明かりを受けてとても真剣に見える。おおおぉ、いい表情です。いつもよりもカッコイイかなーなんて思ってしまうオレ。

 

「美盛ちゃんごめんな。一生懸命考えたけど恋文は一言だけしか書けなかったよ」

 

 そして梶川くんはそう言うと懐にあった一枚の紙を取り出した。それを受け取ったオレは燭台の蝋燭の明かりでもって読みはじめた。読んでみるとその内容はとても陳腐で飾りっ気の無いテンプレみたいな短い文章でした。

 はあ、まったく梶川くんらしい……。

 

「あはは。梶川さんらしいですね。…………でも嬉しいです。こんな私ですけど、わ、私は梶川さんを受け入れますよ。ええ、受け入れますとも」

 

 緊張しすぎなのは判る。でもそれを上回る程に嬉しい。

 あははは。ホントにオレって梶川くんに惚れているんだなぁ。

 

「判った。美盛ちゃん。じゃあいいかな?」

 

「は、はいー! いいですとも!」

 

 燭台の机からシャキンとロボットの様に立ち上がると、またロボットみたいなガチガチな歩き方で布団のところまで行って、その上に正座で座るオレ。座る時に少しだけ舞った長い黒髪を手で整えるとそのまま両手は太ももにのせる。

 

 太ももって言ってもじかにじゃないですから、ちゃんと寝巻きの布地の上にですからね。

 ――などと考えながらぎこちない笑顔で梶川くんを招き寄せようと精一杯頑張って話しかけた。

 

 惚れているからと言って緊張がなくなってるわけじゃあないんだよ。

 

「梶川さん、こ、こちらへいらして下さいませです(・・・・・・・)……」

 

「下さいませですって……。あのさ美盛ちゃん、端から見てると緊張しすぎて物凄く面白い生き物になってるよ」

 

 ううぅ、そんな事は判っていますよ。

 でも仕方無いじゃないですか!こちとらこれから貫かれる側なのですから! 痛さとか恥ずかしさとかを心の奥の奥に押し込めて梶川くんに今夜一晩を喜んでもらおうと頑張っているんですから!!

 って言うか、梶川くんの方がエスコートして下さいよ。オレはただ生まれがいいだけなか弱いロリ系女子なんだぞ。

 

 こんな事を考えていたらいつの間にかふくれ面をしていたみたいで、急に梶川くんがオロオロしながら話しかけてきました。

 うん。流石に悪いと思ってくれたのかな?

 

「ごめん、何か気に障る事を言っちまった?」

 

面白い生き物(・・・・・・)

 

「え?」

 

「私の事を面白い生き物って言った」

 

「あ、ああ、ごめん。かなり一杯一杯みたいだったから冗談で言ったんだ。気に触ったなら謝る。ごめん」

 

「私だって心の中はもう緊張とかこれから行われる行為とかでパニック寸前なんですよ! だから、だから……」

 

「ごめんな、美盛ちゃんは割りとそう言うエロい事に耐性があるんだろうって俺は安心しきっていたみたいだ。でも違うよな。美盛ちゃんもひとりの女の子だもんな。やっぱり初めては怖いだろう?」

 

 エロい事に耐性って……。まあ、既存の女子に比べればたぶん興味深々なんだろうってのは認めるよ。元男ですし。でもさ、それはないよなぁ。

 って言うか、オレをめちゃくちゃにして『あんあん』言わせたい梶川くんにそんな事言われても……って話ですよ。

 

 まあ、でも、いいんです。こちらを気遣ってくれているのも判りますしね。それにそこまでとやかくは言いませんよオレは男心も判ってあげられるんですから!

 

「そ、そうです。私だって怖いのですから、あまり人の事を怪獣か何かとは思わないで下さいね」

 

「うんうん。気付いてあげられなかったね。ごめんな」

 

「ま、まぁ判ってくれればいいのですよ。判ってくれれば」

 

 オレの事を判ってくれれば満足するのです。この判ってくれるかがオレにとっては最大のキーポイントだったのですから。

 だから判ってくれた梶川くんには最大限に応えますとも。まだ怖いけれど……でも、まぁ女は度胸だ! あとは梶川くんにお任せしますよ。

 そう思うと目をつぶって体を梶川くんに預けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




平安時代は通い婚って風習があったそうです。
今回はそれをアレンジして結婚式っぽい内容にしてみました。

TSで結婚までする物語ってあんまり見ないよなぁ って事で、そっち方面へとシフトしましたー。
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