第48話 宴会
国府内の大きな部屋。宴会の時によく使うこの大きな部屋の上座に座って、集まっている人達に晒されている真っ白な花嫁衣裳を着た少女がいます。衆目に晒されていてとてもその少女は恥ずかしそう。
……オレの事な! だって恥ずかしいんだもんよー!
逆に隣にいる梶川くんは堂々としていて、さっきからお祝いの為にこの席までやって来ている親父とか教経様、それに行盛様やらの酒を『かたじけない』なんて言いつつ、これでもかと呑み干しています。
その後オレの目の前にも来てお酒を注いでくれるんだけど、恥ずかしすぎるオレは下を向きつつか細い声でもって小さく頂いているとこんな状態……。
せっかくお祝いをして貰っているのにこの態度は無いわーなんてオレ自身も判っているんだけど、恥ずかしくて上を向けないんだからどうしようもない。
なんで恥ずかしいのかって? そりゃあアレですよ。この披露宴が開かれているって事は、三日間にも及ぶ梶川くんの夜這いを受け入れたってのが世間様に筒抜けだって事なんですよ? お祝いの席に出席してくれている人達はみんなその事を知っているんですよ。だってそう言うシキタリなんですから。この時代の世間一般の常識なんですから。
はぁ……は、恥ずかしい……。
体中が火照ってしまうくらい本当に恥ずかしい。物凄く恥ずかしいんですけど、とてもニヤニヤしてしまうのもまた事実でして。うへへ。
だってさ、三日の間に合計で一〇発以上致しているんですよ。もちろんプロレスごっこをね。しかもさ、全てお腹の中にですよ! こりゃあ、出来ちゃったかもしれないぞ! 何故かその事を考えるとすっごい幸福感で頭が満たされるんです。これはなんでなのでしょう? 女性脳だからなのかなぁ。
まあ、まだまだ出来たかどうかは判りませんけどね。うへへ。
「美盛ちゃん。なんだか凄い蕩け顔になってるよ。大丈夫?」
隣の梶川くんが何か言っているけど妄想中なのでまるで頭に入ってこないです。
仕方ないね。
◇
さて、披露宴もまだまだ続いていますがここら辺でちょっとおさらいをしましょう。
越後の騒乱で自滅した紀殿をはじめとした中越の人達。彼女達は全て斬首及び没落してしまったのでその領地はそのままオレの直轄地となりました。
で、その手にいれた中越の領地ですけど、今まで、長らく中越の連中がやってきた最悪な八公二民の税率をすぐさままともな五公五民に変更しました。
そしてその令を見聞きした中越の領民の喜び様と言ったらもう臨時のお祭りみたいだったとそんな報告を受けました。これはオレや平家に対する好感度がうなぎ登りですよ。そしてつくづく思うのは、前の中越の連中の税率ってキチガイだったんだなーってホントに思いましたよ。よく領民が別の土地へ逃げて行かなかったなーって。
うーん、やっぱり何をやるにも政治なんだなーって今回の件で更に気を引き締めようって思う様になりました。
中越のやっていた八公二民も政治ですし、オレの五公五民も政治……。やり方ひとつでまるっきり違う成果になって現れると言う。彼女達中越の人達には賛同なんて出来るはずもないんですけど、何かの拍子でオレも私利私欲に走ってしまうかもしれないなんて考えると途端に薄ら寒い感情に捕われてしまいそうになる。
オレに越後国の政治なんてやっていけるんでしょうか……。
◇
「美盛さん美盛さん」
「ん……? あっ、姉様!」
考え事に沈んでいたから、目の前で経俊姉様に話しかけられるまで気付きもし無かったよ。
「おめでとう。遂にやりましたね。私は最初からこんな日が来る事は判っていましたよ」
とびっきりの笑顔です。経俊姉様は美人なので笑顔でお酌なんてされると照れてしまいます。本当に今あるのは経俊姉様のお蔭ですから、とってもありがたいことです。
「ありがとうございます。姉様のおかげで彼を射止める事が出来ました。本当にありがとうございました!」
その勢いで盃を傾けてグイっと一息に呑み上げる。
「ああ、羨ましいですわ。でも妹に先を越されてしまいましたが、次は私の番です。時が来たらお手伝いお願いしますね」
「はい! 色々姉様にはよくしてもらいましたから、姉様の為なら私は越後からでも飛んでいきますよ!」
「あはっ、ありがとう。それで……はじめてはどうでしたか? やっぱり世間で言われている通り痛かったですか?」
うわぁ、すっげーです。経俊姉様の目がすっげーです。
オレと梶川くんの初夜を聞きたくて聞きたくて仕方がないって目ですよ。
でもさ、流石に人に言えるわけがないじゃないですか。経俊姉様と言えども言えないですって。
「あらあらそんな恥ずかしそうにしちゃって。あはっ、もういいですよ。その表情が見られただけで今日は来た甲斐がありました」
ううぅ、そんな顔していたのかオレって……。
「あ、あ、あ……。そうですか。で、では私は少し夜風に当たってきますね」
「はい。私も移動しますからこちらは気にせず行ってらっしゃい」
そう言うと経俊姉様はにっこりと微笑んで別の場所へと行ってしまいました。
◇
「少納言様。都以来ですね。私の事覚えています?」
「はい。覚えていますよ。えーっと……」
うわっと、この娘は誰でしたっけ!? えーっとえーっと。この緑色のセミロングの髪のドSみたいな顔立ちの可愛げな女の子は……。
そ、そうだ、着ている物で判断してみよう。んーっと、薄い白のお着物に赤いチェックの内掛け……。ダメだ! 判らない! 誰なんだこの女子は!?
オレが判らないのをいい事に薄い微笑を浮かべているこのドS風少女はいったい誰なんでしょう?
「少納言様? 私の事は忘れてしまいましたか? 私は覚えていると言うのに……」
「や!? 違うから覚えていますから! ホントだから!」
「うふふ、冗談ですよ。私の方は何度かお見かけして知っていましたけど、少納言様は私を知らないと思いますよ」
「えっ?」
「少し悪ふざけをしただけですから、そんな顔しないで下さい。……さて、申し遅れました。私、これより伊豆へと赴任致します山木判官と申します。以後お見知りおきを。
此度は
今日は本当におめでとうございます」
「あ、はい。こんな私の為にわざわざ北陸道を……。あ、ありがとうございます」
「いえいえ、それにしても花嫁衣裳がお似合いでとても綺麗でいらっしゃいますね」
「あはは……ありがとうございます。ところで山木判官殿は何故の伊豆赴任なのですか?」
「はい。六波羅よりの命で伊豆の目代を仰せつかりましたので、その為の赴任でございます」
「そうでしたか。遠路遥々大変でしょうがよく治めてさえいれば都へと戻れる日も来る事でしょう。一年も越後にいる私が申すのもアレですが」
その後縁側に座ってふたりで少々話し込んでいましたが、そのうち主役の片方が居ない事に気が付いた親父に見つけられ、引きずられる様にまたもや上座へと引っ立てられたのでした。
親父さぁ。娘の晴れ姿を見られて嬉しいのは判るけどもうちょっと落ち着いてくださいよー。
まったくもう……。