第49話
「暇ですね」
「そうですねー」
暇だなんて言いながらぼんやりとオレの部屋の中でゆっくりゆったりと昼間酒と洒落込んでいる三人の男女。じつを言うとその正体は現代世界からの転生組等を称する善良な三人組だったりするのです。
結婚の儀式から二日経ち、親父や経俊姉様をはじめとした宴会に参加してくれた皆さんもだいたいはこの越後国府を後にしました。
今現在も残っているのは青髪おかっぱメガネっ娘のTS仲間、行盛様くらいです。
その行盛様を何気ない目で少しだけ伺ってみます。
えーっと今日の行盛様は、薄空色のお着物を着て、その上から平家蝶の模様が可愛らしい水色の内掛けを羽織っています。それに頭上の長烏帽子ってな様相で全体的に青味掛かった涼しげな格好ですね。
で、何故彼女が残っているのかと言うと……実はそれほど深い意味は無いみたいなんです。ただオレらと一緒に過ごしたいだけなんだって。彼女も『都へ戻ったってどうせやる事はないですから』とこんな具合。
いやいや、でも貴女には知行国の播磨があるじゃないですか。領国経営もあるでしょうに暇って事は無いんじゃないですか?
オレとしては新婚さんなのでふたりきりでベタベタな展開もしたいのですけど、都へ帰ってしまったらまたしばらくは会えないであろう行盛様とも遊戯を結びたいってのもあって、なんとももどかしいこの状況って感じなのです。ハイ。
それでもいざ夜ともなれば、夜這いのあの夜から一日も欠かさずにふたりきりでエロい事を猿みたいにしてますから、その点に関しては全然問題ありません! えっへん!
それはそうと、は、はやく子供出来ないかなぁ。うへへ。
「暇ですね」
「そうですねー」
「行盛様と美盛ちゃん、さっきから同じ事ばっかりだね」
「梶か……旦那様? 仕方ありませんよ。だってやる事が無いんですもの」
まだまだ新婚二日目なので未だに
まぁ旦那と言ってもオレの方が家格が上だから、うちの平家筋に梶川くんが婿入りしたって感じなんだけどね。
公式な場では流石に梶川さんって言うとは思いますけど、プライベートなところではちゃんと旦那様を立てる健気な幼な妻にオレは大変身ですよ。今までもそうやってきましたが、これからもオレの理想とする女の子を思う存分前面に押し出して行きたいと考えている所存です。
「美盛ちゃんに旦那様なんて言われるとやっぱり照れるな。いや、嬉しいんだけどさ」
「梶川さんはもう私の正式な旦那様なのですからね。これからも頼りにしていますよ旦那様!」
そんな惚れ気オーラを存分に出しつつ、大好きな真っ赤な内掛けの袖から小さな手を出して梶川くんへお酒を注いで上げるオレ。昼間からのお酒はとっても気分がいいよね。
「うん! 俺、美盛ちゃんのために頑張るから! これからお互い支えあって行こう!」
「はい旦那様。私だって旦那様に負けないくらいに頑張って――――」
「うおっほん!! あのぉ……おふたりとも僕がここに居るのを忘れてはいませんか?」
あ、梶川くんといちゃいちゃしてたら行盛様の事忘れてた。
新婚さんなので仕方ないね。うん、仕方ない。
「わ、忘れるわけがないじゃないですか!? ねぇ旦那様?」
「おう、そうだぜ行盛様? 俺らが忘れるわけないぞ……」
そうオレ達夫婦は慌てながら言うと行盛様の盃へいそいそとお酒を注いであげるのだった。
忘れてたわけじゃないよ。ただ、ちょっといちゃいちゃしてたら行盛様が目に入らなかっただけだよー。ごめんねー。
「それにしても相変わらず美盛さんの髪は綺麗だね。凄く長いから光沢もあるし」
「え? そうですかー。じつは私の髪って自分でもいいなーなんて思っているので褒められるととっても嬉しいんです」
この自慢の黒髪ロングはオレのお気に入りなのです。ですから褒められるととっても嬉しかったりします。
更に鏡で自分を見ると前髪ぱっつんでロリ顔してるから、もうオレの好みに弩ストライク過ぎて心が苦しくなるくらいなのです。
ですから……『いいぞいいぞ行盛様。もっと褒めて。もっと褒めてー!』なんて心の中では思ってたりします。前から梶川くんにも『綺麗な髪だね』なんて褒められていますし、更にこの自慢の髪を大事にしなくてはいけないなと決意を新たにするオレであった。まる。
ですから何かの拍子にこの髪を切られたりなんてしたら本気で鬱になるかもしれません。
「行盛様、もっと美盛ちゃんを褒めてやってくれないか?」
「え? 別にいいですけど? 何故ですか?」
「えーっと、うーん。よ、嫁さんを褒められると俺も嬉しいからかな?」
お、おう。嫁が褒められるとやっぱり嬉しいものなのかな。まあ、元男だからその辺はなんとなく判る気はしますが。って言うか、よく考えたらこの三人って現状では女・女・男ですけど、本来は男・男・男なんですよね。
うーむ、なんだか怖くなってきましたよ……。
◇
「暇ですね」
「そ、そうですね」
またもや行盛様が呟く様に暇アピールをする。
あのですねー。酔っている時のネガティブな思考はお酒を不味くしますよ? いいんですか行盛様?
お膳を囲んで三人で酒を飲み始めてからだいぶ時間も経ちました。酔いも程よく回ってます。
先程猫さんがおかわりのお酒を持って来た時に聞いてみたら
「はぁ、暇ですねー」
「行盛様……、そんなに暇でしたら何か越後を富ませる良い方法を考えて頂けませんか?」
何とも言えないまったりとした部屋の雰囲気の中、常になく『暇だ暇だ』と何度もつぶやく行盛様。流石に何度も言われると『ここに居てもつまんない』って言われてる様でちょっと悲しくなってきます。
ですから何気なく気さくな感じでこの越後の国をどうにか出来ないかと聞いてみる事にしました。じつは越後の国を物凄い大都市にしよう計画があるんですよ。オレの頭の中だけですけど……。
うちのスタッフは能力的には高い才能を持ってはいるのでそう言った計画を話して聞かせればすぐにでもその実行案を作ってくれるとは思うんです。ですけどそれはやはり現状、この時代の思考で考えて作る実行案なので飛躍的な進歩なんかは見込めないんですよね。そりゃあ、長い目で見ればそれも中々効いて来るんだとは思いますがそれって十年や百年単位だと思うんです。
それ故やはりここは平成時代の知恵も借りてみたいわけですよ。
平成の知恵なんて言っても、オレは高卒フォークリフト作業者のオッサンでしたし、梶川くんは中学二年生。そして行盛様は大学生と……この三者三様の転生模様を考えると、やはり行盛様が一番頭が良さそうですから彼女に聞くのが一番いいんじゃないかなー? なんて思ったり。
「国の富ませ方ですか……。うーむ、難しいですねー。土地や気候によっても違いがありますし、播磨と越後もまた違いますから」
「ふむふむ」
「現在の収入源になってる特産品は何があります? 主要な物だけでいいので教えて頂けませんか? 」
「越後の特産品ですか……」
うーん、そうですねぇ……。
じつは主要なのはそんなに多くないんだよね。えーっと『
「あっ!? ごめん! 他国の人には言えない秘密もありますからね。企業秘密みたいな感じで僕に言えない事もありますよね」
オレの沈黙をそんな風にとった行盛様が頓珍漢な事を言い出しました。
いや、違うから! そんなつもりじゃないから!
「いえいえ、行盛様に秘密なんてありませんよ! 私達三人は同時代人じゃないですか! そう言うのはないですってば! ねえ旦那様?」
「そうだよ行盛様。そう言うのは無いからさ。安心してよ」
「いえ、これは僕が間違っていました。こう言うのは人に言っちゃいけないものです。僕を信用してくれるのはとっても嬉しいのですけど、この場合はやっぱり聞かない事にしますよ」
たぶん彼女はケジメに対する心構えを言っているのだと思います。傍からは融通が利かない頑固な人に見えるんですけど、これはオレ達が別の何かに騙されない様にとの配慮だと思っておきますよ。
「はあ……、行盛様は真面目ですねー。判りましたこの件は仕舞っておきますね」
「気持ちを汲んでくれてありがとう。でも細かい具体的な事以外でなら国を富ませる方法なんかは僕も一緒に考えますよ」
眉毛を八の字にして困った様な笑顔で答える行盛様。
あはっ、嬉しい事を言ってくれる僕っ娘ですね。
その困った笑顔の行盛様ですけど、この一年程の間に色んな事をやってるみたいです。代表的なところでは知行国の播磨の国にだいぶ投資を行っています。
農業もそうですけど、まずは経済を発展させると言うのが彼女の方針みたい。
清盛様が心血を注いでいる播磨のすぐ隣の
前世では清盛様の道楽なんだろうなーなんて思っていたのですけど、前に行盛様に聞いたところこの大和田泊と言うのは平成時代の神戸港の事なんだって。それを聞いた時はさすがは清盛様だ。何百年も先の事を考えていらっしゃるなんて関心しましたし。
で、行盛様もそれに便乗して利益を得ようと積極的に援助をしているんだって。神戸港だもの。出来上がったら貿易とかですっげー利益ありそう。
いいないいな! オレにもお金下さい!
「それに何をするにもお金がかかります。美盛さん? 越後的に資金は大丈夫なのですか?」
「はい。そうですねー、一応は通常の運転資金には困っていませんよ」
「裏返せば運転資金以外にまとまったお金は無いって事ですか」
「う……ま、まあ、そう言う事です……」
ううぅ、
あー、もっと既得権益が欲しいです……。
「あのさ美盛ちゃん?」
「はい。なんでしょうか旦那様?」
「その辺りで話がひとつあるんだけど」
ずっとオレと行盛様の話を聞いていた梶川くんが話しに入ってきました。自分の幼妻のしょんぼりした顔を見てフォローをしにきたのかな。
って言うか、オレにだって越後改造計画のプランはあるんです。大まかにですけど……。
まず、平成の時代では全国一の穀倉地帯を有する新潟県ですから、それを八〇〇年ほど先回りしてこの時代で作り上げてみたい! あとは大きな港を二つは作りたいな。
まず一つ目ですけど、幕末に外国向けに開かれた五つの港のうちのひとつ新潟港が鉄板ですね。そして二つ目は、地味だけど越後国府辺りにも港をひとつ作りたい。越後は縦に長いから北と南に一個づつあると運搬に役立つと思うんですよ。
他には街道の整備。これも越後の大都市化にはとても必要だと思うんです。
最後に美女。美人が多ければ国は富むはずです!
前々世の映画館とかで女性半額の日などを考えれば、美女あるところに男が寄ってくると言うのはあながち間違いじゃないと思うんですよね。
でも、どうやって美人を作ろうか……。たしかロイヤルゼリーを食べてると美形になるとか聞いた事があるんですけど、本当なんでしょうか?
ま、まあ、その辺は追々。今は梶川くんの話を聞きましょう。
「ほほう、どんな話ですか梶川さん」
ほら、梶川くんの話に行盛様も乗ってきましたし。
「まず最初に聞きたいんだけど、どの辺まで美盛ちゃんの領地になったの?」
お膳を横にどかしてから三人の目の前で地図を広げる。この時代の地図なので正確性はアレなのですけど一応は見られるくらいにはなってます。あ、越後国府で公式に使うヤツは北が上にしてもらいました。
本当に色々な地図がありますから西が上になってる地図だってあったんです。でもそれってオレから見るとものすごく違和感があるから、ここ越後での正式な地図は北が上って事で決めちゃいました。一番トップはオレなのでいいよね!
「えーっと、この地図で言うと阿賀野川の南くらいまでかな。それより北は阿賀北の皆さんの領域ですね」
地図を指でなぞりながらそんな事を言う。一応は阿賀北さんちもうちの保護下なんですけどそれでも直轄領地じゃないですからね。
「って事は越後の国の半分以上は美盛ちゃんの領地なんだね。凄いなー」
「ホント広いですね」
行盛様も越後の広さには関心を示しています。
広さだけなら越後は凄いんだぞ! えっへん!
「これが後の新潟になるんですよねー。なんだかノスタルジックな気分になりますよ」
自分で発言して、なんだけど何だか感慨深いなぁ。
後の新潟かー、越後と新潟の違いは佐渡が有るか無いかくらいですよね。領地としてはさ。
「それで本題なんだけど新潟と言えばさ、こっちへ来る前の年に家族でキャンプに奥只見ってところへ行った事があったんだ。この地図で見ると……ああ、この只見川の上流でいいのかな?」
「へぇ、梶川さんは新潟に来た事があったんだー」
「そうですね。その只見川で合っているのではないですか旦那様?」
「そっか。じゃあこれは何か手掛かりになるかも?」
「手掛かり?」
ん? 手掛かりってなんでしょ?
疑問系な顔で梶川くんを見るオレ。不思議そうな顔になってたかな?
「うん。それでさ、そのキャンプ場の名前がさ、確か『銀山平』って言うんだよ」
「!!」
「!!」
梶川くんの言葉にオレと行盛様が顔を見合わせる。な、なんて言う情報でしょうか!? 大体の地名は何かしらの手掛かりになると思うけど『銀山平』って地名はあるひとつの金属を思い起こさせる。
そう貴金属の銀です。
「もしかしたら銀山があったのかもって思ったんだけど、今ってそこに銀山ある?」
「いやいや、今のところ越後では阿賀北にある鳴海って金山以外には金山銀山の情報は無いですって」
まあ、鳴海金山は阿賀北の城さんところの管轄なのでうちら国府方は手出し出来ませんけど越後にだって金山はあります。それと、金山と言えば有名な佐渡金山がありますけど、これは『越後国』とは別な『佐渡国』なので手出しは出来ません。
更に言えばこの時代ではまだ佐渡金山は無いみたいです。
前に国府の富ませ方の会議中に酒田姉妹に聞いてみた事があったんですけど、『佐渡の金山ですか? 聞いた事も無いですね。金山と言えば陸奥平泉じゃないのですか?』なんて言ってましたし。
ですので、これはひょっとしたら……なんて思っちゃったりするんですよー!
「美盛様。これは何かとんでもない収入源になるかもしれませんよ!」
「うん。行盛様もそう思います?」
ま、まだ発見したわけじゃないからぬか喜びは出来ないんですけど、ま、まずは現地でそう言った聞き込み調査と山師を雇い入れなければ。
やってみても骨折り損の草臥れ儲けかもしれない。それでも……と興奮がオレの頭に血を立ち昇らせるのだった。
この銀山平キャンプ場は私も何度か行った事があります。その銀山平ですが、本当は上田銀山と言う鉱脈みたいです。
江戸時代に地元のお百姓さんによって発見された様ですね。
最盛期には銀鉱石を年間4t以上産出したんだとか。末恐ろしい銀山の様です。
こんな凄い銀山ですけど、最後は穴を掘りすぎて只見川の川底を掘り当ててしまい水浸しとなり廃鉱になってしまったという話です。
ですので、現代でも別の場所を掘ればまだまだ銀は出るかもしれませんね。