第50話
「越後と私達に乾杯!」
「かんぱーい」
「かんぱーい」
先程の銀山平の話で盛り上がったオレ達は未だ銀山が見つかってもいないのに祝杯をあげていた。
えーっと、こう言うのって何て言うんでしたっけ? あー、そうそう前祝いってやつですよ。
って事で、ぐいーっといきましょう! ぐいーっと!
「とにかく私は考えているんです! これからの行く末や生死をも分けますからね! ふっふっふっ」
最初から酒は入っていたんですけど、更に酒が入って饒舌になった行盛様が『ふっふっふっ』などと口角を上げて不適な笑みをこぼす。
この行盛様はオレと同じでTS転生者な存在なんだけど、姿格好はちんまいメガネ少女なのでそんな不適な笑みを浮かべても迫力は皆無ですけど。
それでもお話は興味がありますから聞いてみましょう。
「ほほー、それは例えばどんな事ですかー?」
「よくぞ聞いてくれました美盛さん!! 実は……ふっふっふっ、実はですねー、現在僕の知行国の播磨の港で極秘に新造戦艦を建造中だったりするんですよー」
「えーーー! 戦艦ーー!? 戦艦ですか!? 戦艦と言うと十四万八千光年の彼方へコスモクリーナーをもらいに行くあの宇宙戦艦みたいなやつですか!?」
すっ、すっごいです! 戦艦って戦艦ですよねー!?
「美盛ちゃん古いなー」
「何言ってるんですか旦那様。私がこっちの世界へと転生する前に新シリーズをやってましたから、そんなに古くは無いんですよ」
「いや、知ってるけどさ美盛ちゃんってどっちかと言ったら古い方を思い浮かべて言っただろう?」
「むぐっ」
古い方って……むむむ、でも反論できないのが悔しい。
「まあまあ、その辺りはどうでもいいじゃないですか。それにこの平安時代の技術で宇宙戦艦とか無理ですから。木造で宇宙なんて行けるわけがないでしょ」
「ですよねー」
「だよねー」
行盛様の仲裁の声にオレと梶川くんの声が合わさる。んま、この夫婦ってば息ぴったりですわねっ!
……うーむ、自分で自分突っ込みをしてしまった……。
「でもですね、新造ってくらいですから木造にだってここまでは出来るでしょうってくらいの技術は取り入れて造っていますからね! すっごいんですよ!」
水色の内掛が爽やかな行盛様は自慢をしたいのか自前の戦艦を殊更すごいすごいと捲くし立てる。極秘って言ってたけどいいのかな? まあ、酔った勢いもあるんでしょうね。
「えーっと、そうだなー、技術ってくらいだから……えーっと、スクリューとかかな?」
「おおう、ソレです! 凄いですね梶川さん。大当たりですよ。うちの戦艦の機関は五人力の三段変速自転車こぎ型大型動力です!」
ああ、行盛様ったら自慢で顔が紅潮してきましたね。よっぽど極秘戦艦を人に言いたかったんでしょう。
よしよし判ったよ。判りましたよ。こうなったら行盛様の自慢心を満足させて差し上げましょうか。
「スクリュー型の木造戦艦……。その発想はありませんでしたよ。なぜ行盛様はその発想に辿り着いたんですか?」
どうかなー、こんな質問をしてあげましたよー。酔った勢いでもっとたくさん自慢してねー。
「そうですねー。その前に美盛さんも薄々は判っていると思いますが史実の上で平家は壇ノ浦の海戦で全滅してしまいます。ですからそれを防ぐために美盛さんは一生懸命そのフラグを折って回ったんでしょう」
「うん。一応は直接のフラグは折ったと思う」
「はい。美盛さんのおかげで僕も差し迫った脅威は感じてはいないんですけど、それでももし壇ノ浦の海戦相当の戦いが巻き起こったりしたらなんて考えてしまうと居ても立ってもいられなくなって極秘に建造を始めたとこう言ったわけです。そう、この平安の時代には無敵な戦艦を!」
「う、うん。聞く限りではとても凄そうですけど、いったいどんなスペックなのですか?」
「スペックはですねー、大まかに言うと五十メートルクラスの木造船で甲板から表面まで全て鉄板で覆います。そして船首は特に分厚くして自転車型エンジンの速度に任せて体当たりで敵船を破壊できる設計です! 更に艦橋の前後に特大の弩を二門装備!! ハアハア……」
「ちょ、ちょっと落ち着こうか行盛様……」
梶川くんの声に鼻息を荒くした行盛様はハアハア言いながら渇いた喉を潤す為にお酒をごくりと一杯飲み干した。
「ああ、ごめんごめん。ちょっと興奮しすぎました。っと、まあ僕が言いたいのは、この平安時代の船の常識に囚われない木造戦艦を作ってるので、いざ戦雲急を告げても安心してくださいって事です!」
「なるほど。後々の為に今のうちから手を打っているんですね。やっぱり行盛様は凄い! さすがです! ねえ旦那様!」
「本当に行盛様は先見の明があるな。俺もこうして美盛ちゃんと一緒に越後で仕事をしてるんだから見習わないと」
ひとりよりもふたりで褒めた方が効果は倍増するだろうと考えて、あえて梶川くんに振ると梶川くんの方も感心したように行盛様を褒める。オレらふたりのこれは褒め殺しとかじゃあないよ。本当に転生者仲間として彼女に楽しんでもらいたい一心からなんだよ。
「えへへ。ほ、褒め過ぎですよふたりともぉ。えへ、えへへ」
水色の内掛をくねくねさせながら、まるでうちの郎党の赤橋顔負けに自慢顔をゆでだこみたいに真っ赤にしてもだえる行盛様。
透き通るように白かった首筋もそれと一緒に赤くなっていますね。よっぽど自慢心が満たされたのでしょう。オレも彼女に喜んでもらえて嬉しいですよ。やっぱり好感の持てる人の自慢心は満足させなきゃね。
「いやあ、今日は楽しいお酒ですねー! ほらほらふたりともお酒が進んでませんよ! ほらほらー」
そして照れ隠しに酒が楽しいと殊更大きな声で言う行盛様であった。まる。
あーあ、こんな風に楽しい日々がずーっと続くといいなー。
自慢っていいですよね。