よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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このままやってるとダラダラしてしまい話が進まないので
治承四年(1180)から建久元年(1190)に飛びます!!





◇2018年1月19日◇
15話に割り込みで、薬の効果で目がハート状態だった頃の美盛ちゃんを書きました。よろしければ是非。


第三部
54 十年後 ●平勝盛視点


第54話 十年後

 

 

 

「待ってー! 待ってくださーい! 姫様ー! おひとりでそんなに駆け回っては危ないですってばー!」

 

 夏も間近の六月。私はちょっとした好奇心から海にあると言う港を見物するために越後国府を飛び出した。

 飛び出したと言ってもちゃんと父上と母上には見物に行く旨は伝えてある。特に母上には面と向かって見物に行くと伝えてあるんだ。

 

 ん? 何故母上にそんなに気兼ねするのかって?

 だって、前に桜を連れて無断で国府から出かけたら、戻って来た時に散々叱られてお尻が真っ赤になるまで叩かれたから……。あれは痛くて痛くて……本当に辛かった。それに体の痛みだけじゃなくて精神的にもとても痛かったんだ。涙をいっぱいにしながら私のお尻を叩いている母上の顔が忘れれらないからね。

 

「姫様ー! 置いてかないでー!」

 

 ふう、あんな顔をされてしまっては無断でどこかへなんて行くわけにもいかなくなるんだ。だから一応はね、父上や母上には報告だけはしているんだよ。ダメなんて言われても聞かないけれどね。

 

「はあはあ……。ふうふう……。ひ、姫様ってばー!」

 

 で、この後ろから私に追い付こうと一生懸命に走っている桜色の髪に桜色のお着物を着ている女性は、桜と言って私と同じ今年一〇歳の少女だ。なんでも私の生まれる前にあった戦いで戦死した桜川家の一族なんだそうな。その桜川一族と縁の深い母上のたっての願いで私の乳姉妹として一緒に生活をしているとこう言うわけ。

 その桜は私よりもほんの数ヶ月だけ早く生まれていて一緒にいると必ずお姉ちゃん風を吹かしてくる。まったく私だってもう一〇歳なんだからこれ見よがしにお姉ちゃんぶらなくともいいのに。

 って言うか、そんなにお姉ちゃんみたいな事がしたいのなら、まずはその桜川桜と言う名前で私を楽しませてからにしてほしいものだ。

 

 ――桜川桜。何回考えても凄く名前の韻が面白い。名字が桜川で名前が桜って彼女本人としては本当にそれでいいのだろうか?

 

「桜! もっとしっかりしなさい! 私を守る貴方がその様では先が思い遣られますよ!」

 

 走りながら体勢を切り替えて後ろ向きになって桜に向かって言う。

 ニヤニヤしながら言ったから相手もそこまでは本気にはとらえていない様子。

 

「ちょっ、やーっと追い着いた! もう、姫様が……はあはあ。速過ぎるんですよ…………っと!」

 

 やっと追い付いてきて、目の前で息を切らせている桜が私の手を捕まえようと自らの右手をサッと前に出した。

 あっ! やられたー!

 って思った一瞬の間に桜の作戦とも言えない策に引っかかって手首を掴まれてしまった。

 

 あーあ、油断したなー。こんな天気の良い日なんだからお外での追いかけっこが楽しいのになぁ。

 

「やーっと捕まえましたよ姫様! さあ、もう追いかけっこはおしまいです! ここからはふたりでお手々繋いで港へ行きますよー! いいですね!?」

 

「判りましたよ。はあ……。でも桜? 気配や目視では判らないけれどどうせ私の周りには国府からの護衛が何人も居るんでしょうから安心でしょう?」

 

 ふたりで手をつなぎながら歩いている丘の上の道を正面にして周りを見る。視界は遠くまで見渡せるほどに何も無い平野がどこまでも続いていて、進む先だけが青々としている。まだまだ遠いけれどその青色は海だと認識させてくれている。

 

「そりゃあ、居るでしょうけど。だとしても何もわざわざ走り回らなくてもいいでしょ」

 

「桜のくせに一里あるわね」

 

「一里どころか百里も千里ありますよ姫様」

 

 むぅ、桜めー。言いたい事を!

 

 

 

 

 

 

 ついこの間、改元されて文治六年が終わり新しく建久元年となった。なんでも山門で西方へと飛ぶ鳳凰が目撃されたとの事で目出度いから改元するんだそうな。瑞祥による改元って事らしい。

 ……うーん。まあいいんだけどね。 

 

 で、その改元はいいさ。別にいい。でもこの越後にその情報が辿り着くまで半月程の時間の差があったから、それが為にその半月の間に出した決済やら文書の回収から書き換えやら何やらで国府内は大混乱してしまったんだ。

 その猫の手も借りたいくらいの大騒ぎが収まったのは同じく半月程後の事。

 都の方も地方の事をもっと考えてほしいと皆が愚痴るくらいには忙しかったみたいだ。あのなんでもこなせる酒田の姉妹も一緒になって愚痴るくらいなのだからさぞ大変だったのだろう。

 

 私は母上や父上の脇から見ているだけだったから蚊帳の外だったんだけどね。

 

「姫様? ボケーっとした顔をしてどうかしましたか?」

 

「ん……。あっ、ああ、なんでもない。どうした桜?」

 

 歩きながら考え事をしていたからちょっと上の空だったみたいだ。

 

「はい。あの正面に見えるの施設は判りますか?」

 

「むっ! 桜! あれはなんだ!?」

 

「姫様。あれが越後国府の港。上越港ですよ!」

 

「あれがそうなのか桜! なんて大きい!」

 

 まだ丘の上から見えただけなのになんて大きな港なんだ。それに周りで浮かんでいる船も大きい!

 

「はい姫様。この港は去年出来たばかりの越後の玄関になります。城殿の治める阿賀北の沼垂湊に新潟港、更には能登や上方とを結ぶ越後航路の要衝なのです」

 

「それで大きな船もたくさんいるのか」

 

「はい。ではあともう少しで着きますから頑張って歩きましょう」

 

 これが父上と母上が一〇年の歳月をかけて作った上越港……。すごく大きい! 私が生まれる前から計画して、我が国府の収入源の銀と青苧の力で作った大きな港……。

 もっと、もっと近くで見てみたい。

 

「判った。急いで行こう!」

 

 

 

 

 

 

 ――上越港――

 

「姫様! 姫様ってば! まずはそこの店で休みましょう! 私はもう歩き疲れましたよー」

 

「桜はその店で休んでいればよい。私はこの港を見て周る」

 

「そんなー。判りました! 判りましたよ! 私もお供しますー」

 

 そんな事を言った桜はまた私の隣に来て並んで歩き始めた。

 じつは私も歩き疲れてどこかに腰掛けたかったりするんだ。でもそれ以上にこの港を見て周りたい。そんな衝動に駆られていたんだ。

 だから桜。もう少し辛抱してくれ。そうしたら茶店でもどこでも行くからさ。

 

 

 

 

 

 

 あれには何が入っているのだろう?

 それにあちらで積まれている大量の俵物。更に隣にはつづらがつづらっと並んで……。うあ、危ないこれは最後まで考えたら負けていた! 何にかは存ぜぬが負けていた事だけは確かだろう。

 おおぅ、あの男達の浅黒さと筋肉! 毎日重い荷物を運んだり下ろしたりしているのだろうな。

 

 なんて面白いのだろう。この港は楽しさに溢れているな!

 

 大きな船からの荷運びだけではなく漁港も兼ねているのだろう賑やかな魚売りも所々に居る。そしてそれを買う人達。小売業者から大きな商売をする商人。道の両脇には大店が軒を連ね人の往来も多い。

 これが港。これが父上や母上の港。普段はアレな両親だけどこう言うのを見ると否が応でも大きな存在なのだと言う事を認識させられる。

 

 そんな事を誇らしげに考えていたら目の前では魚を焼いて売っている中年の男がいた。

 塩焼きかな? 少しこの人と話がしたくなり余所行きの話し方で聞いてみた。

 

「おじさん、この魚は塩で焼いてるの?」

 

「おう、こりゃあこの辺りで……うわっ、お、お嬢さん、どこの子でしょうか?」

 

「むっ! どこの子とはなんですか、ただ聞いてみただけでしょう……」

 

「あっ、お仕事御苦労様です。この子はただの世間知らずなのでお構い無くー!」

 

「ええっ、あ、はい」

 

 焼き魚売りがあれよあれよと言う間に私は『ピュー』なんて擬音が出るくらいの速度で桜に腕を引っ張られその場を後にしたのだった。

 

 

 

「桜! なんですか全く! せっかく市井の者と貴重な会話をしていたと言うのに!」

 

「あのですね姫様。あのおじさんの困った顔が判りませんでしたか? 姫様は越後少納言家の嫡子平勝盛様なのですよ。おじさんは姫様のお召し物で身分差に気が付いて恐縮しきりだったではありませんか」

 

 え!? そうだったのか……。うう、気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

「桜。日本海は広いな」

 

 港の中で一番海側にある祠の前で海を見ているとそんな言葉が心の中で浮かび上がり、そしてそれをそのまま口に出した。

 

「はい姫様。とても広うございますね」

 

「この海の向こうは何があるのだろう? あはっ、興味がつきないよ」

 

 汐の匂いとどこまでも真っ青な青空。そして青い海。こんなのを見ていると自分なんてとても小さなモノなんだな等と頭だけではなく肌で感じられるんだ。

 その小さな私やそれぞれの人間達。この小さな私達が何をどうやっても広い海にはかなわないだろう。

 まあね。何も私はこの海の様に大きくなりたいとかそう言う事を考えたわけじゃない。

 ただ。ただ、父上や母上、それに国府のみんな。更には平家一門の皆が幸せに暮らせたらなんて思うんだ。

 

 だから…………。

 

「桜!」

 

「はい。なんでしょう姫様」

 

「問いたい事がある」

 

「私に判る事ならば」

 

「うむ。今我が平家は入道様を筆頭にこの日の本では磐石だと前に申したな」

 

「はい。今上の帝は浄海入道様の孫にあたりますし、高倉の上皇はもとより後白河院まで全て我が平家のお味方でございます」

 

「なれば何故に未だに木曽や関東を警戒している? なれば何故に今以って小松様と右大将様の仲がうまくいっておらんのだ?」

 

「それは……」

 

「……すまない。これは私が意地悪であった」

 

 こんな事桜に聞いてもどうにもならない事くらいはいくら私と言えども判っている。でも、それでも聞いておきたかったんだ。我が胸のうちを理解してくれる姉代わりとも言える桜には。

 

 

 

「……さっ、風が強うございます。髪がぐちゃぐちゃになってはせっかくの可愛いらしい姫様が台無しです。日が暮れる前に国府へ戻りましょう」

 

「うん。そうだね。判った。戻ろうか」

 

 帰り道。そう言えばどこにも寄らなかったからお腹空いてきたんだけどって桜に言ったら、桜も『はい! 私もですよ姫様!!』などとものすごい笑顔で言われたので国府に辿り着くまではこの話題は言わない様にしました!

 ああ、あの時桜の言った通りに一休みしておくんだった。




誰が亡くなって、誰がどういった立場になった云々は次回以降で。
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