第9話
座り込んだまま周りの人達を見回してみれば野次馬はだいぶどこかへ行ってしまったようだ。残ってるのはその辺の庶民なんだろう。
その残っている庶民達の中にすっごく目立つ子がいる。名前は
こいつらは一応俺や親父さんを助けてはくれたんだ。悪い連中ではないんだろう。
まあ、いいや聞かれた事は答えてあげないとな。
「ああ、そうそう俺の名は
俺は周りを見ながらさっき質問されたことに答えてみた。ドヤ顔でな!
「あ、ああ、はい。
「はあ、でもどうしてだ? 助けられたのはこっちの方だぜ」
「うーん。そうですねー。ではこう言い換えましょう」
閃いたとばかりにポンと手を叩き、女の子は一歩後ろへ下がる。そして俺の目を見ながら静かに口を開いた。
「貴方のお蔭で我が平家の名誉が守られました。まずは我が屋敷でお礼を」
そんな事を言うと女の子は深々と頭を下げた。
すげーなこの子は! お辞儀って言うか仕草が様になりすぎていて粗が見つからないぞ。しかもすっごく可愛い。ちょっと釣り目なところがいたずら好きな小悪魔みたいだ。
それに髪の毛。腰まで伸びた黒髪に、前髪は太い眉毛あたりでバッサリと揃えてやがる! これが噂の前髪パッツンってやつか!!
あとは背が低いのが良い! とても低くて130cmも無いんじゃないか?
しかしここまで俺好みなロリっ娘が存在していたとは……。まさに感無量! わが生涯に一片の悔い無しだ!
「判った。そこまで言ってもらえるならお供しよう」
内心のオタク的なニヤニヤは表には出さず、貴女のご好意に感謝します風に爽やかさを猛アピールする。
「ああ、良かったー。ここで帰してしまったら私ども平家の義理が立ちませんもの」
ほらね。彼女も凄く喜んでくれている。
女の子も喜ぶ。俺も喜ぶ。WINWINじゃないか!
「では行きましょうか
女の子は先に数歩歩くと振り向いて俺に出発を促した。よーし、じゃあ行きますか!
このまま道を歩いてすぐらしいけどまだその屋敷とやらは見えてこない。
しかし並んで歩いているわりに会話がまったく無いのはあんまり楽しくないなー。彼女の方も別に機嫌が悪いわけでは無さそう。うーむ、せっかく美少女が隣にいるんだし、何か話しかける話題は無いものだろうか……。
「あ、あのさー、よしもりちゃん。よしもりちゃんの名前って漢字でどう書くのかな?」
なけなしの勇気を振り絞って話題を振ってみる。だって俺は元々へたれだからね。こんなんでも凄く勇気がいるんだよ。女と気兼ねなく喋れる奴の気持ちが俺には理解できねーんだっつーの。そんな事をやろうものなら一発でキョドるだろうが……俺が。
だから慎重に事を運ばなくては! 嫌われないように慎重にだ!
「はい。えーっとですねー。美しいに盛り上がるって書いて
よしもりちゃんは俺の方を向きながら言葉と同時に指で漢字を空中に書いてみせる。ああ、なるほど。
「
あっ……。
うわーーー! 何を思ってる事をそのまま言ってしまってるんだー。これじゃあ、そこら中にいるナンパ男と一緒じゃないか。
ほら
「そ、そうだ
昨日から疑問に思ってたんだ。誤魔化しも含めて聞いてみよう。
あれを見てるととっても仲が良さそうで、まるで年の差カップルみたいだから俺からすると目立つんだよ。
「そうですねー。なんと申しますか……」
ん? そこまで答えるとなぜかそのまま顔を真っ赤にして言うのを躊躇っている。どうしたのかな。
「あははは。ちょっと恥ずかしいですけど言っちゃいますね。あれはですね。初潮を向かえた女性が服用する事の出来る薬の効果なんですよ。私も詳しくは存じ上げませんが熊野やら白山やらの秘薬を混ぜ合わせ、服用の後に三日三晩の間秘術を施せば、もうその女性の容姿は亡くなるまでそのままの状態が維持されるのです」
え、えっと、まじですか? 初潮という言葉に顔を赤らめながら話す
「だからですね、お爺さんと少女の二人組やお父さんと娘の様な二人組はたぶん夫婦だと思いますよ。本当の孫とお爺さんもいるかもしれませんけどね」
って事はお嫁さんはずーっと少女のままなのか!? すげーぜ。この世界すげー! あっ、でも男の方はどうなんだろう。
「それは驚きだ! 年は取ってもずっと若いままなんて羨ましい」
「はい。そうですね! でもこのお薬はとても高価なので貴族や武家、それにお金持ちの商人くらいしか手に入れられないんです。誰にでも行き渡れば良いのですけど」
「
「残念ながら男性用は今のところありません。
なんて言うか、奈良時代と平安時代って区別がしづらい。どちらも昔じゃん。
「その人は名前は知っているけど昔の人なのかな?」
「今から四百年くらいは昔の人ですね」
うん。昔の人だね。現代から四百年前と言うと大坂の陣だもんなー。そりゃあこの時代の人からしたら昔の人だわな。
その後も何度か勇気を振り絞って
一応年齢を聞いてみたら十歳だって言っていた。今はまだいいけど、もう二つか三つ年齢を重ねればストライク過ぎて目を見て話せなくなりそうだ。
ロリコンって辛い……。
屋敷の中に入って玄関から廊下に出る。廊下から見える庭は未だに雪景色だが、広さと言ったらもう開いた口が塞がらないくらいに広い。
庭が広いのは当然だけど屋敷もやっぱり大きい。なんだっけな正確な名前は忘れたけれど、書院造? 寝殿造? 確かそんな名前だったと思う。
「まずはこちらにてお待ちを」
客間から見える庭の景色は壮観だが未だ白一色。たまにすずめが騒いだりするくらいでなんとも長閑だ。
しかし誰もいなくなると暇だなー。ただでさえ広い屋敷の中、少々持て余し気味になっていたんだろう。退屈で昨日の事を思い出してしまう。
昨日の午後、中学からの帰り道、いつもの歩道橋を登ったんだよな。そうしたら少し上の方に同じく階段を登っている女子小学生がいたからちらりと上目遣いで見たら、なんとスカートの中の白い宝物がちらりと見えて凄く感激したんだ。
今日も良い事はなかったけど、帰り道でJSのパンチラを見る事が出来るとはラッキーだー! なんて思ったのもつかの間、足を踏み外してしまい後頭部から階段の角に……。
そして起きたらなぜか小路の壁に寄りかかっていたんだ。それからずーっと彷徨い歩いて小間物屋の親父さんに無理を言って宿を貸してもらい今に至ると。
なんともこの二日間は大冒険をしたなー。
普通異世界転生をしたら何かチートな能力でも貰えている筈。だから小間物屋の端で横になりながら色々試してみたんだけど、夜の間中やっても何も無かったから諦めたんだよな。神様も何も出て来なかったし、何も無いんだろうとは思ってたからショックは無いけどすっごく残念だ。
色々ボケーっと考えているうちに女の人が呼びに来た。たぶん侍女って人なのかな。
「ではご案内致します。こちらへどうぞ」
「わかりました」
そう言うと侍女の後ろをついて行った。外を見ると空は大分暗くなり大きな星は輝き始めている。もうこんな時間か。今日はここで泊めてくれるといいけどなー。寒いし暗いし小間物屋まで帰るのはちょっと大変そうだ。
「旦那様、お客様をお連れ致しました」
離れた場所にある部屋の前に来ると、侍女は戸越しに部屋の中へと声を掛けた。
「うむ。入れ」
中から男の人の声が聞こえてくる。うちの親父と同じくらいの年の声だな。
「お客様、中へどうぞ」
侍女が戸を開けてくれたので中へと入る。何か怖いんだけどいいのかな。
「うむ、あとはこちらから声を掛けるでな。向こうへ行っておれ」
「畏まりました」
そのまま戸を閉めると侍女はどこかへ行ってしまった。
「おお、客人よく来てくれたの。ささ、こちらへこちらへ」
どうしていいのか判らない俺に助け舟なのか中年の男はそう言って手招きしてくる。作法とかはまるで判らないから恐る恐る手招きに応じて、結構大き目の囲炉裏から少し遠いところにどっかりと座る。囲炉裏の前にはお膳やら何やらが並んでいる。一応は歓待してくれるみたいだ。
現代では
料理ばっかり見ているとさもしそうなのでお膳から目を上げる。正面には中年男が囲炉裏を挟んで向こう側にいる。痩せた感じだが病気と言う訳でも無さそう。ただそう言う体質なのだろう。
そして周りを見れば囲炉裏の左側には若い男と男の子が座ってこちらを物珍しそうに見ている。若い男の方は俺よりも五つくらいは上に見えるが男の子の方は十歳未満かな。
右側には少女が二人。
一人は肩くらいまでの黒髪の女の子。こちらを見ながらにこにこしている。
もう一人は
わざとくだらない事を考えて、雰囲気に飲まれそうになるのを必死で我慢していると正面の痩せた中年男が話しかけてきた。
「いやさ、もそっと囲炉裏の前までこられるがいい そこでは寒かろう」
「はい。じゃあお言葉に甘えまして」
俺はそう言うと今度は本当に囲炉裏の目の前にまで来て座りなおした。囲炉裏は炭が焚かれており部屋の中を暖めてくれている。それでも遠いよりも熱源の近くの方が暖かい。近くに寄ってよかったわ。
「さて今宵の夕餉に家族だけではなくお客人を招いたのは他でもない、
たぶんここの主であろう中年男はそう言うと銘々で酒を盃に注ぐように言う。
ちょっと待ってくれ! 俺は未成年だぞ! 法律に違反する……。
どうしようかと困っていると、隣に
「あら、
こ、これは断れねー!
観念して酒を注がれる。
これがお酒かー。白く濁っているなー。無色透明なのだと思ってたからちょっと驚いたよ。
「皆も酒が行き届いたようじゃの。では娘に助成してくれた客人の為に乾杯じゃ」
「かんぱーい」
一斉に乾杯するとみんな一気に飲み干す。おお、そうするのか! よし俺も真似してぐいっと!
……うん、わりと美味い。これなら何杯でもいけそうだ。
「ぷはー。いやーこのお酒は美味しいですねー」
お膳の料理を食べながらお酒をキューっと呑む。大人が夜に晩酌をするのがなんとなく判ってきたよ。こりゃあ、やめられないね。
それに会話も弾むから家族関係が判ってきたぞ。
正面の痩せた中年がこの家の主の
そして囲炉裏の左側でクールを決め込んで呑んでいるイケメンが長男の
同じく左側で無邪気に魚を食べているのが末の子の
でだ。ここからが注目なんだけど、さっきまで囲炉裏の右側でおしゃべりしていた美少女二人がなぜか俺の両隣にいるんですけど!!
これは何か親公認でハーレムルートなのか!? って言うかスキンシップが激しすぎないか!
「
「あっ、姉様ずるい。
「あらあら、でも
いやいや、手なんて繋いでないですから。事実無根ですから!
このちょっと不思議な子は経俊ちゃん。
「まあまあ姉妹で喧嘩しないで。俺ならどこにも逃げたりしないからさ!」
こんな台詞を言ってみたかった。いや本当に! 言えたから言える。俺は凄く満足している!
っと、こんな感じで夜も更けていった。
「おーっとっと、ああ、もうもう呑めませんって」
もうダメなんだけどなぜか注がれると呑んじゃうんだよなー。
「いやー、昼間は娘が世話になったの。お主の行動には娘もそれはもう感心しておった」
「いえいえ、当然の事をしたまでですよ。うい~」
酔っ払って何を言っているのかあんまり自分でも判らないけど無難に返しておく。
「そんな当たり前の事が出来ないのが世の常。その点お主は見事やって見せたのじゃ。いやー天晴れ天晴れ」
褒められている気がする。なんだか嬉しい。
「そこでじゃ、じつはお主にはうちの娘の護衛と相談役になってもらいたいのじゃ。どうかの?」
「お任せください! この
「おお、そうかそうかこれで肩の荷も降りたわい」
俺に任せておきなって。
「こんなもんでよいのか
「はい父上。ありがとうございます」
「しかしお前も変わった娘じゃのう。この男をそんなに気に入ったとは」
半分以上眠った意識の中、そんな会話が聞こえたような気がしたのだった。