そのまま次の話も投稿しますので許して下さい
世界を駆け巡ったニュース。
エジプトに現れた第二の亀裂、ソコから現れた有角のモンスターディアブロスの存在は、明確な恐怖として世間を震撼させた。
千冬は、朝の自室で時計を確認した。時計の針が示すのは朝六時。エジプトの七時となると、日本時間でいえば十四時。今からだいたい八時間後今頃、生存者の捜索が行われているのだろう。上空を五機のISがローテーションで飛行し、生体センサーによる広域探索を中心に小隊分けされた200名の特殊部隊が、それぞれ交代で救助を行う。
意外なことに、上空を飛ぶISとパイロットは国連直属の、選りすぐりのエリート達である。その情報は、多くの一般市民に安心を与えた。だが、他の不安が世界中で噴出していた。モンスターが出現する亀裂が増えた。つまりそれはもしかしたら、自分の頭上にその亀裂が開くかもしれない可能性を示すものだった。
亀裂は発生する際、強い爆発も起こす。実際、エジプトで発生した亀裂が原因と見られる爆発を、衛星が捉えていた。おそらく、基地はその爆発に対するスクランブルを掛けようとしたハズだ。だが、ディアブロスが現れた。混乱する基地は、応戦する暇もなくディアブロスに破壊されたのだろう。
つまりだ、爆発と亀裂の出現。それが急に普段の日常の中で発生する危険性を持ってしまった。一般市民の不安、恐怖、動揺は計り知れない。多くの者が、ディアブロスに蹂躙された人々よりも、いつ降り注ぐかも分からない自分への脅威に、その注目が集まっていたのだ。
仕方がない事だ。
千冬は、悲しくも納得する。皆、己の家族、友人、自分自身の身を案ずるのが当然。顔も知らない、遠くの国の被害者のために、本気で心を痛められる人間など、どれほどいるだろうか。
それでも、彼女だけはせめてもと、遠くの国で戦う者達の無事と、一人でも多い生存者の存在を願うしかなかった。
一先ず、自分の責務を果たさなければと、寮長としての雑務をこなしていく。
日本からでは、いや、IS学園の教師では、現地の者達への手助けは出来ない。だからこそ、自分の職務をこなすのだ。
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AM 02:00
エジプト、ムート周辺上空
高度700m
「座標、4-2-7-0にて、人形の生存反応を確認。目標は座標、0-5-0-0に滞在。至急救援に向かわれたし。」
捜索開始から五時間。やっと二人目の生存者のを確認した、国連IS委員会直属のISパイロット、ニコル・テリンジャーは、深い溜息を吐いた。一人目は捜索開始直後に見付けた。だが、二人目は異様に時間がかかってしまった。何故見付けられなかったか不明だが、並の生存者捜索任務ではないと、彼女は直後から理解していた。何度か、災害救助で出撃経験のある彼女だからこそ、その異質さが際立っていた。いつもの救助者救出では、センサーにビッシリと生体反応が表示され、一人、また一人と生体センサーから消える光を、悔し涙を浮かべながら見ていた。だが、この現場はどうだ。人形どころか、生体反応がほとんど検知されない。唯一、瀕死の青年と、サボテン類の植物。そして、巨大なモンスターの反応。不気味なほど反応のない現場だった。
狂気の沙汰だと、彼女は我が眼を疑った。あのモンスターは、殺して回ったのだ。全ての生き物を。観察して分かったが、草食性である化け物は、自らの餌以外の領域内の全てを皆殺しにしたということだ。生態系もクソもない。自分が過ごすためだけの領域を、あの化けもは作っていたのだ。青年は運が良かったとしか言いようがない。
『こちら救護隊αチーム。救助者を発見。こりゃひでぇ、見付からない訳だ。段々重ねの人の死体の中に埋もれてやがる。だが、お陰で温度低下の影響を受けてない。直ぐに救助する。』
無線が報せた情報に、ニコルはハッとして、再び意識を集中する。ハイパーセンサーを拡大望遠すれば、沢山の人の遺体の山の中から、特殊部隊の隊員が、一人の少女を引きずり出していた。
良かった。まだ生きていると、ニコルが安堵する。が同時に気が付いてしまった。モンスターが、今まさに救助活動を行っている方向に視線を向けていた。もしや、約三kmも離れているのに、αチームの存在に気がついたのだろうか。
「αチーム!目標がそちらに気が付いた!直ぐに撤退を!」
『何⁉だがまだ救助が完了していない、援護を要請する!』
「了解!指揮所へ要請、座標1-4-0-0に向け、迫撃砲を!」
彼女は、直ぐ様マップデータに生体センサーを照らし合わせ、目標の予測進路と、障害物がなく、生存者の見落としが無い場所を、指揮所に伝える。
間が空いた。彼女はそれに、嫌な予感を抱く。
『こちら指揮所管制。迫撃砲による援護は認められない。目標の探知能力は予想より優れ、こちらの位置を報せる結果になりかねない。よって、その要請は応じられない。そちらで対処されたし。』
「『なっ⁉』」
ニコルと、救助作業中のαチームの男性隊員の驚愕の声が重なった。
「何故です!目の前に救助者がいるのに!」
『理由は先程伝えた。繰り返す。こちらから援護は行えない、そちらで対処されたし。』
αチームの面々の混乱が、ニコルの耳に響く。当然だ、彼等はろくな戦闘用装備をしていない。救護任務において、それは邪魔になるからだ。最低限のアサルトライフル、弾倉。そしたコンバットナイフ程度の装備しかない。後は医療キットに担架。騒音の出る車なんぞ、突然装備していない。
『慌てるな!今は要救助者の救出、応急手当を優先。一分一秒を無駄にするな。』
だが、αチームの隊長であろう男の一喝が静に響き、平静を取り戻した彼等は救助活動を再開する。
ニコルは彼等のそれを見て、彼女もまた我に帰る。
そうだ、今は一人でも多くの命を救うためにここにいる。動かなければと、彼女も行動を開始する。
「指揮所。目標への対処のため、一時任務を離れます。春日井パイロットの出動命令を。」
『了解しました。春日井パイロットの出撃を要請します。至急発進して下さい。』
『春日井了解。ニコル先輩の持ち場に入ります。』
間を置かずに、指揮所と日本人のISパイロットであり、自身の後輩でもある春日井の応答が入る。
ISならば、音を発生させることなく、この上空に来ることが出来る。ならば、指揮所も文句はあるまいと彼女は考えたが、まさにそれが的中。直ぐに春日井は指揮所を飛び立った。
ならばと、ニコルは高度を下げ、目標に接近する。
『テリンジャー中尉。』
不意に無線が入る。声の主は、αチームの通信兵。名は覚えていないが、その明瞭な声は、彼女の記憶に確りと残っていた。
『無茶はするな。』
あんまりにも、真剣なその声音に、彼女は思わず呆気に取られた。ISを纏っているのに、ほぼ生身の通信兵に心配されるなど、初めてだったから。彼女は少し柔らかい表情をして、「了解」と短く告げた。
目標を目視出来るようになるまで、それほど時間は必要としなかった。だが、距離が近付いたことで、モンスターの巨大さに、彼女は内心圧倒されていた。
「此方に注意さえ引けば!」
生体センサーや、各種救助用高性能センサーを装備したラファール・リヴァイブでは、残ったら空きストレージに装備された武器は二つのみ。彼女が狙撃手なこともあり、スナイパーライフルが一つ。そして近接用コンバットナイフの二つだ。彼女は迷うことなく、スナイパーライフル、ISカスタムM110を呼び出す。
IS学園からの情報提供により、光学兵器では効果を示さないとの情報と、実弾兵装ならば、効果がある可能性が報告されたのだ。
だからこそ、彼女は実弾系スナイパーライフルISカスタム版のM110を装備している。
ゴォォゥン……!
狙いを定め、一閃。撃鉄に弾かれた弾丸は、螺旋回転をしながら、真っ直ぐ目標の眉間に迫る。直撃。200m離れた狙撃。ISの補助があっても、狙い通りに正確に狙撃するには、それなりの苦労を有する距離だが、ニコルは一息で当てた。流石の腕前は、賞賛を受けてしかるべきものであった。
だが、彼女はその一撃が致命傷足り得ないと直ぐに理解した。スコープ越しに、目標の額で張弾した弾丸を見たからだ。だが、ダメージは多少あるのだろう。衝撃に足元をふらつかせていた。
しかし、モンスターは体制を直すと、空高く吠える。砂漠特有の寒い夜。美しい月下の空に轟く化け物の咆哮は、ニコルに確かな恐怖を感じさせた。しかし、怯むものかともう一射。目標の長く鋭く捻れた角に直撃したが、再び弾かれてしまう。
「まるで、戦艦の装甲を相手にしてるみたいね。」
呆れ混じりに彼女は吐き捨て、目標を誘導するために移動を開始する。時折、目標に向かい射撃を行い、αチームからドンドンと離れていく。高度は70mを保ち、不用意な接近は極力避けた。
「固さは大したものだけど、やっぱり所詮畜生ね。」
このまま行けば、αチームの時間稼ぎも十分だろう。
彼女は一瞬気が緩む。油断したのだ。
目標がその頭の角を地面に突き刺し、力強く掬い上げた。すると、三つの砂岩が宙を舞いニコルに迫った。
「っく⁉」
突然の攻撃に動転するが、何とか全ての砂岩を避ける。
しかしこの隙に、彼女の視界から目標は姿を消していた。だがそれも一瞬。直ぐに奴は姿を見せた。
砂漠の中から、大量の砂を巻き上げ、彼女に向かい舞い上がった。
「くあっ‼」
角が掠める。絶対防御が発動し、シールドエネルギーが削られる。
ヒュンと風切り音が、体勢を直そうとする彼女の耳に届く。視線を戻せば、蒼黒い壁。目標が上下逆さまになる、背を向けていた。一瞬、それがなんなのか、彼女には理解できなかった。だが次の瞬間の衝撃で、それに気づく間もなく、彼女は一撃の元その意識を刈り取られた。
「先輩ぃっ⁉」
春日井 癒歌は、ハンマーのように、縦一閃に振り下ろされたディアブロスの尾の一撃を受け、地面に叩きつけられバウンドしていた、慕う先輩を呼ぶ。
彼女は、モンスターハンターを知っている。だから、今回の目標がディアブロス。それも二つ名の鏖魔ディアブロスという凶悪な個体であることを知っていた。だが、ディアブロスがあんなに空高く跳ね上がれるなど知らない。あれは、明らかに自分が知る個体よりも、強いと、癒歌は瞬時に理解していた。
「テリンジャー先輩!応答してください!先輩!」
無線で呼び掛けるも、応答はない。そうしている間も、ディアブロスは大地に降り立ち、少しずつニコルに歩みを進める。
彼女はピクリとも動かない。絶対防御が働いたとはいえ、あまりの衝撃に気絶したのだ。
「指揮所!応答してください!テリンジャー少尉が負傷!援護を要請します!」
『援護は認められません。そちらで対処してください。』
「そんな事言っても、此方にはまともな武器は無いんですよ!」
指揮所は変わらず、援護は出来ないの一点張り。速く何とかしなければ、ニコルの命が危ない。
癒歌は、必死に考える。彼女を助ける手段を。
『こちらαチーム!救助作業完了、これより指揮所に向かう!』
不意に入った無線に、彼女は下方のαチームに目線を向ける。すると、今まさに担架に乗せ、応急処置を終えた少女を運び出そうとしていた。
癒歌は、怒りを覚えた。
ニコルは、誰のために戦っていたのか。仕事が終われば一目散に逃げるなど、これだから男はと、彼女は怒りを抱く。
だが、ニコルはそうは思わないだろう。救助者を助け、一人でも多く生き残ってもらうために奮闘していたのだから。しかし、女尊男非の思想がこびりついた癒歌には、その考えすら浮かばない。
「っく!私が!」
仕方ないと、武装を展開する。獲物は打刀を左手に、右手にはIS用の自動小銃M4カービンISカスタムの二つを展開する。
「うぉぉぉ‼」
機動力で圧倒してやる。
意気込み、間合いに入った段階で、弾丸をばらまきながら突進する。目標が大きいから、多少の手振れでも命中する。三点バーストをはこの際無視して良いだろうと、引き金を引き続ける。
グングンと距離を積めると、弾かれるだけだった弾丸が、少しずつ傷を追わせる事が出来るようになっていた。モンスターハンターの知識がある彼女は、距離が縮まったことで、肉質の柔らかい部分に当たっているのだとすぐに理解した。
『ギャァウォォォォ‼』
敵意が向いた。
翼を広げ、吠える。
既に怒り状態に移行したのか、口の回りから、黒いガスが漏れている。
「やっぱディアブロスって、すぐ怒るね。」
あくまでも平静を保ち、彼女は攻撃の手を緩めない。何度ディアブロスに辛酸を嘗めさせられただろう。それも鏖魔の名を持つ強敵中の強敵。一人で討伐できたことはない。しかも、ゲームのようにやられても復活できるわけではない。
「それでも!先輩をやらせる訳にはいかない!」
攻撃の手は緩めない。
しかし、鏖魔はその角で砂上を掘り返し、その巨躯を砂の中に隠す。特異個体と言えど変わらない、ディアブロスの常套手段。砂中からの一突き。あの巨躯が宙に舞うほどの勢いと威力を誇るそれは、怒り状態の今ならば並外れた威力を誇るだろう。
「っぐぅっ‼」
下方の地表が隆起する。直ぐさま、回避行動を取る癒歌。ゲームならば届く高度ではない。しかし、万全を期しての行動だった。
その行動は、結果から言えば正解だった。
舞い上がる鏖魔ディアブロスは、癒歌のギリギリを掠め取る。一瞬でも判断が遅れればと思えば、彼女の額に冷たい汗が滲む。だが、彼女は見ていた。こちらに目線を投げ掛ける鏖魔ディアブロスの眼光を。眼があったのだ。明確な殺意を宿すその眼差しに、余計な思慮はする暇すらないと気が付き、もしもやかもしれないの思考は遠く彼方へ、眼前の驚異への対処に全神経を向けた。
「たぁっ‼」
左手の打刀を、鏖魔ディアブロスの目に向かい振るう。
が、奴は体をくるりと捻り、その攻撃を避ける。そのまま体を回転させ、ニコルにしたような尾による殴打の予備動作を見せた。
「っ」
予備動作さえ捉えれば、ISの機動力任せに避けきることは出来る。
鏖魔ディアブロスは、自分の振り切った尾の勢いで着陸。空高く砂埃を起こしていた。それが、彼女の視界を一瞬阻む。
ヤバいと思った時には、まるで榴弾が炸裂したかのような爆発音と衝撃。その二つが、少しの時間差を持って彼女を襲った。
砂岩が投げ付けられたのだ。爆発音は、砂上に鏖魔ディアブロスの角を叩き付けた際の音だろう。なんと出鱈目な力か。しかし、ダメージはただ砂岩をぶつけられただけ、大した事ではない。だが、問題は体勢が崩れ、砕けた砂岩に視界が奪われたことだ。
生体センサーに切り替えたのは、条件反射に近い反応だった。同時に気が付く。再び鏖魔ディアブロスの姿が砂中に埋もれている。
急加速。と同時に、砂を巻き上げ鏖魔ディアブロスが、その身を空高くに放る。
「ズル賢いっ‼」
ISの推力頼りの無茶な加速。だが、奴の突き上げは直撃せずに済んだ。しかし、彼女は鏖魔ディアブロスの戦法に、確かな知恵を感じていた。視界を奪い、動きを鈍らせ、必殺の一撃を狙う。セオリー通りだが、緩急をつけてそれを行う目の前のモンスターに、癒歌は恐怖を感じさせた。
『ギャウォォオオオ‼‼』
鏖魔は吠える。狩りは、始まったばかりだ
鏖魔ディアブロスは個人的に凄く好きです