「ほぁぁ……でっかいなぁ……」
成田国際空港で、ドゥレムは滑走路から飛び立つ旅客機に、感嘆の声を漏らしていた。
「旅客機よ。私達が乗るのは、国連チャーターのもう少し小さなものになるけど、そのまま現地近くに移動できるわ。」
ドゥレムが振り替えると、青い髪をショートヘアーに纏め、IS学園の制服に身を包んだ少女が、広げた扇子で口元を隠しながら語っていた。扇子には、白地に達筆の文字で『専用ジェット』と書かれていた。
「楯無と言ったか?……あれは俺達よりも速いのか?」
楯無と呼ばれた彼女は、扇子を閉じニヤリと笑いながら答える。
「そうね、最高速度で言えばISの方が速いし、貴方も速いでしょうね。」
「じゃぁ、俺達が直接向かえばいいんじゃないか?こんな面倒な移動をしなくても。」
「ふふ。それがそうでもないのよ。ISだと飛ぶのにもエネルギーをそれなりに消費するから、どうしても途中で休憩を挟まなきゃいけない。貴方も余計な体力を浪費せずに済む。結果的には、飛行機で飛んだ方が効率的で、早く着くわ。」
ドゥレムは「そういうものなのか」と納得し、再び滑走路に目をやる。
楯無は、笑顔を見せながらその後ろ姿に、視線投げ掛け続ける。一見すれば、見惚れるほどの整った顔立ち。しかし、よく見てみれば、その目はまるで笑っていない。獰猛な光を宿し、ドゥレムを観察しているようである。
彼女は、更識楯無はIS学園生徒会長である。それはつまり、IS学園の生徒の中で『最強』であるという事である。その彼女の人柄と言えば、才色兼備。しかし傲らず鍛練を忘れず、誰とも平等に接する。人は完璧超人と彼女を称する。しかし、それ以上に仲間思いである。故に彼女は警戒していたのだ。ドゥレムをだ。人ではないことは知っている。むしろ襲い来るモンスター達と、同じような存在である。何故ドゥレムだけが人に変身できるのか、何故彼は人類に味方しているのか。むしろ何故、モンスターは人々を襲い来るのか。理由が分からないからこそ、彼女は警戒している。
いつその爪牙が、人類に向けられるか分からないから。自分は、自分だけはドゥレムを警戒し続けようと、今回の任務に参加したのだ。ドゥレムの存在を、その目で判別するために。IS学園の
「準備できたみたいですよ、行きましょう。」
空港の職員と話していた一夏は、楯無に向けて口を開く。それに彼女は、満足気に微笑むと踵を返し歩き始める。やがてゆっくりと振り返り、その赤い瞳をドゥレムに向ける。
「行くわよドゥレム君…!」
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ジェットに乗っている中、三人は戦闘のフォーメーションや作戦を決める。
平たく言えば、ドゥレムを中心に戦陣をひき、一夏と楯無は状況に応じてドゥレムの支援となる。モンスターであり、攻撃力のあるドゥレムならばヘイトも稼ぎやすいハズであるため、この作戦となる。立案者は楯無だが、ドゥレムは賛同したため、そのままその作戦が採用された。
そして、エジプトに到着した頃には日は傾き夕暮れが砂漠とピラミッドを照らしていた。
「状況が変わったわ。」
つい今しがた、国連から連絡が来たのだ。
内容は余りにも芳しくはないものだった。
「エジプト軍のIS部隊からの報告で、二体目のモンスターが出現したらしいわ。」
「「‼」」
「情報が少ないため、なんのモンスターが現れたのかは不明。まぁ、この国にモンスターハンターがそんなに普及して無かったのだから仕方ないんだけど。ただ、飛竜種のタイプと思われるわ。」
三人は押し黙る。
二体同時の出現。想定していなかった訳ではない。しかし、想定していたなかでも、最悪な状況であることには変わりなかった。
「とりあえず、優先度が高いのは鏖魔の方なのだろ?俺が引き受けよう。一夏達は、現地のIS部隊と協力して、もう一方の飛竜を頼む。」
「一人でやる気か!?」
一夏の言葉に、うなずいて答えるドゥレム。その余りの迷いのなさに、一瞬言葉を失うが、一夏は彼の身を案じ言葉を続ける。
「いくらなんでも一人は危険すぎる。せめて、俺か更識さん。どちらかを連れるべきだ。最悪、総力戦で鏖魔をさっさと倒して、それからもう一体の飛竜に向かえば良いじゃないか。」
「お前も飛竜の速さは知っているだろう?鏖魔は話を聞く限り、相当強い個体。その飛竜が、鏖魔に気が付き、逆方向に逃げて、別の町村を襲ったとなれば話にならん。だからこそ、二手に分かれるんだ。」
ドゥレムの言葉が正しいのは、一夏も理解していた。しかし、それでも納得は出来ない。友を一人で死地へ向かわせるのは、彼の良心が許せなかった。
「私が行く。」
口を開いたのは楯無。
二人が何かを言う前に、彼女は言葉を続ける。
「鏖魔ディアブロスの強さは私も理解しているわ。でも、もう一方の飛竜の警戒も怠れない。もし銀火竜のような個体だったら、それこそ相当不味いわ。正直な話、私はそこまでモンスターハンターに詳しくないし、知識のある一夏君に、もう一方を頼みたいの。」
「待て、一夏一人に飛竜の相手をさせるのか?」
「一人じゃないわ。エジプト軍のISチームにもう一方の相手を、一夏君と一緒に担当してもらう。これで6機のISが揃うわ。後は、私達が合流するまで、無理をしないで足止めに徹していてくれれば大丈夫なハズよ。」
ドゥレムの言葉に、間髪いれずに彼女は答える。だが、結局は一夏本人が決断しなければならない部分でもあった。
エジプト軍のISと協力して、一夏は飛竜と戦えるか、彼も迷っていた。
「俺は……。」
「一夏、無理しなくても良い。楯無は強い。楯無と一緒の方が安全だ。」
ドゥレムは、気遣いのつもりだった。本能で、楯無の立ち振舞いから、彼女がかなりの遣り手と理解していたから、一緒の方が良い。無理はしないで良い。そう言いたかっただけだった。
だが、一夏は男である。
ドゥレムの言葉に思うことが無いわけがない。
「オイ、ドゥレム。俺を余り甘く見るなよ。俺だってやれる……戦えるんだ…!」
火を点けてしまった。
若さ故の自尊心。男としてのプライド。そういった彼の中の青い部分が、怒りとなって彼に決断をさせた。
一夏は単身、飛竜の元に向かい。現地でエジプトISチームと合流。
ドゥレム、楯無両名が、鏖魔討伐に向かう。
ドゥレムは、一夏の身を案じ、何か言おうとする。だが彼の中の言葉は、言おうとする思いを象ることが出来なかった。
「じゃぁ決まりね。この飛行機はこのまま作戦エリア付近まで向かってくれるわ。私達は、この飛行機からそれぞれ単独飛行に移行、目標に向かうわ。良いね?」
楯無が締めくくり、三人は再びの沈黙に戻る。開戦はもうすぐだった。
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鏖魔と呼ばれたディアブロスが、近づいて来る強者に気が付いたのは、丁度今だった。
日は半分沈み掛けたこの砂漠で、彼は空の一点を睨む。
来る。来る。
強者はもう来る。
砂漠の砂が爆ぜる。大質量が、高速で砂漠に衝突したのだ。
鏖魔は、爆発の中心に向かい吼える。天を砕くように轟く咆哮は、人なら思わず耳を塞ぐほど。
だが、その咆哮に答える者がいた。紺碧の巨躯に、地を凍えさせる冷気を宿す竜。ドゥレムディラが、鏖魔に応え、吼える。互いの咆哮は開戦の火蓋となり、両者を包む。
先に動いたのは鏖魔。その禍々しい角を構え、凄まじいスピードで、ドゥレムに突っ込む。当然、食らうわけにはいかないと、普通なら避ける。だが、ドゥレムは違う、右前足を振り上げ、前に薙ぐように振り降ろす。
とすれば、振り下ろした箇所から氷の柱が連なり生えて、鏖魔の行く手を阻む。角に引っ掛かるように出現した氷柱に、鏖魔の突進は止められ、ドゥレムに届くことはなかった。だが、奴も直ぐに氷を砕く。角を振り上げ、力任せに氷の呪縛から逃れ、目の前にいるハズのドゥレムディラに、その凶角を振り下ろしてくれようと、前を睨む。だが、ソコにドゥレムディラの姿は見えず、見えたのは、紺碧の軌跡。そして大きくぶれる視界。
尾による殴打が、鏖魔の顔面を弾いたのだ。
が、これにより鏖魔は再びの絶叫。黒い息を吐き出し、怒りに燃え、爛々と輝く双眸を、ドゥレムディラに向けていた。しかし、ここで気が付くべきだった。上空から迫る驚異に。
ドゥレムディラに、一撃くれてやろうと首を構えた瞬間、背中に強い衝撃と、鋭い痛み。
「はぁぁぁぁあ‼」
高高度からの、垂直落下による一撃。楯無の装着した、
目論見では、この一撃で沈めば万々歳。いや、普通の生き物ならば、この一撃で仕留められる。どんな生命体でも、音速で突撃する物体に当たればただで済まない。それがISという大きな質量を伴えば、それは必殺の一撃。木っ端微塵に弾けるのが普通のハズだ。
「っ!?…まだ!」
楯無は飛び退き、ドゥレムディラの隣に降り立つ。彼もまた、その臨戦体勢を崩しはしない。
これになる前に、鏖魔を仕留めるための作戦だったのだがと、楯無は冷や汗を浮かべる。
クレーターとなってしまったその場所から、鏖魔は立ち上がる。その口から湧き出る黒い煙は、その顔を覆い隠し、怪しく光る双眸が、闇の中からドゥレムディラ達を睨んでいた。
怒りという言葉では、到底言い表し切れない。それは、正に魔王。
「ここからが本番ね……『プッツン魔王モード』…!」
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「ライゼクス!」
一夏の目標となる飛竜は、どことなく甲虫を思わせる甲殻に身を包んだ、モヒカンのような鶏冠を持つ飛竜。ライゼクスであった。
「てか、誰もいねぇじゃねぇか……。」
現地で集合するはずだったエジプトのISチームの姿はない。まだ向かっている途中なのか、それとももう、このライゼクスに……。
一夏は頭を振り、その考えを振り払う。
いないなら俺一人でも戦ってやると、雪片弐型を構え、一夏は突貫する。
「でぇぇやっ‼」
背後からの一撃。
が、攻撃の前に叫んでしまったのが不味かった。ライゼクスは寸での所で、その一太刀をかわす。
「グギャァォ‼」
ライゼクスの威嚇。しかし、耳をつんざく程ではない。一夏は迷わず、返しの刃でライゼクスに一太刀与える。零落白夜は起動していなくとも、真剣の一太刀。確かに肉を裂く感覚が、一夏の手に伝わる。
実際、血飛沫も待っている。が、一夏は驚愕していた。切り崩しが、ライゼクスの腹に刻まれていないのだ。
「そこまで!ゲームと一緒かよ!」
一夏は叫び、更に一太刀。浴びせようと、構えるが、ライゼクスは高度を急にあげる。
パンチが来る!
気が付いた一夏は無理矢理行動を打ち切り、飛び退く。
と同時に、凄まじい速度で雷光を伴ったライゼクスが、先程まで一夏のいた場所を掠め取っていった。
翼についた硬い硬い鉤爪による殴打。食らえばただでは済まないその一撃に、一夏は戦慄する。
ゲームで見た同じモーションの攻撃よりも速く、鋭く、そして少し違うその攻撃。
元々地上にいるハンターへの攻撃を、空中で使ったのだから、多少の差異があることは分かっていたことだ。だがそれを実感し、一夏は改めて、 剣を構える。
うぅん……。
なんか変な気がする。