12月1月は、個人的に多忙なのでどうか御容赦下さい。
では、紫氷。どうぞお楽しみ下さい
(久々で誤字脱字ばっかりだったらごめんなさいね。許して下さい。)
鏖魔の纏う黒い影は、その怒気が溢れ出した証。
顔色は既に見えず、口腔から湧出る黒い影は、怪しく鏖魔の表情を隠し、鋭く伸びた歪な双角が不気味にその存在感を露にし、淡く光る眼光だけが、ドゥレムディラと楯無を捉える。
『グォォオオオオォオ!!!!!!!!』
鏖魔の咆哮が、世界を震わせるように響き渡る。
瞬間、一息にドゥレムディラとの間合いを詰め、角の一閃。突進ではない、ただの殴打だが、その速さと威力は、反応の遅れたドゥレムディラが弾け飛ぶ程の力を伴っていた。
「っな⁉」
楯無でさえ、その一撃を認識できなかった。速いなんてものではない。まるで瞬間移動かと疑うほどの、出鱈目な速度で、鏖魔は間合いを詰めていた。
『ギャオォォォウ!!!!』
再びの一凪、楯無はギリギリでその一撃を避ける。
初速が速いのだ。少ない予備動作で、瞬時に再高速度に到達し繰り出される一撃は、その鋭い角と鏖魔が持つ質量により、一撃一撃が必殺の威力を内包している。
反撃の隙が、楯無には見付けられなかった。
昔、妹と共にプレイしたゲームでの鏖魔ディアブロスも、最高潮の怒り状態、『プッツン魔王モード』だとか色々な呼び名があるが、とにかくこのぶちギレ状態の鏖魔の攻撃はかなり激しく、そして威力も上がり、モーション速度も上がる。ゲームと同じだが、これは速くなりすぎだと、楯無は冷や汗を流す。
『グゥラァッ!!!!』
が、戻って来たドゥレムディラの突進により、鏖魔の動きが鈍り、楯無も間合いを取ることが出来た。
と、ドゥレムディラがそれに気が付いて、氷柱を伴った尾の一撃を鏖魔にみまう。体を回転させて放つために、ドゥレムディラの周囲を鋭い氷柱が円陣のような形で出現する。ISで食らえば、シールドエネルギーがかなり削られだろう。しかし、その氷柱も鏖魔の体を貫くことは叶わない。
生み出された氷柱を砕きながら、双角による再びの殴打がドゥレムディラを襲う。横一文字に振り切られたその一撃は、ドゥレムディラの横顔を叩いた。
『ッグガ⁉』
余りの一撃に、ドゥレムディラは眩暈を覚え、体勢を崩す。グラリと倒れそうになるが、追撃の尾による一閃が、彼をカチ上げた。
が、それにより意識を取り戻した彼は、浮かび上がった体を前足を降り下ろし、無理矢理体勢を建て直す。ついでにボディープレスのような、要領で鏖魔に一撃叩き込む。
「たあぁぁっ!!」
その隙をつくために楯無は、瞬間加速で間合いを詰め追撃。
ドゥレムディラに押さえ付けられるような形となった、鏖魔の足を槍で払い倒す。バランスを崩した鏖魔は、楯無の目論見通りに体勢を崩し、砂上に押し付けられる。
が、激しく身を動かし鏖魔は直ぐにドゥレムディラの拘束から逃れ、地中に潜っていく。
「飛び上がり攻撃が来る!」
地中からの攻撃を避けるために、楯無は直ぐに高度を上げる。が逆にドゥレムディラは、地に足を踏ん張り咆哮。黒い影をまとったその咆哮は、辺り一面の砂漠が凍り付いていく。
予想外の事態に、楯無は一瞬呆気に取られた。海上を凍り付かせたとは、話にだけ聞いていた。しかし、実際にそれをやって見せられ、辺りの砂漠を凍り付かせているその事実に、彼女が驚愕するのも無理はない。
バキッ
すると、砂上に張られた氷の一角に、亀裂が入った。それは、鏖魔が地中に潜った地点とそれほど変わりはしない。次の瞬間、鏖魔はその亀裂の地点から飛び出してきた。おそらく、余りにも急激な地中の温度低下に、驚き出てきたのだろう。実際、凍り付いた砂上に困惑しているようである。
その隙を突くように、ドゥレムディラが飛翔。氷の楔をマシンガンのように、その口腔から射出し始めた。
氷の楔は、鏖魔に次々と殺到する。が、その体を貫くことはなく、当たった氷はその甲殻に砕かれ、弾かれて明確なダメージとはならない。が、宙に飛び出していた鏖魔はそれにバランスを崩し、凍った砂上に堕ちる。
『グゥラッ⁉』
鏖魔は叩き付けられるように地に堕ちる。すると、ドゥレムディラの弾幕は止み、砕かれた氷の粒が宙を舞う中、楯無は再びの瞬間加速で近付き、槍の一突きを繰り出す。
確かな手応えを覚えた。と同時に、ゴギッというような、硬いものが折れるような、砕けるような音を彼女は耳にした。攻撃の速度のまま鏖魔を過ぎ去り、氷の粒子に視界を覆われる場から飛び出す。
一番に眼にしたのは、砂上に突き刺さっている鏖魔の変形した、先が二つに裂けた角であった。つまり、先程彼女が耳にした音は、あの角が折れた音なのだろう。
勝てる
確信を彼女は抱いた。まがりなりにもIS学園最強の座を名乗る自分と、いまだその実力が未知数なドゥレムとの共同戦線。このまま丁寧に、迅速に削っていけば勝てると、彼女は確かな自身を得ていた。
『グオォオオオオオオオオオオオゥゥ‼‼』
鏖魔は吠える。自身の角が折られた事による怯みなどはなく、より強く、濃く、深い憎悪。そして怒りが込められた咆哮は、舞っていた氷の粒子を吹き飛ばし、辺りの空気は振動により砕け散る。
爆音。否、轟音である。
『オォオオオオオオォォォォォォォ‼‼』
その咆哮に、楯無は思わず耳を塞ぐ。だが、その音の暴力は、だんだんと細く収束されていく。
『オオオオオオ‼ィィィィィーーーーーーーー‼‼』
やがて、音の暴力は殺意を持って楯無を襲った。
鏖魔の放った咆哮は、空気の振動を極限まで高ぶらせ、音のナイフとして放たれた。霧纏いの淑女の持つシールドエネルギーは大きく削られ、辺りは振動により爆発するように巻き上げられた砂埃が舞う。
彼女も知らない一撃に、何をするでもなく弾かれ、吹き飛ばされる。当然、ISならばこの程度の一撃で沈むことはない。しかし、装着者はその余りにも大きな振動に鼓膜を破壊され、筆舌に尽くしがたい痛みと、一時的な大きな聴覚機能の低下が発生する。
「っっ‼」
声にならない悲鳴をあげる。だが、楯無はそれよりも自分の失態を叱責していた。
油断した。鉄火場の最中で慢心し、不意を突かれ、聴覚を奪われた。失われた聴覚は、ISが補ってくれるが、痛みはすぐに消えはしない。普通の人間相手ならば、この状態でも互角以上に戦える自信はあったし、それに見合う実力を彼女は兼ね備えていた。しかそ、相手が違う。人類とは、生物的な強さが別次元の存在。
ここに来て初めて彼女は、鏖魔に対して恐怖を抱いた。
黒い影に隠れた眼光が、楯無を射抜く。
「っつ⁉」
瞬間。間合いを積めるように鏖魔は駆ける。砂を踏みしめ、巻き上げて楯無に一直線に駆ける。
がその突進は、不意な横やりに妨げられる。急降下したドゥレムディラの体当りが直撃したのだ。そのまま二匹は、絡み合うように転がっていき、やがて弾かれるように二匹は互いに間合いをとる。
『グゥウゥ……』
互いに威嚇し、間合いを詰めずに睨み合う。
楯無も、霧纏いの淑女の槍を杖代わりに立ち上がる。IS補助の聴覚にも慣れ、すでに物音は十分に認識できていた。
『ガッァ‼』
最初に動いたのは鏖魔。飛び上がり、ドゥレムディラに向かいその角を降り下ろす。半歩身を横にずらすことで、ドゥレムディラはその一撃を難なくかわす。と間髪入れずに、隙を見せた喉元に噛みつこうと、その口腔を開き、牙を向ける。
ブンッ!
響く風切り音が、ドゥレムディラの横っ面を弾いた。降り下ろしたその角を急停止し、真横に迎撃として振り抜いたのだ。その衝撃音は、楯無の頬に冷たい汗を流させた。無事ではすまない一撃。普通ならば肉は潰され、骨が砕かれる一撃
だが、それは人の身であればの話。
龍の体は、その常識を凌駕する力を持っている。
『グガァッ‼』
無防備な鏖魔の首に、掌底染みた前足を見舞い、地面に押さえ付ける。
霧纏いの淑女にハイパーセンサーは、ドゥレムディラの口腔付近の、急激な気温の低下が表示された。それはつまり、あのビームを撃つ気なのだと楯無に知らせる。フルフルとティガレックスへの、止めの一撃となったあの冷気の奔流。
『グォオガッ‼‼』
『ギュウン⁉』
が、その一撃は鏖魔の振り回された尾により阻まれる。まるで槌のようなその尾は、ドゥレムディラの横腹に突き刺さり。冷気の収縮を途切れされ、また鏖魔への拘束を緩くしてしまう。
とすれば、鏖魔はその拘束を逃れドゥレムディラを宙に弾き飛ばす。
あの巨躯が弾かれるとなれば、相当なことだが楯無がそれに驚く前に鏖魔もまた跳ぶ。ギリギリの直撃は避けるが、ドゥレムディラの横腹を鏖魔の角が抉り取っていく様を彼女は目の当たりにする。
鮮血が散り、ドゥレムディラの悲鳴にも聞こえる咆哮が響く。
『ガアッァ‼』
空中で鏖魔に蹴りをいれ、ドゥレムディラは楯無の横に舞い降りる。
「っ‼」
余りにも痛々しい傷口を、彼女は目にする。
甲殻の一部は捲られ、肉を抉っている。しかし、内臓には達してはいないようだ。不幸中の幸いと言っていいのかどうか、しかしとにかく、大事となる一撃はギリギリ避けている。
『………。』
一瞬、ドゥレムディラは楯無にその眼を向ける。だが龍の姿の時の彼は、声帯を持たないために言葉を発することはできない。しかし、彼が何故自分に視線を向けるのか。彼女はなんとなしにその意図を察することが出来た。
「分かったわドゥレム。」
楯無は頷き答えると、槍を構え鏖魔に突進する。
鏖魔も彼女に気が付き咆哮。答えるように角を向けて真っ正面に突っ込んでくる。
「やっぱり!単細胞ね‼」
が、彼女はIS特有の慣性制御で急停止、からの急上昇を鏖魔の目前でこなし。必殺の一撃を避ける。鏖魔からすれば、目の前から突然彼女がいなくなったように錯覚することだろう。当然、鏖魔にはISばりの慣性制御があるはずもなく。ブレーキをかけようとも砂埃を巻き上げて滑っていく。
「そこよ!」
と次の瞬間。鏖魔の足元が白く爆発する。
霧纏いの淑女は、ナノマシンを操る固有技能を持つISだ。しかもそのナノマシンはなんと、水、液体の形をしている郡体である。今、鏖魔の足元で炸裂し、暴力的な音と衝撃を発した正体は、そのナノマシンであり、現象的には水蒸気爆発をより更に凝縮したものである。
鏖魔の視界は白煙に阻まれ、ろくに周りを視認することすら叶わないであろう。ならば、そこから再びのヒット&アウェイ。ハイパーセンサーが捉える鏖魔の影に向け、槍を構えて突貫。
「一撃で貴方を倒すことが出来なくても、私はこうして貴方を押さえ付けておくことなら出来るわ!」
小さく、細かい一撃だが、確かに鏖魔の体に一撃ずつ与える楯無。
油断はない。だから今恐れることを、彼女は理解していた。最も警戒すべき行動。恐怖すべき行動は。
『グゥオオオォォォォォォオ‼‼‼‼』
まとわりつく白煙を吹き飛ばす長い咆哮。その目は楯無を射止めている。
来る!
今一番怖い一撃が、食らったらいけない一撃が。
『オォォォォォォォォォィィーーーーーーーッ‼‼‼‼』
来た!
空気の振動が極限に達した、音ではなく、超音波によるもはや斬撃ともいえる咆哮。
幸いなのは、某特撮映画の超音波メスと違い、予備動作が非常に分かりやすいことだろう。であるならば、
「タイミングさえ分かっていれば避けられる!」
例え視認できない一撃であろうとも、出所とタイミング。分かりやすい予備動作があるならば避けるのは容易い。あと気を付けなければならないのは、この一撃が動かせること。首さえ振ってしまえば、避けようが外そうが、後から強引に当てられる点だ。
「なら!」
瞬間加速。彼女がこの一撃を避けたという事実を、鏖魔が認識するよりも速く、鏖魔の懐に飛び込む。
「せぇい!」
そして一閃。鏖魔の喉元を切り裂くような一撃を見舞い離脱。と同時にその場を直ぐ様に離れる。
『ギャアォォオ‼‼』
鏖魔が体制を直す前に、咆哮が轟く。地が猛り、天が響く咆哮の元。濃厚な殺意の出所には、四つの足元に広がる砂漠を紫色に凍てつかせ、体の到るところが氷結し、また橙色が加わったドゥレムディラの姿だった。
ヒュン。
一瞬。世界から音が無くなった気がした。
急に止まった、轟く咆哮のせいか。それともこれから巻き起こる、惨劇に世界が恐怖してか。なにはともあれ、わずかな静寂が、この砂漠に訪れたのは確かだ。
次の瞬間。ドゥレムディラは口腔を大きく開ける。黒、紫、白。奔流はハイパーセンサーごしで、あり得ない。常識では絶対にあり得ない。数値を楯無に届けた。
マイナス温度測定不能。
冷気の暴力が過ぎ去った後には、美しい。どこまでも美しい、鏖魔の形をした紫色の氷像が聳え立っていた。
読んでいただいて感謝の極みです。
これからもどうかご贔屓に。