まぁた遅くなっちゃいましたよ。本当に申し訳ない。
でもね、でもねちょっと言い訳を聞いて。
私、車の運転中に事故に巻き込まれて、ちょっと入院してたの。その間執筆も何も出来ないで遅くなっちゃっいました。皆も車の運転中気を付けて。自分は大丈夫でも、周りの車が全員大丈夫じゃないからね。中には頭の吹っ飛んだどうしようもない奴も居るから、気を付けないと本当。
「さて、どこから話すかな………。」
一時間の暇潰しのために、一夏は口を開く。
ベッドで横になるドゥレムは、それを黙して見つめた。
「知ってるかもしれないけど。千冬姉はもともとモンドグロッソってISの大会で、最強とまで言われた人なんだ。」
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第二回モンドグロッソ決勝戦当日
少年はこれまでの短い人生、否これから先の人生を考えても、これ以上内ほどのクソッタレな状況に出くわしていた。
少年織斑 一夏の両手足は、彼自身が座らせられたパイプ椅子の足に固く結ばれており、閉じ込められているこの一室を、二人の武装した男が彼を見張っていた。
彼等の目的は、一夏には知るよしもない。だが、予測は容易かった。千冬のモンドグロッソ二大会連続制覇の阻止であろう。でなければ、このタイミングに彼を、厳重な警戒網を突破し拉致する必要はない。名前も確認されたのだから、十中八九そうだろう。
しかし、それが理解できたところで、一夏にはただただ怯え、無力な自分を呪うことしかできない。
だが、二時間後には彼は無事に救出される。
決勝戦を辞退した千冬が、一夏を助け出したのだ。世論は彼女の行動を称賛した。美しい姉弟愛、勇敢なブリュンヒルデと新聞の見出しは彩られていた。
確かに、世論は千冬の行動は讃えた。しかし、ISを管理しISによる世界情勢の緊張を抑制することが目的であるIS倫理委員会にとって、彼女のその行動は看過できるものではなかった。
そもそも、通常兵器を優に上回る性能を持つISは、その使用に関して二重三重の法的制限が掛けられている。彼女の行った行動は、ISの私利的行使とされIS倫理委員会が定めたIS国際法の、ISの運用制限内のいわゆる重罪とされる物である。
しかし情状酌量の余地ありとされ、彼女への措置はIS行使権永久剥奪、日本国代表免除のみとなった。通常であれば懲役10年から20年が相当と言われるの鑑みれば、相当の配慮である。
翌年から、千冬が代表の座を退いたことが原因で、日本は長い間モンドグロッソでの成績が奮わない事となる上に、IS開発研究の面でも、他国から一歩遅れをとる結果となってしまった。もし一夏を拉致した集団の目的が、ISにおける日本の地位を貶めることにあるのだとしたら、それは成されたと言って良いだろう。
が一連の事件で誰よりも苦しんだのは、一夏少年で間違いない。千冬の熱狂的なファンから向けられる、悪意ある罵詈雑言もあった。拉致された時の恐怖は、一生に残るトラウマとも言えるだろう。だが、何よりも彼を苦しめたのは、彼自身に他ならない。自分がいなければ、姉は今も自由に空を駆けていたかもしれないと、止めどなく沸き上がり、無限に連なり終わりの無い自責の連鎖。
少年はその時から、自らの首を綿でゆっくりと絞め続けてきたのだ。
それから少し時が流れ、第二回モンドグロッソから数ヶ月、日本に帰国してから暫く、一夏は唐突に「半年程ドイツに出向せねばならなくなった」と千冬に告げられた。
聞けば、一夏救出の際に情報提供としてドイツ軍には恩があるらしい。その見返りとして、半年間ドイツ軍のIS部隊の教官を依頼されていたらしい。
突然の事に一夏も困惑こそしたが、それを了解し姉を見送る。だが、傷心の彼が一人で過ごす時間は、夕暮れのように穏やかな、だが確実に歩み下る地獄。大衆から向けられる、心無い蔑み。夜な夜な夢に見る、あの恐怖の追体験。そして終わりのない自責の嵐。1日1日、少しづつ少年の心は削られていた。
あの時、彼女がいなければ一夏はここにいなかったかもしれない。だから、彼に取って彼女は大切な親友であり、そして誰よりも大切な人。彼女は……
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少し、本題からずれた事も思い出しながらも、それを言葉にすること無く、あくまで簡素に一夏は語った。ドゥレムはそれを受け、納得したように口を開いた。
「なるほど。つまり、そのラウラ・ボーデヴィヒは千冬の元教え子であり、見る限りには千冬を慕っている。だから、第二回モンドグロッソの優勝を逃した原因でもあるお前を許さないと。」
「多分な。」
思わずため息を漏らしそうになるドゥレム。なんともまぁ面倒な娘が来たものだなと、一夏を不憫にさえ思っていた。
「で、お前はどうするんだ?ラウラに殴られたままにするのか?」
「……どうするかぁ……。でもアイツの言うことも、分かるんだよ俺。同じようなことを考えてた時期もあったからさ。」
一夏は、はぁとため息を吐きながら遠くを眺める。その瞳は心ここに有らずで、答えの無い思慮の迷宮に紛れ込んだように、どこか
「子供だったのだろ?なら仕方がない話のハズだ。そもそも大人だったとしても、数人、しかも武装した奴らと戦うなんて無理だ。だから何も出来なかったのだって当然だし、逆にそれをお前に言うラウラが間違えている。」
迷い無くドゥレムは言い切った。
少し、驚いた表情を見せた一夏だったが「そうだな。」と笑って見せる。
ドゥレムは、なんと分かりやすいのだろうか、誤魔化しや嘘を吐くということをしない。思ったことをそのまま、感じたことをそのまま彼は口にする。そんな、まるで純粋無垢な少年のような彼が可笑しくて、一夏は少しだけ笑ったのだ。
「お待たせしましたドゥレムさん。精密検査の準備が整いましたので、ご案内しますよ。」
と、不意に先程出ていった保険医が、車椅子を押してやって来た。
一夏は、自分が邪魔になら無いようにと席を立ち、保険医がドゥレムを車椅子に座らせる。車椅子はカラカラと音を起てながら、三人は病室を後にした。
「精密検査って、具体的には何をするんですか?」
「CTによる3Dスキャンですね。骨折の経過と内臓機器の状態確認を行います。」
一夏の質問に、即座に答える保険医。
少し、つっけんどんな態度の彼女に、一夏はこれ以上の会話は意味がないと悟り、黙して後を着いていくのみにした。
ほんの少し、空気の重たさを一夏は感じていた。余り関わりの無かった保険医の教師と共に居るからか、時間と廊下が妙に長いようは錯覚に陥る。
「……一夏、妙に静かすぎないか?」
車椅子にのったままのドゥレムが、気まずくも感じていた沈黙を切り裂いた。
一夏も「助かった」と内心呟きながら、ドゥレムに説明する。
「さっきも説明したけど、今IS学園の生徒数は相当数減ってる。残った生徒でも、大半がまだそれぞれの家族と話し合ってる最中だ。この土日を使って、話をつけに行ってるんだよ。」
「なるほどな……。」
と、短い会話の後に診察室に到着する。一夏はここで別れて自室に戻ると言い、二人は互いに「また今度」と挨拶をし、一夏は日が入らず、少し薄暗い廊下を再び歩き始めた。
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「結果だけ先に言えば、彼の経過は順調に回復しています。」
職員室で、千冬は保険医である諏訪 倫子からの報告を受けていた。
まずは一安心と、千冬は張っていた肩の力を抜く。
「回復速度はかなり速いですね。このままもう一週間もすれば、おそらく全快すると見られます。」
「……かなり速いな。確か当初の診療では全治2ヶ月じゃなかったか?」
諏訪の報告に、訝しげに思い千冬が問う。
最初に彼が医療部に担ぎ込まれた際、検査と治療の末に全治2ヶ月と言い渡された。
確かに、検査の結果不審な点が見られた。身体構造と体組織の約99%は人類と同一とされたが、残りの1%は解析不能であるとされたのだ。不明であるにしても、それを鑑みた上での、完治2ヶ月という話だった。
が、そこまでの大幅な時間短縮となれば、異常とも言える回復速度となる。生物としてそんな超回復はありえるのか?千冬の疑問は真っ当であった。
「最初の治療の際に報告した通り、彼の体で体組織1%が未知の部分でした。しかし、先程の検査ではその1%が検出されず100%、人類と同一の個体と言えます。おそらく、あの1%は彼の身体が傷付いた際に反応する免疫力。もしくは、モンスターとしての細胞なのでしょう。それが現在の体の治癒力を活性化させ、結果的に回復の短時間化に繋がっているのではないかと考えています。」
「……専門外だから、私には良く分からないのだが、そういった細胞や体組織は変化するものなのか?」
「万能細胞と言われる物以外、原則的にまずあり得ないです。あえて言うなら老化、また代謝の活性化や薬物の投与による若返りなどは観察されていますが、今回の場合は細胞が、全くの別物へ変化しているのでそれとは根本的に違うでしょう。まぁ、これは彼が自由に人間の姿と、モンスターの姿を行き来できていますので、今更驚くべきことでもないのですが……。ただ……」
諏訪が言い淀む。千冬は、彼女の言わんとすることは分かっていた。
テオ・テスカトル襲来の一日前、国連の調査団が鏖魔ディアブロスの死体の回収に失敗したと彼女達は聞いている。しかし、謎の生物郡であるモンスターへの対抗手段を得るには、モンスターの情報が不可欠である。
「ドゥレムのカルテ。下手をすれば身柄の引き渡しを要求してくるか……。」
「可能性は十分あります。以前でしたら、対モンスターの対抗手段であると言い訳も出来ました。それはモンスターが出現する亀裂が、IS学園上空に存在していたからです。が、現状亀裂は世界に四ヶ所。もし国連に彼の身柄を要求された場合、私達に彼を守る手段も大義名分もない状態です。当分は、彼のカルテを送付しておけば満足するでしょうが、モンスターへの脅威が増せばいずれ……。」
話を聞いていた千冬は、思わず頭を抱えたくなっていた。どうにかして、解決策を見出ださなければいけないと頭を回す。
『私は、空の亀裂を閉ざす方法と、二度と開かないように封印する方法を心得ているからね。アフターケアもバッチリなのですよ!』
一夏達が聞いたという、束の言葉を思い出した。出来るならば、今すぐそれを行いたいとさえ、千冬は考えてしまう。
しかし、それをすれば結局ドゥレムはただでは済まない。彼女の玩具にされて終わりだと、千冬は頭を振る。
「結局、私達で頑張るしかないか。」
千冬の溜息と共に吐き出された呟きに、諏訪は頷くことで答え、再び口を開く。
「幸い、人類では現状モンスターへの決定的な効果の見込める兵器も模索中で、切り札であるドゥレム君を解剖するなんてことは、束博士以外には思っても実行しようとする人間はまだいないでしょう。」
諏訪の言うことは事実である。現状、束の言葉が真実だとすれば、彼女以外でモンスターへの決定打を持つ人類はいない。と、なればドゥレムは数少ないモンスターへの対抗手段。みすみすそれを手離すことはしないだろ。
当然。今後の状況の如何では、そんな前提は気泡と化すのだが、まだ対処は間に合う問題のハズだ。
「……とにかく、ドゥレムには一刻も早く完治するよう治療に専念してもらおう。これからの情勢次第で状況は変わる、自分の身は自分で守ってもらうことになりそうだ。」
「ええ、それは私達人類にも言えることです。彼の力に頼らなくとも、私達だけでモンスターと戦えるようにならなければ。」
諏訪の言葉に千冬は頷いて答える。少し、目線を外に向ければ、茜色に空は染まっていた。一番星が煌めき、もう少しすれば、今日という日も終わる。不意に、職員室の一室からピアノの旋律が響く。誰かが忘れていった携帯が、着信を報せているのだ。
「……ショパン。誰かは知りませんが、良い趣味ですね。」
「あぁ。」
二人は軽く言葉を交わし、もの悲しい。しかし美しい旋律を奏でる別れの曲に耳を傾けながら、茜色の光が差し込む職員室で、暗い夜に飲まれていく空へ瞳を奪われていた。
別れの曲。
俺凄い好きなんです。哀しい曲だけど、後悔や贖罪に激しくぐちゃぐちゃにされて、でもその先に繋がる穏やかな悟り。
今回の章でそれなりに使うワードになると予定なんで、良かったら頭の片隅にでも置いておいて下さい。