ISー天廊の番竜ー   作:晴れの日

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遅くなりました!
日常会ですが、どうぞお楽しみ下さい!


第四話:料理

 シャルル、ラウラの両名がIS学園に編入してから一ヶ月と少しが過ぎていた。例年通りならば、IS学園ではトーナメント形式の学校全体の模擬戦。ISトーナメントが行われているハズなのだが、今年は世界情勢、IS学園の立場的な見地から開催を見送られてしまっていた。

 しかし、世界的に見れば大きな動きがあった。まず、現在世界の四ヶ所、エジプト、太平洋、中国そしてロシアに存在し続けるモンスターである。

 エジプト、中国の砂漠を縄張りとしたテオ・テスカトル、ラオシャンロンの二頭が、自身の縄張りにある亀裂から出身する別のモンスターを討伐するのが発見された。相変わらずその二頭は、人類側から手を出さない限りには、縄張りから出ようともしないという事で、現在は副次的な防衛機構としての役割をなしている。

 太平洋のラギアクルスは、時折環太平洋に接する国の潜水艦や、海上の船から発見されることはあるが、率先して艦船を襲うことはないようである。一度だけ、太平洋上の油田基地が襲撃され、壊滅的な被害を被る事件があったが、ラギアクルスが何を目的にして油田基地を襲ったのかは不明であり、現在調査中である。

 一番問題なのは、ロシアのモスクワを中心に活動していると見られるディスフィロアであろう。この1ヶ月間一度として止むことの無い吹雪に閉ざされたモスクワの奪還作戦として、ロシア軍による三度の攻略作戦の(ことごと)くが失敗に終わっている。生存者は数える程度しか報告されていない。だが、その生存者と後衛拠点として吹雪の領域に侵入していない人員に限られ、領域内に侵入した者に関して言えば、その人数は0である。

 また新たに発覚したことなのだが、ディスフィロアの影響下であろう吹雪の範囲が、1日約10cmの割合で拡大しているらしい。このまま拡大を続けるならば、緩やかだが、しかし確実にロシアの地は、ディスフィロアの影響下に変化してしまうと見られる。現在国連では、対ディスフィロアの対策会議が連日行われていた。

 

『ディスフィロアが、目下人類最大の脅威であることは明らかである。』

 

 ロシアの臨時外務省大臣が発言をしている。あの国は、首都を突然奪われたために政治家の半数以上を失うことになり、軍部を中心に新たな国家元首、内閣大臣を選定しモスクワ奪還を目指し、日夜奮戦していた。

 一夏は、学生寮の自室のテレビで、国連速報のニュースを見ている。ルームメイトのシャルルは部屋にはいない。休日ではあるが、彼女は図書室に用があるのだと言って、朝一に部屋を後にしたのだ。

 写し出されるニュースは、やはり四体のモンスターをどうするかという話。特にロシアとディスフィロアの問題は深刻だった。

 幸いと言えるのか、ロシアと国連各国の関係は摩擦し、即刻ディスフィロアを討伐したいロシアと、あくまで慎重に事を運びたい国連とで、不安な空気が流れ始めている。この事から、ディスフィロア討伐の依頼が他国やIS学園にまで流れ込むことは無いだろうと、姉である千冬は口にしていた。しかし、それは彼の国の人々がイタズラに消耗するだけであるとも言える。

 彼には、それが胸の奥で(しこり)となってつっかえていた。

 

 コンコン

 

 不意に扉がノックされる。

 誰かと疑問に思いつつ、「はい」と答えながら彼はTVの前から腰を上げる。部屋の玄関の戸を開けると、ほんの少し頬を朱に染めた鈴が立っていた。

 

「鈴。どうした?」

 

「いや、ちょっとお昼で作った麻婆茄子が多すぎちゃって……持ってきたんだけど、食べる?」

 

 彼女の手には、可愛らしい熊の絵があしらわれた手拭いに包まれた、おそらくタッパーが握られていた。それが麻婆茄子なのだろう。一夏は「あぁ、助かるよ!とりあえず、入るか?」と鈴から麻婆茄子を受け取りながら答える。彼女もそれに二つ返事で答え、一夏に促されるまま部屋の中にお邪魔した。

 

「とりあえず適当に座ってたくれ、鈴はもう昼飯食べてきたのか?」

 

「うぅん、作ってすぐに来たから。」

 

「じゃぁ直ぐにもう1品なんか作るから、ちょっと待ってて。」

 

 一夏は、自室に備え付けられた簡素なキッチンに入り、何か料理を始める。キッチンから室内の様子を見ることは、視界的には叶わない。それにTVは点けたままだったため、声を荒げたロシア臨時外務省大臣の声が、相変わらず煩く鳴り続けている。

 

「一夏のベッド……。」

 

 二つあるベッドの内、廊下側のベッドに腰を下ろした鈴は、それが一夏のベッドであると知っていた。というのも、以前、まだ学園に箒がいた時に、箒と一夏の合い室を交換しないかと交渉(鈴にとっては)を持ちかけた際、二人の荷物の配置からどちらが一夏のベッドかを把握していたのだ。

 

「……。っ」

 

 少しならと甘い誘惑に負けて、彼女は布団に身を沈める。染み付いた一夏の臭いが、鈴の鼻腔をくすぐる。

 自身の顔が紅潮していくのが分かった。それでも、彼女はこの布団に、体を埋めることを止められなかった。まるでそれは、一夏に自分の体を包まれているような。そんな多幸感を、彼女に与えてくれた。

 ふと視界を上にずらせば、ソコには枕もあった。流石にそれは不味いと、鈴も自制心が働き掛ける。しかし、あぁそれでも、と枕に手が延びる。背徳感が、彼女の背筋をゾクゾクと撫で上げる。それがより彼女を興奮させ、その行動を過激にさせていく。

 

「りぃ~ん!」

 

「っ⁉な、何!」

 

 急に声を投げ掛けられ、鈴はビクリと体をおこしキッチンのある方へ眼を向ける。そこに彼の姿はなく、どうやらまだ作業中のようだ。

 ひとまず、彼女は「ほっ」と胸を撫で下ろした。もし見られていたらと思うと、鈴からしては肝を冷やす思いだった。咄嗟に、良い感じの言い訳は思い付かないだろう。そもそも状況が状況だ。言い訳する余地すらなかった。

 

「ごめん、廊下側のベッドの下に。折り畳み式のテーブルあるから、引っ張り出して、」

 

 言われた通り、一夏のベッドの下に手を入れれば、簡素な折り畳み式で、たたまれた足が着いた1m四方程度のテーブルが出てくる。重量は見た目に反してかなり軽く、たたんであった足を立たせてあげれば、十分な高さを持ったテーブルに早変わりする。

 

「ほいお待たせ。」

 

 そう言って一夏が持ってきたのは、大皿に移した麻婆茄子と、レタスと玉ねぎを中心にしたサラダ。彩りとしてミニトマトやコーン、プルトンが転がりシーザードレッシングが視覚的にも食欲を誘った。

 

「冷蔵庫の中に、中華に合う食材が無くてなぁ…シーザーサラダですまないけど我慢してくれ。後ご飯は?」

 

「大丈夫よ、気にしないわ。ご飯も頂戴。結構お腹すいてるみたいだから。」

 

「はいよ。」

 

 答えた一夏は、シーザーサラダをテーブルに置いて再びキッチンに戻っていく。その間に、鈴は部屋に備え付けられた、勉強机の椅子を2つ引っ張り出して、食事の用意をしていく。

 

「んじゃ、食べるか。」

 

 ご飯と箸を持ってきた一夏が席について、鈴にお椀の片方と箸を渡す。そして両手を合わせ、「いただきます」と口にする。鈴も慌てて一夏に続く。

 

「うん旨い。鈴、また腕を上げたか。」

 

 一夏は麻婆茄子を口に含み、感嘆を口にする。

 彼女はそれを聞き、「ふふん」と自慢気に笑って見せた。

 

「そうでしょう。私の酢豚、春雨スープに並ぶ自信作だもの!……あれ?このドレッシングってもしかして手作り?」

 

 一夏の用意したシーザーサラダを口にした鈴。が、そのドレッシングが、市販のものよりもほんの少しだけ薄味だったことに気が付く。

 

「お、よく分かったな。試しに油分を減らしたドレッシング作ってみたんだけど、やっぱり薄い?」

 

「ちょっとだけね。でも味は出てるし、私は大丈夫よ。シーザードレッシングって、オリーブオイルとチーズ……これはニンニクの風味?」

 

「そう、後は若干の塩コショウと隠し味のレモン汁で作るんだけど、もう少しチーズは増やしても良かったかもな。」

 

 二人は料理の話で盛り上がる。共通の話題と言えば、二人は料理であった。それは中学の時から、もう一人の友人で定食屋の長男だった五反田弾を含めた話のネタ。新しいレシピを見付けては、三人で試しに作り、食べて意見交換してまた作る。それが妙に楽しくて、三人は毎週の土日のどちらかは、その時からほとんど独り暮らしになっていた一夏の家に集まって、料理を楽しんだ。

 そんな、昔の空気を懐かしんだ一夏は不意にまた、三人で料理がしたい。そう考えてしまっていた。しかしそれを口に出すことはしない。どうしても昔を思い出せば、中学の時鈴が両親の離婚を機に中国に帰ることになったと言った、あの日を思い出してしまうから。

 

『毎日酢豚を食べさせてあげる!』

 

 当時、鈴の得意料理筆頭であった酢豚。以前は誤魔化しはしたが、一夏はその言葉に隠された意味を理解していた。正確には弾が一夏に教えたのだが、少なくとも、鈴がIS学園に転入して来たあの時、その約束の行き違いで彼女と揉めた時、一夏はその言葉のニュアンスを十分に理解できていた。

 その上で誤魔化したのだ。

 一夏は、どうしてもそうしなければならなかったのだ。だからこそ、その罪悪感で当時の話題を一夏は出せずにいたのだ。

 

「……五反田達は、元気かな。」

 

 だが鈴も一夏同様、中学時代を懐かしんでいた。彼女はどこか遠くに目線を投げ、過去を懐かしんでいる。

 

「ねぇ。今度また一夏の家で料理しましょう。弾と蘭も誘って!」

 

 蘭とは、五反田蘭。弾の妹で、一夏達の一つ下になる活発な女の子だ。

 

「……そうだな。」

 

 努めて平静を装い、一夏は笑みを浮かべながら鈴に答える。

 ぐっと押し込めた罪悪感、果たしてその罪悪感の原因はなんなのか。今はまだ、一夏しか知らない胸の蟠りとなっていた。

 

「そういえば、ドゥレムは料理とか興味あるのかしら。」

 

「ドゥレム?……どうだろう……基本好奇心旺盛だから、多分誘えば乗ってくると思うよ。」

 

 不意な話題変えだったが、一夏は内心助かったと呟いていた。

 

「そうね。でも、なんか肉ざっと焼いて、塩コショウかけて完成。なんて言いそうなイメージあるなぁ。」

 

「いやぁ、あれでアイツ以外と几帳面だから教えてやればしっかりやるぞ、多分。」

 

 二人の会話は盛り上がる。セシリアの絶望的なサンドイッチはどうやって味付けしているのか、シャルルは家庭料理とか得意そうだなだとか、ラウラは軍用レーションで済ましているのではないかとか、佐山先輩は料理得意そうなイメージがある。と、他人の話で盛り上がる。

 そうやって、とりとめもない日常が今日は過ぎていく。年相応の少年少女として、平和な時間を過ごしていた。

 

 とにかく、二人はセシリアに対する料理教室は開こうと約束したことは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 紺碧と白銀が出合った。

 すなわちドゥレムとラウラである。

 ドゥレムは、暇をもて余したランニングの途中なのだが、困惑していたのはラウラの方である。本国から、ドゥレムを観察し、あわよくば戦闘データを採取して、本国の対大型生物戦データに活用するのために活動していた彼女は、いずれ本人と接触することも視野にはいれていた。だがそれは今ではない。より多く、彼のデータを獲得し有利に交渉を行えるようにしてから行うのが本来の予定であった。が、それはドゥレムの気まぐれで見事に気泡に帰してしまった。

 彼女も彼女だ、急に何の気なしにマックスコーヒーが飲みたくなってしまい。学生寮の中にある自販機はマックスコーヒーが置いてなく、近場の自販機では売り切れ、仕方なく校舎のマックスコーヒーが置いてある自販機に向かおうとしていた。ラウラは心の中でマックスコーヒーに恨み言を呟くが、今度からマックスコーヒーは、箱で買うようにしようと決意した。

 

「き、貴様がドゥレムディラか。」

 

「えぇと。一夏達と同じクラスのラウラだったか?」

 

 互いに言葉を交わすのは、これが初めてだった。ドゥレムは、彼女を目の前にし「思ったより小さいな」と感想を抱き、ラウラも「近くで見ると、かなり筋肉質だな」等とどこか緊張感のない感想を抱いていた。

 さて、どうしたものか。

 努めて顔に出さないようにしているが、ラウラの内心は焦りに焦っていた。いや、冷静であればそれなりに自己紹介して、平然と過ぎ去れば良い。内心パニックの彼女は功を焦った。

 

「貴様の戦闘データが欲しい!」

 

「良いぞ?」

 

 しかし、彼は何の気なしに二つ返事で了承する。

 自分が口走った言葉に、『しまったぁ!』と内心発狂していたラウラは、その彼の返事を正しく飲み込むのに時間を要した。

 

「ん?……い、良いのか?」

 

「あぁ、俺は問題ないが……具体的に何をすれば良い?」

 

「え?あっ、そうだな……。とりあえず、貴様の能力を見せて欲しい。具体的にはモンスターの姿の際の運動能力に、冷気を操ると聞いた。その詳細なデータが欲しい。」

 

「なるほど。……俺は一向に構わないが、千冬の許可がいるだろうな。」

 

 そうなるだろうな、とラウラも想像していた。しかし彼女を説得するとなると、ラウラ一人では難しい。

 いや難しいの次元の話ではないだろう。門前払いが関の山。しかし、だがしかし大義名分を作れれば良い。それにはドゥレムの協力が不可避である。

 

「その件は、私に策がある。それには貴様にも協力して欲しい。」

 

「なるほど……そうだな、じゃぁ交換条件を出そう。」

 

 ふと、何かを思い付いたドゥレムは、どことなく底意地の悪い笑顔を浮かべている。ラウラも元より彼の趣旨趣向を調べて、あくまで対等な交換条件を用意するつもりだったので、大抵のことは用意できるつもりでいる。

 

「一夏に、最終的に謝罪するために1日行動を共にしてもらおう。」

 

「……な…に?」

 

 しかしドゥレムが口にしたのは、彼女の想像の範疇をかるく斜め上に突き抜けたものだった。

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