今回はまた新モンスターが登場します。そして初の対古龍戦です、楽しんで頂ければ幸いです。
エジプトのテオ・テスカトルが、大規模な移動をしたとの一報は世界中をただちに駆け巡った。
彼の国では緊急スクランブルが発令され、エジプト空軍や駐屯していた国連軍が無人戦闘機四機で追撃したが、目標はこれを撃墜。更にエジプトムートから南西に飛行した結果、テオ・テスカトルの発する熱波によって、人的被害は二千万人を越えると見られている。現在、テオ・テスカトルの消息は不明。世界中で厳戒態勢が敷かれる事態になっていた。
また、泣きっ面に蜂と言わんばかりに、テオ・テスカトルが去ったムート上空の亀裂から、新たに一体のモンスターが出現。モンスターは、第一宇宙速度(地球の重力から逃れられる速度、人工衛星の打ち上げ時の速度などが当たる。約秒速七,九km)で瞬時に成層圏まで上昇し、欧州のドイツ領山中に降下。周辺の集落、生態系に甚大な被害を発生させているとの事だ。
この事にEU、及び周辺ヨーロッパ諸国は緊急対策案として、各々の国家代表、代表候補生を召集。新たに出現したモンスター、『バルファルク』に対して徹底攻勢を決断した。また国連を通して、IS学園に対してスペシャルアドバイザーの立場を用意し、対モンスター戦において最も経験のある織斑 一夏と、最終戦力としてドゥレムの二名の参集を要請。一夏、ドゥレムの両名はこれを快諾。ここまでが、バルファルク討伐作戦当日三日前の出来事である。
「バルファルク……古龍種。高い飛行能力を持ち、瞬時に音速を越えることが可能か……これは、本当に生物なのか?」
ラウラの疑問は最もである。バルファルクは、通常の飛行生物と異なった外観をしている。特に翼が顕著であろう。鳥のような羽が生えているわけではなく、今までのモンスターのように、コウモリなどに見られる翼膜があるわけでもない。異常に鋭い翼爪と、両翼あわせて六本の翼爪に空いた噴出孔。驚くべき事に、バルファルクはその噴出孔から『龍気』と呼ばれる赤い炎のような物を排出し、その反作用で空を駆けているのだ。まるで、ロケットのような話だが、バルファルクはそれを生体器官として獲得している。通常の進化ではあり得ないと、一夏からバルファルクの説明を聞いた全員が感じていた。
現在ドイツ領にて、対バルファルク戦の総指揮を執る司令所が設けられた山中の軍事基地に向かって、参集を要請された一夏とドゥレム。母国の命令で、本作戦への参加が決定されていた、セシリア、シャルロット、ラウラに加え、本人の希望により参加した鈴音。そして彼女達のリーダーとして同行している楯無の七人のIS学園部隊。更に、生徒の監督役として、織斑 千冬の合計八人が、ドイツ陸軍兵士の操縦する輸送用ヘリコプターに搭乗し、件の基地へと向かっている。
三十分程の空の旅の後、目的地であるドイツ空軍の特殊訓練施設基地へと降り立つ。ヘリポートではラウラの直接の部下でもある、ドイツ空軍IS特務部隊『シュバルツァ・ハーゼ』所属のクラリッサ・ハルフォースが、八人を敬礼しながら出迎えた。
「ボーディヴィッヒ少佐、並びにIS学園の方々。ご足労頂き感謝いたします。長旅でお疲れの事とは思いますが、事態に急激な変化が起きました。心苦しいのですが、先にミーティングルームの方へ。」
開口一番、クラリッサは当初の予定である自室への案内をすっ飛ばし、ミーティングルームへと八人を通そうとする。「詳しい話は歩きながら」と言えば、足早に基地施設の建物へと足を進める。
「まず、バルファルクによるものと思われる被害の発生件数…先日までのデータでこれ程です。」
IS学園部隊とした参加する生徒達を纏める千冬に、タブレットを手渡しながら、クラリッサは足の早さを緩めずに口にする。
「……痛々しいな。」
「はい。現在も被害は増加するばかりです。防衛のためにこの三日間、我々は相応の戦力を浪費してしまいました。」
千冬が確認するタブレットの情報には、これまでのバルファルクによる被害が事細かに記載されていた。貪食なのか、バルファルクは周辺の集落を襲い、家畜は勿論、人間をも捕食被害に合っている。当然、ドイツ軍や周辺諸国も無抵抗でいたわけはなく。バルファルクの行動に、受動的ではあるが迅速に対応してきた。しかしバルファルクの圧倒的な攻撃性と機動力の前に、悪戯に戦力を浪費していたのが現実である。
だが度重なる防衛戦で見えた、バルファルクの弱点とも言うべき特徴もあった。
「織斑や更識の言うとおりだな。飛行限界時間が存在するのか……。」
「えぇ。ある程度の長時間飛行や、最高速飛行を続けると、着陸して外気を取り入れるようです。無人戦闘機や超長距離誘導ミサイルでは、その隙を畳み掛ける事が難しかったですが、ISならば可能と見られるます。」
「作戦はどうなっている?」
千冬の言葉に、タブレットをスワイプするように促すクラリッサ。それに従えば、戦力一覧と作戦内容が記載されていた。
空中戦力
無人戦闘機…百五十機
IS…計三十機
陸上戦力
無人戦車隊…百五十台
超長距離誘導ミサイルシステム…四十基
・作戦概要
無人兵器郡による牽制。目標の飛行限界まで物量を持って圧迫。着陸し外気の吸引に入った所をISにより集中砲火。足止めをした目標に対し、長距離からの無人戦車隊による追撃を行い目標を破壊する。
作戦概要に、千冬は頷く。彼女自身も、作戦行動内容は同じように考えていた。
だが、気になったのはIS戦力に学園部隊の数字が反映されていなかった点だ。クラリッサに訊ねると、彼女はちらりとラウラを一瞥する。だが直ぐに千冬へと向き直すと、彼女に耳打ちするように顔を近づける。
「学園部隊には、後方待機が命じられています。目標の未確認能力や、不足の事態に直ぐさま対応できるようにするため。とのことですが、本作戦の総指揮官であるリットー少将は子供が前線に出ることを良しとしなかったのです。ですが、貴女方を信頼していない訳ではありません。リットー少将は人情派として知られている人物であるため、ラウラ隊長達の身を考えての判断だとご理解して頂きたい。」
「なるほど……。しかし、対モンスター戦はIS同士の戦いとは訳が違う。我々も共に前線に出た方がより効果的だと思いますが?」
あえて直球では言わないのは、千冬の優しさか。だが、その言葉のニュアンスには、モンスター戦は未経験者だけでは荷が重いと暗に語っている。実際、油断できないは事実だ。モンスターの技は多彩であると、これまでの経験で千冬はいたいほどに理解していた。特に一夏が相対したライゼクスはその良い例だろう。多彩な電撃攻撃に加えての肉弾戦。決して一筋縄ではいかないのがモンスターだ。慢心や油断は大きな危険を招く恐れがある。常に最善手を打ち、あらゆる事態に警戒すべきなのだ。
「ええ、ミス織斑の仰りたい事は十分に理解できます。だからこそ、貴女方をこの基地に招いたのですから。ここは作戦領域からISであれば五分で到着出来る地点です。いざという時には、速急に駆けつけることが出来るでしょう。我々も、これ以上不用意な犠牲は出したくないのです。」
念押しはした。したが、千冬自身の立場もIS学園部隊指揮官であるため、総指揮官の命令には従わざるをえない。千冬は、クラリッサの言葉に小さく頷いて話を切り上げた。
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クラリッサは、ドゥレム達が到着した際に「事態が急変した」と語っていた。その言葉の通りの状況が、目標を移す大型ディスプレイに写し出されていた。
長距離飛行ドローンが撮影しているバルファルクは、悶え苦しむようにのたうち回っり、吐瀉物を吐き出し続けていた。
「十分程前から、目標は突然嘔吐を繰り返すようになりました。それから時折現在のように体を山肌に打ち付けるように転がり回り、苦しんでいる素振りを見せます。既に確認されている中で四回の嘔吐を行っています。」
「毒物か?」
千冬は即座に疑問を口にするが、クラリッサは首を振って答える。
「不明です。吐瀉物を検査すれば何かしら分かるかも知れませんが、目標が既存の生命体でないため、未知のウイルスの可能性もあるとして作戦終了後に即座な焼却処分が決定しています。ただ、目標が登場するというゲームで、似たような症状がある場合。何かしらの情報提供をお願いしたい。」
千冬は、モンスターハンターを知る一夏と楯無へとその眼差しを向ける。二人は互いに視線を交わすと楯無が頷き立ち上がる。
「結論から言えば、そのような病的症状を私達は知りません。ただ、ゲームに『ウイルス』という事で登場する物であれば、一つ心当たりがあります。」
『狂竜症ウイルス』。楯無が説明したのは、ゴア・マガラやシャガル・マガラと呼ばれるモンスターが振り撒くとされる未知のウイルス。モンスターやハンターを活性化させたり、侵したりする謎の物質。『ウイルス』と呼ばれてはいるが、その正体はゲーム内でも不明とされている。
「狂竜症ウイルスに感染したモンスターは、一定以上のダメージを受け、生命維持が困難になった際に活性化し凶暴性が増します。
「つまり、正体は分からないということだな?」
「はい。」
千冬は、顎に手を当てて考え込む。ドゥレムや、長くこちらの世界に滞在しているテオ・テスカトルにラオシャンロン(ラギアクルスは現在消息不明で、ディスフィロアは観測不能であるため除外)に似た症状が発現していないのを観るに、こちらの世界の病原菌や感染症が原因とは考えづらい。であれば何が原因か?バルファルクと、他のモンスターの違いは何かを思案する。
「……分からない。というのならば、この機会を活かすしか我々には道はありません。目標が弱っている今こそが、作戦開始の時だと私は考えます。」
ラウラの発言は最もであり、現状の最適解に思えた。
「同感だ。バルファルクを楽に無力化出来る絶好の機会じゃないか?」
次いで一夏も口を開く。
反対意見は無いようだった。しかし、しかしと千冬は胸の中で何かが引っ掛かる。彼女の勘が、今の流れに待ったを掛けている。
「ドゥレムはどう考える?」
千冬から出た言葉は、先程から黙ってモニターを凝視しているドゥレムへ向けられた。彼は、モニターに写るバルファルクから視線を外し彼女を見据える。千冬だけではない、全員が彼へと視線を集めていた。
「…何にせよ、反応が遅れれば取り返しのつかないことになると思う。……確証はないが、あれはただ苦しんでいるわけじゃない気がする。何かがあるような……漠然とした意見で悪いが。俺は今すぐにでも攻撃を開始するべきだと考える。」
「そうか……。ハルフォース少尉。作戦を開始しよう。我々は不足の事態に備え、この基地で待機すれば良いのだな?」
意を決した千冬の言葉に、名前を呼ばれたクラリッサは頷き答える。
「ハイ。IS学園部隊の皆さんと我々、シュバルツァ・ハーゼ隊は当基地にて待機。予備戦力であり、緊急時に対応するために戦闘レベルは高めた状態を維持して頂きたい。」
「了解した。」
ブリーフィングが完了し、クラリッサは総指揮官であるリットー少将へと先程の内容を伝える。不足の事態が発生する可能性は極めて高い。最大限の警戒を維持して、作戦に当たるよう、総指揮官から作戦参加の全体に向けられ発信された。
一夏は、自身の右腕に嵌められた白い手甲。白式の待機状態を撫でる。日本を発つギリギリのタイミングで、倉持技研から返却された白式だが、特にこれといった変化は見てとれなかった。だが、一夏は妙な感覚を白式から感じていた。
「どうしたの一夏?」
声を掛けられ視線をずらせば、鈴音が少し心配そうな表情で、一夏に視線を送っていた。
「まだ、白式変な感じがする?」
一夏は日本を発つ前に、彼女にそれとなく話していたのだ。白式から何か違和感を感じると。
「あぁ。なんだろうコレ……。」
あまり気になるようなら、千冬に相談すべきだと言う鈴の意見は最もだった。だが、悪い感覚ではないのも事実であり、一夏は悩んでいたのだ。それにもう、作戦開始時刻へと迫っていた。
今、一夏達IS学園生徒とドゥレムの七人は、先程までと同じ、バルファルクが写しだされたモニターのある小会議室にて待機している。千冬は、クラリッサと共に指揮管制室にてリットー少将の元で作戦の動向を見守る。一夏達と指揮管制室で連絡の手段は確立されているのは、モニターに中継されているバルファルクの映像で何か気付いたことが有った際、即座に報告をする場合や、緊急の出動を円滑に伝えるためだ。
『織斑、更識聞こえるか?』
「はい、大丈夫です。」
と、通信機から不意に千冬の声が届く。七人が掛けているテーブルの中央に置かれたマイクを介して、楯無が千冬の呼び掛けに答えると。『通信には問題は無いようだな』とスピーカーから再び声がする。
『バルファルクの攻撃行動をもう一度確認しよう。説明を頼む。』
千冬の要望に答えるため、一夏が口を開く。バルファルクがモンスターハンター内で行う攻撃行動を口頭で並べていく。基本が高速の体当たりや爪や牙、翼による格闘戦。遠距離攻撃としては龍気噴出孔からの炎弾といった行動を並べていく。他にも、自分達でも知らない行動をする可能性についても触れ、十分な注意をして作戦に望むようにも釘を指す。
千冬が一夏の説明に満足し明朗快活な声で、作戦開始二分前を告げる。
やがて一分も切り、秒読みへ入る。
そして、時間が訪れる。
『作戦開始!』
千冬のものではない男の声が響く。リットー少将の掛け声に答えるように、一夏達が眺めるディスプレイに写るバルファルクへ向かい、最初の十発の誘導ミサイルが発射された。
ミサイルは空に白い軌跡を残し、次々とのたうち回るバルファルクへと殺到する。だが、直撃の瞬間にバルファルクは飛翔。七発のミサイルが地面に直撃し、山肌を吹き飛ばした。バルファルクの動きに対応した残り三発のミサイルが、目標を追い掛けて軌道を変える。当然、バルファルクもミサイルから逃れるために加速。当然だが、第一宇宙速度まで到達できる生物に対して、誘導ミサイルで追い付けるハズがない。それでも、相当な速度のドッグファイトとなる。バルファルクの体力は確実に削られていくだろう。
不意に噴出孔の火が消える。次の瞬間六つの炎弾が、迫るミサイルを迎撃して見せた。だが、この対応も当然想定している。幾度かの衝突で、バルファルクも人類の兵器を理解したが、人間もバルファルクの行動を理解したのだ。高高度で待機していた無人戦闘機郡が降下し、バルファルクへと肉薄する。再び、音速越えの近距離戦を仕掛けようというのだ。バルファルクは、迫る戦闘機に気が付き再加速。瞬時に空気の壁を突き破り、音速の世界で飛行を続ける。
無人戦闘機でさえ、置いていかれそうなバルファルクの速度だが、そこは数でカバーするのが今回の作戦だ。垂直上昇で無人戦闘機を引き離そうとするバルファルクだが、高度四千m手前で、待機していた他の無人戦闘機の編隊に挟撃される形になってしまった。機関砲や小型のミサイルを器用に避けながら、なんとか挟み撃ちの形を脱したバルファルク。しかし、そんな彼への追い討ちとして、地表からの誘導ミサイルが迫っていた。正に息も吐かせぬ攻撃とはこの事で、バルファルクの体力は確実に削れているはずである。
だがそこは流石、モンスターの中でも別格の扱いを受ける、『古龍種』に名を刻むものである。避けながら、かわしながらで無人戦闘機や誘導ミサイルを次々に撃墜していくその様は、天を自由自在に駆ける流星の如くである。
五分、十分、三十分と長く長く続けられたドッグファイトは、無人戦闘機損害百四十八機、消費した誘導ミサイル八十六発目にして
だが八kmの距離は、ISのハイパーセンサーによる観測可能領域を越えているため、一機のISで正確に狙撃することは不可能に近い。重力、風、雲塊等のあらゆる不安要素を加味すれば、それは完全に不可能な荒業となる。しかしそれが二機となり、補助の一機が全エネルギーを観測、演算に当てることが出来れば話が変わる。並のスーパーコンピュータを越える演算機能を持つISならば、零%の命中率を、五十%まで底上げすることが出来る。では残り五十%はどうするか?そのために、高解像度長距離観測光演算外部システムを外付けしているのだ。ラファール・リヴァイブ装着者の頭部をすっぽりと覆ったユニットは、最大十kmの望遠を可能とする単眼カメラを内蔵し、大きく後頭部へ伸び、IS二機分ほどのサイズを持つ演算システムが、ISの演算をサポート。射手に対して正確な射撃位置、タイミングを知らせるのだ。
では、高度八kmからの狙撃を行う超長距離狙撃用攻撃パックとはどういった兵装なのか。単純に言えば、外付けされた大口径レールガンである。ラファール・リヴァイブの右肩部を改修し、銃身約三mと特大なサイズに加え、超大型バッテリーが右肩部の後方に取り付けられている。それに加えて弾倉が銃身の上部方向にのびているため、単純なサイズ、重量で言えば現行最大のIS武装の一つである。
整列したIS部隊による十五の砲門は、寸分違わずにバルファルクへと鉄の雨を降らせる。それは山肌をも削り、地表に膨大な土煙を上がらせ、舞い上がった土砂がバルファルクの姿を隠した。
「全弾命中を確認‼」
管制官が吠える。喝采が管制室に響いた。誰もが必殺の一撃を疑わなかった。いくらモンスターと言えども、秒速七kmで飛来する二十kgの質量と、十五kgの火薬の雨の直撃では生きていられるハズがないと。
事実。並のモンスター、今まで人類が討伐できたモンスターならば、今の一撃で相当な痛手を負わせられるだう。だが、バルファルクは並みではない。再三になるが、モンスターの中でも別格の扱いを受ける『古龍種』に、バルファルクはその名を刻んでいる。モンスターハンターの世界でも、伝説や、おとぎ話に登場するような正真正銘の化け物の一角なのだ。それは、立ち上がる土煙を切り裂くように伸びた、六本の赤い柱が物語っていた。
バルファルクの咆哮は、天高く響き渡った。
はい。バルファルクの登場でした。
そして、オリジナル新種(形態)です。そういった物を毛嫌いする方もいるかもしれませんが、バルファルクの変貌にも理由があるので、出来れば気にして頂ければ幸いです。
ではまた、次回でお会いしましょう