ISー天廊の番竜ー   作:晴れの日

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お待たせしました。文字通り、今年最後に投稿です。
そして今回、一夏が覚醒(?)します!どうぞお楽しみに


第十話:変異

 

 「ゴォッオオオオォォォ‼‼」

 

 黒く、硬質的な光沢を放っていたバルファルクの体表は、融解し赤熱した鉄のような赤に染め上げられていた。

 管制室は当然、この不足の事態に上へ下へと混乱していた。それは、別室で待機していた一夏達も同じだ。見た事のないバルファルクの変化に、一夏と楯無は言葉を失い、他の面々は攻撃の直撃を受けたバルファルクが、未だに活動していることに戦々恐々としていた。

 そんな中、ドゥレムは本能的な悪寒を覚えていた。赤いバルファルクに対する驚異を、彼は明確に感じ取ったのだ。

 

「戦車隊!攻撃開始!」

 

 一番早くに冷静さを取り戻したのは、リットー少将だった。いや、初めから彼は、取り乱してなどいなかった。前もって告げられていたからだ、『想定外の事態もありうる』と。彼はあらゆる事態を想定した。当然、モンスターハンターについての知識も、三日間の内に出来うる限り頭に叩き込んだ。では何故彼だけが、平静を失わずに早急な指示が下せたのか。ひとえに、知識に依存しなかったためだ。蓄えた知識を過信せず、頼らず、あらゆる現場の事態を想定し、想像し、検証した。

 齢六十を過ぎたばかりの彼の脳は、全くの衰えを見せず、膨大なシュミレーションをその脳内で行ったのだ。ではこの事態もシュミレーションしたのか?答えはイエスだ。突拍子もないこの現象を、彼はその可能性もあると想定していた。その脳の回転力こそが、名将と謂われる由縁だろう。

 管制室で手の動きが止まっていた一同は、リットー少将の一声で現実に戻り無人戦車隊の操作が再開され、炎の爪を展開したバルファルクへと砲弾が殺到する。

 赤く染まったバルファルクが、爆炎に飲まれる。次々と戦車から放たれた砲弾が、バルファルクへ直撃し炎が巻き起こる。だが、爆炎の中でも天に伸びる六本の炎の爪が、目標の健在を知らしめる。

 

ボッ

 

 瞬間、バルファルクは戦車隊のただ中に現れる。

 

 いつの間に?

 

 そんな疑問は無駄な思案だと言わんばかりに、遅れて戦車隊を吹き飛ばす衝撃波。バルファルクは、砲弾の嵐の中から瞬時に音速を越えてで飛び出し、戦車隊の元へと飛んできたのだ。空中へ投げ出されたり、引っくり返ったりした戦車が十両。そして振り回された炎の爪により、戦車隊の損害は僅か十秒足らずで五十両を越えた。三つに分けられた戦車隊の内の一班がこれで全滅したことになる。

 

「オォオォオ‼」

 

 咆哮が響き渡り、バルファルクの炎の爪が伸びる。ぐんぐんと伸びていくその爪は、五百mもの長さとなる。

 バルファルクは、大空を見上げる。その先にいるIS部隊を見据えるように。高度八kmの先にいるISは、バルファルクの視力をもってしても、正確に認識することは不可能だった。だが先の攻撃と、向けられている生の殺気を、バルファルクは鋭敏に感じ取っていたのだ。

 

「IS部隊に追加武装をパージさせろ!目標が飛んでくるぞ!」

 

 管制室で千冬が叫ぶ。リットー少将も許可を出し、管制官から現場のIS部隊へと指示が伝達される。直後。バルファルクが大量の土砂を撒き散らしながら飛翔。六つの尾を牽く赤い流星と化し、成層圏にいるIS部隊へと迫る。

 追加武装を外したIS部隊が散開し、バルファルクの迎撃体制へと移る。先程までのレールキャノンに比べ、攻撃力のかなり落ちた状態だが、動きの制限が外れ、機動力も向上している。更に、待ち構えるのはヨーロッパ諸国の国家代表や各国軍人の中でも選りすぐりのエリート達であり、忠告を受けて万全の覚悟をしてきた者達だ。

 だが変化したバルファルクは、彼女達の想像を越えるものだった。まずその機動力。最高速度は変わらないのだが、加速が尋常ではないのだ。初速が既に音速を越え、こと近距離戦では視界から一瞬で消えてしまうほどだ。更に、炎の爪。簡易計測で四千℃を越えている熱量と、六本がバラバラに動き回る器用かつ隙のない攻防一体の武器。そして何よりも問題なのは、バルファルクの体表温度だった。弾丸を撃てば、体表に当たる直前には溶けて硬性を失い、ミサイルはバルファルクに近付いただけで起爆してしまい、直撃は困難を極める。その体温は、軽く二千℃を越えていた。ここまで高温であれば、近付いただけでISが、パイロットを守るためにシールドエネルギーを消費する。

 正に炎の鎧と剣である。このままでは、IS部隊に被害が出るのは火を見るより明らかであると云える。

 

「IS部隊を退却させろ、現状の装備ではドッグファイトは不利だ。」

 

 リットー少将は、あくまで冷静に命令を告げた。彼女達は、即座に行動を開始する。十五機の二組に別れ、それぞれ最大速度でバルファルクから離れるために動く。二班が逆方向に駆けていった為に、バルファルクは一瞬、別々の方向に逃れるIS部隊を目で追ってしまう。その結果、ほんの少しだが減速する。

 だが、バルファルクは即座に両方の翼を動かし、長大に伸びた炎の爪でIS部隊へと攻撃する。六本の爪が六機のISへと迫る。だが彼女達もプロだ。どんなに速い攻撃と言えども、その軌道が直線であれば避けるのは容易だった。更にその一瞬で、部隊員はバルファルクの間合いから離れる。

 しかし彼我の速度は圧倒的だ。直ぐ様に間合いを詰め、炎の爪が襲い掛かる。並のISパイロットならばこの攻防の内に墜とされているだろう。ヨーロッパ全土から集められたエースの称号は伊達ではないと称賛するべきか、彼女達は装備したアサルトライフルで牽制しながら攻撃を紙一重で回避していく。だが、掠めていく炎の爪の高温は、直撃を避けてもISのシールドエネルギーを削り取っていく。いずれは限界が来るのは、分かりきっている。

 

「リットー少将。ドゥレムの前線投入を進言します。」

 

 それを理解したからこそ、千冬は形勢を傾かせるための一手を、ドゥレムにかける。

 事実、現状前線戦力では決定打に欠けていた。銃弾は届かず、直撃してもその鱗や甲殻に弾かれる。だが敵の攻撃は一方的に此方を削っていく。持久戦が悪手だとは想像に難くない。

 

「うむ。ドゥレムディラを中心にIS学園部隊、並びにシュバルツァ・ハーゼにより混成攻撃部隊の出撃を許可する。」

 

 彼の言葉を受け、千冬は直ぐ様声高らかに宣言した。

『バルファルクを討伐せよ』

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

 タイミングを逸してしまった。

 一夏は、問題なく展開できた白式に身を包みながら思い返す。白式が提供するデータには、これといった問題点は見受けられない。違和感は思い過ごしだったのだろうか?だが、現在進行形で違和感を抱いてしまっているのを鑑みれば、それは違うと結論する。この違和感は真実であり、思い違いなどではないと断言できた。

 

「会敵‼」

 

 先行していたシュバルツァ・ハーゼの隊員の声が響く。その瞬間に、一夏の意識は現実に戻り、彼等よりもよりも低い高度で飛行していたドゥレムディラが飛び出した。

 

「ガァアァァァ‼‼」

 

 咆哮と同時に、ドゥレムディラが氷の楔をマシンガンのように撃ち出す。当然、バルファルクの熱量は直撃の前に氷柱(つらら)を溶かし尽くすが、その蒸気は目標の視界を遮った。

 白い煙に包まれたバルファルクは、最高速度で突っ込んできたドゥレムディラの体当たりに直撃する。視界を奪い、自分に意識を集中させることでIS部隊の撤退をよりスムーズにさせたのだ。当然、飛来する鉛玉さえ溶かす熱量を持つモンスターだ、接近戦などしてしまえばただでは済まない。だが、対抗するようにドゥレムディラは、自らを包むように冷気を放出し続け、その熱気を緩和していた。そのせいで、二体は白い蒸気の尾を牽くように、山肌へと落ちていく。

 

「射撃開始!」

 

 楯無の号令に倣い、一夏以外の全員が自らの射撃武装でバルファルクへと引き金を弾く。

 ドゥレムディラが、バルファルクの体温を奪い、ソコに一斉照射を仕掛ける。そしてダメージを与えたところで一夏が零落白夜の一太刀で止めを刺すのが作戦だった。一夏は、いつでも零楽白夜を起動できる状態にしたまま、待機していた。だから分かったのだろうか、六本伸びていた炎の爪が、一本を残し消えていたことに。

 マズイ

 と思った頃には遅かった。約一kmを越えた極超、極太の炎の爪が、バルファルクを中心に円を描いて周囲を凪ぎ払った。

 

「グッ⁉」

 

 ドゥレムディラが炎の爪に引き裂かれる。正面が全体的に重度の火傷を負ったのが、遠目でも理解できた。

 

「うわっ⁉」

「っ‼」

 

 更にシュバルツァ・ハーゼの隊員と、シャルロットが炎の爪の直撃を受けてしまった。

 

「シャル!ドゥレム!」

 

 思わず声をあげる一夏。だが、三名は共に無事だったが、シャルロットと隊員は、シールドエネルギーがかなり削られてしまった様だ。

 

「二人とも一時下がれ!」

 

 ラウラが叫び、それに答えて両名はバルファルクから距離を取る。が、それをウィークポイントと見たのか、六本に戻った炎の爪を携え、バルファルクが瞬時に加速し、シャルロットと隊員へと迫った。直ぐに対応できたのはセシリアだった。武装を換装していたブルーティアーズのビット兵器から、バルファルクの直線上に閃光弾が発射され、目標の視力と聴力を一時的に奪う。自身の速度の制御が出来なくなったバルファルクは、いまだ緑が生い茂っていた山肌に頭から墜落した。バルファルクの熱気によって発火した木々が、瞬く間にその範囲を広げていく。焦土と化して行く森の中を、一夏が空中から、ドゥレムディラが超低高度から突っ込んでいく。今だ、今こそが絶好のチャンスだと一夏は確信した。

 バルファルクの口腔が、キラリと輝いたように見えた。油断はなかった。だが、一夏がその閃きを認識した時には、最早白式と一夏の反応で間に合うものではなかった。

 

 ボッ。

 

 

 

 

 

 気がつけば、一夏は地面に倒れ伏していた。前方一面が火の海に染まり、後方の景色は白い雪に包まれている。その境界に丁度、一夏は倒れていたようだった。

 何があったのかを思い出そうとする前に、一夏は仲間達を探した。空にはいない。燃え盛る炎から立ち込める黒い煙だけが、空の景色を奪っていた。地上は?一夏の直ぐ近くには誰もいない。いや、炎燃え盛る森の中に倒れている鈴が見えた。一夏は急いで駆け寄る。何故鈴だけがソコで倒れているのか、他の皆はどうなったのか?ドゥレムは?バルファルクは?

 

「りっ……!」

 

 彼女の名前を呼ぼうとしたところで気が付く。彼女には欠けていた。黒く焦げた木の太い幹の影に隠れていたハズの下半身が、ソコには無く、肉の焦げた臭いが一夏の鼻孔を擽った。

 

「あ、あ、アァァアァアアア‼‼」

 

 一夏は鈴に駆け寄り、その体を抱き上げようと手を伸ばす。だが、一夏が触れた瞬間には、鈴だった物が炭のように崩れ去った。

 

「このままじゃ、こうなるよ?」

 

 不意に声を掛けられ、一夏は怠慢な動きで振り替える。白銀の雪の世界で、白い少女と少女を背に乗せたライゼクスがソコにいた。

 

「守るなら、より力を。護るなら、より速さを。衛なら、より高みへ。」

 

 少女の言葉に答えるように、ライゼクスが吠える。一夏にとって、少女が何者で、ライゼクスが何故ここで登場するのか、その程度は些末な問題だった。こんな現実は認めない。守るんだ。俺の手で。鈴を護る。仲間を衛る。その為に、手を伸ばした。

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 鈴は、極太の熱線に飲み込まれそうになる一夏を目の前にし、彼の元へと翔んだ。間に合う距離でも間合いでもないが、彼女は無我夢中だったのだ。

 その彼女の目の前で、緑雷が立ち上った。空に向かい、雷鳴が響いたのだ。次の瞬間には、極太の熱線が二つに引き裂かれていた。

 

 

 

『コード:ライゼクス起動確認』

規格外移行(エクステンドシフト)完了』

『システムクリア』

『白式:霹靂の通常起動完了しました』

 

 視界の隅に浮かぶ文字列が持つ意味を、一夏は正しく理解できてはいなかった。だが、一つ確実に云えるのは、この力の名が『霹靂』であるということのみで、彼にはそれで十分だった。

 

 他者から見れば、白式の変容は些か常識外れのものだった。翼状のブースターユニットは生物的な見た目となり、白い装甲に黄緑色に輝くラインが目立つ。見れば、そのラインは全身に走っており、稲妻のような印象を与える。更に長い尻尾のようなユニットが背中の中程から延びており、おおよそ白式二機分の長さを誇っている。最も著しい変化は、その右腕だろう。ライゼクスの頭部を模したような追加装甲に、そのままライゼクスの鶏冠状の装置が付けられている。

 その鶏冠が展開され、緑に輝く発電機関が露出していた。バチバチと、緑色の閃光がスパークし、一夏の周囲を包む。先程の稲妻も、一夏によるものなのだと、状況証拠から鈴も理解できた。だが白式には既に、零落白夜という単一能力が発動しているハズだ。同一のISから、二つ以上の単一能力の発現など聞いたことも見たこともなかった。それがより、鈴を混乱させる。

 彼女だけではない。IS学園部隊、シュバルツァ・ハーゼの面々全てが、この事態に驚愕していた。第二移行の可能性は十分に考えられるだろう。だが、些かライゼクスに似すぎている。いや、模倣しているのは第三者の目から見ても明らかだった。

 が、そんな混乱など知らぬ存ぜぬと、視力と聴力を取り戻したバルファルクが、一夏に向かい飛び掛かる。知覚しきれない速度の強襲は、普段の一夏ならば御し切れはしないだろう。だが、今の一夏ならば、紅く輝く眸をした彼ならばそれを受け止められた。右手に掴んだ雪片弐型で、六本の炎の爪の内三本を受け止め、残り三本をドゥレムが地面から突出させた氷柱により阻む。一夏とドゥレムは、互いに視線が交わすと、コクりと頷き合い同時にバルファルクを吹き飛ばした。

 一夏は蹴りでドゥレムディラは尾による一撃で、バルファルクは焦土を転がって行く。

 間髪入れないとは正にこの事だろう。一夏は電光石火の速度でバルファルクへと迫り、雪片弐型で空高くカチ挙げる。姿勢を直す暇を与えないように、ドゥレムディラが空中をきりもみ回転するバルファルクへと襲い掛かり、その熱を奪うために絶対零度のブレスを浴びせる。高温と低温のぶつかり合いは、バルファルクの熱せられた甲殻を劣化させ、鱗には所々皹が走った。が、彼の勢いは衰えることもせず、六本の炎の爪を振りかざしドゥレムディラへと横一線に凪ぐ。しかし、その一撃がドゥレムディラに届くことはなかった。一夏が、左手に持ち変えた雪片弐型で受け止めたのだ。

 バチッ‼

 一夏の右手に緑雷が走る。彼はその右手をバルファルクに向けると、緑色の雷撃がバルファルクを襲った。絶対零度と雷撃の同時攻撃に、さしものバルファルクも明確なダメージを受けている。

 たまらずに、射線上から逃れたバルファルク。だが、その先を狙い打つのはセシリアだった。貫通力の優れた特殊弾頭は、戦車の装甲を粉砕し、軍艦にさえ大穴を開けることが出来る程の攻撃力を持つ。更に、今彼女が手にしているのは、AK-47ISカスタムではなく、佐山 現、倉持技研主導で新規設計された新型狙撃銃。対モンスター用ライフル試作型、『丙一式』である。口径は21mmとISに置いては標準的な規格なのに対し、十四種類(鋭意開発中)の専用特殊弾頭により、人やISに向けるには些か大仰な攻撃力を獲得している。また現発案の内部機構は、既存のIS用スナイパーライフルよりも、二割ほど初速が上昇しており、結果的に攻撃力も増加したと言える。

 さて、そんな丙一式から放たれた貫通弾は、ほんの少し目論見がずれていた。セシリアの予測では、ヘッドショットのつもりだったのだが、コンマ数秒の遅れで弾丸は、バルファルクの腹部を貫通していた。それでも弾丸の持つ衝撃と、速度。足すことのセシリアの練度による威力は、絶大である。

 更に、硬い外殻に守られたバルファルクの内部構造は柔らかいため、内蔵機関へのダメージは相応のもだ。故に、悲痛な叫びが轟くのも当然であろう。そして、その隙を逃すほどに今の一夏は寛容ではなかった。

 

「お前をぉっ‼」

 

 右手に緑雷の剣を作り出し、一気に加速した一夏は、空中で体をくの字に曲げたバルファルクへと迫る。

 今、この時の間にこのバルファルクを討伐しなければ、あの幻影が現実の物となる。一夏は、それを認めることが出来なかった。故に抗い、足掻き、殺すのだ。自らの仲間を傷付ける『敵』を、一切の躊躇も許容もなく、ただただ殺す。『まもる』という事に執着した、不退転の刃として今、バルファルクの体を緑雷の剣と、雪片弐型をもって切り裂かんとする。

 

「グォオォオヲオヲオヲ‼」

 

 が、バルファルクも大人しく狩られる器にあらず。二本の炎の爪で器用に一夏の刃を防ぎ、反転。一瞬の間合いを開けば、ほぼ0距離での二つの炎弾を叩き付けた。灼熱の攻撃は、白式のシールドエネルギーを大幅に削り取って見せる。

 巻き起こった炎の塊により、視界を遮られてしまった一夏に、バルファルクはすかさずに炎の爪を降り下ろす。妨げたのはドゥレムディラだった。意識が完全に一夏に向いていたバルファルクは、後ろから近付くドゥレムの存在に気が付けなかった。尾を噛まれ、そのまま力ずくで振り回し、地面に叩き付けるように投げ飛ばした。

 

バシャァン!

 

 水音が響く。バルファルクは、かなりの大きさの水溜まりに投げられたのだ。だが、その水は普通のものとは明らかに違う。何故なら、バルファルクの四肢に絡み付き、その体を拘束している。

 想定外の事態に、バルファルクは混乱していた。この水は、楯無の霧隠れの淑女(ミステリアス・レディ)のナノマシンによるものであった。ほんの一瞬、五秒足らずの拘束だったが、一夏にはそれで十分だった。彼は右手の緑雷の剣と、左手の雪片弐型を重ねる。雪片弐型は、刀身に緑雷が走る一振りの刀と化す。電光石火で間合いを詰めていく。

 が、ギリギリで拘束を逃れたバルファルクは、六本の炎の爪全てを防御に回す。

 上段に構え、脳天へ降り下ろす構えを取っていた一夏に対して、完全な防御姿勢を取っている。

 ここで、バルファルクは初めて知る事になる。過去現在全IS中、トップの切れ味を持つ刃の威力を。構えていた雪片弐型の刃が、瞬く間に変形していく。青白い光子の刃に、高出力の緑雷が駆け走るその刃は、

 

『零落白夜:雷光』

 

 白式が提示した、新たな零落白夜は、何の抵抗もなく炎の爪を斬り裂いた。

 鮮血が舞う。だが、以前のライゼクスのように、外傷は見てとれない。

 一夏は、バルファルクの鋭い眼光と視線が混じ合っていた。その瞳は澄んでいて、真っ直ぐに一夏を捉えていた。彼は、最期のこの刻に何を考えているのだろう。一夏が推し量るには、些か難解な瞳の色だった。

 紅く赤熱していたバルファルクの鎧が、徐々に煤の張り付いた黒に戻っていく。倒れそうになる四肢は、最期の力を振り絞って燃え盛る大地にしがみつく。足元にあった水のナノマシンは、既に蒸発していた。

 一度、一夏を一瞥する。上空のドゥレムディラを、そしてIS学園部隊、シュバルツァ・ハーゼの面々を。

 空を見上げる。黒い煙が立ち込めていたが、その先には、燦々と輝く太陽が見えた。

 

『オォオォオオオオォォォォォォォ…………‼』

 

 天へと放たれた咆哮は、僅かな残響を残して晴天の空へと溶けて行った。




お疲れ様でした。今回のは丁度良く切る場所が見付けられなかったのでこのままのサイズで投稿しましたが…読みづらかったらすいません。
では、よいお年を。
来年もよろしくお願いいたします!
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