ISー天廊の番竜ー   作:晴れの日

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新年、明けましておめでとう‼
前年は大変お世話になりました
今年ものんびりゆっくり投稿していきますので、どうぞお付き合い下さい。


第十一話:感謝

 バルファルクが青白い粒子になって霧散して行くのを、今作戦に参加した全員が確認した。長距離飛行ドローンからかなり離れてしまったために、シュバルツァ・ハーゼのISの内の一機のハイパーセンサー越しで各々がその一部始終を見守っていたのだ。当然バルファルクの最期に、一様に歓喜していた。リットー少将も、肩の荷が下りたと溜め息を吐く。唯一、内心穏やかでないのはこの場でただ一人。織斑 千冬のみであろう。その原因は彼女の実弟かつ、バルファルク討伐の功労者である織斑 一夏である。

 ISの第二移行だけならばさして問題ではない。だが、現在の一夏のIS。白式の変化は異常としか言えなかった。特に、装着者である一夏の光彩にまで影響していたその現象は、身内である千冬にとっては落ち着けるものではない。

 基本は、ほとんど白式と同じ純白の装甲だが、重なるように黄色や緑色の追加装甲が覆い、全身に走る黄色に光るラインが目立つ。その程度の変化ならば、彼女も別段気を揉みはしない。一夏の、淡く光る赤い瞳さえなければ、その第二移行をただ喜べていたかもしれないが、それが出来るほど、彼女は能天気ではなかった。

 当の本人は、空へと上って行くバルファルクの残子を、じっと見届けている。その隣にドゥレムディラが降り立ち、他の面々も次々と一夏の元に集まる。

 

「一夏……それ。」

 

 訊ねてきたのは鈴だった。一夏は、ちらりと鈴に視線を移す。優しげに微笑むが、その色が宿す何かを、鈴の本能が感じ取る。恐怖に近い感覚を、彼女は無意識に覚えていた。

 淡い紅に染まっていた瞳が、少しずつ元々の色に戻っていくのを、鈴は何も出来ずただただ見詰めていた。

 そして色が完全に戻ると同時に、一夏は全員の目の前で、糸の切れた人形のように生気無く倒れた。

 

 

 

 

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 帰還し、医務室に一夏を運んだ後に、全員に話があるとドゥレムは口にし、開口一番でこう言った。

 

「一夏を、二度とISに乗せるな。」

 

 鋭い眼差しで静かに、しかし全員に届く声音で告げた。セシリアが理由を訊ねる。

 

「理由は分からないが、白式の中にモンスターが居る。」

 

 ざわめく。ドゥレムが告げた言葉の衝撃は、全員の予想を軽く越えたものだったからだ。

 

「外見から分かるとは思うが、白式の中のモンスターはライゼクスだろう。白式の変化と共に表だって現れた。その影響はISだけでなく、装着者である一夏にまで及んでいる。」

 

「待って。確かに、白式の第二移行からその予測が出て来るのは分かるけど…なんでドゥレムは確信を持ってるの?」

 

 シャルロットの疑問は、正に皆が抱いたものを代弁していた。何故言い切れるのか、白式がただ模倣しただけという可能性も捨てきれないのに。

 

「…俺は、いや他の奴等もそうかもしれないが、モンスターの存在は独特の気配で分かるんだ。例えば、学園上空にティガレックスが現れた時も、俺は一番に気が付いただろう?そういう気配を、俺は白式が変わった瞬間の一夏から感じた。」

 

 不思議なほどに、ドゥレムの話を皆すんなりと飲み込んだ。普段ならば、突拍子もないと歯牙にも掛けないような話だが、新たな白式に包まれた一夏を思い返し、誰も非現実的だとはね除けられる話ではなかった。

 しん、と場の空気が静まった。ドゥレムが語ろうとしている物は、一夏の今後なのだと察した。故に、彼の次の言葉を待っていた。

 

「今回だけならば良い、まだ戻れたからな。だが今後は分からない。下手をしたら、一夏はモンスターから人間に、二度と戻れなくなるかもしれない。」

 

「そん…な……。」

 

 鈴が掠れたような呟きを放つが、その先は出ない。誰も何も言えなかった。特に鈴は、一夏から「違和感を感じる」と相談されていた。もっと強く言い、無理矢理にでも作戦開始前に、千冬の元へ連れていくべきだった。そう、自分を責めていた。当然だが、これは彼女の責任などでは断じて無い。自身の不調を感じていながらも、行動に移すことをしなかった彼自身の自業自得と言える。しかし、彼女にはその考え至ることは出来ないだろう。

 

「今後、一夏が白式にさえ乗らなければ、モンスター化はしないのか?」

 

「……すまない、断言は出来ない。だが、また白式があの状態になれば、再び一夏がモンスターに近付くのは間違い無い。せめて出来る手と言えば、一夏と白式を離すしかない。」

 

 千冬の問いに、ドゥレムは少し、申し訳なさそうな表情を見せつつも答える。だがやはり、彼は迷い無く答えてみせた。

 一夏と白式が見せた、新たな力。モンスターに対抗しうる切り札と成りうるポテンシャルを、皆が感じていた。実際、先の戦闘で見せた機動力と攻撃力は、既存のISと別格の能力を見せ付け、バルファルクを討伐して見せたのだ。

 人類にとって、ここでその戦力を切り捨てるのは、かなりの痛手と言える。だが、ここにいる全員は違った。一夏が人でなくなる可能性を示唆されれば、誰一人として、彼のこれ以上の前線参加を望みはしなかった。

 

「……俺が伝えたかったことはそれだけだ……。一夏の友人として、俺はアイツに人間でいて欲しい。コッチ側ではなく、ソッチ側にいて欲しいんだ。」

 

 ドゥレムは、真摯な瞳で千冬を見詰める。彼女は、黙して頷く。

 到底信じることは難しい話だった。荒唐無稽と切り捨てるには、とても容易い内容と言えた。それでも、千冬の脳裏に過る紅い瞳の一夏を思い返せば、ドゥレムの語った話も納得できる点があった。同じ気持ちでいたからこそ、彼と同じ意見だったのだ。だが、

 

「俺は、戦い続けるぞ。」

 

 不意に声がする。ベッドに横たわる一夏が、千冬を見詰めていた。

 

「一夏……。」

 

 鈴の呟きに答えるように、彼はゆっくりと体を起こす。特に苦もなく起きて見せるが、その表情はどこか暗い。しかし覚悟を決めた色だった。

 

「俺は戦う、皆を守りたいから。」

 

「ですが一夏さん…。それでは貴方は……。」

 

 言葉の詰まるセシリアは、自らで一夏のモンスター化を口に出来なかった。彼を思っていたからだろう。本気で好いていたからこそ、人間ではなくなってしまうなどとは口にはしたくなかったのだ。

 

「分かってる。それでも、俺は守るって決めたから。」

 

 自分の右手を見詰める一夏。その手は、幻影の中でライゼクスと少女に向けて伸ばした手だ。

 代償の事は、確かに考えてなかった。それでも後悔はない。幻影で見た鈴を、現実のものにしなくて済んだ安心感が、今の一夏を包んでいたからだ。

 

「それは駄目だよ一夏!それじゃぁ……君が……。」

 

 シャルロットは彼の身を案じ、止めるための言葉を探す。

 

「そうだ。元々お前は、偶然ISに触れただけの一般人だったハズだ。そのような重荷を背負う必要はない。」

 

 次いで、ラウラも口にする。彼女もまた、彼を心配していたのだ。

 

「私も同意見ね。不確定要素である以上、下手をすれば貴方のモンスター化が進行した結果で、私達と敵対する可能性も考えられるわ。」

 

 楯無が、ピシャリと扇子を叩き一夏に告げた。一夏からすれば心外と言えるし、他の面々にとって見ても、彼はそのような人間ではないと言い切れる故に、彼女の言葉に反論する言葉を持ち合わせていた。それをあえて口にしないのは、楯無が一夏を思って言っているのだと分かっていたから。何故彼女がこんな言い回しをしたのかなど、一夏を知っている彼女達にとっては難なく悟ことが出来る。

 楯無は、一夏が最も望まない結末を口にしたのだ。態々憎まれ役を買って出たと言っても良い。ポーカーフェイスを崩さずに、それを堂々と行えるのは、生徒会長でありロシア国家代表であり、楯無の名を継いだ彼女だからこそ出来たことだろう。

 

「一夏……白式は私が預かる。」

 

 一夏が気が付いてから、沈黙を守ってきた千冬が口を開く。淡白な命令だったが、暗に反抗は許さない気迫と威圧が込められていた。

 

「千冬姉に言われても、それは従えない。これは俺の力だ。俺が、俺としての矜持の力だ。」

 

「違う、それはお前の力ではない。ISという外的要因により付与された力に過ぎない。」

 

 互いの視線が混じ合う。どちらも一歩も引かぬと、その眼差しは語っていた。

 

「一夏、今は従え。お前自身としても、新しい白式の正確な情報やその結果によるお前の体の変化は知らねばだろう。」

 

 一夏も、千冬の言葉には納得出来ることがあった。彼にとっても、白式:霹靂については知らないことが多い。故に、解析に同席し完了次第の即座の返却を条件としてならば、白式を一時千冬に預けても良いと語る。

 彼女も、それを了承し一夏から待機状態の白式を預かる。

 

 

 

 

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「ご協力、誠にありがとうございました。」

 

 IS学園の面々を送るために、クラリッサとリットー少将、更にシュバルツァ・ハーゼの面々が空港に集まっていた。

 白髪だが、背筋のピシッとした軍服の老紳士。彼がリットー少将なのだろうと、一夏達生徒は察する。

 クラリッサが敬礼をしながら、シュバルツァ・ハーゼを代表するように、皆に礼を告げた。

 

「私からも礼を言わせてくれ。諸君の協力があったからこそ、人的損害を被らずに済んだ。犠牲になってしまった人々の霊魂も、きっと慰められた事だろう。」

 

 リットー少将もクラリッサに続き、お礼の言葉を全員に告げる。不意に、彼はその視線をラウラに向ける。

 

「ボーデヴィッヒ君。」

 

「はっ!」

 

 姿勢を正し、手本のような気を付けで応じたラウラに、満足そうに頷いたリットー少将。

 

「学園生活を満喫したまえ。」

 

「…は。」

 

「ミス千冬、ボーデヴィッヒ君を宜しく頼む。」

 

 リットーの言葉に、千冬は頷くことで応じる。

 それ以上の言葉を交わすことはなかった。だが、ドゥレムや一夏達にとって、彼等が最後まで敬礼し見送ってくれたことは、確かに記憶に刻まれていた。

 

 

 

 

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「………そんな。」

 

 アフリカ大陸のとある国家、数十年に及ぶ内乱が続くこの国の地下に置いて。篠之乃 束が自身の親指の爪を噛むほどの、驚愕と苛立ちを覚えていた。

 彼女が見詰める。ディスプレイの先には、白式:霹靂の姿が映し出されていた。

 

「まさか、偶発的に?……いや、そんな可能性は……。」

 

 別のディスプレイを開く。ソコには一から八二四の数字の羅列が並び、その幾つかが黒く染まっていた。束は、黒く染まっている羅列の中から、IScore code 0001となっている欄を選択する。

 直ぐ様反応したディスプレイは、新たな情報を表示する。

 ソコには、『白式』と名前が浮かび、更に下には膨大な量の文字が浮かんでいる。

 

「規格外移行……コード:ライゼクス……霹靂。……まさか、本当に。」

 

「どうした?」

 

 一人、ディスプレイとにらめっこしていた束に向かって、不意に言葉を投げ掛けられるが、彼女は別段動揺した様子は見せない。

 

「いやね、自然発生でISがモンスターの情報をロードするのは、流石の束さんも予想外だったなぁって話。」

 

「……一夏ならばそれくらい、やってのけるさ。」

 

 少女は、それだけ言うと興味を無くしたのか暗闇に向かい踵を返す。

 束は「あはは、一途だねぇ」と答えながら、一度も少女に振り替えることなく、ディスプレイを操作し続ける。

 白式のページを閉じ、束はまた別のディスプレイへと視線を移す。次の画面には、各国で放映されているニュース番組が同時に流れながら、株価のリアルタイム表示等が凄まじい速度で流れていく。天災と呼ばれる彼女は、その全てを並列処理していく。片手間で株の売買を行って利益を算出し、同時にオーストラリアの、沖合いでラギアクルスの目撃情報があり、周辺海洋が全面進入禁止区域になったニュースなど。数多の情報を、彼女はその頭脳をもって混乱すること無く記憶していく。

 ニュースには、それ以外の特に目新しい情報はなく、株価は相変わらず、亀裂が発生した国家の物は次々と暴落を続けている。それを利用し、ここ数ヵ月で束は一千万近い収入を得ていた。これならば、彼女の長年の貯蓄と合わせれば、約千基近くのコアを新規造形出来るだろう。

 しかしそれをしないのは、彼女が現状の戦力でも自らの事業を成功させるのには、十分であると判断しているからだ。

 いやしかし、いまだ英雄事業を始めるにはまだ早いのも事実だ。だが、用意せねばならない準備は済ませてある。些か、手持ち無沙汰なのも事実であった。

 

「そうだ…!」

 

 まるで、イタズラを思い付いた子供のような、無邪気な表情を見せながら、彼女はまた別のディスプレイに繋がるコンソールを操作し始める。

 ソコには、何かISに近しい設計図が描かれていた。『睡蓮』と名付けられたその設計図には、規格外移行の文字も描かれていた。

 




そういえば、お気に入り登録者数が100名越えてました。
これも皆様の応援のお陰でございます。
読んで頂いた方々が、少しでも楽しかったと感じて下さるよう、これからも精進して参ります。
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