少しリアルが忙しく、投稿がかなり遅れてしまい申し訳ありません。
これからまた、ゆっくりですが投稿していきます。
相反する二つの力。最も分かりやすい例は、炎と氷だろう。どちらも、熱というエネルギーからなる現象。突き詰めれば、高い熱量と低い熱量によるものだ。プラスとマイナスのエネルギーを同時に使おうとすれば、結果として相殺し、0になってしまう。だが、仮にその二つの力を同時に行使できる存在がいるとしたらどうだろう?
プラスとマイナスではなく、0のエネルギーを使いこなすモンスター。熾凍龍と呼ばれた彼は、この見知らぬ世界に降り立ち、とある事に気が付いた。それは、モンスターが圧倒的に少ないことだ。しかも、自分が楽しめるような存在は三体ほどだろうか?なんとつまらない世界だろうか。
熾凍龍は、溜め息を溢し世界を塗り替える事にした。元いた場所で、ハンター達はなんと呼んでいただろうか?そうだ、《果ての地》だ。赤い大地に紅い空を持つ、この極寒の世界。それを《また》作ろう。この世界をそれに塗り替えるのだ。彼は、この世界に来たばかりの頃、そう考えた。こんなつまらない世界に価値はないと、勝手に滅びていけば良いと、そう考えた。
だが、それは今は違う。
やっと本気を出したのか?いや、まだ完全に力を出し切ってはいない。熾凍龍は、口角を挙げる。ラ・ロは悪巧みをしている。ドゥレムディラは相変わらず人間に味方する。世界が変わっても、彼等のやることは変わらないようだと、熾凍龍は笑うのだ。ならば自分も変わらずにいよう。《果ての地》から出て、強者を狩ろう。闘争を始めようじゃないか。
「ギュオォオオオオッ!」
熾凍龍が吼える。
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氷のステージと化したその舞台を前に、ドゥレムディラは氷付けになった睡蓮をその眼に捉えていた。作り物の体に、作り物の力。だが中身にモンスターの気配を感じとる。だが、こんな物に、もう用はない。彼は今一度羽ばたき、現を頼んだ病院へと急いだ。途中、一夏達が彼の名前を呼んだが振り向かず、ただひたすら飛ぶ。一分と経たずに病院の前に降り立ち、ドゥレムは座る。駐車場の中で紺碧の竜が一体、一人の少女を待つために降り立ったのだ。
そして、遅れて一夏達もドゥレムの元へやって来る。ISを解除して、病院の自動ドアを見詰めるドゥレムに、一夏が訊ねる。
「佐山先輩はここにいるのか?」
ドゥレムは、頷くことで肯定を示す。それを受けた三人は、シャルロットがドゥレムと共に残り、一夏とラウラが病院の中へ入っていくことになった。
「ドゥレム、ここじゃぁ他の人に迷惑だから……学園に戻ろう?」
シャルロットの言葉を、ドゥレムは正しく理解していた。ここは、人が利用する車という物を停めるのに必要な場所であり、自分がここにいては、車を停めることが出来ないということも。それでも、ドゥレムは首を横に振る。離れられる訳がなかった。現を案じ、今なお身を裂かれるような激痛に苛まれているのだ。少しでも彼女の近くにいたい。彼は、せめてもとそれを願った。
「でも、君はこのままじゃ……。」
シャルロットが言葉を続けようとした時、サイレンの音が町中に響き渡る。現れたのは、白と黒の自動車。パトカーだ。車から降りた警察官が、拳銃をドゥレムに向かって構える。
「そこのIS学園生徒離れなさい!」
婦警の叫びが響く。シャルロットは、これを警戒していたのだ。今、ドゥレムに向けられているのは、人間の警戒心、恐怖心。そして敵愾心だ。
学園から出てしまった。敵対者であろうとISを攻撃してしまった。その事実は、非常に重い現実となる。国が、国連がIS学園に対して付け入る隙を与えてしまったのだ。もし、彼を国連に引き渡したとしたら、彼が無事で済むなど、到底考えられなかった。
「ま、待って下さい!」
シャルロットは、警察官とドゥレムの間に割って入る。自らを盾にするように、両手を広げて警察官の射線に入る。
「そこをどくんだ!」
婦警の言葉に、彼女は首を横に降って答える。退くわけにはいかない。友を守るために、彼女はここを動くわけにはいかなかったのだ。
ドゥレムは、その様を横目で眺めていた。人に怯えられる。想像はしていたし、マスコミ達を助けた時にもそうだった。人間にとって、自分の姿はそんなにも恐ろしい物なのだろう。彼は改めて、目の前の病院の自動ドアに反射する自分の姿を見据える。人よりもずっと大きな体に、鉄よりも頑丈な紺碧の甲殻と鱗。虹彩がどこにあるのか分からない、赤と黄色の眼。翼を広げれば、より体は大きく見えるだろう。そして、人間と彼では生物としての強さが全く違う。怯えるのも無理はない。改めて考えれば、一夏がどこかおかしいのだ。人間の姿で、味方したとはいえ、警戒も恐怖も何もなく心を開けて自分と接するなど。
彼に着いてくる形で、沢山の仲間が友達が増えた。おしとやかなセシリア、天真爛漫な鈴音、確り者のシャルロット、根は優しいラウラ。そして現。護りたかった。護れなかった。
「………ぎ。」
牙が鳴った。後悔と自責に、苛まれて無意識に歯軋りをしていたのだ。しかし、それを敵意だと捉えてしまった警官は顔を青くしてよりシャルロットに強く呼び掛ける。
「どきなさい!さもなくば公務執行妨害で拘束する!」
一触即発とは、まさにこの事だ。シャルロットは退く気はさらさらないが、もはやここまでかとなかば諦めかけていた。
「ねぇ、お巡りさん。」
だが、予想だにしない第三者が現れる。マスクをしている男の子だ。病院から出てきた彼は、風邪でも引いているのか、顔を赤く上気させている。
「ドラゴンさんは、僕達を守ってくれたよ?」
純粋無垢な少年の言葉に、興奮状態だった警官の顔は、みるみる素面に戻っていき、シャルロットは想像だにしない助け船に呆気にとられていた。そして少年の言葉に呼応するように、いつの間にか集まっていた野次馬達から、同意の言葉が漏れ始める。気が付けばそれは全体に広がり、ここにいる誰もがドゥレムの味方になっていた。
シャルロットは、思わずその様を目の当たりにし、涙ぐむ。彼を認めてくれた。人間だろうとモンスターであろうと、この街の人々は迎え入れてくれたのだと知ったから。
「そんな事は分かってる!」
だが婦警が吠える。その顔からは恐怖が消え、職業警官としての矜持を抱き直した、市民を守る一人の戦士の顔だった。
「私達の仕事は皆さん市民を守ること……最悪の事態は何としてと避けねばならない!」
拳銃を構え直す婦警。その瞳には、ギラギラとした意志が宿っていた。彼女は初めから、自己満足でドゥレムに拳銃を向けていた訳ではない。市民を守らなれけばならないという使命感がそうさせているのだ。そのためならば、市民に恨まれても構わないという、若いながらも強固な意思でここに立っている。恐怖に揺らがなくなった今の彼女には、まったく隙はなかった。だがもう一人の男性の警官が、彼女の肩にそっと手を置く。
「そうだな。お前の言うとおりだ。」
彼は、拳銃をホルスターにしまっていた。
「鬼恫さん?」
「お前の言うとおりだよ、一ヶ谷。だからこうしよう。これからお前と俺であのモンスターを監視する。目標がここを離れるまでの間、俺達の責任の元で市民の皆様に被害が及ばないようにすることでも、この事態は解決できるんじゃないか?」
優しく諭すように、鬼恫と呼ばれた壮年の、男性警官は口にする。その言葉は、正に絶妙な折衷案に思えた。ドゥレムは、この場で一夏達を待ち、現の安否をいち早く知ることができる。そして、警官二人はその職務を全うすることも叶う。シャルロットは、これでこの危険な状況は解決すると、安堵していた。だが、
「いいえ、鬼恫さん。私達の下された命令を忘れましたか。」
一ヶ谷と呼ばれた婦警は、鬼恫の言葉に首を横に振った。シャルロットも「何故!」と叫びたかった気分だが、一ヶ谷の言葉を正確に聞き取れていたのだろう。敢えて黙する。
彼女は、下された命令と云った。これはつまり、警察にはモンスターに対する、もしくはドゥレムに対する何らかの指示がされているのだろう。それがどのような指示なのか、シャルロットは考える。だが、結論は存外早く出た。それは最悪な仮説が。
「まさか……ドゥレムを捕まえる気?」
シャルロットの言葉に、一ヶ谷が視線を彼女に動かす。
「一般市民の君には無関係な話だ。」
彼女の瞳から、ぞくりと冷たいものを感じたシャルロットは、思わず後退りしてしまう。
「家の生徒に何か用ですか?」
だが、ここで新たな救世主が現れる。山田麻耶、その人である。社交的な柔和な笑みを浮かべているが、その表情が普段のそれと、ほんの少しだけ違うとシャルロットは即座に理解した。
「IS学園教師ですか……そちらにも話は行っているハズですよね?」
「さぁなんの事でしょう。こちらも現在情報が錯綜しているので、なんの話だか……。」
一ヶ谷の問い掛けに、麻耶はワザとらしく惚けて見せた。シャルロットは、彼女に抱いた違和感の正体に気が付いた。彼女は怒っているのだ。
「ですが、例えどんな理由があろうととも、私達の生徒に日本国の警察が銃口を向ける。それがどんな結果を巻き起こすのか…貴方は理解していますか?」
麻耶は、普段とは違う静かな声で喋る。 それには、警告と威圧が込められている。だが、一ヶ谷も退くことはなかった。
「そちらこそ。情報の行き違いがあろうとも、越権行為は大きな問題となりますが?」
バチバチと、二人の間で火花が散る。
が、そんな時に一夏達が病院の自動ドアから出てくる。何事かと一瞬目を見開いた様子だが、直ぐにドゥレムとシャルロットの元へと走ってきた。
「佐山さんは?」
シャルロットの問い掛けに答えたのは、ラウラだった。
「いまだ危険な状態だ。状況は刻一刻と悪くなっている。」
ラウラの言葉は、決して心安らげるものではなかった。シャルロットは思わず「そんな……」と言葉に詰まってしまう。
「さっき学園先生達がやって来て、俺達とバトンタッチしたんだ。……ただ、学園の方もかなり混乱してるらしい。」
それもそうだろう。IS学園を、モンスターではなく正体不明のISが強襲してきたのだから。それが持つ意味は大きい。即ち、自分達が『人類の誰か』に狙われているという事なのだから。
「とりあえず、このままいるのは不味い。一旦俺達だけでも学園に戻るようにと先生がな……詳細は学園で話す。ドゥレムも、今は辛いだろうがどうか着いてきてくれ。」
ラウラが静かに告げる当然だが、ドゥレムはそれに従いたくなどなかった。現から少しでも離れたくなかった。だが、改めて周りを見渡す。一触即発の麻耶と一ヶ谷。静観をしている鬼恫。ドゥレムに味方しているが一ヶ谷の気迫に押されてしまった野次馬。確かに、自分がここにいるのは好ましくないのだろう。誰かに迷惑を掛けてしまう。だが、だが。
ドゥレムは葛藤する。「ウオォオオオッ!」そして吼えた。まるで遠吠えのようなその咆哮に、現へのエールを込めて。そして翼を開き空へと飛び立つ。向かう先はIS学園である。
一夏達は、麻耶に一言断ってからタクシーを拾ってIS学園へと向かう。
さて残された麻耶と一ヶ谷だが、麻耶は彼女が、飛び立つドゥレムを止めなかったことを意外に感じていた。
「私だって、あのモンスターが市民の敵でないことくらいは理解しています。」
ボソリと、構えていた拳銃をしまい、彼女は呟く。
「しかし、あれも私の職務です。……戻りましょう鬼恫さん。」
誰に聞かせるでもない、一ヶ谷の言葉を、麻耶は確かに聞き取っていた。
彼女はそそくさとパトカーに乗り込み。鬼恫は麻耶に会釈してから同じく乗り込んだ。麻耶は、そのパトカーが見えなくなるまで、そこから動きはしなかった。
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「ドゥレムを捕獲する?」
IS学園、学生寮。一夏の自室にて。シャルロットが小首を傾げる。到底無理な話に思えた。だが一夏とラウラの二人に代わり、現を見守っている教師から聞いた話では、日本国の狙いはドゥレムを拘束することらしい。
曰く。警察組織、および自衛隊にIS学園敷地内ではなく、日本国領地にドゥレムが緊急でない場合に侵入した場合。これを速やかに捕獲、拘束せよとの勅命が下っているらしい。教師が読む狙いとしては、日本国はこれを機に、無茶な維持費を消費し続けるIS学園を閉鎖し、対モンスター防衛システムをIS学園のある人工島に設置。そしてドゥレムを研究することで、対モンスター技術の輸出による利益を得ようとしているのではないかと見ているそうだ。
「教諭の予測の真偽は、いまだ情報不足ゆえ故に言及はしないが、ドゥレムを拘束する命令は実際に下っているようだな。」
「だから、あの一ヶ谷って婦警さんは、命令って言ってたんだね。」
シャルロットの言葉にラウラは頷いて答える。
「まぁ、あの後向こうも追ってこなかったの見るに、あの警察官二人とも、命令には乗り気じゃないみたいだけどな。」
次いで一夏が口を開き、あの二人の警察官を思い返す。それに、シャルロットも「確かに」と返す。鬼恫は最初から、そこまでのやる気は見せていなかった。一ヶ谷も、あくまで警察官としての職務を全うすることを意識していたように思える。そう考えると、あの二人は初めからドゥレムに対して危害を加える気はそこまで無かったように思えた。
「……間に合わなかった。」
だが、今まで押し黙っていたドゥレムが、ボソリと口を開く。
見れば、自身の両手に視線を落とし震えているようだった。
「……助けられなかった……俺は。俺は……。」
致命的なダメージだと、三人は一目で分かった。ドゥレムの責任ではないことなど、誰もが知っていた。しかし、彼だけは違う。人間の姿でなければ、最初からモンスターの体のままならば助けられたと、後悔の言葉ばかりが脳裏を支配している。
「そもそも、なんであの無人ISは予告時間前に攻撃してきたんだろう……あの予告そのものが罠?」
「いや、利点が見えない。そもそも、交渉のテーブルは向こうが用意したものだ。それを勝手に反故した。目的は一夏。向こうも規格外移行のような物をしていたのを見るに、白式・霹靂の威力偵察か……それにしては、いくらなんでも穴がありすぎる。……不足の事態が起きた。……そう考えるのが妥当か。」
シャルロットの疑問に、ラウラが仮説を挙げる。不足の事態の詳細がなんなのかまでは、流石に分かりはしなかったが、話として筋道の通った物に思えた。しかし、そうすると誰が何のためにそれをするのかが、一夏とシャルロット、ラウラの三人には分からなかった。しかしドゥレムだけは違う。
「不足の事態というのも、攻撃した場所。つまり佐山先輩のいた場所で何かがあったと予測できる。そして、佐山先輩のしていた事が不利益になる人物、組織が主犯か……」
ラウラの言葉に、一夏とシャルロットも唸って考える。だが、ボソリとドゥレムが口を開く。怒りを宿した瞳をして。
「篠ノ之束だ。」
三人が目を見開く。候補に無かったわけではない。むしろ束が主犯であれば規格外移行正体した不明のISにも納得できる。だが、それを認めたくないのが一夏の本音だった。何故なら、箒が側にいるから。確かに、束一人ならそれをやるだろう。しかし今は一人ではないはずなのだと、ドゥレムの言葉を、否定したかった。だが、彼女を知っているから。篠ノ之束という人物を知っているからこそ、それを否定することが、難しかった。
また、束にとっての不足の事態も予測できた。
「規格外移行の情報を、我々に渡したくなかった訳か。」
ラウラが呟く。
「そもそも、規格外移行って厳密にはなんなの?第二移行とは完全な別物なの?」
ついで、シャルロットが疑問を投げ掛ける。この疑問は、一夏とラウラを含め、誰もが抱いているものだった。
「……分かっている事は、白式・霹靂も、さっきのISもモンスターに由来していることだ。そして、中にモンスターが居る。」
答えたのはドゥレムだった。これは、以前にも聞いた話。であるために、驚きはない。
だが、とドゥレムが再び口を開く。
「睡蓮、だったか?あのISの中にいたモンスターは……ライゼクスのように、確りとした気配を感じなかった。……残りカスみたいな、そんな感じだったな。」
残りカス。ラウラは、その一言が妙に引っ掛かった。それこそが、規格外移行の某を解き明かす鍵となる気がしていた。
残りカス、残子、欠片。モンスター、空間の亀裂、ゲームのキャラクター。
ラウラは、頭の中でカチリと歯車が合うような感覚を覚えた。繋がったのだ。規格外移行の謎の一旦を解き明かしたのだと、彼女は目を見開く。
「モンスターという存在が、本当にゲームから現れたのだとしたら……。もし、そのゲームのデータを内包する体を持ち、死ぬことでデータの粒子になり霧散し、それをISが取り込んでいるのだとしたら……。」
現実的な仮説とは、到底思えなかった。だが、一夏はラウラの呟きに思い当たる節がある。血は出るのに傷口が出来ず、死ぬと青白い粒子になって霧散するモンスター達。そしてライゼクス討伐の際には、同時に限界に達した白式も霧散し、解け合うよう消えていったのを覚えている。その仮説が真実だとしたら、出現したモンスター達は即ち、仮初めの肉体を持つゲームのデータという事になる。しかし、一夏が口を開く。
「いや待った。そうすると、ドゥレムやロシアのディスフィロアみたいな、ゲームでも見たことないモンスターはどう説明するんだ?」
「む……確かに。投げやりではあるが、ゲーム内でも未確認だったとしか言いようがないな。確か、モンスターハンターはいまだにシリーズの続く人気作品で、新規モンスターも新作が出る度に発表されるとか。ドゥレムとディスフィロアもその手モンスターだとするしか、この仮説の疑問点を解く回答にはならない。」
ラウラが仮説を補強すると、次いでシャルロットも疑問を挙げる。
「仮に、その仮説が本当だとして篠ノ之博士は、何がしたいの?そんな事が私達に発覚したとしても、私達にはどうすることも出来ないのに。」
ラウラは腕を組み、再び唸る。確かにそれが分かったところで、束の不利益になるようなことは考え付かない。寧ろ今回の攻撃こそが、彼女にとっては不利益となる。今回の騒動におけるメリットは、皆無と言って良い。
だが、世界最高峰の天才である彼女が、そんな非合理的な行動をするだろうか。一夏は、しないだろうと考えた。確かに直情的で短絡的な行動を見せるときはあるが、それは彼女にとっては最も効率的な行動であり、結果的に彼女の目的達成のための最短ルートとなる。
「……答えが分かった所で、束のやったことを許容は出来ない。」
ドゥレムが呟く。
彼の瞳には、いまだ怒りの炎が灯っていた。現を思い、心を痛めているのだ。ラウラとシャルロットも同じ思いだった。仲間を、友を傷つけられて黙っているような、彼女達ではない。
だが一夏は、一夏だけは、束の元に居るハズの箒の身を案じていたのだった。