ISー天廊の番竜ー   作:晴れの日

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遅くなりました。申し訳ないぃぃ!!!!


第五話 激突

 この日もまた、ドゥレムは草村の中で寝転がっていた。しかし、胸のモヤモヤは取れずにこの一週間を過ごしていた。その間に、空の亀裂からモンスターが出現したことはないし、世間は変わらず平穏無事に過ごしていた。だが彼は、この一週間の内に一度たりとも箒と言葉を交わせては居なかった。ドゥレムから箒に何度声をかけようとしても、彼女は脱兎の如く逃げ出してしまう。それが余計に、彼をモヤモヤとさせていた。

 

「ん?」

 

 急に、ザワついた感覚に包まれる。

 本能が告げるのだ、何かが来る。何処から来るのかなど瞬時に理解した。上。空のあの亀裂からだとドゥレムは理解するやいなや、力を解放していく。自身がここにいる役目は、既に理解しているからだ、モンスターの排除。そのためにドゥレムは現れる敵に備えるために、その身を紺碧の氷が包んでいく。

 

 同時に上空では、空の亀裂から『ソレ』が少しづつ、その姿を表していく。敢えて形容するならば、それは虎と竜の合の子であった。原始的だが、確かな力強さを感じさせるその出で立ちは、強者としての圧倒的な存在感を纏っていた。それもそうであろう。この生物は、ティガレックスと呼ばれる種であり、先日現れたフルフルよりも、種としては食物連鎖の上位に君臨する存在である。その中でも現れたこの個体は、特に強い力を秘めている。

 

「グゥルルゥゥ。」

 

 翼を羽ばたかせ、周囲を見渡すティガレックス。ここが何処であるのか、困惑しているようにも見えるが、少なくとも今の今まで自分がいた場所ではないのだろうとは把握していた。ただ、眼下に広がる異様な景色は、まるで見たことのないそれだった。海は良い。見たことはある。山も、木々も見慣れたものと変わりない。だが、あれはなんだ。人里というのは数は少ないが遠目で見た覚えはある。しかしこれは規模が違いすぎる。異様に巨大で広い。まるで、自然を淘汰し自らが世界の絶対的支配者だとでも言うような大きさだ。

 ティガレックスの胸の奥から広がる怒りは、まるで理由の分からない正体不明の怒りだった。だが、自然に暮らす者にとって、その怒りは本能のソレに近い。自分のではない、自分達の縄張りが荒らされた。人というただ一種によって、世が乱された。彼にとってそれは許されざることなのだ。正義感等では決してない。元より縄張り意識の高い種故の怒り。大きく翼を羽ばたかせ、急降下を始める。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

「なぁ、箒。」

 

「…一夏か、どうした。」

 

 一限目が終わり、一年一組のクラスメイト達がせっせと次の授業の準備を進める中、一夏は箒に話しかけた。勿論ドゥレムの事に関してだ。

 

「謝れたのか?」

 

「…………………。」

 

 彼女は黙し、俯く。

 

「謝れたのか?」

 

「……まだだ。」

 

 頭を抱えたくなる衝動に駆られる。何とか彼女を説得し、謝罪する約束まで漕ぎ着けることは出来たが、腰の重い彼女はそこから一歩踏み出せずにいた。一夏は考える。場所を作り、そこに二人を呼び出すことは容易だ。しかし、果たしてそれで良いのだろうか。ここは箒自身が、自らの意思で足を踏み出すべきなのではないだろうか?いや、むしろそういった他人の心遣いや気遣いを受けてこなかったからこそ、こうした他人と距離を取り、人を避けるようになった可能性を考えれば、むしろ手助けをするべきなのだろうか?

 彼の悩みは、高一の青年らしからぬ悩みであった。故に、答えがでないのも年相応というか、当然の事と言えるかもしれない。だが、彼は懸命に、そして必死に悩んでいる。それが友のためになると信じて悩むのだ。

 

「………はぁ、今日の放課後教室で「ねぇ!あれ何! 」

 

 一夏の言葉を遮り、クラスメイトが悲鳴に近い声を挙げた。何事かと一夏と箒も、そして二人を遠くから見守っていたセシリアも、声を挙げた女子が指差す先、窓の外に目をやった。

 そこには、紺碧の巨大な氷が立っていた。一夏はそれに見覚えがある。間違いなく、ドゥレムが人間姿になったときにも、彼を包んだ氷である。ということはだ、一夏はそして察したセシリアも窓に身を身をのりだし、空に目をやる。

 

「いましたわ!」

 

 セシリアが指差す先には、まだ遠く小さいが確実に鳥でも飛行機でもない何かがいた。

 

「あ、あれティガレックスじゃないか!?」

 

 一夏の声に反応するように、クラスの中でモンスターハンターを知る何人かが、「本当だ」と同意していく。

 

『グゥォォォォ!!!!』

 

 氷が砕け、翼を広げたドゥレムがティガレックスに向かい飛び去っていく。一夏とセシリアは窓から飛び出し己の相棒を身に纏う。同時に、隣のクラスから鳳 鈴音も姿を表した。だが、ここで一夏は、すぐに動かず、一度振り向き「戻ってきたら、続きを話す」と箒に告げ空を駆けた。

 彼女は、何か答えることも出来ずに、彼の背中を見ることしか出来なかった。自分自身の幼稚さなど、彼女自らが一番よく知っていた。謝罪すらまともに出来ない自分。他の女と空を飛ぶ彼を妬む自分。それらを理解しているからこそ、彼女は自らを責める。自責という言葉は良く言ったものだ。だがしかし、どんなに自責しようとも、そこから先に進めなければ意味がない。そして、その自責が報われるかどうかは、周りの助けも確かに必要だが、根本的な部分は結局彼女自身で解決するしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

『良し、ではドゥレムディラと合流次第、お前達は上空敵への時間稼ぎを頼む。しかし、可能性は低いだろうが、あれもドゥレムディラの様に意思疎通が可能な場合もある。試しにコンタクトとってみてくれ。』

 

 千冬姉ならば、そのような指示はしないだろうと、一夏が考えるのは無理もない。上空でドゥレムと相対するティガレックスの目には、明確な敵意が宿っているのが分かっているのだから。あれはすでに、憎悪とも言える。そしてそれは的確でもある。ティガレックスの感情は正に灼熱しているのだから。

 

「轟オオオオオ!!!!!!」

 

 大気を震わせる咆哮は、十分に距離が離れているはずの一夏達にも響く。体の芯を震わせ、本能的な恐怖を思い出させる。

 

「っ!何よ、怯まないわよ!」

 

 勇ましく、鈴が答え加速する。一夏はそれを止めようと声が出掛けたその時、被せる様にセシリアの悲鳴にも似た大声で指示を飛ばす。

 

「支援致しますわ!背中はお任せになって!!」

 

 振り向いた一夏の目に写るセシリアは、ライフルを構え開幕の一射をティガレックスに撃ち放った。その目に、怯えを宿しながら。

 

「せ、セシリア!コンタクトをとらないと!」

 

「一夏さんも分かっておられるでしょう!?アレに言葉は通じませんわ!殺らなければ、殺られますわ!」

 

 言われずともである。だが、一夏には、圧倒的に認識的油断があったのは否めない。急がなくとも距離がある。命令を果たしてから戦えばよいと、甘く考えていたのだ。ゲームで幾度となく倒した相手だと、油断しているのだ。

 

「なっ!?二人とも行ったわよ!」

 

 ライフルのレーザーは直撃していた。しかし、その甲殻を、鱗を焦げ付かせることすら叶わない。だからと言って、ティガレックスに痛みが無いわけではない。距離がある?人からすればそうだろう。だがティガレックスからすれば、一呼吸の内に詰められる間合い。会話の内に距離は無くなり、鈴の言葉に反応して一夏が振り向いたときには、大きく口を開けたティガレックスの牙が眼前に迫っていた。

 

 死

 

 一夏は悲鳴を挙げもしない。いや、言葉が詰まっていたのだ。明確な消失の気配に飲み込まれ、意識がミシリとひび割れかけた。自身に迫る死という存在を前に、それを覚悟する間さえ無く。

 が、ドゥレムディラがそれをさせない。人の道理の外の速さには、同じ道理の竜の速さで対抗する。

 ティガレックスが、自身に迫る口腔に気が付いたのは、まさに瞬間的な本能による危険の察知による直感である。ティガレックスは、僅か数コンマという短い時間のうちに、その身を翻させ、薄皮一枚という余りにもギリギリな距離でドゥレムディラの噛みつきを避ける。

 ドゥレムディラからしても、今の速度の攻撃が避けられたという事実は、驚嘆に値していた。必殺の間合いに必中の頃合い、さらに決定的な速度で距離を詰め、ティガレックスの首の根を噛み取ったと確信した一撃だったにも関わらず、避けられた。敵を嘗めていただとか、そういったあまっちょい意識が原因ではない。ティガレックスの圧倒的な反射速度と、猫のようなしなやかな体の筋肉が原因であるこは、ドゥレムディラ本人も、嫌というほど理解している。

 が、急にティガレックスが降下を始める。それは既に落下と言っても差し支えない速度であるが、その突然の行動に、ドゥレムディラも一夏達も一瞬呆気にとられる。だが、一夏だけは気が付くことができた。

 ティガレックスは、モンスターハンターの世界では、飛竜種と呼ばれるカテゴリーに所属した種類である。その名の通り、空を飛ぶことのできる翼を持つ大きな爬虫類のような姿をしているのが彼らの特徴である。だが、体が大きく筋肉質な彼らティガレックスは、その真の土俵は空ではない。

 

『グゥロォォォ!!』

 

 咆哮。

 ドゥレムが我を見よと吼え、ティガレックス追いかける。一夏達三人は、そのドゥレムの大声量に怯み、一拍出遅れはしたが、ドゥレムを追う。

 

「くそ、最悪だ!ティガレックスの奴真っ直ぐ市街地に向かってやがる!」

 

「管制!一般の方々の避難は完了していますか?」

 

『まだ20%にも達してない。時間をかせいでくれ。』

 

 セシリアの問いに帰ってきた返答は、三人の心を強く揺らした。しかし当然だ、まだ彼らがIS学園を発ってから、5分と経過していないのだ。そんな直ぐに万を越える人々が避難できるわけがない。

 

「っち!覚悟決めてやるしかないわね…!一夏!あの時の、もう一度できる!?」

 

「……!あぁ!」

 

 鈴の語る『あの時の』には、一夏は覚えがあった。彼女が転入してすぐ、IS学園で開催されたクラス対抗戦。その時襲いかかってきた部外者を倒した時の奇襲戦法である。

 一夏は、鈴の目の前になるよう移動する。

 

「まさか……瞬間加速で突っ込む気ですか!?そんな、危険すぎます!」

 

「百も承知よ!それでも……」

 

 セシリアの言葉を遮り叫ぶ鈴。その眼には、確かな決意が宿っていた。

 

「やらなきゃ、大勢の命が危険に曝される。」

 

「鈴……。」

 

「ゴメン……失敗したら、恨んでいいわ!!」

 

 鈴の纏う甲龍の非固定武装のセイフティーが開き、空間圧縮装置が露出する。

 

「誰が恨むかよ。それに、優秀なガンナーもいるんだ、失敗しないさ。そうだろセシリア!!」

 

「あぁもう分かりましたわ!その無茶、お付き合い致します!」

 

 一夏は、薄い笑顔を浮かべるが、直ぐにティガレックスに視線を戻す。

 ティガレックスは高度500メートル地点。それを追うドゥレムは高度600メートル。三人は出遅れた上に相対速度が向こうの方が速いために高度950メートル地点にいた。普通なら追い付けない。間合いも離れすぎているし、何より向こうの方がこちらより1,5倍ほど速い。個々のISの性能ではもう距離を詰めることはできない。しかし、力を合わせれば!

 

「一夏!行くよ!」

 

「応!来いぃ!!」

 

 一瞬、背中に強い衝撃を感じる。しかし、それを衝撃のまま受け止めるのではない。その力を白式が吸い込み、非固定武装であるスラスターが、己の推力と共に吐き出す。

 

 一夏の視界は線になっていった、

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