ISー天廊の番竜ー   作:晴れの日

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ファース党の皆さん。
全ては私の責任だ。
だが私は謝らない。


第八話:不和

 どうしてだろう。

 一人、夕暮れの病室で彼女は考える。どうして、自分はこんなにも未熟なのだろうかと。

 彼女、セシリア・オルコットのその半生は、凄まじいという言葉では、到底表しきる事のできるものではなかった。両親の非業の死。幼い彼女には見に余るほどの財と権力。そして、その力を欲する貪欲な大人達。

 卑怯で、残酷な大人達に奪われぬよう、両親の残してくれたものを少しでも残せるようと、彼女は幼いその体で大人達に立ち向かった。

 立派だとか、素晴らしいなんて陳腐な言葉では、言い表せないほどの努力と結果を、彼女はまだ16の身で経験してきた。その自負が傲りとなり、一度は冷ややかな視線を向けられ事もあった。だが、今の彼女は一夏との一戦を気に、一から立ち直し一層の努力に励んでいた。客観的に見ても、ISの操作技術は十分な実力を有している。並の代表候補生からは、頭一つ飛び出していると言っても、差し支えないほどに。

 しかし、彼女のその心は自分の弱さに打ちのめされていた。

 

「私は……っ……!」

 

 歯を食い縛り、涙も再び滲む。悔しさにのまれて。手も足も出なかった。ティガレックスの体に傷一つも与えられずに、怯え、墜とされた。

 努力か足りなかったのか、実力が不足していたのか。セシリアは考える。しかし、考えれば考えるほど彼我の戦闘力の差を否応なしに実感する。

 レーザーは当たっていた。間違いなく。しかし、まともなダメージは何一つ与えていない。その事実が、彼女を苦しめるのだ。

 だが、セシリアは知らないが、彼女の放つれレーザーも、鈴の甲龍の非固定武装の空間圧縮砲も、ティガレックスに当たる前に不自然に消失してしまっていたのだ。気にやむことはない。しかし、彼女はまだこの事実知らない。だから、セシリアは自分の抱く劣等感のブレーキはぶっ壊れたまま、どんどんと暗い感情に包まれていく。

 不意にだった。余りに突然な事態に困惑しながら、入室者を確認し、再び混乱する。もう帰ったハズのドゥレムが、病室に戻ってきたのだ。

 

「ドゥレムさん……どうして。」

 

 意外な不意討ち。まさか、彼が戻ってきてくるとは思ってなかった。慌てて、涙を拭き取るが、赤い眼と顔は隠しきれないでいる。

 

「戻ってきた。今お前を一人にするのは、本当は良くないんじゃないかって思って。……いや、違うな。俺が一人になりたくなかったんだ。置いてけぼりにしといてなんだが、俺も教えて貰ったからな。ついでに、俺もお前も手酷くやられたから、一緒に反省会でもどうだ?」

 

「……クスッ、フフフ、ドゥレムさんらしいですわね。そんな言われ方したら、普通の女の子は勘違いしてしまいますわよ?」

 

 セシリアは、一瞬呆気にとられた。ドゥレムの語る言葉に少しドキリとしたからだ。「俺が一人になりたくなかった。」それで、自分のところに来られたら、それはもう貴女に気がありますと言うようなものだから。しかし、言ったのはあのドゥレム。人とは違う思考体型、生活習慣、思想、理念、生き方。きっと言葉は彼が知る少ない語彙の中からやりくりし、組み上げたからあんなこっ恥ずかしい言葉の羅列になったのだろう。それが分かると、彼女は少し笑ってしまった。

 

「勘違い?俺はなにか言葉選びを違えたか?」

 

「そうですわね。……今のドゥレムさんの台詞ですと、まるで恋文のような、遠回しな告白のようでしたわ。」

 

「恋文?告白?また知らないものだな。それはなんなのだ?」

 

 困ったなと、セシリアはまた笑う。

 齢16の自分に、人に教えることができるほどの恋の経験があるわけではない。しかも、彼に分かるように説明できる気もしない。だけれど、彼は興味尽きぬといった顔で、セシリアを見つめる。いつの間に座ったのやら、気付けばセシリアが座る病室のベッドの横に椅子を出して座っているのだから、油断も隙もありもしないといったものだ。

 セシリアは、ドゥレムに恋を説明する。拙い言葉だが、自分の持つ想いを言葉に表す。語れば語るほど、身を焼くほどの恥ずかしさを覚えるが、真面目な顔して「人間の感情とは、かくも難解なものだ。」なんて呟くドゥレムが可笑しくて、その恥ずかしさも紛らわされていた。

 

 

 

「まぁつまりですね、好きな人に、向けるようなそんな言い回しだったんです。」

 

「そうか……分かった、以後気を付けよう。」

 

 そうして下さい。と笑うセシリア。穏やかに二人は会話をしていた。

 が、急に廊下の方から大きな物音がした。二人はバッと振り返り、ドゥレムは直ぐに廊下に出た。

 

「まさか、侵入者?それともモンスターですか?」

 

「いや、モンスターなら気配で分かる。」

 

「でしたら、人間の……。」

 

 彼女は、最悪の事態を想像する。以前、鈴がIS学園に転校してきて直ぐの事だ。前代未聞の侵入者騒ぎが、クラス対抗戦という、IS模擬戦のイベントの最中、正体不明のISが乱入するという形でその事件が起きたことがある。最悪の事態とは、つまりそれのように再び何らかの侵入者が現れた事態である。幸いにも、体は既に動けるし、ブルー・ティアーズも手元にある。

 だが、彼女のそれは杞憂だと言わんばかりに、ドゥレムは張り巡らせていた警戒を解いた。

 

「どうしたんですの?」

 

「うぅん……言って良いものか。とにかく、侵入者ではない。警戒は必要ないぞ。」

 

 ドゥレムは、少し困った表情を浮かべ、頭をかく。

 

「…しょうがない。セシリア、少し待っててくれ。ちょっと行ってくる。」

 

「えっ、あっはい。行ってらっしゃいまし。」

 

 もう、セシリアの方は十分大丈夫だろう。だが、この可能性をドゥレムは考えていなかった。ここ一週間口を聞いていない相手と、合い見えなければならない可能性だ。彼の足取りは、自然と、ほんの少し重くなった。

 一夏のいる病室に近付けば、喧騒はどんどんと大きくなっていく。鈴の声と彼女の声だ。

 

「貴様がそんな体たらくだったから、一夏がこんな大怪我をしたのだ!貴様にここにいる資格はない!!」

 

「何よ!ただ、教室で待っていただけのくせに!今更のこのことこんな時間に!!」

 

 病室の戸は開け放たれていた。見れば案の時、眠る一夏の横で、鈴と箒が言い争いをしていた。

 なんで、二人が言い争いをしているのか、流石のドゥレムでも察しがついた。というか、このIS学園内での今まで出来事から、ドゥレムも箒に対して、違和感を覚えていた。他の者達に比べ、子供っぽく、暴力的である点だ。一夏達は、ふざけあいで語気が強くなることはままあるが、箒のそれは完全な癇癪。自分の気に入らないこと、思い通りにならないことがあれば、すぐに怒りだす。ドゥレムは、人間の幼い子供を知らないからこそ、このことを「子供っぽい」と言うことを知らないのだ。

 

「ここでは、静かにするのがマナーではないのか?」

 

「っ!?」

 

「ドゥレム!」

 

 部屋に入り、口を開くドゥレム。二人はその一言で、ドゥレムの存在に気が付いたらしく。鈴は、ドゥレムの名を呼び、少し嬉しそうに。箒は対照的に嫌な顔をして、眉間にシワを寄せていた。

 一目でわかる。ご機嫌ななめのふてくされモードに、箒は突入している。

 

「貴様のような、獣風情にルールやマナーの話はされたくない!」

 

 開口一番罵倒である。流石のドゥレムも、その言葉に込められた悪意を汲み取れないほど、日本語を理解していないわけではない。だが、箒の言うことは、「そりゃそうだ。俺は人間じゃないし。」の一言で一蹴した。この程度では、癇癪を起こすはずもないのだ。

 

「とにかく、お前達二人共煩いぞ。」

 

 ドゥレムは手短に用件だけ伝える。いたく当然の話なのだが、箒は反発する。

 

「えぇい、煩い!貴様が私に指図するな!」

 

「指図もなにも、俺は人類はルールやマナー、倫理、道徳的思考にそって行動するのだと聞いた。お前の今の行動は、それに反したものであると考えるが?そのように、自分の生の感情を振り回すだけでは、どちらが獣か分かったものではないだろう。」

 

 が、ドゥレムは一言余分だった。

 当然、箒の感情は逆撫でされ、怒髪天と形容するのが正しい形相で、ドゥレムを睨む。

 それにまるで怯まないのだから、箒の怒りはすでに収集のつかないところまで来ていた。固く握った拳を構え、ズカズカとドゥレムに詰め寄り、躊躇なく振り抜く位には、彼女は自身の怒りを抑えられずにいた。

 

「で?満足か?」

 

 まるで効いていないぞと言うかのように、箒を見下すドゥレム。

 箒は、負けた気がした。最初からドゥレムは、自分のことを歯牙にもかけていなかったのだと気が付いたから。彼にとって、自身は怒ろうが、なにしようがどうでもいい存在なのだと察したから。

 

「ほう……き……っ」

 

 しかし、一時の静寂の中で声が響く。それは箒、鈴の二人にとって最愛の者の声。

 

「「一夏!」」

 

 先程の剣呑な空気はどこへやら。二人は一夏に駆け寄り、その名を呼ぶ。

 

「どうしたんだ。……箒の叫びが聞こえて……あぁ、鈴にドゥレム。無事だったか………っ!ティガレックスは!?」

 

「まだ起きたら駄目!一夏は重症なんだから…それに、あのモンスターなら大丈夫。ドゥレムが倒してくれたから。

 

 鈴の言葉に、「そうか……」と安心した様子で、半身起こした体を再び布団に沈める。

 

「情けねぇな………結局、今回も俺はなにも出来ずに、ドゥレムの助けられたのか。」

 

「そんな事……」

 

「お前は良くやった。」

 

 箒の言葉を遮り、ドゥレムが口を出す。文句を言おうかと、ドゥレムに振り返った箒は、二の句が出ずにいた。ドゥレムの真剣な表情を見たからだ。

 

「まだ慣れないモンスター戦で、お前は奴に一太刀与えた。奴の自慢の尾を切り落としたんだ。誇っていい。もし反省すべきだと思うなら、次に活かせば良い。対モンスター戦になれたいなら俺に言え。いくらでも付き合ってやる。」

 

 そう言い残したドゥレムは、「目が覚めたのなら、俺は戻るぞ」と言って病室を後にした。

 

「ハハッ、アイツなりの励まし……かな?」

 

 乾いたような笑い声の後に、一夏は呟く。そんな彼を見て、いたたまれなくなった鈴は、思わず口に出す。

 

「一夏、ゴメン!」

 

「えっ?何を謝ってるんだ?」

 

 鈴の急な謝罪に、一夏は困惑する。見れば、鈴の瞳は濡れ、ポロポロと涙を流し始めていた。

 

「私が……私があんなことしなきゃ、一夏は……こんな、大怪我しなくて、済んだのに……ゴメンね……!」

 

「っ!」

 

 一夏は後悔した。自分が怪我をしたから、鈴はそれに苦しみ、今涙を流したのだと察したから。

 どう声を掛ければ良いのか分からない。だが大粒の涙を流す彼女に、何か声を掛けなければ、必死に頭を巡らす一字一句、絞り出すよう。

 

「鈴のせいじゃない。」

 

「でも、私が…引き金を引かなかったら。」

 

「もしそうしてくれなかったら、アイツは街に降りて、もっと酷い被害が出ていたかもしれない。人死にだって出てたかもしれない。だから、あぁするしかなかったんだ。」

 

 言葉を紡ぐ。鈴の涙を止めたい一心で、少ない語彙から必死に言葉を探り、組み立て話す。だけど鈴の涙は止まらない「でも、でも」と繰り返すだけ。

 見ていられなかった。気が付けば、彼女の肩に手が延び抱き締めていた。

 

「強くなろう。ドゥレムに頼らなくても、もう泣かなくても良いように……強くなろう。だから今日のことは、鈴のせいじゃない。弱かった俺達全員の責任だから…もう良いんだ。そんなに自分を責めないでくれ。」

 

 紡いだ言葉は、気が付けば頭ではなく、心が作った言葉だった。鈴は急に抱き寄せられたことに驚いたが、それ以上に一夏に掛けられた言葉が嬉しくて、鈴も一夏の背中に腕を回し、一頻り泣いた。

 

 箒は、何も言えなかった。掛ける言葉もなく、ただ二人を見続けることしか出来なかった。何故一夏は、私ではなく、あの女を抱き締める。私も、私もこんなに心配していたのに、なんでその女を。どす黒い感情は、彼女の胸中で渦巻き、吐き出しようのない怒りが涌き出る。

 そして、彼女は自分の中であることに気がついた。

 

 そうだ、私も自分専用のISを手に入れて、私も一夏と共に戦えば良いんだ。そうすれば彼は私を見てくれる。私だけの一夏になってくれる。

 

 彼女は踵を返し、一夏のいる病室を後にする。ISを手に入れる手段を、彼女は持っているから迷いなく、その歩みは進む。

 静かな廊下に、鈴の消え入りそうな啜り泣きの音だけが、虚しく響いていた。

 

 

 

 黒い胎動はすぐ傍まで。

 災厄は音を殺し、ゆっくりと近づいてくる。

 愛憎は人を狂わせ、狂った化物を呼び込む。

 彼奴は不退転。

 泣き叫び、地獄を告げる不退転の災厄。

 地獄はもう、眼前に。




ファース党の皆さんの、反感は覚悟の上です。
ps,
ドリフターズのアニメが楽しみすぎてヤバい
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