ISー天廊の番竜ー   作:晴れの日

9 / 41
え?モンハンってアニメやるの!?


第九話:苦情

 結果は振るわなかった。

 ティガレックスの襲撃から一夜明け、織斑千冬は朝から、日本国内の生物学、航空物理学の権威達にティガレックス、フルフルの映像を見てもらい、何か打開策を得られればと足を伸ばしたのだが、結果は謎が深まるばかり。

 生物学者の阿久沢 吉彦教授はフルフルの映像を見て、「一個体の生物が、視認できるほどの電気を発生させるのは、常識的にあり得ない。確かにあのサイズの生物であれば、相当量の電気を産み出すことはできるだろうが、それでもあれぼどの電力を発声させれば、普通自身の血肉が焦げ付き絶命する。」と語った。

 航空物理学の桜井 暁美教授も二体の映像を見て、「彼らの翼は、見たところ飛ぶというより、滑空する事のほうが得意な作りのハズ。だが、映像の中では羽ばたき、旋回し、戦闘機のようなマニューバさえ見せている。客観的に見て、この映像が本物とはとても思えない」と語った。

 千冬は考える。彼らの話を信じるのならば、あのモンスター達は、自分達の築き上げた常識の通じる相手ではないことになる。

 付け加えるようだが、前述の両教授がティガレックスやフルフルよりも、ドゥレムディラについて「ありえない。」特にと言及していた。「そもそも、あの翼の形状で、何故空が飛べるの?滞空もしてるし、このサイズの生物が音速以上の速度で飛ぶとかいったいどうなっているの?ソニックブームはなんでこのドゥレムディラだっけ?を切り裂かないの?」と桜井教授は頭を抱え、「そもそも寒冷地に適応したからといって、気温そのものを操るっていうのはおかしな話で、そんなのはゲームだけにして欲しい。にも関わらず、一瞬で絶対零度近くの冷気の光を口から吐き出すなんて、生物としてありえない。中にロボットでも入っているんじゃないか?」と阿久沢教授は顔をひきつらせた。

 

「ゲームか……。」

 

 そういえば、ティガレックスもフルフルも生徒内で、ゲームに登場するモンスターに酷似し、能力も共通しているという話が出ていた。偶然の一致として、職員は聞き流していたが、もしかしたらと彼女の頭の中で、仮説が出てくる。

 それを確かめるには、一夏をはじめ、そのモンスターが登場するというゲーム。モンスターハンターについて、詳しく知る生徒とドゥレムディラに協力してもらわねば。

 そうと決まれば、千冬は速かった。喫茶店で一息入れていたが、早急に会計を済ませ店を後にし、学園に連絡する。

 

『はい…IS学園の山田麻揶です……。』

 

 受話器の向こうから聞こえる麻揶の声に、元気がないのが少し気になったが、千冬はそのまま要件を伝えようとする。

 

「私だ、織斑だ。」

 

『あっ…お疲れさまです。どうしたんですか?今日も一日出張では?』

 

 千冬は今から戻る旨と、早急にモンスターハンターを知る生徒と、ドゥレムディラを集めて欲しいと伝え、電話を切る。

 もし、千冬の仮説が正しいとして、何が変わるのだろうか。いや、もしかしたら何も変わらないかも知れない。だがそれでも、千冬にとって、その仮説は暗闇の中に現れた一筋の光る蜘蛛の糸だったのだ。すがるしかない。望むしかない。何も分からない現状よりはマシだと思って。

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

 

 一年一組の教室は、空席が目立った。一夏とセシリアの二人分の空席は、ほぼ全員出席している教室内では、ひどく目立っている。

 山田 麻揶は、出張でいない織斑 千冬の代わりに教壇に立ち、生徒である少女達に授業を行っているが、その心情は決して晴れやかではなかった。

 その原因は、彼女達の両親である。未確認生物、モンスターによる二度の襲撃。その出現地点がIS学園上空。生徒の両親が、我が子を案じ学園に電話するのは至極当然であろう。だが、中には冷静さを欠いた人もいる。麻揶の心は、そういった人間の対応に追われ、かなり消耗していたのだ。

 

 しょうがないよね……今度いつ現れるか分からないモンスター。それの出現地点近くにあるのに、今日も変わらず平常通りに授業を進める。親が心配しないわけないよね。

 

 麻揶は内心ぼやく。いくら学園内の防衛システムは、世界トップだとしても、心配しないわけがない。しかも最悪なことに、一夏とティガレックスの衝突の様をはじめ、出現したモンスターの映像が、大量に流出しているのだ。つまり、人類の最強兵器であるハズのISと、互角以上に渡り合うモンスターという存在の強さが、世界中に流布されてしまっている。だからしょうがないんだと、麻揶は自分を無理矢理納得させるしかない。

 だがそれでも、彼女は心なく浴びせられた罵声が、深く深く突き刺さっている。ある意味、彼女が余り経験したことのない辛さ。日本代表になるために、幼い日々を、ライバルと切磋琢磨し合い、ISにその心血を注いできたのだ。『人』のクレームには耐性がなかった。何を言われようと、「ごめんなさい」「申し訳ありません」と謝り続けるしかない辛さ。それは手痛く、彼女の心を抉っていた。

 

「はい、じゃぁこの時間はここまでです。」

 

 平静を装うが、これから長い昼休みに入る。それが彼女にとっては憂鬱で仕方がない。職員室に行きたくはなかった。きっとまだ、クレームの電話はガンガンに鳴り続けているのだろう。逃げ出したかった。泣き出したかった。

 それでも生徒の前だと自分に言い聞かせ、堪えて、耐えて、笑顔のまま教室を後にした。

 

 職員室に近付くほど、彼女の足取りは重くなった。近付けば近付くほど聞こえてくる、電話の呼び出し音。今すぐ踵を返して教室に戻りたい衝動を抑え、職員室へ足を踏み入れる。

 自身のデスクに荷物を置いたその瞬間、彼女のデスクの上の電話が甲高く鳴る。

 その音だけで、彼女は吐きそうになる。気分が悪い。腕が重たい。電話に出たくない。それでも仕事だからと、麻揶はその受話器を取る。

 

「はい…IS学園の山田麻揶です……」

 

『私だ、織斑だ。』

 

 電話の先は、麻揶の憧れの人物でもある千冬であった。クレーマーじゃない。その事実は、麻揶の緊張を緩和させた。

 

「あっ…お疲れさまです。どうしたんですか?今日も一日出張では?」

 

『予定が変わった。すまないが、放課後にドゥレムディラとモンスターハンターというゲームを知っている人間を会議室に集めてくれ。私も今から戻る。では頼むぞ。』

 

「えっ、ちょっと待って…」

 

 千冬は、自分の要件だけ伝えて、一方的に電話を切ってしまった。

 今の麻揶をはじめ、学園に残った教師達にそんな余裕はない。今こうしている間も、他の教師達はクレーム対応に追われているというのに。

 また、麻揶のデスクの電話が鳴る。今度は十中八九クレーマーだろう。

 彼女達の長い長い昼休みは始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

 学園に戻ってきた千冬は、職員室に寄らず、すぐに会議室に向かっていた。当初の予定よりも、戻ってくる時間が遅れてしまったからだ。

 

「すまない、待たせた…な。」

 

 だが、会議室にやって来た彼女が見たのは、無人の会議室。もしかして、別の会議室かと、残り二つある会議室も確認する。しかし全てもぬけの殻。自分は、しっかりと麻揶に伝えたハズだと、若干の怒りを抱え、恐らく麻揶が居るであろう職員室に向かう。

 職員室からは、何重にもなる電話の呼び出し音と多くの人の話し声が聞こえてくる。何事かと訝しげに思いながらも、千冬は職員室の戸を開けた。

 その瞬間、職員室の中に響いていた爆音が、千冬を襲う。

 見れば、皆が一様に電話越しに謝罪しているようである。一体何事なのかと見回すと、麻揶は自分のデスクで、他の教師と同じように電話対応しているようである。

 

「山田先生。」

 

「はい……はい……申し訳ありません。」

 

 声をかけるが、応答はしない。それもそうだ、電話対応しているのに、応答できるわけがない。

 千冬は、麻揶の後ろで、彼女が電話を終えるまで腕を組んで待つことにした。

 電話にも関わらず、ペコペコ頭を下げる彼女が、千冬には妙に滑稽に見えたが、彼女の元来の性格もあり、それが少し可愛くも思えてしまう。

 やがて、通話を終えた麻揶はゆっくりと受話器を下ろし、怠慢な動きで振り返った。

 

「生徒が集まっていないようだが、集合する旨は伝えたのか?」

 

「そんな時間も暇もありませんよ。見て分かりませんか?」

 

 千冬はギョッとした。歳よりも幼く、可愛らしい彼女の、小動物のような面影はなく、生気がなく、表情に強い陰りを落とした麻揶が、ソコにいたのだから。

 そして、まともな会話をする前に、麻揶の電話は再び鳴り響く。麻揶は一瞬躊躇したように見えたが、直ぐに電話に出る。

 

 なんなんだ、この状態は

 

 千冬は混乱するのみだった。だが、自身のデスクの電話も、けたたましく鳴り続けているのに気が付き、その受話器を取る。

 

「はい、IS学園織m『どうなっているの!?お宅の学校は!?』…は?」

 

 千冬は、突然の高圧的な女性の声に、思わず理解が追い付かなかった。

 

「えぇと、どちら様で?」

 

『なんですかその態度!私はそちらの2年1組の山吹藍の母親です!』

 

 曰く、娘の安全管理はどうなっている。化け物の仲間が学園内にいるとは本当なのか。なぜ化け物がいつ現れるか分からない状態なのに、休校にせず、普通に授業を続けているのか。

 凄まじい剣幕で、捲し立てるように喋る受話器の向こうの女性。

 

「いえ、当校の防衛システムは世界最高峰でして、更にISも相当量配備されていますので、お子様を危険にさらすような真似は一切致しません。」

 

『ISだって化け物には歯が立たなかったそうじゃないの!アンタ、そんなこと言って娘に何かあったらどう責任とるのよ!!』

 

 千冬はやっと合点がいった。何故、麻揶達教師陣が皆憔悴しきった表情で電話対応し続けているのか。恐らく朝からずっとこの状態だったのだろう。これでは、麻揶に頼んだ生徒を会議室に、という話もできる訳がない。時間がないのだから。何か手を打たなければ。

 

「そうですね。ご意見を確りと吟味させて頂き、今後の対策に利用させて頂きます。では。」

 

 千冬は、一方的に電話を切る。電話対応としてまるどダメだが、このままでは教師陣がノイローゼで、普通の授業もままならなくなってしまう。それでは、学校本来の形として機能しない。それでは本末転倒だとして、電話を切ったのだ。

 千冬は直ぐに自身の携帯を取りだし、とある場所に電話を掛ける。

 

「私だ。これからこっちに掛かる電話をそっちで対応して欲しい。………察しの通り、クレーム対応の依頼だ。……………元々は、そちらで対応しなければならない話のハズだが?…………それは、『教師』としての裁量を越えている。私達は国連に雇われてはいるが、その前に一教師だ。このままでは、普通の授業すらまともに行えない。……そうだ。その会議さえクレーム対応のせいで行えないのに、これ以上こちらに負担を押し付けるのか?それとも何か?モンスター出現の際には、我々より速く、市民の避難誘導、対象の撃破が行える自信があるのか?………そうだ。今すぐだ。じゃぁ頼んだぞ。」

 

 千冬が電話を切ると、だんだんと職員室の内部が静かになっていく。教師達が各々の電話を切ると、それ以降鳴らなくなったのだ。手の空いた職員達は、急にどうしたのかと、互いに目を会わせ、首を傾げ合っている。

 やがで、最後の通話が切れて、職員室は完全な静寂に包まれた。先程までの喧騒が見る影もない。が、それを確認した千冬がゆっくりと立ち上がると、椅子が動く音が否応なく浮き彫りに目立つ。教師達が、千冬にその眼差しを集めるのは、当然と言えよう。

 

「今、諸君らが行っていたクレーム対応。それを全て国連に預けた。」

 

 千冬の言葉に、各員はギョッとした。IS学園は、その管理こそ日本国政府が行っているが、性質上は、国連の傘下の学園として成り立っている。だが、彼らは基本学園に干渉せず、書類上の傘下としての地位であった。

 そのため、IS学園に向けられたクレームの対応を国連が受け持つなど、かなりの特例であり予想出来ない事態なのだ。

 それを押し通した千冬の手腕を敬うべきか、問題を先送りにしただけではと危惧するべきか、彼女達は見極められずにいたが、眼前の問題がひとまず片付いたことに皆一様に安堵していた。

 

「山田先生、申し訳ないことをした。この状態を予測できなかった。その上で、あんな頼み事までして、余計に手を煩わせてしまったな。すまない。」

 

 頭を下げ、千冬は麻揶に謝る。それに麻揶は少し困った様子を見せて、まだ顔色が悪いが、頑張って作った笑顔を見せ、それに答える。

 

「いえ、そんな。こちらこそ有難う御座います。あのままじゃ、まともに授業も行えませんでした。」

 

 麻揶の言葉を皮切りに、他の教職員達も千冬にお礼を言う。その度に彼女も、一人一人に意識が足らなかったと謝罪する。こうして、IS学園教師の長い一日がひとまずの終わりとなる。

 だが、問題はいまだ山積している。一つずつ丁寧に片付けるしかない。彼女達一人一人の戦いは、まだ始まったばかりなのだから。

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

 天災と詠われた一人の女は、嬉々としてキーボードを叩く。まるで彼女の感情を表すように、その頭部に乗せられている機械の耳が、ピコピコと動く。

 

「フフゥーン♪フフ、フゥーフフゥン♪」

 

 鼻歌混じりに、彼女は己の作業を進める。異常なスピードと言って良いだろう。

 まるで鍵盤のように、音楽でも奏でるかのようなリズミカルな動きで、複雑かつ膨大な情報を入力していく。

 

『……………』

 

 そんな中、声になっていない声が、この狭い一室の中に響く。彼女は、パソコンの操作の手を止めずに、その声に答える。

 

「当然だよ。私の大切な大切な大切な箒ちゃんから、直接お願い事されたんだよ?機嫌も良くなるってもんよぉ!」

 

 ふざけた様子で話しているが、その手の動きは鈍くなることはない。速く正確に動き続ける。

 

「君がくれた情報と、私が作った第四世代型IS紅椿を組み合わせて、新規設計製造した新たなIS。黒椿。きっと箒ちゃんも気に入ってくれるよ!」

 

 楽しげに語る彼女。彼女の操作する画面には、黒椿と称されたISのシルエット。まだ完成はしないが、このISが完成すれば、ISの歴史は大きな転換期を迎えるだろう。それが、蛇となるかはたまた宝になるかは誰にも分からぬ。

 彼女は笑う。自分の奏でる音楽のように。

 笑う彼女を見守る者もいた。それは部屋の四分の一以上を占めるカプセルの中から、彼女を見守っていた。紅い紅い、血のような瞳を輝かせるそれは、ディスプレイの前で怪しく笑う彼女を、ただただ見つめ嘲笑う。





そういえば、本作のオリISって黒椿が初なんですね。
最初はドゥレムもISに乗ってもらおうかなって、考えていた時期が僕にもありました。
でも、それモンハンじゃなくても良いやんってなりそうだから、ドゥレムはドゥレムディラのまま。戦ってもらいます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。