完全オリジナルのお話ですので、どうかご了承ください。
とあるホテルの一室で、明かりの灯るその中に一人の青年がベッドの前で苛立たしげに顔を歪めていた。
「クソ、まさかここまですぐに告知するとは! セイバーを取れたが、おそらくアインツベルンは俺以外に独自に誰かこの戦争に寄越してくるだろう……」
「ですが、マスターの思惑が見抜かれていると考えるのは早計かと」
「そんなことはわかってる! だが、必勝を期すためなのか、俺の監視なのか完全には判別できないのが面倒なんだ!」
青年の背後に音もなく現れた、この時代には不釣り合いな騎士の風貌の男に、青年は驚くこともなく言葉を返す。
その大元は、自分の家の本家であるアインツベルンが参加者の自分に対しなんの連絡もないからだ。
十中八九怪しまれている。
「どこだ、どこで怪しまれるようなことがあった?いや、それよりも現状を把握しないと……」
怪しんでいるならば誰かを送ってくるだろう。
しかし自分に伝えないだろうし、そもそも杞憂で、送っていない可能性もある。だが、彼は楽観的な考えはしていないしするつもりもない。まず間違いなく誰かを送ってくるだろうという考えで動かねばならない。
「奏様には時間もございません……ですが、この私が、何としてでも聖杯を手に入れます。必ずや奏様をお救いすると誓います」
「当然だ、セイバー!……この聖杯戦争で勝ち残って、絶対に助けてやるからな、
ベッドの中で静かに寝息を立てる少女に、青年、ショウ・フェルディナンは語りかける。その背を見つめるセイバーには、その顔を見ることは叶わないが、それでも悲痛に歪んでいるのだろうと、この二人の安全と救済を願うのであった。
これから彼が行うのは、自分自身の家、そしてたった一人の妹の未来を決定づけるであろう戦い――――聖杯戦争。
おおよそ六十年前に日本の冬木で行われたオリジナルの聖杯戦争は、七騎のサーヴァントと彼らを使役するマスターが最後の一人になるまで殺しあう凄惨なものだった。今回もそれは変わらない、が、決定的に違うものが存在する。日本ではあるが冬木ではない。日本の中心地、東京で行われることが確定していた。
神秘の秘匿はどこに行ったといわんばかりの土地であるが、ここで行われることには当然のことながら訳がある。
事の発端は第三次の際に参加者であるマキリが極秘に行っていた聖杯の解析を成功させ、新たな聖杯を作ろうとしたことに起因する。
聖杯の器に関しても、聖杯戦争に関してもそんなことをされるわけにはいかないアインツベルンはマキリから研究成果を奪いにいった。その研究成果を足掛かりに聖杯の解析を進めればいずれ他家を呼び込まずとも魔法に至れると考えたからである。
しかし行動を最初に起こしたアインツベルンではあったが、その際に手薄になった戦況を好機と捉えた者たちが、大聖杯を奪取してしまう。
実はここがショウが現当主である一族、フェルディナン家が負けられない理由の一つになってくる。
ショウは元は今は無き魔術家系の海原家の次男だったが、長男が家督を継ぐためにフェルディナン家へと養子で入ったため、当時のことはそこまで詳しいわけではない。だが、それでもこの現状は先代たちのせいだと罵りたくもなった。
「何をトチ狂ったら泥棒の片棒担ぐことになったのさ……どうせ研究成果に目がくらんだのは間違いないだろうけどさ」
大聖杯を奪ったのは当時京都に総本山を構えていた魔術の名門、土御門家。しかし京都にそのまま持ち帰るにしても、距離的にあまり離れているとは言えず、バレる可能性が高かったため、あえて離れた地である東京へと隠すのであった。
土御門家は東京にも家があるが、公には単なる別荘でしかない。ゆえに東京の強大な霊地であるのも関わらず表の管理者のみで、裏の管理者セカンドオーナーが存在していなかった増上寺に拠点として目を付けたのだった。
魔術の名門が全くいないこの地は、魔術に凝り固まった相手に程効果を出す。こうして目論見通り見事にアインツベルンの眼を欺くことに成功したのだった。
現在は土御門家は代理を立て、裏で東京のセカンドオーナーとしても活動している。
事実、分家にセカンドオーナーを任せるなどして大きく根を広げる魔術師の家系も存在してはいる。表には見せないが。
フェルディナン家は聖杯の研究結果をマキリから奪う際にアインツベルンの先鋒として向かって行った。
その際にその情報に目がくらんだ先代たちは虚偽の報告をすることでそれを隠蔽。さらに、大聖杯を奪おうとしていた土御門家にアインツベルンから目をそらさせるための取引を持ち掛けることで、数十年かけて東京での聖杯戦争を開始するために地下工作へとうつった。
そう。先代たちは自身で有利な形にして、次回の聖杯戦争を確実に勝ち抜こうとしていた。
順調にいけばフェルディナン家は予想だにしていなかったであろう東京から突発的に始まる聖杯戦争を万全の準備で迎え、最後に土御門家との予定調和になるだけだった。
しかし、ここからだんだんと思惑から外れてしまう。
聖杯戦争開始直前、アインツベルンに大聖杯の位置を特定されてしまったからだ。
未だ土御門家の味方であったフェルディナン家ではあるが、この時にはすでにショウ・フェルディナンにフェルディナン家の家督は継がれており、聖杯を取り戻す際の先鋒としてとアインツベルンに名乗り出たことで正式に聖杯を手に入れようとしたのだが、アインツベルンから土御門家の抹殺の声も上がっていた。
つまり、こちらにその気はなくとも土御門家を裏切る形となってしまった上に、もし負ければ自分の家が大聖杯の強奪の手引きをしていたことがアインツベルンに露見するであろうフェルディナン家には、土御門家を口封じしたうえで聖杯戦争に勝利するしか存続の道はないのである。
しかし、蓋を開けてみればどうだ。アインツベルンには怪しまれ、たった一人の妹は命の灯火が消えかけていた。
これこそが、もう一つの負けられない理由。
「奏の命もあとどれだけ持つのかわからない。急ぐしか……」
原因のわからない妹の病。おそらく魔術的なものなのだろうが、手の施しようがなかった。それこそ奇跡にすがらねばならないほどに。
事ここに至ってはショウは聖杯をアインツベルンに持ち帰り許しを請うつもりもなかった。露見しているならば戦後に自分が無事でいられるかどうかの保証もない。もしそこをクリアしても一度疑われた以上妹のために使うことなど許されない。ならば、自分の使いたいように使ってしまったほうがいい。
「セイバー、もし不覚を取って奏を死なせたりしてみろ。その時には令呪で地獄も生ぬるいほどの凄惨な死に方をさせてやるからな」
その言葉に、セイバーは頭を下げ「誓いましょう」と応えた。
声は上がらない。これ以上は話さないというようにも見えた。背を向けているショウの顔をセイバーは見る事は出来ないが、覚悟を決めなおすのには十分だった。
それからしばらくの間、二人の間に会話はなかった。
同時刻、増上寺付近にて人知れず別の陣営が行動を起こしていた。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返す都度に五度。ただ、満たされる刻を破却する」
言葉を紡ぐのは、どこか中性的な面持ちをした若い人物だった。
周りの音が消えていく。
集中に集中を重ね、次第に自身が空気と一体化したように感じていた。
「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
取引により不可侵を約束しており安心していた京都の土御門本家はフェルディナン家が英霊を召喚して聖杯を取りに来たことを察知したことで契約を破棄されたと判断、東京にいたマスター候補を全力でバックアップし、セカンドオーナーとして名乗り出た。
土御門家現当主。土御門
あと自分がすべきことは失敗をしないことだけ……
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
来た。
来た!
来た!!
「ぐうっ……あああ!!!」
かなりの量を誇る自分の魔力を根こそぎ持っていくかのような感覚。
周囲から取り込んでもなお回復が追いつかない!
もっとだ、もっとよこせと言わんばかりに魔力は吸い上げられていく。
そして、ふっとその感覚が消えたとき
「サーヴァント、キャスター。呼ばれてまいりました。さて……僕を呼んだのは君かい?」
目当ての最強のキャスターがそこにいた。
「へえ、ここがトーキョーかい。フユキってとこよりもずっと栄えてんな。まあこの数日後にはエライことになって過去の物になってっかもな」
「お前らサーヴァントにしてみればそりゃそうなるかもな。でもまあお前じゃそうはなるまい。せいぜいビルが一個消えるかもってとこじゃねえか?……あ、予約してました真行寺です。近くまで来ましたので、これから向かいます」
ところ変わり、空港。二人の男女が周りを気にせず物騒なことを喋っていた。片方の体格のいい男はは携帯で誰かと連絡を取りながらしゃべっている。当然聞こえないように配慮をしてはいるが、その声色には楽しさが滲み出ている。
その隣の女性は対照的にどこかのモデルかと思うほどで、女性にしては高めの身長でもあった。
しかし、その表情はまるで獣のように犬歯をむき出しにして獰猛な笑みを浮かべていた。この笑顔のせいで完全にモデルではなくヤンキーに見えてしまっていることで周りに人があまりよりついてこない。
歩きながら女性は先ほどの言葉が気にいらなかったのか文句を言いだす。
「ナメんなクソマスター。あたしの力にケチつけんならここでブチ殺すぞ?」
「……はい、はい。墓参りの方には、後から行きますので……ありがとうございます。
はっ、そうなりゃ道連れだ。まあステータスなんぞ関係ねぇのよ俺たちにゃ。」
「へへ、その通りだ。勝ちゃいいんだよなぁ、あたしたちは」
一つ一つ、確認するかのように、二人は言葉を重ねてゆく。
「卑怯な手段は」
「最高」
「隙だらけの背中は」
「容赦無く刺す」
「罠も謀略も」
「「徹底的に」」
「ん〜……やっぱあたしら相性最高だよなクソマスター。まあこれでもうちょい強きゃぁ多少はあたしのお眼鏡にかなうってのによぉ、足りねぇマスターは大変だね」
「おお、俺もお前にもうちょい頭が足りてりゃと思うよランサー。だけど強さはお前に比べられてもなぁ。戦においてお前より強い奴なんてそうはいねぇよ」
「うへへ、そうだろそうだろ。わかってきたじゃねぇの」
性別も、性格も、生きる時代も違う二人だが、しかし運命と言っていいほどに噛み合うランサーとそのマスター。
二人の性根は、どこまでも腐っている。
聖杯戦争は、もう間もなく始まる……