Fate/time line   作:RPS-3rd

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1day Beginning of War

 その日、高峰鈴鹿はご機嫌だった。

 女子の平均よりも高い身長とあまり大きくない胸のせいで通っている女子高の生徒の間では「王子様」などと呼ばれ、良かれと思ってやったことなのにどんどん男のように見られてしまう。

 「高峰さんが男の人だったらな」などと言われた回数はもう覚えていないし、ここ最近は同性から告白される回数も増えてきてしまった。

 さすがに先輩から告白されたときには泣きたくなった。

 そんな本人の望まぬ人気のせいで彼女はいつも周りに自分を女子扱いしない友達がいたものだったが、今日はそんな取り巻きをこっそり撒いて一人上野でウィンドウショッピングに来ていた。

 彼女は今日、ファッション誌で見つけた長めの落ち着いたスカートを買いに来ていた。運命とでもいうのか、今まで身長のコンプレックスからスカートなど恐れ多くて手に取ることもできなかった。

 しかし、見た瞬間に一目惚れをしたスカートのために勇気を振り絞り買い物に来た彼女は、一時間余り店の前を行ったり来たりを繰り返しようやく手にすることができた。その喜びは言葉にできないほどであった。

 

「やった、やった! ついにスカートゲット! こ、この調子でいつかは……み、ミニスカートだって……」

 

 放っておけば小躍りしてしまいそうなほど喜ぶ鈴鹿。

 ほとんど周りが見えていないのではというくらいに買い物袋を見ては笑みを浮かべる彼女はどこまでも幸せそうであった。

 

「まだお金にも余裕はあるし……わ、ワンピースも……見に行ってみようわぷっ!?」

「おっと。済まぬな」

 

 だからだろう、前にいた人に気付かずぶつかってしまったのは。

 

「あ、そのすいません前を見てなくて……」

「何、気にするな。この世すべての美しき女は荒事などせず健やかに美しくあるべきよ。ならば私が気にすることは可憐なそなたの安否のみ。どこか痛めたりはしておらぬか?」

「えっ」

 

 あまり女性扱いされなかった鈴鹿は驚いた。初見で女性として見られただけでなく何気に美しいと言われ、気遣ってもらう。普通の人よりははるかに頑丈さに自信があるので怪我などしているわけはないのだが、それ以上のカルチャーショックが彼女を襲っていた。

 そして何か言おうと相手の姿を見たとき、完全に固まった。

 170目前の自分よりも高い身長で、少し額が広いものの整った顔立ちをしている。カリスマとでもいうのだろうか、自分を引き付けて離さない、不思議な魅力があった。クラスの友達が言っていたアイドルを見たときのような気持ちなのだろうかと思っていたが、相手は全く待ってはくれなかった。

 

「おお、こうして見てみればなんと愛らしい! しかしそれだけに残念だ。そなたは自身の魅力にまだ気付けていないと見える。なんとも難儀な時代よ、これほどの原石を眠らせておくなどと!」

「えっと……」

「どうだ? 私と少し話さぬか? いい具合に近くに喫茶店もある。私は上野に来た! 上野を見た! ならばあとは女子との語らいのみよ。そこでそなたがより女としての魅力を磨くための助言をすることも吝かではないぞ?」

「えっ? ええっ?」

「ん? もしや金銭の心配をしているのか? それならば何一つとして問題はない! 私が誘ったのだ、私が呼んだのだ。ならば支払いも私がする故な」

 

(これが、ナンパってやつなの!?)

 

 高峰鈴鹿、生まれて17年目にして、初めてのナンパであった。

 断るすべを知らない少女は、フラフラと男に誘われるがまま喫茶店へと…

 

「何やってんのよこのバーカーサー」

「ぐおっ!?」

 

 行くことはなかった。

 

 男の後ろから緑のマフラーをした女性が流れるような動作で男に延髄切りをくらわせたことで会話が中断されたからだ。

 いきなりアグレッシブすぎる行動をした女性も女性だが、全体重が乗っていたであろうあの一撃で体勢を崩すだけで済んでいる男も男だ。

 とたんにさっきまでの浮ついた気持ちは逆ベクトルへと向いてしまい、鈴鹿は何とも言えない顔になっていた。

 グッバイ、初ナンパ。そんなことを考えていた。

 

「むう、何をするのだ(きょう)よ。せっかく美しき花を愛でようとしていたというのに……」

「黙れ」

「……歳のわからぬ女は怖いものよ……」

「…………」

「わかった、謝ろう。だからその左手を下げるのだ」

 

 怖い。

 彼女なのだろうか、鏡と呼ばれた女性がものすごく怖い。

 

「はあ……ごめんなさいね。こいつ無類の女好きでさ……誰彼かまわず声かけるのよ」

「あ、それは全然気にしていないので大丈夫ですけど……」

「鏡よそれは心外だな。私にも好みはある。そなた以外とかな」

「ッセイ!」

「ぐふぁ!」

 

 ものすごく腰の入った突きが男の鳩尾へと叩き込まれた。

 男はその場に崩れ落ちるが、それを鏡は養豚場の豚を見るような目で見ていた。明日にはお肉になって食卓に並ぶのねと言わんばかりの冷め切った目だ。

 

「そっちの男の人は……」

「居ないわよそんな物」

 

 最早人として扱われていないようだ。

 このまま話していては自分の楽しみのショッピングができなくなってしまうと感じた鈴鹿は「ごめんなさい、わたし用事があるので」と回れ右して離れようとした。

 そう、「した」。

 

「イッ!?痛っ…!」

「?どうしたのあな…た…」

 

 鈴鹿の腕に、奇妙な痣が痛みと共に現れる。痛みで確認する暇もないが、周りから見ればそれは三本の剣が重なり合うような模様だった。今まで感じたこともない激痛が腕を襲い、堪らず膝をついてしまう。焼ごてを腕に押し付けられているのではないかと錯覚するほどに腕は熱を持っていた。

 それからしばらくして痛みが落ち着いた鈴鹿は近くのベンチに腰掛けていた。

 

「落ち着いたかしら」

「はい、ご迷惑おかけして…」

「いいわよ別に。往来で苦しんでるまま放っておいたらそっちの方がご迷惑おかけしちゃうわよ」

「礼くらい素直に受け取っておけ。幾つももらえるものでもないのだからな」 

 

 その言葉を聞き、鏡は軽く咳をしてから「どういたしまして」とそっぽを向きながら答える。ちょっと苦笑してしまう鈴鹿だったが、本来の目的であったワンピースを買いに行くことを思い出し、もう一度礼をしてから立ち上がって走っていった。

 

「……今発現したばかりで当然召喚していないし、魔力量があまりに少ないわ。それに令呪が出た時のあの痛がりようと反応を見る限りじゃ、聖杯戦争を知る魔術師ではなさそうだし。素養があるだけの一般人……かしらね。私たちのせいで巻き込んじゃったかな……」

「過ぎたことを悔やんでも意味はない。彼女がどうなるかは誰にもわからない故な。再び交わるやも知れんし、消えてしまうかもしれん。負い目に思うにしても行き過ぎてはならんぞ」

「分かってるわよ。ひとまず監視だけつけとけば何かあっても大丈夫でしょ……ってかアンタがナンパなんぞしなきゃ何もなかったかもしれないのよ!?アンタこそ分かってんのバーサーカー!」

 

 開智鏡。

 時計塔にもコネクションを持つ魔術協会からの参加者である大魔術師であり、今回のバーサーカーのマスターでもある彼女は、どうしても後味の悪くなるものが嫌いである。このまま放っておいても普通の魔術師であれば気にもしないのだろう。しかし自身が蒔いた種とも思えば、やはり放っておくことができず、こっそりと使い魔を放ち様子をみるのであった。

 この行動が、後に大きな意味を持つとも知らず。

 

 

 

 そしてこの日、夜に二つの場で人知れず戦いが起こった。もし、この戦いを歴史家が見れば涙を流して神へと感謝するだろう。だが、その場に神はおらず、いるのは過去の亡霊。それもとびきりの…

 

 高峰鈴鹿は不機嫌だった。昼にナンパをされたと思えば手に痣ができ、服に隠せなさそうなところだから諦めてそのままにしていたら刺青に間違われて服屋に入れなくなりと踏んだり蹴ったりであったからだった。

 

「ったく…こんな痣できちゃったら試着もできないじゃん。ずいぶん遅くなっちゃったし早く帰らないと…」

「こんな…こんな少女までもが戦いに赴かねばならないのか…」

 

 その声に振り向くと、そこには一人の男がいた。だが、雰囲気は人のそれではない。曲がりなりにも魔術師の端くれである自分でもわかるほどの、格の違いが否応なく伝わるほどの、圧倒的な存在感。周りには人が居なくなっていることも気にならないほどに、心が、魂が、何故か震えている。

 

「あ、あなたは…」

「我が名はセイバー。だが、覚えなくていい。命までは取らぬが、それでも腕は覚悟してもらう」

「えっ、えっ…ひっ」

 

 その言葉に呆然としたのも束の間、男……セイバーはおもむろに一本の剣を取り出した。

 今からあの剣が自分に振り下ろされるのだろうと思っても、恐怖が来ず、まるで現実と頭が認識しない。

 やけにゆっくりに見えたその剣は、嫌に美しかった。

 

「恨むならば、私だけにしてくれ……許せとも言わない。私には、私達には時間が無いのだ」

 

 せめて苦しむことのないように腕を切り落とすと同時に意識を刈り取ろうとしたセイバー。

 だが、殺そうとしなかったことによる手加減が、他者の介入の隙となった。

 

「やっぱり監視してて良かったわ。まさか一番に狙われるとは思わなかったけど…」

 

 よく通る声がすると共に、鈴鹿とセイバーの剣の間に影のような何かが入り込み、今斬られようとしていた少女を守った。

 

「あ、あなたは昼の…!」

「あー、ごめんコイツ今声届いてないから、お礼は後で言ってあげて。生き残れれば…だけど」

 

 バーサーカーと、そのマスターである開智鏡が、そこにいた。

 割り込んできた存在がサーヴァントだと気付いたセイバーは牽制に蹴りを放ち、後方へと飛び退いた。

 

「……この戦いが始まる時に分かってはいたが、女を斬らねばならぬとは……」

 

 その言葉に悪意は無いが、それでもその言葉に鏡は黙ってはいられない。

 下に見られるのは嫌いだった。侮られるのも嫌いだった。だがそれ以上に、悪意なく割れ物のように扱われ、その上何時でも壊せると言わんばかりのこの何気ない憐憫の目は、何よりも彼女をイラつかせた。美しい顔は怒りに歪み、こめかみに青筋が浮かび上がる。

 

「言ってくれんじゃない。私が負ける前提で話してんじゃないわよ!やりなさいバーサーカー!」

「…………!」

「私に剣で挑むか!」

 

 瞬間、剣と剣がぶつかり合う。

 戦争、最初の英霊同士の戦いはセイバーとバーサーカーであった。

 

 

 

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