Fate/time line   作:RPS-3rd

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1day Margin

「何なのよこいつ……!いくらセイバーって言ったってこれはないわよ!?」

 

 鏡は戦闘を見てそうこぼす。自分も他人事ではないだけにその理不尽さがよくわかる。魔術協会でも自分は素質があっても研鑽を積まねばならないタイプであったし、そのうえで天才と呼ばれていたものをねじ伏せていたこともあった。自分は弱者ではない、だが、本物の強者とはこれほどなのかと内心毒づいた。自分たちは戦闘においては絶対のアドバンテージがあるはずなのにもかかわらず、まるで関係ないとばかりの戦いを繰り広げているその相手、セイバーにそう言わずにはいられなかった。

 

「あんた女を斬りたくないなら少し位手加減しなさいよ!」

「騎士としてそれはできん! 女子を斬るのは躊躇われるが、守らねばならん人がいる今、そんなことを言っていられるものか!」

「ええい頭かったいわねこのサーヴァント! バーサーカー!ちゃんと動きなさいよ!」

 

 断言できるが、バーサーカーは間違いなく一級品のサーヴァントだ。狂化の恩恵によってステータスも押し上げている。だが、相対しているセイバーは素でその強さなのだ。アレだけの戦いを続けながら、服が多少切れたりしている程度で、怪我の一つもしていない全くの無傷なのだ。不審に思い戦闘中に軽く見たそのステータスはもはや絶句するしかない。

 

【CLASS】セイバー

【属性】混沌・善

【ステータス】

筋力A 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具A

《対魔力》A

《騎乗》B

《勇猛》B

《カリスマ》C-

《無手にて挫けず》B

《天使の加護》E

 

 ステータスの高さはセイバークラスに恥じない高水準。サーヴァントである以上現界のための魔力はマスターに依存しており、そのステータスも同様。しかし、マスターの魔力のみでステータスが大きく上昇しているのではないことがスキルの豊富さが物語っている。一体どれほどの伝説を打ち立てればこれだけのスキルが付随するのか想像もつかない。さぞ高名な英霊なのだろう。

 今まさに剣を打ち合っている自身のバーサーカーから伝わる剣の一撃の重み、幾多もの剣戟の中に見える確かな技。並みの英霊に出せるものではないことが分かる。

 同時に、頭の奥で冷静に考える鏡は、このままでは奥の手を使って互角にしか持ちこめないことも分かってしまう。

 

「お願いだから……初日から奥の手使う展開とかにはならないでよ……?」

 

 

 

 そんな鏡の後ろで、その事態についていけていない少女、鈴鹿もまた驚愕していた。父から教わった身体強化の魔術以外はほぼ素人同然の彼女であっても濃密に感じることができるほどの魔力。

 

「父さんが見せたくなかったのは、これだったの……?」

 

 かつて父は自分に魔術を教えることを猛反対していた。たった一つ、護身用の身体強化の魔術を教えた以外は、何一つ教えようとしなかった。自身もその世界にあまり興味がなく、しかし父から教わったものだからとそれだけをやっていたに過ぎない。

 

「父さんがいなくなったのも、これのせいなの……?」

 

 父はもういない。幼い自分を残し、消息が分からなくなってしまっていた。会えない寂しさを紛らわすために一層練習を続けた。やめてしまえば、父に二度と会えない気がしたから。その結果が、今のこの状況なのか。

 

「父さん……」

 

 自分を護るためだったというのか。幼かった自分を護るためだったのか。

 そう考えた時、背丈も性別も違う目の前の女性の背中が急に在りし日の父の背中に重なった。

 

そうだ、この人は、私を護って戦っている! 

 

成り行きだったのかもしれないけど、理由も知らないけど、でも私をかばい、戦いになった!

 

私はどうすればいい?

 

何をすればいい?

 

 鈴鹿はふいに自分の手の甲を見る。三本の剣の痣が爛々と輝いている。

 

「私は……どうすれば……!?」

「何葛藤してんのか知らないけど正気に戻ったならとっとと逃げなさい。あんたもいつ狙われるかわかったもんじゃないんだから」

 

 先ほどの呟きが聞こえていたのだろう。鏡は鈴鹿にそう告げた。たまたま助けられたから助けただけで、正直割に合わなさすぎるのだ。さっさとこの子を抱えて安全なところまで逃げたいくらいだが、そちらに多く意識を割こうものならあのセイバーは容赦なく隙を突いてくるのが想像できる。バーサーカー単騎では防衛は難しい。今のバーサーカーはまさに戦闘マシンであるが故に。だからこそ鏡は逃げてもらって後で追跡して協会に連れ込むなりした方が楽と考えている。セイバーの危険性はあるが、今抑えられているうちでなければ本気で巻き込まねばならなくなる。それこそ、殺してでも。

 

「ああもう! 単騎で抑えるのにも限度があるのよ! いいから早く逃げなさい!」

 

 『単騎で抑えるには』

その言葉を鈴鹿は聞き逃さなかった。

 

「それなら! それなら私も戦います! 助けられてそのうえ命の危機を肩代わりしてもらって逃げるなんて、父に顔向けできません!」

「はあ!? サーヴァントもいないで生身での助けなんてあんたみたいなのがしたところでミジンコほどの力にもならないわよ! ごちゃごちゃ言わずに逃げてちょうだい!」

 

 セイバーの攻めは苛烈さを増している。このままでは本気で奥の手を使ってでも五分に持ち込まなくてはならなくなる。逃げの手が打てるいまのうちでなければならないのだが鏡の必死の願いは明後日の方向に解釈されてしまう。

 

「じゃあそのサーヴァントの出し方を教えてください! それなら私だって!」

 

 鏡はそれを聞き内心悲鳴を上げていた。勘弁してくれと信じてもいない神に呪詛を吐く。しかしその言葉にもっとも反応したのは、戦っているセイバーであった。

 本来なら腕を斬り、令呪を無くした上で病院なりに連れていき、退場してもらおうとしていた彼はこのような少女が戦いの場に晒されるのは可能なら避けてほしかった。故に日の当たる世界に戻れる者が自ら深淵に踏み込もうとしているのを看過できるわけもなく、そのマスターも敵が増えるのは歓迎できない。

 

「そうはさせるか!」

「いけない!? バーサーカー!」

 

 無言のバーサーカーが狙いを変えたセイバーの前に躍り出る。

 

「おのれ邪魔立てするか!」

「ああもう! ここまで接近されたら逃げるのも難しいかも……! あんた、やり方教えてあげるからその通りやりなさい! 可及的速やかに!」

「は、はい!」

 

 

 

 

 バーサーカーに守られながら、鈴鹿は言われたことを思い出しつつ歪な魔方陣を書く。

 

『いい? この際呪文も触媒もどうでもいいわ、手順も、方法も、英雄を呼ぶための儀式に過ぎないのだから。魔方陣書いたら、心の底から呼びなさい。助けてって呼びなさい!』

 

 ありったけの魔力を込め、願う。

 腹の奥底から振り絞るように。全身から搾りつくすように。

 

「どうか、来てください! 命の恩を返したいんです! 助けになりたいんです! どうか、どうか来てぇ!」

 

――――――其れ則ち義、也。助けてやろうぞ。

 

声が、聞こえた気がした。

 

 

 その瞬間、爆風が魔方陣より噴き出して、二体のサーヴァントを引きはがす。膨大な魔力の奔流が、押し返す。

 

「ウソ……いったいどんな運してるのよ、この感じ、とんでもないのが……」

「間に合わなかったか……!」

 

 老いながらも全身から並みの生物を遥かに超える風格を醸し出す馬を携え、槍ほどの柄を持つ偃月刀を手にした美しい髯を持つ偉丈夫がそこにいた。

 そこにいた者は皆一様にその姿を見た瞬間に悟った。

 

 戦神が、ここに。

 

「儂の名は関羽雲長。此度の聖杯戦争ではライダーとやらとして現世に参った。……して、そなたが我が主か小娘よ?」

 

 その聞こえた名乗りは皆が感じたものと相違なかった。

 聖杯戦争で真名を明かすのはご法度と言われているが、これはもはや隠しようのない相手だろう。特徴も、雰囲気も、伝え聞いたあの関羽その人であることが一瞬で分かってしまう。

 呆然とする鈴鹿とは逆に、セイバーと対峙する鏡は即座に計画を改める必要があると判断した。なにせ関羽だ。いくら今現在はマスターがこちら側についているとは言え、仮想敵として考えてしまえば知名度もその強さも恐ろしいものでしかない。しかし、本人の気質ゆえか、はたまた一周回って逆に冷静になったか、鏡はそれらを一度思考からはじく。今は、目の前の(セイバー)を倒せる確率が大幅に上がった。それだけで十分であった。

 

「とりあえず反撃できそうならそれでも構わないわ。とにかく手を貸しなさいあんたたち!」

「あっ……!そ、そうだった!ライダー?だっけ、あの人を助けたいの!向こうの騎士みたいな奴を倒して!」

「……まあ、色々と言いたい事はあるが、このままでは令呪も発動しかねんなこの小娘は。そなたに応じた時に聞いてもおったしな。今は何も言わんでやろう」

 

 バーサーカーとライダーが並び立つ。二対一の状態になったが、相対するセイバーは剣を構えたまま逃げるそぶりも見せない。引き時を見計らっているのか、はたまた時間稼ぎが目的なのか、鏡は思考するがどれも違うように思える。持った剣に揺らぎはなく、表情もまるで変わらない。これではまるで、あのセイバーのサーヴァントは……

 

「ぬん!」

 

 ライダーの振るう偃月刀がセイバーに襲い掛かる。セイバーはそれを防いでいるが、バーサーカーとの同時攻撃によって防戦一方になっている。その様子を見ていた鈴鹿はこれなら押し込めると感じていた。当然だ、明らかに先程より押している様子を見たらそう感じてしまうのも無理は無い。だが、裏に生きて、戦いに身を置いていたこともある鏡はそう感じていなかった。

 違和感が拭えないのだ。

 そして、シミのように残ったその違和感は、すぐに現実のものとなる。

 

「多少受けても問題無いな」

 

 バーサーカーの剣がセイバーの肩に振り下ろされる。今までならセイバーは剣で防ぐなりかわすなりしていたが、今回は違った。

 セイバーは、避けず、受けた。

 

「そんな!」

 

 肩に振り下ろされた剣はセイバーの身体を両断すること無く、その肉体に止められたのだ。服を裂き、肉に到達したその剣は皮膚に止められたのだ。

 

「バーサーカーならば打ち合いの中の一太刀くらいなら問題無いようだな。しかしそちらのライダーも居るとなると……」

『構わない、引け。アジトの防衛に回っておけ』

 

 驚きの中でまた別の声が聞こえる。姿は見えずともそれはセイバーとの話を聞けばマスターなのだろうとあたりはつけられる。わざわざ全員に聞こえるように言ったことが癪に触るが。

 

「見逃すの?」

『こちらにも時期があるだけだ。一人一人消したほうが速いのだからな』

 

 そのマスター言葉とともにセイバーは消えた。霊体化したのだろう。

 

「た、助かったの……?」

「ええ、非常に不愉快だけどね」

 

 鈴鹿がその言葉に反応し鏡の顔を見たとき、軽い悲鳴をあげてしまったことは誰も責められないだろう。それほどまでに鏡の顔は怒りに歪んでいた。奥歯が砕けんばかりに食いしばっているその顔は般若のようでもあった。

 

「セイバー……の、マスター……この屈辱必ず返してやるわ……!」

 

 

 

 

 




更新遅れてすみません。
就活で間が空いてしまいました。
あまり空きすぎてもと思い更新致しました。
ご心配おかけします。
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