とある魔術の員数外   作:竜華零

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プロローグ:「漆黒と四畳と開演と」

 

 ――――漆黒。

 暗闇(ひかりがなく)無臭(においもなく)無音(おともなく)無温(あつくもさむくもなく)無刺激(ふれられない)――――無存在(だれもいない)

 そこは、そう言う場所だった。

 

 

 しかし不意に、光が生まれる。

 暗闇が全てを支配していたその空間に、天地開闢の如く光が生まれる。

 ただそれは神の御業では無く、上下左右四方八方に配置されたLED照明による物だった。

 照らし出された空間は、想像していたよりもずっと小さい。

 

 

「…………………………」

 

 

 継ぎ目の無い、光沢すらも無い、闇よりも深く塗り潰されたような黒い壁が六方を覆う部屋。

 広さは四畳程度しか無く、天井、床、壁の全てが黒一色であることも相まって異常な閉塞感を感じる場所だった。

 今は上下の四隅からLED照明が部屋を照らしているので、辛うじて閉塞感を和らげている。

 普通の人間であれば24時間から72時間で精神を病みそうなその空間に、「それ」はいた。

 

 

 照明の柔らかな光の下にいるのは、少女のようだった。

 四畳の部屋の中央、固く見えて実は身体が沈む程に柔らかな床に座っている。

 ぺたんと尻を床に押し付けるように座る身体の周囲には、手入れの甘そうな伸び放題かつ、粉状の油の塊が付着した黒髪が広がっている。

 

 

「……ア……ッ」

 

 

 濁った声が、罅割れて醜く何度も切れた唇から漏れる。

 荒れた両手が鼻まで覆う前髪の間に入り込み、瞳を覆ってその場に身体を倒した。

 眼球組織に配慮した照明でも、光の感触そのものに痛みを覚えたのだろう。

 柔らかな床の上で芋虫のように悶える少女に追い討ちをかけるように、天井に開いた6つの穴から透明な水が溢れ出した。

 

 

「……ゥ……ッ」

 

 

 それは部屋の途上でシャワーのように細かく分裂すると、床に横たわる少女の身に湯を叩き付けた。

 何も身に着けていない肌の上を水滴のリズムが刻む、しかもその湯のシャワーには人体用の洗浄剤――洗髪剤(シャンプー)身体洗剤(ボディーソープ)を混合した物――が混ざっているのか、僅かに泡立っていることが確認できる。

 時間にして15分、天井からの放水(シャワー)はそれだけの時間続いた。

 

 

 次いで四方の壁に穴が開き、身を起こした少女に向けてマニュピュレーターがいくつか伸びてきた。

 風を送って髪と肌の水滴を飛ばし、特殊な薬品を染み込ませた白い布で身体を拭って汚れと垢を落とし、同時に皮膚や爪などのケアとコーティング、香り付け、散髪を行う。

 ここでさらに15分、この合計30分の作業が2分の間を空けて3度行われた。

 

 

「……せ、ぁ……?」

 

 

 96分前とは見違えた己の肌を確かめて、1時間以上を経てようやく光に慣れた目で見つめる。

 床に滴り落ちた水分は、どういう原理なのか吸収されて消えてなくなっていた。

 完全に乾いた身と周囲、その中で柔らかく手入れされた髪の端を揺らしながら身じろぎする少女。

 

 

「……ぇ……?」

 

 

 ビクリ、と身を震わせる、両サイドから20センチ程度の幅の板が飛び出してきたからだ。

 壁や天井と同じ、継ぎ目も光沢も無い板だ。

 その上に、いくつかの布が置かれていた。

 

 

 衣服だ。

 人間であれば必ず身に着ける物、板の上にそれが一式置かれていた。

 髪色と同じ、黒一色で統一されたそれに少女が不思議そうな視線を落とす。

 しかし、その後の変化に比べれば大したことも無いだろう。

 

 

「……ァ……?」

 

 

 光。

 天井と床の隅から注ぐ淡い光とは別の、蛍光灯の強い光だ。

 光源は、「外」だ。

 黒ではない、素材は同じようだが――――色は、「白」。

 

 

 外の白、それを見た途端に変化が生じた。

 黒曜石のような黒い瞳が、一瞬だが紫の輪郭に覆われたような気がした。

 そして「彼女」は、初めて意味のある言葉を紡いだ。

 潤った滑らかな肌で、囁きのように。

 微かな音を飛ばしたその唇は、こう言葉を紡いだ。

 

 

 ――――あくせられーた、と……。

 

 





初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶりです。
竜華零です、この度「とある魔術の禁書目録」の中編小説を描かせて頂きます。
最初から若干ハードなスタートになりましたが、しかし一方通行さん寄りの話になってくると、ダークな色になりますね。
基本的に今回は科学サイドの話ですので、魔術サイドの話題はあまり出ないと思います。

何とか最後まで持って行きたいと思いますので、よろしくお願い致します。
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