第0局 始まってしまった物語
「はぁ…」
買い出しからの帰り道、京太郎は荷物を背負いながら溜め息を吐いた。全国大会が終わってから数週間が経ち、全国大会優勝を成し遂げた清澄高校麻雀部の少女達を取り巻く環境は大きく変わった。
周囲からは長野の英雄だと褒め称えられ、テレビや雑誌の取材はひっきりなしだ。
一方で京太郎への風当たりは強くなり、事ある度に同じ部員である咲や和と比べられ周囲に馬鹿にされる。
『京太郎は所詮、予選大会の敗北者じゃけえ』
『取り消せよ…!今の言葉…!』
そんな言い争いも日常茶飯事なのだ。
だが、京太郎の精神を痛め付けるのは周囲だけではない。仲間であるはずの部員達でさえ京太郎にとって安らげる存在ではなかった。
『須賀君、悪いけどちょっと手伝ってくれるかしら?』
前々から事ある度に雑用を押し付け、大会が終わってからも何かと京太郎に手伝いをさせようとする久。
『京太郎、ワシらこれから取材を受けんといけんけぇすまんけど買い出しに行ってくれんかのう』
久ほどではないにしろ、新しく部長になってから京太郎に雑用を頼む様になったまこ。
『犬ー!お腹が空いたじょ!早くタコスを作るんだじぇ!』
京太郎を犬呼ばわりし、毎日タコスを作らせる優希。
『須賀君、あまりジロジロ見ないで下さい。周りの方々に勘違いされたらどうするんですか』
大会が終わってから、やたら冷たく京太郎に接する様になった和。
『ごめんね、京ちゃん。今日は和ちゃんや優希ちゃんと帰る約束をしてるから…』
麻雀部に入部してから和や優希と行動を共にするようになり、京太郎との付き合いが希薄になった咲。前日もレディースランチを食べるべく咲を昼食に誘ったが、和達と食べる約束をしてるからと断られてしまった。
そんなこんなで京太郎はまさに針のムシロに座らされる様な生活を送っているのであった。
「はぁ……俺の存在する意味ってなんなんだろうな…」
「周りからは男のくせに女子にパシリにされてて情けないって馬鹿にされ…」
「麻雀部の皆からは同じ部員じゃなくてマネージャー扱いや、空気扱いされて…」
「何処にも安らげる場所が……居場所がない」
「どうしてこんな事になっちまったんだろ…」
泣きそうになるのを抑え、一人呟き続ける京太郎。誰も自分の事なんて眼中にない、いてもいなくても変わらない。俺がこの世界から消えてしまっても誰も悲しまないだろう。
そんなネガティブな思考が京太郎の心を責め立てていく。
「…駄目だ駄目だ!そんな悪い事を考えるな京太郎!」
そんな考えを払拭させようと京太郎は頭を大きく振り、自分に言い聞かせるかの様に大声をあげた。
しかし、所詮は強がり。ほんの数分で京太郎はまた暗い顔になりネガティブモードへと戻ってしまった。
「はぁ……これから先、こんな辛い事が待ってるんだったら……いっそこの世界から…」
────消えて無くなりたい
と、そう京太郎が口に出した直後。
「いてっ!?」
急に頭のてっぺんに痛みが走ったかと思うと、目の前で何か小さなものが落ちていった。
京太郎が頭を押さえながら足下を見ると。
「んんっ?これは麻雀牌…?」
金色に輝く麻雀牌が一枚、地面に転がっていた。京太郎は不思議に思いながらも金色の麻雀牌を拾い眺める。
「さっきの痛みの原因はコイツか…」
何も刻まれていない【白】の黄金牌…どうやらコイツが京太郎の頭の上に降ってきた様だが…。
「どうしてこんなものが落ちてきたんだ?」
空から雨や雪が降ってくる事があっても、麻雀牌が落ちてくるなんてのは初耳だ。ましてや、それが金の麻雀牌ならオカルト以外の何物でもない。
「ふーむ…」
小さく唸りながら牌を手のひらで転がしてみる。その直後の事だった。
────キュイイイイン…
「うわっ!な、なんだ!?」
京太郎の手の上で光りだした麻雀牌。京太郎はびっくりして牌を手から落とすも、牌は地面に落ちる事なくその場に浮き続けますます光っていく。
「うわああああああ!」
牌から放たれた光は京太郎の身体を包み込んでいき…。
───パサリ
京太郎の持っていた買い出しの袋が小さな音を立てて地面に落ちる。そして…黄金の麻雀牌と共に、須賀京太郎の姿が消えたのであった。
◆ ◆ ◆
クスクス
可哀想に
あなたは誰からも愛されてないと思い込んで生きてきたんだね
周りから冷たい目で見られ 誰にも助けを求める事が出来なかったんだね
信じていた仲間にすら冷たい仕打ちを受けて
辛かったね 苦しかったね
でも もう大丈夫だよ
【ここ】ではあなたを拒むものは何もないよ
あなたを馬鹿にしたり 憎んだりする存在もない
あなたの望むものだってきっと手に入るよ
あなたが欲しがっていた心が安らげる居場所も
もっとも───あなたが【こっちの世界】を【拒まなければ】の話だけどね
さあ 果たしてあなたはどっちに転ぶかな?
ようこそ 終わりなき無限の愛の迷宮へ─────
ステータス
須賀京太郎
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状態 健康
護衛兵 なし
装備品 なし