京太郎の大冒険   作:ヤッダーバァァァ

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謎の迷宮にて黒き八尺様が京太郎を襲う!


第2局 分かってんだよ、このままじゃ捕まるってこと

「うーん、京太郎君ちょー可愛いよー!いっぱいスリスリしちゃうよ~」

 

京太郎を捕まえた少女はまるで猫を可愛がるかの様に京太郎の顔に頬擦りする。

一方、捕らえられた京太郎は蛇に睨まれたカエルよろしく硬直してしまってピクリとも動かない。

 

「…………ハッ!」

 

ようやく意識が回復したのか京太郎はパチクリと瞬きするとジタバタと暴れ始めた。

 

「は、放して!放してくれ!」

 

「あわわっ!暴れちゃ駄目だよ京太郎君ー!そんなに暴れたら危ないよー!」

 

死に物狂いでもがく京太郎。それを抑えようとする少女。その攻防はしばらく続き…。

 

「こ…のぉ!放せー!」

 

「わあっ!?」

 

どうにか少女の束縛を解いた京太郎。だが、もがくのに渾身の力を入れていた為、身体のバランスを崩してしまい正面から地面へと倒れてしまった。

 

「いっ────!!」

 

身体を襲う痛み。幸いにも顔を強打する事は避けられたが、胸から落ちてしまったせいで息がつまりそうな苦しみがやってくる。

 

「げほっ…!げほっ!…はぁ……はぁ…」

 

激しく咳をしながらもどうにか息を整えると、京太郎は上半身をおこして自分を襲った少女の方を見る。

 

「大丈夫!?京太郎君ー!? ごめんね!? 私のせいだよねー!?私が京太郎君をちゃんと抱きしめてなかったから、京太郎君が…!」

 

自分を襲った少女は涙目になって、おろおろと慌てふためいていた。その姿はまるで迷子になった時の咲の様で、京太郎は面食らってしまった。

2m近くはありそうな高身長に反して、小動物の様な挙動をして謝り続ける少女は、とても人を襲う様な人間とは思えない。

 

(……ん?)

 

ふと、京太郎は目の前の少女に見覚えがある事に気が付く。それは夏の全国大会の時。二回戦にて大坂の姫松、鹿児島の永水女子と共に清澄と対決した高校。

その大将を務め、咲と戦った女の子。その少女の名前は───。

 

「………姉帯……豊音…さん?」

 

そう、岩手の代表として参加した宮守女子の大将、姉帯豊音であった。

 

「そうだよー、豊音だよー。京太郎君が私の名前を呼んでくれてちょー嬉しいよー」

 

「は、はぁ……」

 

京太郎に名前を呼ばれた事が凄く嬉しかったのか、豊音は親に褒められた子供の様に頬を緩めた。悲しそうな泣き顔になったり、楽しそうな笑顔になったりと表情が豊かな少女である。

見ていて実に微笑ましい光景に、京太郎の方も少し警戒心が薄らいだのかつられて笑いそうになったが。

 

「あのー…姉帯さん…」

 

「ん?何かなー、京太郎君?」

 

「その…失礼な事を聞きますけど……何処かでお会いしましたっけ…?」

 

「えー?」

 

京太郎には彼女に自分の名前を教えたり、会話をした覚えはない。そりゃあ、選手として活躍した咲達となら接点はあるかもしれないが自分はずっと雑用係で表に出る事はなかった。

 

他県で咲達の名前を知っている人は多くとも、大会にも参加せず背景係を務めていた自分なんかを知っている人間など全くいないはずなのだ。

ましてや今の京太郎は小学生の頃の姿になってしまっている。長い付き合いのある咲ならともかく、全く面識のない豊音が幼い頃の京太郎の姿を知っているなんて有り得ない。

 

なのに、何故。豊音という少女は自分の名前を知っていて、幼くなってしまった自分を一目見ただけで京太郎だと理解し、かつ仲の良い親友のように親しげに接してくるのか。

京太郎にはそれが分からなかった。

 

とは言え、この不思議な世界に来てから漸く人に出会えたのだ。恐らく彼女もあの金色の麻雀牌を拾い、この場所に導かれたのだろう。

なら、彼女と共に行動した方がよいのではなかろうか?小さくなってしまったとはいえ、京太郎も男としてのプライドがある。

 

自分よりも身長が高いが豊音は女の子だ。こんな不気味な場所で一人でいるのは恐ろしいだろう。なら、ここは男として彼女をリードしてあげなければ。

 

(あわよくば姉帯さんと親密な関係に……なんて…思ってみたりして)

 

…まあ、下心は全くないと言えば嘘になるけどね。

 

「…とにかく、姉帯さんに会う事が出来て良かったですよ。さっきから人を見かけなくて不安になっていたんです」

 

「私も京太郎君に会えてちょーうれしーよー!」

 

「そうでしたか。あの、もし良かったら一緒に行動しませんか?姉帯さんも一人で怖かったでしょうし…」

 

「そうだよー…ぼっちはもう嫌なんだ。ずっと一人ぼっちで寂しかったから…。でも、京太郎君に会えたからもうそんな寂しさとはお別れできるよー。これからは京太郎君とずっと、ずーっとずっーーーと一緒だよー」

 

「あ、あははは…そこまで必要としてもらえて嬉しいです。お互い、変な麻雀牌のせいでこんな所に飛ばされたのは災難でしたけど、一緒に元の世界に帰れる様に頑張りましょう」

 

「元の世界…?元の世界って、何かなー?」

 

「何かなって…勿論、自分達のいた場所に決まっているじゃないですか。俺は長野、そして姉帯さんは…岩手の方でしたよね?」

 

「…………?」

 

豊音はキョトンとしながら首を傾げる仕草を見せる。京太郎が何を言っているのか分からないといった様子だ。

一方の京太郎も豊音との間に妙な"ズレ"を感じていた。会話が全く噛み合っていない。

嫌な予感がする。京太郎は恐る恐る尋ねてみた。

 

「…姉帯さんも金色の麻雀牌を拾って、岩手からここに来たんです…よね?」

 

「ううん、違うよー」

 

「え…!?」

 

「私はずっと【ここ】で京太郎君に出会うのを待ってたんだよー。この【終わりのない世界】で、永遠に京太郎君を愛する為に…エヘヘ」

 

「──────!」

 

嫌な予感が確信に変わった。

 

彼女は、違う。

 

自分の様に、この世界に飛ばされたのではない。自分の様に元の世界に帰る方法を探している訳でもない。

つまり彼女はこの謎の世界の────。

 

「どうしたのかな京太郎君?何だか顔色が悪いよー?」

 

心配そうな顔して京太郎へと手を伸ばす豊音。だが、今の京太郎にはその手が自分に害を及ぼす、悪魔の手に見えてしまい…。

 

「ひっ!」

 

小さな悲鳴をあげてその場に尻餅をついてしまった。

 

「わわっ、大丈夫?お尻の方、痛くない?…京太郎君は疲れているみたいだし、何処かゆっくり休める場所に連れていってあげるねー」

 

赤い瞳で見下ろし、無邪気な笑顔で豊音は京太郎へとゆっくりと近付いていく。

 

ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ

 

恐ろしい女の笑い声が、再び京太郎を襲う。それはさっきよりも大きく、そして強く京太郎の心を揺さぶっていく。

 

「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」

 

逃げろ。逃げるんだ京太郎。

 

頭の中で自分にそう何度も命令するが、身体が全く動かない。まるで全身が石になってしまったかのようだ。

このままでは捕まる。捕まったらどうなるか分からない。早く逃げなきゃ駄目なんだ。

 

そうはっきりと分かっているはずなのに。どうして、身体が動いてくれないんだ─────!

 

「怖がらないで京太郎君。私は京太郎君の味方だよー。だから……安心して…」

 

「ああ、うう……」

 

「私と一緒に……誰も私達をいじめない、幸せな場所に行こうよー」

 

豊音はそう言い終えると腕を大きく広げ、京太郎を抱きしめようとする。黒く大きな蜘蛛が、網に引っ掛かった哀れな獲物を捕らえ、補食しようとするかの様に。

 

ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ

 

近付いてくる揺らぐ事のない赤い瞳。それは決して京太郎を逃さないという豊音の強い意思の現れ。

そして京太郎は──────。

 

 

「うわああぁあぁぁあああっ!」

 

ありったけの力で叫び声をあげた。

それは自分自身を鼓舞させる為の精一杯の咆哮。流し込まれる女の笑い声や豊音の赤い瞳の束縛に対する、京太郎のギリギリの抵抗。

だが、それが追い込まれていた京太郎を救う事になる。

 

「ひゃんっ!?」

 

京太郎の叫びに豊音が怯んだのだ。その瞬間、不気味な笑い声が止まり硬直していた京太郎の身体が何かから解放されたかの様に軽くなる。

 

「……!」

 

この瞬間を待っていたんだ──!

 

京太郎はすぐさま立ち上がると、豊音に背中を向けて全力で走り出した。

 

「あっ!?待ってよ京太郎君ー!私を置いて何処に行くのー!?お願いだから私をぼっちにしないでよー…!」

 

慌てて豊音も京太郎の後を追う。

 

(捕まって…たまるか!)

 

京太郎は死に物狂いで走り続けた。何度も転びそうになりながらも後ろを振り返る事もせず廊下を駆け抜ける。

 

「ゼェ……ゼェ……!」

 

しかし、程なくして京太郎の身体が悲鳴をあげ始める。足が重くなり心臓が裂けそうだ。

 

「なんで…はぁ…はぁ…!ちょっと走った…くらい…で…!?」

 

中学生の頃はハンドボール部に所属し、活躍していた京太郎は自分の体力にはそれなりに自信があった。

ハンドボールから離れ、麻雀部に所属する様になってからも買い出しの時や、重い荷物を運ばされた時もその持ち前の体力が役に立ってくれたのだ。

そんな自分が少し走ったくらいでヘトヘトになってしまっている。

 

(そうだ …!今の俺は……小学生レベルなんだ…)

 

京太郎はその原因に直ぐにたどり着いた。外見だけでなく身体能力の方も、小学生の頃に戻ってしまっていたのである。

本来の京太郎のスタミナなら余裕であっても、身体能力が低下している今の京太郎にとっては苛酷な運動なのだ。

 

(このままじゃ…やばいぞ…)

 

スタミナが切れて動けなくなってしまえば、追いかけてくる豊音に容易く捕まってしまうだろう。

 

「待ってー!」

 

遠くの方から豊音の声が聞こえてくる。体力の方は限界に近い。万事休すか。

 

(何か…何か手はないか!?この窮地を脱する悪魔的手段は……!)

 

ヒューヒューと少し過呼吸気味になりながらも、京太郎は逃れる為の手段を探す。

 

「あ…あれは…!」

 

視界の中で京太郎が見つけたのは、掃除用具などをしまうロッカーだった。

もうこれしかない。京太郎はロッカーに向かって走り出す。

そして、必死で扉を開けるとロッカーの中に隠れガチャンと扉を閉めた。

 

「ふぅー…!ふぅー…!」

 

肩で大きく息をしながらロッカーの穴から外の様子を伺う。顔が汗だらけで気持ち悪い。ドクンドクンと心臓が大きく鼓動していて痛い。

 

「京太郎君ー!何処にいるのー?隠れてないで出てきてよー」

 

ロッカーに隠れてから数十秒後、涙目になっている豊音の姿が京太郎の目に映った。

 

(頼む!そのまま過ぎ去ってくれ!)

 

京太郎は呼吸の音を隠すために口を抑えながら、豊音に見つからない事を心の中で繰り返し祈り続けた。

 

「京太郎君ー…何処なのー…?」

 

赤い瞳をウルウルとさせ、親を探す子供の様に豊音は京太郎の名前を呼び続ける。悲しみに満ちた声で自分の名前を呼ぶその姿に京太郎はチクリと胸に痛みが走ったが、グッと拳を握りロッカーの中に隠れ続けた。

 

「………」

 

やがて豊音は顔をうつむかせて立ち止まった。

そして。

 

「わぁぁあぁぁああんっ!」

 

彼女はその場に膝をついて大声で泣き始めた。

 

「こんなのってないよー!やっと京太郎に会えたのにまたぼっちになっちゃったよー!もうぼっちは嫌だよぉっ!私を一人にしないでよー!うわぁあああぁあんっ!」

 

赤い瞳からポロポロと大粒の涙が流れ、地面へと落ちる。幼い子供の様に泣き続ける豊音を見て京太郎の心の中で次第に罪悪感が膨れ上がっていった。

 

彼女が自分のせいで心の底から悲しんでいる。

 

その事実が京太郎に深く突き刺さった。

 

(これ以上、姉帯さんを悲しませたくない…)

 

という彼女を受け入れようとする思いが頭をよぎるも。

 

(感情に流されるな!アイツは俺を捕まえようとしていた女だぞ!)

 

という彼女を拒絶する思いも同時に頭の中をよぎった。

 

「ぐすっ……えっく……辛いよぉ……さびしいよぉ……」

 

身体を震わせ溢れ出ている涙を手で拭いながら、豊音はいまだに泣き続けている。

このまま豊音を無視してロッカーの中に隠れ続けるか。それとも豊音を受け入れ、ロッカーから出て彼女の前に現れるか。

 

(俺は─────!)

 

この状況の中、京太郎が選んだ道は───。

 

◆ ◆ ◆

 

(……ごめんなさい、姉帯さん。どうして俺なんかをここまで必要としているのか分かりませんけど……俺は元の世界に帰る道を選びます)

 

京太郎は、このままロッカーに隠れる事を決断した。可哀想だけど、自分には帰らないといけない場所があるのだ。

このまま何も分からないままこの世界を受け入れる事は京太郎には出来なかった。

 

(本当にすいません姉帯さん…)

 

奥歯を噛みしめながらロッカーの中で京太郎は、泣きじゃくっている豊音に何度も何度も謝り続けた。

 

それから数分後、豊音は泣くのを止めてゆっくりと立ち上がる。頬に涙を流した痕を残して。

 

「……京太郎君。私は絶対に諦めないよー。京太郎君がどんなに逃げても、私はどこまでも追いかけて必ず京太郎君と一緒になってみせるよ…。ぼっちはもう……嫌だから…!」

 

目に涙を浮かべつつも、豊音は強い口調でそう言い放つ。それは自分自身に誓いを立てるかの様に。

 

「待っててね京太郎君……必ず迎えにいくからねー…」

 

赤い瞳に決意を秘めた炎を漂わせながら、豊音は歩き出し京太郎の視界から消えていった。しんと静まり返る会場内。

 

(………行った、のか?)

 

ゴクリと喉を鳴らしロッカー越しに耳を澄ませる。物音は全くせず、人がいる様子はない。京太郎はゆっくりとロッカーの扉を少しだけ開き、隙間から外を伺う。

そして誰もいない事を確認すると、扉を完全に開き外へと出た。

 

「…はぁ~!」

 

危機を脱した京太郎は大きく息を吐く。本当に怖かった。こんなにも怯えたのはいつ以来だろうか。

 

『もうぼっちは嫌だよー…』

 

「っ……!」

 

急に豊音の泣き顔が脳裏によみがえる。同時に胸を襲うズキリとした痛み。

 

「………」

 

京太郎は無言で唇を噛みしめると、ぶんぶんと首を大きく振ってさっきの光景を消し去ろうと試みる。

 

(自分の選んだ道に今さら後悔するな京太郎。お前は自分の世界に帰るんだろ?)

 

そう自分に言い聞かせ、京太郎は前を見据える。感傷に浸っている暇はない。また豊音が追いかけてくる前に、一刻も早く長野に帰る方法を見つけなくては。

けど、その前に…。

 

グゥー……

 

「腹……減った…」

 

何も食べてない状態なのに全力で走ったせいで京太郎の空腹はピークに達していた。それに加え、肉体の疲労が身体を包みこみ、いつ倒れてもおかしくない。

 

「食べ物………何か食べ物が欲しい……」

 

そう呟きながらフラフラとした足取りで歩き始める京太郎。

 

「ふふ…感じる…感じるでぇ…!近くに京太郎がいるのを感じる…!もう我慢できへん……早く京太郎に膝枕をしてナデナデあげたいんや……そしてその後は……クスッ」

 

一難去ってまた一難。肉体的にも精神的にもボロボロな京ちゃんに新たなる危機───Rの女が迫っていたのであった。




ステータス

須賀京太郎

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状態 空腹

能力 なし

護衛兵 なし

装備品 なし
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