+α番外・NG集   作:千野 敏行

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二章七話(だったはず)のおまけから続きました。


二十二世紀に戻ったら本丸に突っ込まれました編

 どこに出しても恥ずかしい純日本人、審神者名をアッバル。彼女はπに飢えていた。チョコパイでもアップルパイでもなければパイナップルやアメリカ人女性の有名エッセイ本のタイトル(American pie)でもない……女性の胸部に存在し、柔らかく脂肪分たっぷり、GやらHともなると間に物を挟んだり小さめのバケツに嵌め込んでブルンブルンと振れるアレである。

 πだ。πが絶望的に足りない。その曲線は円周率で表せるのか分からない、でかいと垂れて湯船に浮くアレが足りない!

 しかしながら、アッバルには刀剣男士らをドドインバイーンにする秘術の知識などない。彼女に従うピュアな男の子たちをバインバインのボインボイン(死語)にしてパイ投げならぬおっπ祭りを開催したくとも、その方法がなければ意味がない。

 そんな時だ。政府からメールが届いたのは。

 

 

「なになに、臨時メンテナンスをすると」

 

 毎週定期メンテナンスのある審神者システムだが、臨時に行うとは何か起きたのだろうか? 今日の昼二時から二時間を予定しているらしい。

 

「いつも通りメンテナンス中に霊力の放出は駄目、と。……そういえば何で駄目なんだろ?」

 

 執務机の右手に設置された本棚から、分厚く重い審神者の手引きを手に取る。研修では「駄目だから駄目」としか聞いていないが、そんな会津藩みたいな説明で終わらせないで欲しい。大人になると1+1が2になる理由が欲しくなるのだ、とりあえず暗記しろと言われて納得できるのは高校生までである。

 ページをめくり目次を流し読みする。メンテナンスについては五章、メンテナンス中の霊力放出に関する事項はよくある質問の欄だ。かなり後ろの方にあるそのページを開き、指でなぞりながら該当箇所を探す。――あった。

 

「えーっと……新たに鍛刀、手入れ、刀装の製作などを行った場合、メンテナンスにより術式が混乱している本丸内では想定外な作用が起こる場合がある。前例には手入れを受けた刀剣男士が一時的に女体化する(メンテナンス終了と共に戻った)、鍛刀した審神者が性転換した挙げ句ゴリラになる(メンテナンス終了後に戻した)など……」

 

 これだ、とアッバルは考えた。これ以外ない。たとえ我が身がゴリラと化したとしても後悔などしない。πを拝み、揉み、ぱふぱふするためならば何だってできる。

 どうやら自分がゴリラになった場合には自力で元に戻れないようだが、そんなもん関係ねぇ。欲望のためなら少しのデメリットなどなかろうなのだ。

 

 アッバルは笑んだ。にやりと。

 

 

 昼を食べてから二時過ぎ、アッバルはわざとうっかり鍛刀した。資材はオール350、鍛刀時間も確認せず、見た目と言動がエロい未亡人である宗三左文字(そうざさもんじ)が女体化して現れてくれたらと下種いことを考えつつ、手伝い札を投げる。実は既にエロい未亡人(ムネゾーくん)はこの本丸にもいるが、あれは♂であって欲しいのは♀だ。

 乱れる霊力、何故か浮かび上がる魔法陣……いや、やけに見覚えのある紋章。アッバルが出奔した元ホームの家主、気付いたら二十二世紀に戻っていたアッバルにとって会いたくないことこの上ない相手。嫌いなのではない、気まずいのだ。

 

「この気配、もしかしてアッバルさん?」

「そうです。アインズさんお久しぶ」

「いっ……」

「い?」

 

 現れたのはやはり骨、装備は見慣れた魔王ルックだ。表情など変わらないはずの骸骨がしかし、怒りに燃えるのを幻視した。

 

「今まで一体どこをほっつき歩いてたんだ、このバカ娘! 突然消えて、消息もなくなって! どこかの冒険者に狩られたんじゃないかって、それか使役魔にされたんじゃないかって――心配、したんですよ……」

「……アインズさん」

 

 誰が聞いても家出娘に対する父親の台詞である。心配する点が一般的なそれとは全く方向性の異なるものであったが、やはり親は親らしい怒り方をするものである。

 ぎゅうぎゅうと鯖折りにされるが、帰還と共に戻った容姿に対して戻らなかったレベルのお陰で圧死は免れた。宗三らが刀剣男士ならばアッバルは拳闘女子、俺の拳が血を求めていると言わんばかりに拳で闘える。なにしろユグドラシルのレベル70で刀剣の皆さんのレベル90程度――刀剣男士は魔法や固有技を持たない体なのだ、そういった超自然的なバックアップがないのだからこの差は妥当と言える。まあ、一般人はどうあがいてもレベル15前後、一般人からすればプレイヤーも刀剣男士もどちらも同じく人外であろう。

 

「どうした主っ!?」

「審神者様ー!?」

 

 居間として使っている広間から何人もの足音。一番に飛び込んできたのは金髪碧眼に王子然とした造作の山姥切国広と、隈取りチューブフォックスこんのすけ、その後ろに小夜左文字と蛍丸、にっかり青江、そのまた後ろで鍬を抱えた長谷部が「こういうときに何故機動の速さが役に立たない!」と嘆いている声が聞こえる。厨房で三時のおやつを作っているはずの燭台切はまだ来ない。

 

「なっ、歴史修正主義者が!?」

「主様から離れろ」

「どーやってこの本丸に入ったのかなー」

「ゆるゆるだったのかもね……結界のことだよ?」

 

 それぞれの武器を構える刀剣男士の皆さんに慌てたのはアッバルだ。

 

「ちょ、待て、みんな」

 

 乳欲しさに鍛刀したら乳ならぬ父がきた。まさかである。爆発させた煩悩の結果が父召喚……裏切られた期待に沈めば良いのか思わぬ再会に喜ぶべきか。

 先ずは誤解を解かねばとアインズパパを見上げるが、これをどうやって誤解と伝えれば良いのか。なにせアインズは骨である、戦場で命と命のやり取りをする相手にそっくりだ。目の奥は赤く輝き、威圧感溢れる圧倒的強者……詰んでいる。

 

「ご、誤解だ! 五階だ六階だ七階だ猪八戒だ!――この人は私の」

「父だ」

「そう、乳だ!」

 

 ババーンとアインズを指し示すアッバル、困惑する刀剣男士、何故か胸を張るアインズに目を剥くこんのすけ。

 

 ……鍛刀部屋は混沌としていた。

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