今日も今日とてアッバルは平和だ、同居の家族は時々だがご飯をくれるしアッバルを大事にしてくれる。彼の趣味とアッバルの食事が出会った奇跡を神に感謝したい。――ある日突然彼が超能力に目覚め、漫画の悪役のような高笑いをしたとしても、だ。
「どうしたの、よっしー」
「ふ、ふはは、見ろアッバル……この素晴らしい力を!」
よっしーと呼ばれた男は興奮を隠せぬ様子で超能力、スタンドを発現させる。猫を彷彿させる見た目の成人男性型だ。
「おー、なんかよくわかんないけどすげー」
「ふふ……この能力について教えてやろう。この能力、キラー・クイーンの素晴らしさを!」
「あ、うん」
自己陶酔に注意力散漫なよっしーこと吉影。彼はテーブルの上にあった湯飲みを取り上げると、ひょいっと庭へそれを投げた。……湯飲みには地面に落下し砕ける未来が待っていたはずだ、何故空中で爆散するのか。灰のような微細な粒子と化してその存在を消滅させたためか、塵の山ができる間もなく風に流されていく。
「素晴らしいだろう、これで突発的に女性の手が欲しくなった時にも対応できる。もちろんアッバルに死体をやりたいのは山々だが、出会いは一期一会だからな。欲しいと思ったならばすぐに行動したいのだ」
「うーん、まあ、
「分かっているとも。牛肉でも何でも買ってやろう」
「よっしゃ!」
アッバルにとって口に入り活力となるならそれが別に人間であっても牛や鳥であっても良かったが、今までは特に人を食べていた……吉影の趣味に寄り添い、互いにとって利のある関係を保つことができていた。
だがこれからはきっと勝手が違ってくる。吉影は素晴らしい隠滅手段を手に入れた。アッバルにいちいち食べさせてやる必要などないし、彼はこの能力を試したがっている。アッバルをその対象にと考える日はけして遠くないだろう。――人語をしゃべる八本足蛇というものは奇異で人に好まれるものではないと知っていても、やはり、誰かへ吉影にとって不利益となる証言をされるのではと疑う気持ちはむくむくと育つはずだ。
彼にはそれを消せる力がある。彼は身の内に爆弾を抱えていられるほど気楽な性質はしていない人間だ、いつかアッバルはこの男に消される。
吉影には感謝している。こんな怪物を今までずっと隠し続けてくれたのだ。たといこれから彼の気持ちが変化していったとしても、今までの彼の親切が無くなるわけではない。吉影のことは大好きだ、これからもずっと。だが。
「潮時は今だってことか」
二ヶ月。思っていたより保ったものだ、アッバルの耳に届いた微かな呟き――「もうあいつは邪魔だな」。人気のなくなった室内、もそりと立ち上がる。吉影には秘密にしていたが、実を言うとアッバルには人間形態がある。女の子のおててペロペロ! ペロペロハァハァ! などというヤバい性癖の吉影に、自分も女の子のおてての所有者だとは口が裂けても言いたくなかったのだ。
だが、彼のお陰でおっぱいパフパフはごく普通の性的嗜好だと改めて理解することができたのは収穫だった。あれと比べれば自分は普通だと確信を持てる。
適当に創造したシャツとズボンを身に付け、家を出る。何年も過ごした家だが、こうして外から眺めるのは数えるほどの回数しかないためか知らない場所のようだ。裸足を踏み出し……駆け出す。
次はどこへ行こうか。なるべくなら後ろ暗い人間、互いに利用しあえる者が良い。
数日後、女性の胸よりもふかふかした白い脂肪の塊に引き寄せられ、肉に埋もれて涎を垂らしている八本足の蛇が見つかった。第一発見者はそのお宅の次男である。