事務所内の革張りソファーに座る忠夫の膝の上、アッバルは足をバタバタさせて泳いでいる。私用ででかけた美神のため、二人(?)は留守番だ。
「なあ、アッバル」
「なんじょね?」
「美神さんの乳を頻繁に揉んでるお前に、オッパイスト仲間としてお願いしたいことがある」
「おっぱいは正義なり」
「正義なり。そんでや、ここに土下座で手に入れた中古のハンディカムがある……これでイヤーンでアハーンな入浴姿を撮ってきてくれ!」
パシン、と音を立てて手を打ち合わせそう言う忠夫。美神の保護下にあるアッバルならば、風呂場にこっそりカメラを仕掛けるなど容易なはず。美神はあのワガママボディーである、本音を言えば生で観賞したいのだが、今まで幾度となくチャレンジしては敗戦を繰り返してきたことから忠夫は妥協した。
もうビデオでもかめへん、と。
「えー? 撮ってどうするのさ」
「そりゃあれだ、俺の俺が俺して俺する」
「何を言い出すやらこの性少年」
余所には売らんから! とは言うものの、盗撮は犯罪である。アッバルはAVのファンタジーは楽しめても盗撮のリアルは好きではない。美神も横島を憎からず思っているのだから、誠実に口説けばベッドで好きなだけ揉んだりナニしたりできる……はずが、この男に正攻法という概念はない。盗撮、覗き、真正面からのセクハラ、出会った瞬間に相手にルパンのごとく飛びかかりつつ「生まれる前から愛してましたー!」等と叫ぶのだ。
「まあ、忠夫にはレンタルビデオショップで借りるだけのお金もないもんね」
「その通り」
「自販機のエロ本、取り出し口から腕突っ込んでゲットしたりしてるしね」
「俺の前世のその前はきっとタコ」
「んで、盗撮か」
「忠ちゃん一生の御願い! もしアッバルがしてくれたらお礼のちゅーが送られます!」
「え、いらない……」
年齢確認が適当なこの時代。私服の十七歳と十八歳を見分けるのは難しいうえ、さほど厳格に年齢確認もしない。つまり十八歳っぽく見えたら借りられるわけだ。
私服姿の忠夫は高校生とも大学生とも見え、レンタルショップのおじさんもAVだろうがゲイビだろうが貸してくれることは間違いない。流石に後者であると二度見されるかもしれないが。
しかし忠夫はAVを借りられない――金がないからだ。
ならばこのフツフツと沸き上がる煩悩を、マグマのごとく煮え立つ性欲を、一個の雄として腹の底に渦巻く本能を……どう解き放てば良いのか。齢十七にして右手は既に黄金に輝き、賢者など知らぬ脳味噌はまるで躾のなっていない犬である。
中学の友人が男子校の姫になっているという噂に手を合わせて冥福を祈りつつ、健全な性少年は健全な願いを抱く。
彼女がほしい。エロくてむちむちで、少しおねーさんで家庭教師で、「オトコノコは元気が一番」なんて言いながら舌なめずりしてほしい。もしくは清純で華奢で、少し年下の後輩で、「AだけじゃなくてBもCも先輩に教えてほしい……」なんて頬を染めながら言われたい。
エロいことがしたい。できないならエロいものが見たい。エロい美神の裸が見たい。だってオトコノコだもの ただを。
「じゃあ何を差し出せばやってくれる!?」
「普通に口説けば良いじゃん、そんな盗撮なんてせずにさ」
「口説いてエロいことさせてもらえるならこの世に童貞はおらん!」
「うわ……」
可哀想な発言である。はっきり言って聞いている方が切なくなる。忠夫の一方的な思い込みであることも虚しい……美神は忠夫を意識しているというのに。
「あんなボインボインでムッチムチでボンキュッバンな体つきのイイ女やぞ!? 土下座して金払っても手が届かんのに、ほんのちょっと口説いたところでどうにかなるわけがない!」
忠夫はアッバルを捧げ持った。
「だからアッバル、いやアッバルさん!」
「忠夫、ストップ、それ以降はヤバい」
「いいや言う! 俺に代わって美神さんの入浴ーンとか桃源郷とかを」
「マジでヤバいからストップ、忠夫ウェイト!」
「このハンディーカムに撮してきてくれ!」
アッバルの制止も虚しくそう言い切った忠夫の背後、事務所の出入り口――そこに仁王立ちするは話の当事者美神。額には井桁模様が浮いている。
「ほほーう? 素敵な相談をしているみたいね」
「げげっ、みっ美神さん!?」
「そんなに桃源郷が見たいなら、極楽で見ていらっしゃい!」
バチバチとスタンガンのような音を上げる神通棍、美神はそれを振り上げ――振り下ろす。
美神令子除霊事務所は今日も平和だ。
リクエストの、リグリットに拾われましたバージョンはもうしばらくお待ちください。次こそはお婆ちゃんと一緒ルートです。
ちなみに男子校の姫云々は、男子校に通っていた友人を持つ人から聞きました。漫画の中だけじゃなかったと知り震えています。