アッバルはエロ方面の知識がある方だ、残念ながら実践したことは一度もないが。中でもπへの執着などはそこらの男よりも酷く、揉んだだけでサイズが分かるゴッドハンドである。それを才能の無駄遣いと人は言う。
しかし、もちろん彼女にも純粋な時代があった。触手ってなーに、触角のおてて? と首を傾げていたような時代が。しかし、彼女が九歳の時、ボタンは掛け違えられてしまったのだ……。
その日、幼い彼女は兄の部屋に入った。シーツを洗うから取ってきてくれと頼まれ、兄のそれを回収しに来たのだ。そして見つけてしまうベッド下の何やら怪しげな箱、可愛い彼女はこう考えた。こっそりなら見てもバレないのでは、と。兄は友達と遊びに出ていて不在、始めと同じように仕舞えば良いのだ。
そして彼女はシーツを洗濯物置き場に放り投げ、兄の部屋に戻る。どきどきと胸を未知への興味で高鳴らせつつ開いたそこには……メイドさんが哺乳瓶を持っている絵が表紙の薄い本があった。なんだこれ。
秘密の漫画によけいに胸が高鳴り、表紙をめくる――それからはあえて語るまい、十八禁同人誌であったとだけ言えば誰でも分かることだ。
彼女は混乱した。なぜメイドさんがオムツをさせられているのか、哺乳瓶に吸い付いているのか、お兄ちゃんの性癖屈折してますね。
同人誌の中身はよく分からなかった彼女ではあるが、一つだけはっきり分かったことがあった。これは人に伝えてはいけないものだと。秘密にしなければならないという興奮と恐怖がぐるぐると胸中に渦巻き、彼女は始めと同じように箱を仕舞うと自分の部屋に逃げ込んだ。
ベッドに飛び込むやしばらくうつ伏せのまま過ごし、そしてまたガバリと起き上がる。秘密のことは言えなくとも、母の顔が見たかった。
果たして母は居間におり、仕事や家事の疲れがあるのだろう、ソファーで居眠りしていた。足音を消して母に近寄りその顔を見下ろす。三十で彼女を産んだ母はまだ四十前だ。まだまだ若く、しかし少しの老いがある。
なんとなく、そう、なんとなくのことだった。彼女が思い出したのは先程の漫画。主人公がわし掴むメイドさんの胸は柔らかそうで、本当に胸は柔らかいのかと疑問が浮かんだ。母は寝ている。わし掴んでも怒られなさそうだ。
そして彼女は揉み、そして衝撃を受けた。マシュマロのような感触なのにしっかりと重みがあり、何故だろう、愛があった。包まれるような、抱き締められることに似た優しさを感じた。
彼女が一向に育たない我が胸に絶望し、持てる者のそれを揉んで回るようになるのは、これから四年後のことである。
持たざる者による執着は深く、悲しく、果てがない。いつか彼女が自身に胸を得る日は来るのだろうか? それはまだ、誰も知らない。