塗り替えられる記憶   作:美寿子

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少女の無駄な葛藤

 産まれた時、私は既に私だったのか。ひょっとしたら、産まれた時の私と今の私は、全く別人なのかも知れない。

 そんな事を延々と考えていてもしょうがないのは分かっている。分かっているけれど、やはり疑問に思う。

 今の私は、本当に私なのか。

 もしかしたら、別のものなのではないだろうか。

 誰も私が私であると証明してくれない。同時に、私が私でないとも証明してくれない。

 こんな事を言うと、変人扱いされてしまうかも知れないけれど、私には前世の記憶がある。

 前世の記憶。何故、私はそんなものを持って産まれたのだろうか。私ではなく、もっと凄い人にそういうファンタジーのようなことが起きるのではないのか。

 しかも、その記憶は、薄れ行くどころか歳を重ねるに連れて、色濃くなっている。だんだんと、じわじわと。吞み込むように。塗り替えるように。

 そして何より、私が納得いかないのは、その記憶が人間のものではないということだ。

 人間の記憶ではなく──海の上に浮かび、人を乗せ、どおんどおんと攻撃する(ふね)

 何故なのだろう。艦にも記憶というものがある、ということに最初はとても驚いたが、今では疑問しか残らない。

 そこで、最初の疑問に戻ってみる。産まれた時、私は私だったのか。

 現在の記憶よりも、前世の記憶の方が濃くなってきてしまった今、私は人間として産まれたときの私と同じものとして考えても良いのだろうか。

 分からない。私はいつまで私でいられるのだろう。

 もしかすると、あと何年後かには、今と性格も話し方も変わってしまうかも知れない。そう考えると、だんだんと怖くなってくる。

 私は、私で無くなってしまうのだろうか。私以外のなにか──艦になってしまうのだろうか。

 もしそうなったとき、私はどんなことを考えるだろうか。これでよかった? こんなはずじゃなかった? ──分からない。

 分からないから、怖い。

 未来が怖い。先が見えなくて怖い。

 今の私はどこまでが私なのだろう。もう半分以上は私ではないのか。あとどれくらいしたら私でははくなる? ──……わからない。わからない、わからない。

 いや、でも、一つだけわかった。きっと、私ではなくなった私は、その時、なにも思わないだろう。今までのこの葛藤や悩みを全部忘れて、私でない誰かに成り上がるだろう。

 分からないことは減ったけれど、でも、分かった方が怖かった。

 ここまで、たくさん、いっぱい悩んだけれど、果たして悩み始めた私と今の私の違いはどこまで出来てしまったのだろう。産まれた時の私と今の私の違いはどこまで出来てしまったのだろう。

 ああ、ああ。怖い。未来が怖い。明日が怖い。1時間後が怖い。1分後が怖い。1秒後が怖い──。

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