塗り替えられる記憶   作:美寿子

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休章壱
閑話


「吹雪ちゃん、実装あーんど着任おめでとー!」

 パァンパァン、と乾いた音のクラッカーを鳴らすその女性は、初対面のときとはうって変わって、豪快な笑い声を響かせる。そして、私の微妙そうな表情を見てか、「およ?」と首を傾げる。

「なになに、私が祝うのが不満? お前だって最近着任しただろーって?」

「そ、そんなことは思ってませんけど……」

「えー、そんな感じの顔だったのに? うっそだあ!」

 この人が私の上官なのだと思うと、少し先が思いやられてしまう。このままで大丈夫なのでしょうか……。

 しかし、その人は私の不安など気に留めず、目の前に用意された二つの透明なグラスにお酒を注ぎ込む。……って、お酒!

「司令官! 私、未成年ですよ!」

「艦娘になったら未成年とか関係ないってえ。さ、今日は飲もう。お祝いなんだから。大体、主役が飲まなくて誰が飲むっていうのよ?」

「司令官がお飲みになれば良いじゃないですかあ!」

 私の叫びを無視した司令官は、鼻につく匂いを漂わせている液体を、私の目の前まで持ってくる。小さい頃間違えて飲んでしまった発泡酒のトラウマが蘇る。あれほど不味い飲み物を、私は飲んだことがなかった。

「今日だけで良いんだって。飲もう飲もう?」

「あの……」

 断ろうとしたけど、司令官の眼差しに押され、結局未知の液体を飲むことにしてしまった。なんというか、司令官のお酒の勧め方が、酔っ払ったおじいさんのようで、鬱陶しさを感じていたというのもあるけど……それは言わないでおこう。

 この司令官──今井結子司令官は、つい最近この鎮守府に着任したばかりの新米らしい。所持している艦娘も私だけで、まだこの鎮守府は勢力にもならない弱小鎮守府。

 しかし、初めて会った時の司令官は、凛としていて、大人の女性の気品を感じさせるような方だった。けど、それは最初の内だけで、段々と化けの皮が剥がれ、私が着任して5日目。このような状態に陥るほどだった。

 けれど、仕事はきちんとこなし、上層部に押し付けられた無理難題も易々と片付けている様をこの5日で見せられ、軽蔑も尊敬も出来ない、微妙な立ち位置になってしまった気がする。

 初日は綺麗に整っていた頭髪も、今ではぼさぼさとだらしない様子が露わになり、呆れる他なかった。

「もー、司令官。飲みすぎたらだめですよ」

「分かってるってば。きょうは吹雪の中ちゃんのお祝いだし、明日も一応仕事あるし」

「一応ってなんですか……。二日酔いでもちゃんと働いて貰いますよ」

「鬼かよ吹雪ちゃん」

 くしゃりと破顔させた顔は、まだ幼さを滲ませていて、少し前までは私とそう変わらない年齢だったということを思わせる。思わず、私も顔を綻ばせてしまう。なんとなく二人で笑い合う形となり、少し照れてしまった。

「これからも、よろしくね。吹雪ちゃん」

「こちらこそ、よろしくお願いします。司令官」

 そのあとは、少しお酒を交え、すぐにねむる形となった。この日飲んだお酒は、何故か苦く感じず、今まで飲んだ飲み物の中でもかなり美味しく感じられた。

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