塗り替えられる記憶   作:美寿子

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睡魔。恐怖、戸惑イ。

 家に着くと、熱い息を体外に放出しながら冷房の電源を入れる。親の前でやったら怒られてしまうけれど、今は一人だから設定温度をぐんと下げる。これで10分後くらいには快適空間が出来上がる。しかし、今はまだ体に膜が張ってあるように暑く、嫌になってしまう。

「うー、あっついなあ」

 べ、と舌を出してできるだけ涼しくなるように努める。けど、そんなのは無駄な努力で、あまり変わらない。冷房も古い物を使っているせいか、なかなか効かない。というか、ちゃんと冷風が出ているのかさえ怪しい。だから温度もっと下げた方が良いのに、と口の中で親に愚痴を零す。

 べたべたと汗ばんでいた肌が乾くほどには、部屋の温度が低くなってきたころ、私はうとうととし始めてしまう。もう夏休みだという油断と、快適な空間になりつつあるこの部屋は、睡魔を誘うにはもってこいだった。まだ昼食も摂っていないので、必死に寝まいとし、昼食の用意をしようとする。

 しかし、眠気に苛まれていた私は躓いてしまい、前のめりになる。長い紫色の髪が揺れ、丁度髪が床に着いたところに手を着いてしまい、更に滑る。

「いったた……なんなのよ……」

 鼻の頭を軽く摩りながら、現状に苛立っていると、頭の中の声が一層大きくなり、眠気を一気に吹き飛ばす。

「お前のせいだ」「お前の」「お前のせいなんだ」「すべてお前が悪い」「お前が」「悪い」「お前のせい」「お前」「お前だ」

 ──お前が悪い!

 悲鳴のようなその言葉に私の肩はびくりと震える。冷房なんてなくても良いくらいに、身体が冷えるのが分かった。声にならない叫びを喉で潰し、呼吸が上手く出来なくなる。何が何だか分からないけど、私がその声に恐怖していることは十二分に分かった。

 有無を言わせない語気に戸惑いながらも、小刻みに震える手足を使って無理やり立ち上がる。しかし、台所まで歩くことは出来ないらしく、足が上手に動いてくれない。

 ず、ず、とすり足で少しずつ前に進み、時間をかけて台所に到達。冷蔵庫をがこんと開き、ラップが掛かっている皿を取り出す。中を覗くと親子丼が冷えており、またかと思う。大体、親子丼やカツ丼、焼きそば辺りが私の夏休みの昼食だった。昨年までと同じものをローテーションしながら食べなくてはいけないのかと思うと、今から少しうんざりする。

 またもやすり足で歩行し、ラップを乱雑に剥ぎ取って電子レンジに押し込む。ぴ、ぴ、と時間の設定をし、電子レンジがうーと鳴き声をあげながら温め始めると、足の力が抜けるように動くようになる。ほっと安堵し、部屋に対して少し大きめのソファにどっかり座り込む。まだあの声は、頭痛のように私を苦しめていた。

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