様々な戦争に駆り出された艦。その艦には乗員や作り手などの魂が少しずつ移り、最終的に艦そのものの魂が出来上がるらしい。その魂は、沈んだ後細く別れ、新しく生まれる人間の子どもに宿る。もちろん別れるのだから、その艦の魂を宿した人間は沢山いる。
しかし、不思議なことに、それは全て女の子どもなのだそうだ。艦という言葉が女性名詞だから、という説と、女には艦の魂を引き寄せやすい何かがある、という説がある。今のところ、前者の方が有力で、ほとんど前者で確定されてしまっている。
そして、艦の魂が宿った女には、その艦の記憶も共に宿る。歳を重ねるごとにその記憶は色濃くなり、やがて、現在の記憶が擦り減ってゆき、最終的には艦の記憶しかない、という状態になるといわれている。しかし、海軍に依頼すれば、人体改造をしてもらい、艦娘となり、記憶はそれ以上濃くならず、今までの人生の記憶も無くならずに済む。だが、それと同時に海軍に勤め、国のため、人類のために深海棲艦と戦わなくてはならない。
お前のように人間から艦娘になることを、俗に実装といわれている。他にも、建造といって、人工的に艦娘を作り出す方法や、ドロップと呼ばれる深海棲艦から艦娘になることもあるらしい。この辺りは詳しく分からないから、海軍の人間に聞け。
そして、艦娘は、死ぬことはなくなる。改造を受け、艦娘になった時点で歳を取らず、その年齢のままで生き続けることになる。しかし、解体や改修に宛てられた場合は普通の少女に戻り、以前と同じく人間の生活を送ることができる。戦争が終わったら、必ず全員少女に戻すという約束もされている。
──だから、安心して行ってきなさい。
父はそう言った後、優しい笑みを浮かべた。
「なんで」
「ん?」
「なんで、今まで黙ってたの」
「出来れば、お前が海軍に行くことを阻止したかったからだ。可愛い娘を好き好んで戦場に向かわせるなんて、狂ってる」
「あの紙──あの紙は」
「紙?」
横目でちらりと母の様子を伺う父。それに対し、思案するような素振りを見せた後、はっと目を見開く母。
「あれは、私たちに何かあった時のための、海軍の電話番号……」
「私、軍になんか行きたくないよ。ずっとここで、お母さんとお父さんと暮らしていたい」
床から立ち上がり、大きく口を開く私。当然、父と母は戸惑っている。そもそも、父に反抗したことは初めてなんじゃないだろうか。
「吹雪、あのね──」
「その名前も大ッ嫌い! だってそれ、駆逐艦の名前なんでしょ? 私、そんな名前嫌だ。もっと可愛い名前を付けてよ」
父と母を困らせてしまっている。その自覚は、もちろんある。けれど、抗う方法なんてこれくらいしか分からない。
私だって、普通の女の子で居たかった。