~冬馬サイド~
『母さん! また俺の漫画を病院に持っていっただろ!?』
懐かしい。本当に懐かしい夢だ。
母さんが勝手に人の部屋に上がり込んで、コミックを物色中の夢だ。
『仕方ないでしょー? 霧島君が持ってきてほしいって頼むんだもん♪』
『年増が〝だもん♪〟とか言ってもキモいだけじゃん・・・』
『オラァ!!』
『ぴ・・・』
母さんは、病院で看護師をしていた。
入院していた子供・・・「霧島」という子に優しくしていたらしい。
漫画を読みたいという、霧島って子の願いに俺の漫画が抜擢された訳だ。
ちなみに、母さんは総合格闘技の元チャンピオンだ。蹴られたら死ねる。
『じゃあ、REBORN!の35巻から最終巻まで借りていくわね』
『なぁ・・・まだ1巻から34巻が返ってきてないんだけど?』
『アンタ、そんな小さいことを気にしてるから妹に勝てないのよ!』
『生憎、母さんの遺伝子を色濃く受け継いだのは妹なの!』
『そうね。昔の私のようで惚れ惚れするわ♪』
満足そうな顔を見せる母親に呆れたっけ?
『お兄、アイス買ってきてー?』
呆れていると、俺の天敵も部屋に侵入してきた。
『いいわね~♪ 冬馬、ダッシュで私のも買ってきて~♪』
『私、ストロベリーの高いヤツ』
『あー・・・急に腹痛くなったから無理』
俺がトイレに逃げようとした瞬間、妹のコークスクリューが俺の胴を捉えた。
『い、妹よ・・・。下痢腹だったら大惨事に繋がってたぞ・・・』
『兄妹の縁を切らせてもらうわ。もし漏らしてたら』
『もう17歳になるんだから漏らすとか勘弁してよね?』
『か、母さん? 心配するところが違う気がするんだけど?』
踞る俺を見下す母さんと妹。
まさか・・・これが俺との最後のやり取りになるとか思ってなかっただろうな・・・。
俺も思ってなかった。〝通り魔〟に刺されて死ぬ運命を予想していなかったんだ。
最期に見た光景は、野次馬達が瀕死の俺に群がる光景だった。
薄れていく意識の中で妹の声を聞いた気がしたけど、俺は確かめることが出来なかったんだ。
「と・・・く・・・!」
高町の声だ。たぶん、高町の声だ。
「冬馬君!」
「・・・・・んぅ・・・」
ゆっくりと目を開けると、俺の顔を覗き込む高町の顔が見えた。
俺に何が起こったのか、イマイチ思い出すことが出来ない。
確か・・・ピンクのかめはめ波に飲まれたような・・・。
「冬馬君、大丈夫? なんか魘されてたけど・・・」
「それよりも・・・ここは何処だ?」
「私の家で私の部屋だよ。それよりもゴメン! 私・・・」
あー・・・ディバインバスターを喰らったんだった。
涙目で俺の顔を見てくる高町。とりあえず此方の気持ちを伝えないと・・・な?
「この人でなし!!」
「ふぇ!?」
あーぁ・・・泣きそうだよ。まぁ冗談なんだけどね?
「というのは冗談だ。なんで高町の家に俺が?」
「それしか思いつかなかったの。冬馬君を置いて帰る訳にはいかなかったし・・・」
申し訳なさそうにする高町。
一応、俺にディバインバスターをブッ放した罪を自覚しているらしい。
「俺、帰るよ」
「え!?」
「これ以上は世話になる訳にはいかないからな」
「ま、待ってよ! なんで・・・〝会えない〟って・・・」
アレが原因か。ディバインバスターの引き金を引いた理由は?
「分かるだろ? 秘密がバレたからさ」
「冬馬君のアレって・・・」
「高町も不思議な力を持ってるだろ?」
俺がそう言うと、高町は首から下げているレイジングハートを握った。
「高町が隠してたように、俺も隠してきたんだ」
「秘密がバレたからいなくなろうとしたの?」
「・・・・・そういうこと。バレたら面倒だからな」
「でも! いなくなる理由には・・・・」
「なるさ。そういうもんだろ?」
ここから先は言わなくても分かるはずだ。
特異な力が平和をもたらすとは限らないことくらいは察してるはずだ。
特にジュエルシードを回収している高町には誰よりも理解してると思う。
「高町は全然悪くないさ。悪いのは、全部俺だ」
そもそもの始まりは、俺が次郎と小次郎を逃がしたことにある。
何をしたかったのかは皆目見当がつかないけど、外に出したのは過ちに他ならない。
事実、次郎はジュエルシードの怪物に襲われ、俺は他の転生者との戦闘になった。
「・・・・・・どうするつもりだったの?」
「そんな深刻な話じゃない。適当に旅して、適当に住む所を探すつもりだった」
「それって・・・転校するってこと?」
「まぁそうなるよな」
本当は、原作に巻き込まれたくないからトンズラしようとしたなんて言えない。
「冬馬君の親は、なんて言ってるの?」
「いないよ。3年前に別れたまんまさ・・・」
普通に考えれば、小学3年生が一人で転校手続きするとかは考えられねぇよ。
俺に親がいるもんだと思ってた高町に「しまった」という表情が浮かんでいる。
・・・・・・たぶん、俺の家族が死んだとか思ってるんじゃね?
「い、一応言っとくけど、俺の家族は生きてるからな?」
「え?」
「ただ・・・会うのが絶望的と言うか・・・とにかく簡単には会えないんだ」
俺が死んだことで家族がどうなったとか、正直考えたくない。
会わせる顔もないし、仮に会えたとしても・・・どんな顔を用意して会えばいいんだか・・・。
「なのはー? 冬馬君、起きたのー?」
気まずい雰囲気の中、下の階から女の人の声が聞こえてきた。
「今下りるからー! 冬馬君、とりあえず夕飯食べない?」
「夕飯?」
夕飯という言葉に高町の部屋の時計を見る。
時刻は19:06 確かに夕飯の時間には相応しい。
「なのはー?」
「今いくからー! 冬馬君、行こう?」
「・・・・・俺に拒否権は?」
「ダ、ダメかな・・・?」
そう言って、高町が俺の両手を握る。
「逃がしません」と無言で宣言されたようなもんじゃんか。
「分かった。夕飯の後にお互いが納得するまで話し合おう」
そう言うと、高町が笑顔になる。
教えてくれ。俺の未来がこれからどうなるのかを・・・。
なんてことを考えながら、俺は高町と一緒に1階のリビングに向かった。
「次郎、これも美味しいぞー♪」
「お父さん! それ私があげようと思ってたのにー♪」
「あらあら♪ すっかり人気者ね♪」
あれは、いったいどういうことなのだろうか?
次郎が高町家のアイドルと化し、お菓子を貰っているという受け止めがたい光景がある。
『抜けたーーー!! ショートの角脇のエラーでライフルズにチャンス到来でーーす!!』
「ぴゅーい♪」
「野球が好きな燕は初めて見たな」
小次郎が高町家のテレビを独占してるし、イケメンがそれを微笑ましそうに見てる・・・。
「高町?」
「お父さん達、次郎君と燕さんのことを気に入ったみたいなの」
ちょっと困ったように笑う高町。
ふと負のオーラを感じたからテーブルの下に視線を移すと、次郎に嫉妬している淫獣がいた。
たぶん、自分の時代が終わったことに対するひがみだ。・・・・何も見なかったことにしよう。
「・・・・・どうしてこうなった?」
~フェイトサイド~
冬馬がなのはの部屋で目を覚ます1時間前。
フェイトとアルフが一足遅くジュエルシードの反応が消えたポイントに訪れていた。
「フェイト、一足遅かったみたいだね」
「うん・・・」
私達は、ジュエルシードを回収しに反応が出たポイントに足を運んだ。
しかし、もうジュエルシードは回収されたあと。私達の他にも魔導師がいるんだろうか?
「あぁもう! 此方はまだ1個なのに!」
「仕方ないよ。とりあえず出直そう」
母さんの願いのため、私はジュエルシードを全て集めなくてはいけない。
母さんの目的は分からないけど、私は母さんの笑顔をもう一度見るために頑張るんだ。
「お助けー・・・」
「アルフ、何か言った?」
「いや、アタシじゃないよ?」
突然聞こえた謎の言葉に私達は周囲を観察してみる。
すると、電線の上に変な被り物をした子が引っ掛かっていた。
「やっとミーと視線を合わせてくれる人に出会いましたー」
「ア、アンタは、そこで何をやってるんだい?」
アルフの質問に首を傾げて「うーん・・・」と唸り、何かを考えている。
「神と名乗る不審者に空から落とされたと言ったら、信じてくれますー?」
「帰ろう。時間の無駄だよ」
「待ってくださーい。ミーは、嘘なんかついてませんよー」
アルフが本当に呆れた顔をして帰ろうとすると、変な子はやる気のない声で引き留めた。
「自慢じゃないですけどー? ミーは、超ド級の運動音痴でしてー?」
「もしかして・・・降りられないの?」
「そうですー。情けないんですけどー、ミーのヘルプをよろしくお願いしまーす」
ビシッと私に右手の人指し指を指した瞬間、変な子がバランスを崩して落ちそうになる。
でも、なんとか踏ん張って耐え抜き、やる気なんか一切感じられない視線を向けてくる。
「もう本当に限界なんですー。ミーは電線の上で第2の人生に幕を引きそうでーす」
「はぁ・・・フェイト、ちょっと行ってくるよ」
アルフが電線に引っ掛かっている変な子を助けるために魔法で宙に浮かぶ。
幸い、周囲に人の気配は感じられることはなく、一般人に魔法を見られる心配はない。
「お姉さん、飛べるなんてビックリですー」
「ところで、その被り物は?」
「これですか? これはカエルでーす」
「アンタの趣味が理解できないよ・・・」
・・・カエルだったんだ。ひとつの疑問が解決したと同時に変な子が地面に足を降ろす。
「助かりましたー。サンキューでーす」
「ど、どうも・・・」
相変わらずのやる気が感じられない声で握手してくる変な子。
近くにきたから分かったけど、何故か右目を瞑っていた。
「もう夕方だよ。ガキは大人しくママの所に帰りなよ」
アルフがしっしっ!と「あっち行け」と右手を振る。
でも、予想外な返答が返ってきてしまった。
「ミーにホームなんてありませーん」
「は?」
い、家がない? 私とアルフがお互いの顔を見合わせた後、もう一度変な子の顔を見た。
「ミーの顔に何かついてます?」
「えっと・・・・」
言えない。カエルの被り物があるなんて言えない。言うと、後悔する気がする。
「家がないとか冗談だろ?」
「ミーには本当に家がないんですー。この世界にやってきたばかりなんで・・・」
!? それって・・・私達みたいに外の世界から来たってこと!?
「ミーは、これからどうなるんでしょう。乞うご期待ですー」
「他人事!? ア、アンタはいったい何者なんだい?」
変な子が何者なのかという質問に再び首を傾げて「うーん・・・」と唸る変な子。
ち、地球の人って変な人ばっかりなのかな・・・?
「〝霧の守護者〟ということになりますかねー。まぁ伝わらないと思いますが・・・」
『魔導師じゃないよ。俺は守護者だ。護るべきボスはいないけど・・・』
私は、あのとき助けてくれた男の子の言葉を思い出した。
守護者って、彼と何か関係が? そもそも霧の守護者っていったい・・・?
それに彼が指に嵌めていた指輪に瓜二つの指輪を持ってる。
「ねぇ、その指輪は?」
「霧のボンゴレリングですよー。ミーしか扱えません」
「ボンゴレリング?」
「助けてくれたお礼に見せてあげましょー。えーい」
ボゥッと、指輪から炎が灯る。
普通の色じゃなく、インディゴの炎が煌めいていた。
「おしまい」
フッと指輪から炎が消える。
同じだ。彼も指輪から黄色の炎を灯してた。
「その指輪って黄色の炎も出るの?」
「いえ、今の色オンリーですー。なぜ?」
「えっと、今の君みたいに指輪から炎を灯した男の子に会ったの・・・」
私がそう言うと、変な子が血相を変えて私の両肩を掴んだ。
「名前は!?」
「え?」
「その男の子の名前です!!」
さっきまでのやる気のない雰囲気が微塵も感じられない。まるで別人だ。
「ごめんなさい。名前は分からないの・・・」
「あんな変態なんかどうでもいいって! それよりもフェイトから離れな!!」
変な子がアルフによって私から無理矢理引き剥がされる。
「アンタもフェイトのことを狙う変態なら容赦しないよ」
「変態?」
「き、気にしないで?」
アルフが歯を剥き出しにして、変な子を威嚇してる。
無理ないかな・・・。地球に来て数日、何故か追われる日々を送ってるんだから・・・。
「ミーは変な子だけど、変態じゃないですー」
「「自覚してた!?」」
アルフと私の声がシンクロする。
変な子も一瞬見せた真剣な顔がやる気のない顔へと戻ってしまっている。
「でも、アナタ達に会えたのはラッキーです。早くも手掛かり発見ですー」
「もしかして・・・」
「察してる通りですー。ミーはアナタが会った男の子に用があるんですー」
「用って?」
「伝言を預かってるんですー。とても大切な人からの・・・」
少し切なそうな顔を見せ、変な子が夕日を眺めている。
「では、ミーは行きますー。ありがとうございましたー」
そう言って、私達に背を向けて歩き出す変な子。
もっと聞きたいことがあるけど、変な子の邪魔をするのも気が引ける。
でも、せめて名前を教えて欲しいと思った。
「ねぇ・・・君の名m・・・」
「フェイトーーー♪」
背筋が凍る感覚が私を襲う。
アルフがバッ!と庇ってくれるけど、全てがもう遅い。
昨日の変態とは違う、白髪の変態に見つかってしまったんだ・・・。
「ねぇ君? 金髪の女の子を見なかったかい?」
「へ?」
もう逃げる暇もなかった私は、もうダメだと諦めていた。
でも、変態の様子がおかしかった。私のことが分かってないみたいな反応を示した。
「お姉ちゃーん、ミーはお腹が空いたよぅ・・・」
「え!?」
戸惑う私に追い打ちをかける。知らない小さい娘が私の手を握ってきた。
「お母さんも!」
「ア、アタシかい!?」
アルフが立っていた所に知らない女の人も知らない小さい娘に手を握られる。
ま、まさかとは思うけど、この女の人ってアルフじゃないよね・・・?
「お姉ちゃん、お母さん、耳を貸してー♪」
もう何がなんだか分からない。
小さい娘に言われるがまま、私とアルフ?は耳を貸してしまう。
(ミーに調子を合わせてください)
((えっ!?))
(電線からミーを助けてくれた恩返しです。ミーに任せてください)
どうやら・・・この娘の正体は、あの変な子らしい。
私にウインクしたあと、白髪の変態に笑顔で話しかけた。
「金髪のお姉ちゃんはー♪ あっちに行ったよー♪」
「そうか! あっ! 待ってくれ フェイトーーー!!」
私が目の前にいるのに、野良猫を私だと勘違いして走っていく。
女の子の姿の変な子は、走っていく白髪の変態に対して舌を出していた。
「あそこにある鏡を見てくださーい」
口調だけがやる気のない感じに戻る。
言われた通りに歩道に建てられている鏡を見てみると、私達の姿が変わっていた。
「これって!?」
「や、やっぱりフェイトなんだね!?」
「アルフなんだよね!?」
互いに容姿が変わった私達は、自分が自分であることを確認しあう。
「君の仕業なの?」
「ぶっちゃけるとそうですー。ミーなりにアナタ方の空気を読んだんですー」
「これは・・・魔法なのかい?」
「魔法みたいなものですよねー。でも、ミーは魔法を使えませんよー」
そう言って、指を鳴らす小さい娘。
すると、私達の姿が元に戻り、小さい娘も変な子の姿に戻っていた。
「びっくりしましたー? では、ミーは行きますー」
「ちょっと待った! いったい何をやったんだい!?」
マイペースで何処かに行こうとした変な子をアルフが慌てて引き留めた。
「なにって・・・幻覚でアナタ達含めて騙しただけですよー」
「げ、幻覚!?」
「そうですー。さっきの少年にもアナタの幻覚を見せてあげましたー。
相当アナタの事が好きみたいですねー。たぶん、しばらくは野良猫だと気づきませんよー?」
簡単に自分が幻覚を作ったと話す変な子。
こんな高等な幻覚は魔法でも難しいはずだ。それを私と歳が変わらなさそうな子が簡単に・・・。
「君は・・・」
「ミーは、とりあえず〝フラン〟って名乗っておきますー」
「本名じゃないんだね?」
「念のためってヤツですー。気を悪くしないでくださいー」
そう言って、踵を返して歩き出すフラン。しかし、少し歩いて地面に膝をついた。
「もう疲れましたー。今日はここで野宿ですー」
「「えぇ!?」」
再び、私とアルフの声がシンクロしてしまった。
き、奇想天外にも程がある。ほんの10歩歩いただけで野宿すると宣言しちゃった。
「そ、そんなところで寝る気!?」
「ミーの体力の無さを甘く見ないで下さい。ゲームで例えると、HPが5しかないんですー」
少し例えが分からないけど、とにかく疲れやすい体質みたいだ・・・。
「あぁもう!」
「? お姉さんは、なんでミーをおんぶするんですか?」
地面にうつ伏せで倒れるフランをアルフがおんぶする。
「フラン、行くところがないなら・・・私達の所に来る?」
「それはつまり、ミーをしばらく泊めてくれるっていうことですかー?」
「勘違いするんじゃないよ! アンタの能力が役に立ちそうだから連れてくだけさ」
「・・・ツンデレなんですかー?」
その言葉でアルフがフランを背中から地面に落とそうと躍起になる。
フランは、落とされまいとアルフに必死にしがみついていた。
「お助けー。ミーの握力は10しかないんですー」
「アルフ、許してあげて?」
私がそう言うと、しぶしぶフランを背負い直したアルフ。
フランは、地面に落とされずに済んだことを安堵しているように見えた。
「そういえば、大切なことを聞き忘れましたー」
「なに?」
「アナタ達についていけば、ミーの探し人に会えますかねー?」
「どうだろうね。でも、私達にはやることがあるから・・・」
そう会話をしながら、私達はフランをアジトに連れていく。
フランの探し人の名前は、「相原冬馬」という男の子らしい。
あの男の子とは断定は出来ないけど、アルフが勘違いして蹴ったことを謝罪したかったんだ。