月の都。
我々が見ている月は荒涼とした何もない月面だが、実は結界に隔てられた内側には都が広がる。それが月の都。
都は中華帝国の居城、紫禁城を思わせる宮城を中心に家々が広がる。
宮城には月のトップ、月夜見が住まう。
その宮城の廊下を歩くのは月の都のリーダー、妹の綿月依姫と姉の豊姫。
「依姫だけでいいんじゃないの?今回の案件。」
「そのようなことはありません。姉様は仮にも月の都のリーダーなのですからしっかりと自覚されてください。」
「冗談、冗談。」
「またそのようなことを。」
呆れ気味に返す依姫だが、他の月の高官達が入っていく部屋の周辺になると口を閉ざす。豊姫も同様に。
「失礼いたします。」
2人がその部屋に入ると、中には既に多くの月の高官達が部屋の中に在席している。
部屋のまっすぐ先にある玉座にはトップの月夜見が座っている。
百数人は入れそうな大きな部屋の中央には、両手足を鎖で縛られた男性の罪人がいる。その罪人の周囲には武装した衛兵が数人いる。
「綿月殿も到着されたようだし、はじめようか。」
綿月姉妹が席に着くと、月夜見の傍にいる男が議論開始を宣言。
「では罪人、築都宮よ。貴公が能力を使い、玉兎達を私兵化して操ろうとした、と言うのは本当か?」
罪人、築都宮こと築都は問いに首を縦に振って意外にもあっさり罪状を認める。
「なぜそのようなことを?」
「今まで通りの方法では玉兎は月の都を守る兵士として有効に機能しない。情を排除して本来の任務のみ精を注がせることも有効に扱う方法の1つです。」
築都は綿月姉妹の方を見ながら答える。職場の嫌いな上司を睨むように。
「私達が確かに玉兎の訓練を施していました。しかし、貴方のやり方は強引すぎる。彼らは同じ生き物であり、貴方の独断で動かしてよい機械でも私兵でもない。」
築都に反論する依姫。他の月の連中も築都以外依姫に反論は出ない。
その後何度か議論を繰り返したものの、お互い平行線を辿ったまま判決へ。
「被告は罪状を認めたため、終身労働とする。」
「お待ちください!今のままの現状では、月の都は再び危機に陥る。従来のやり方はいずれ機能しなくなる、その前に兵制を改めねばならない!」
築都が訴えるが、判決は覆らない。そのまま築都は連行され、議論は終結。
議論が終結したので、姉妹も部屋から退出して、自身の屋敷へ。
「結局、私達への恨みかしらね。」
「姉様、それもあります。彼は実際に私達を恨んでいましたし、調書にもそうあります。」
「そうね、玉兎の訓練を任せているとはいえ、迷惑かけてしまったわね。」
「いえ、姉様が謝る必要は御座いません。今回の功績は紛れもなく第一に察知された姉様ですよ。」
「レイセン達の様子がおかしかったもの。何かに怯えているような、ね。」
「脅迫、洗脳の類ですか。同じ玉兎を訓練する身の者がそのようなことをするとは思ってもいませんでした。」
「そうね。でも貴方が気に病むことはないわ。今は成果が出なくても、いつか成果が実を結べばいいのだから。」
「依姫様、豊姫様。」
2人が会話をしていると、玉兎のレイセンが襖を開けて入ってきた。
「レイセン。どうしたの?」
「お話を立ち聞きするつもりはなかったのですが、聞こえてきてしまって、つい…。築都様はどうなったのですか?」
「ただし他言無用です。罪状の内容と、まだ判決が出たのみで一般には伏せられたままですから。」
「依姫。そんなキツイいい方しなくてもいいじゃない。流石にわかってるわ、この子だって。」
「承知しています。でも…。」
レイセンも築都の洗脳を受けた被害者の一人。気になるのも無理はない。
とは言え、シークレット事項であるし、判決も判決なだけに言いづらい。
「士気にも影響が出る、か。」
「すいません。皆不安がってて…。」
溜息をつく依姫。お互いの事情は分かっているがおいそれといえるものではない。
「大丈夫よ。築都様は当分貴方達のもとには出てこられないから。」
豊姫はオブラートに伝え、レイセンを安心させる。
それを見た依姫は胸をなでおろす。
「さて、今日はもう寝ましょう。」
「まだ夜にもなっていませんが。」
「そんなことはいいの、連日忙しかったしあまり寝れなかったからいいじゃない。」
豊姫が言い出したら中々聞かない性分なのは依姫もわかっているし、何より自分自身疲れていたので頭の回転も鈍いのも事実。
依姫も少し休憩がてら寝るか、と少しの睡眠のつもりで渋々了承した。
「レイセン。今日はもうお仕事終了よ。貴方達も帰っていいわよ~。」
「えっ?でも。」
「上に報告しちゃだめよ?」
「わかりました、おやすみなさいませ。」
「あの子も丸くなったわね。」
「無理やりですか…。」
玉兎達にも同様に無理やり仕事を終らせて、ベッドに入る豊姫。
翌日。
少し寝るつもりだった依姫は豊姫とともにすっかり熟睡してしまっていた。
「依姫様、豊姫様!」
そんな2人を起こしたのは玉兎レイセンの大きな声。
「何事ですか?」
「ん~?」
むくりと起き上がる2人。
依姫の方は熟睡しきっていたことに気付き、頭を抱える。
「それで、どうしたの?レイセン。」
「それが、築都様が牢から消えたと報告が…」
「なんですって!?」
「姉様は月夜見様の護衛を。私は宮城を中心に築都殿を探します。レイセン、貴方は私についてきてください。」
「はい。」
「わかったわ。2人とも、無理は禁物よ。」
「わかっています。」
依姫は的確に指示を出し、レイセンら玉兎を伴って築都の屋敷へ。
「これが築都様の屋敷…。広いですね。」
「私達の屋敷に出入りしているのだから、慣れたでしょう?」
「はは…。そうですね。」
大名屋敷ほどの広大な築都の屋敷。
依姫は片っ端から屋敷を捜索し、あることに気が付く。
玉兎達は広大な屋敷を探し回ってへとへと。
「羽衣がない。」
「それがどうかされました?」
「築都殿は以前、月夜見様から月の羽衣を賜ったことがあったの。万一の為にね。そしてそれが探してもない。」
「つまり?」
「築都殿は地上へ逃げた可能性がある。危険だわ。」
「えっ?」
玉兎達も衝撃的な依姫の言葉に疲れを忘れて狼狽している。もしかしたら月の都に攻めてくるのでは、と恐れ慄く者もいる。
「帰って姉様たちにこのことを報告しましょう。」
「は、はい。」
早速月の宮城へそのことを報告する依姫。
「本当なの?」
「屋敷をくまなく捜索しましたが、無くなっていたのはそれだけです。」
「本当に逃亡したみたいね。私も玉兎達と都の隅々まで探したけど、見つからないわ。何より、月のセキュリティに一切かからない。」
「月夜見様、最悪は討伐命令を。」
依姫が諫言する。非常事態に備えなければならないのは事実だ。
「わかった。ただし、被害は最小限にな、依姫。」
「はっ。」
築都が脱獄して地上へ逃亡した、と言うビッグニュースは瞬く間に月の宮城の隅々まで知れ渡った。
同時に依姫を中心に迎撃部隊が編成、月の都のセキュリティの一層強化がされ、都には戒厳令が出された。
月の都の迎撃態勢は整っていた。
幻想郷。
地球上のどこかにある、我々の暮らす現代社会とは隔離された世界。幻想郷。
幻想郷は人、妖怪など様々な種族が暮らす、月の都と同じく現代社会からは想像もつかない異世界。
広大な自然が広がり、所々に人々の住む家々が集落のようにポツンポツン、と点在する。
そんな昔ながらの日本の風景をとどめる幻想郷の中にある、竹林に周りを囲まれた純日本風の屋敷。
永遠亭と呼ばれるこの屋敷には、妖怪ウサギと月からの逃亡者が暮らす。
「優曇華。今日の人里への薬販売、頼むわよ。」
「わかりました師匠。行って参ります。」
元気な声で答える鈴仙・優曇華院・イナバ。
彼女は妖怪兎であり、月からの逃亡者の一人だ。行き場がなくなった所を同じ月からの逃亡者である主たちにかくまってもらい、今に至る。
「元気に言ったものの、気が滅入るなあ。ああいうの苦手なのになあ。」
背中に商品を担ぎ、竹林を歩きつつ一人溜息をつく優曇華。
「ウジウジ言うなよ。玉兎の元エースさん。」
「てゐ。あんたも手伝ってね。」
背中の籠から出てきたのは妖怪ウサギのてゐ。小柄だが優曇華と仲がよく、優曇華がタメ口で話せる存在。知恵が回り、竹林と永遠亭のウサギを束ねる棟梁でもある。だが、イタズラ癖が難点。対象は主に優曇華。
「えっ?サボリに決まってるジャン?」
「そう、お師匠様に言いつけようかしら。この通り言霊もきっちり取ってあるし。」
「なぬ?卑怯な。」
「サボってるあんたに言われたくないわね。どうするの?」
「手伝います、手伝います。」
「よろしい。」
長い長い複雑な、迷宮のような竹林を抜けると、人里へ着く。
人里を歩き回り、薬設置の要望のある家々に薬を置いていき、代金を頂戴する作業。
商売上手なてゐの協力もあってか、2時間もたたず商売は終わる。普段ならもっとかかる。
「おわったおわった。」
「御苦労さま。かなり早く終わったわね。」
「そりゃあ商売の腕も随一のてゐさんがついてるからね。」
「いつも手伝ってくれればいいのに。」
「ただでなんて無理な相談だよ。高くつくよ?」
「高くつくならやめておくわ。」
世話話を交わしつつ、優曇華はてゐとともに人里を後にする。
「楽させないわよ。」
「げっ。」
てゐは優曇華が背中にしょっている籠の中に入るとするが、素早く勘付いた優曇華に制止される。
溜息をつきながら竹林を歩いていくてゐ。
油断も隙もないてゐをちらりと見ながらも進む優曇華。
しばらく無言のまま竹林を歩く二人だったが、突如優曇華が歩みを止める。
「どうしたの?鈴仙。」
不思議に思い聞くてゐだが、優曇華は答えない。
「なぜあなたがここに…?」
震えながら、前方の人物へ問いかける優曇華。
その様子は、見たくないものを見てしまったような、ひどく怯えた表情だった。
「久しぶりだね、“レイセン”。」
「どうしてあの、築都様がここに…?」
まともに答えられない優曇華。
「“レイセン”。僕は君を返事もできない玉兎に“躾け”た覚えはないぞ?」
てゐは直感で関わってはいけない人物だとわかった。
この貴族じみた、下々を見下す冷たい視線。てゐにとって嫌いな目線だ。
「す、すいません、築都様。」
「ではレイセン。君が八意殿と暮らしていると聞いた。僕をそこまで案内してもらえるかな?」
「あっ…。えと…。」
眼前の恐怖の存在に押しつぶされ、言葉を発することもできない優曇華。
てゐはこのままではまずいことが分かる。
「申し訳ないんですが、この後急用がありまして、急ぎ向かわなければいけないのです。ではこれにて失礼したします。」
てゐは素早く優曇華の手を掴んで、永遠亭の方へ走る。
「ちょっ、てゐ。」
「話は後だ、ひとまず逃げよう。」
優曇華がちらりと後ろを見やると、築都は追おうともせず、その場に立っている。
てゐ達はそのまま走って永遠亭へ逃げ込んだ。
「扉を閉めて。」
てゐの指示に人型のウサギ、イナバが門を閉める。
「これでよし。鈴仙、聞こえてる?」
力なく頷く優曇華。
「はあ。一体どうしたのさ。」
黙ったままの鈴仙。
「とりあえずお師匠様に相談しよう。ほら、鈴仙も。」
てゐは優曇華の手を再び引っ張って永琳の部屋へ。
「お師匠様、今大丈夫ですか?」
部屋にいる永琳に話しかけるてゐ。
「駄目よ。御客人が見えているの。優曇華もいるならお茶をお出しして頂戴。」
「了解。鈴仙、って駄目か…。」
優曇華はまだ落ち着いておらず、口を開くことはない。
「レイセンは今体調悪いみたいだから他の子に頼んでもいい?」
「わかったわ。」
てゐは優曇華を自分の部屋に返し、イナバ達を呼んで永琳に言われた通り客人に接待をさせる。
「一体どうしちゃったのかね。」
「てゐ。ごめん、ごめんね。」
正気に戻った優曇華が迷惑を掛けたてゐに謝るが、事情を話そうとはしない。
「いいよ。何があったか、は話したくないか。落ち着いたら話しなよ。」
てゐはそっとしておくことにして部屋から出る。
てゐが部屋から出て数分位経った後、優曇華の部屋に足音が近づいてくる。
「誰?姫様かお師匠様かな?」
足音は優曇華の部屋で止まり、足音の主が入室の許可を求める。
「こんばんは。“レイセン”。入っていいかな?」
その主の声を聞き優曇華は愕然とする。
「ち…築都様。」
「まあいいか。入るよ。」
聞いてきたくせに許可も得ず入室し、優曇華の顔に執拗以上に接近する。
「さて“レイセン”。君に頼みがある。聞いてくれるね?」
「な、なんでしょうか。」
「なあに、簡単さ。僕は綿月姉妹と揉めてしまってね。そのせいで命まで狙われたんだ。今も狙っているかわからない。だから彼らを屈服させることにしたんだ。君も協力してくれるね?」
目を見開きながら話す築都。はたから見れば恐喝、洗脳の類に見える。
鈴仙は蛇に睨まれた蛙のように逃げることもできずただ聞くほかなかった。
「で、でも綿月さまは私の恩人で…。」
「確かにキミにとって大切な人たちだ。でも彼らが君のことを、月から禁忌を犯したわけでないのに自分たちの元から逃げた君のことを許していると思っているのかい?」
「やめてください。」
「それに月の民にとって彼らに力を、知恵を与えるつもりで助言している八意が目障りだと思っている連中だっている。なにせ彼女はその英知を持って月の危機を救ってきた。この機に君らを排除しに来ないなど、何故言える?」
「やめてください。やめてください。」
あることないこととってつけて言葉で優曇華を責めていく築都。優曇華はすっかり彼のペースに嵌っている。
勢い余って優曇華は築都を軽く突き放す。
「ッ…。聞き分けの悪い子は再び躾けなくてはなあ。」
築都が優曇華に掌を振りかざす。が。
突如、襖が勢いよく開く。
「こんばんは。イナバ、そして築都様。」
「これはこれは、先ほど私と話をしたカグヤ様。どうされたのですか?」
「私はたまたま様子を見に来ただけです、お気になさらず。築都様はイナバと何をなされていたのですか?」
「ああ、玉兎がいると聞いてこの部屋に来たのですが、懐かしい元部下を見て話しこんでしまって。」
笑いながら白々しく話す築都。輝夜は薄々気づいているが口には出さない。
「そうですか。でも怖がらせないでくださいね。」
「申し訳ない、久々の再会に冷静さを少し欠いていたようだ。では失礼する。」
襖をパン、と閉めて立ち去る築都。
「ふう。」
輝夜は溜息をつくと、優曇華に駆け寄る。
「ペットはペットらしく、甘えたいときは甘えなさいな。」
「ありがとうございます、姫様。」
優曇華の涙だらけの顔をハンカチで拭き、頭をなでる輝夜。
紹介が遅れたが、輝夜こと蓬莱山輝夜は彼女は優曇華達の住まう永遠亭の主。
不老不死で優曇華と同じく元月の民。月では姫として君臨していた経歴から築都のことは知っている。
彼女にとって優曇華はペットであり、大事な家族の一員である。
優曇華は抱き着いてえんえんと泣いており、輝夜はそれをあやす。
暫くして泣き止む優曇華。
「落ち着いたかしら?」
「はい。すいませんでした。話します。」
「そう。でも話すならみんなの前で話しましょう。私達2人だけで隠すなんてできないもの。」
輝夜が襖に目を向けると、イナバ達が襖を開ける。
「貴方達…。」
「盗み聞きする気はなかったんですが、聞こえてきちゃって…。怖いと思って姫様に知らせました…。」
「だそうよ?」
「皆、ありがとう…。」
「何か言いました?鈴仙様?」
「なんでもないわ。」
恥ずかしいので小声で言ったが、イナバ達が聞き返してくる。余計恥ずかしくて言えなくなる優曇華。
そんな優曇華の様子を見て輝夜はくすくすと笑い、皆を居間に集めるように言う。
居間には輝夜、永琳、優曇華、てゐの4人が集まり議題に入る。
早速話したのは永琳。
「私は築都に賛同することはないし、そもそも弟子の彼女達に攻撃する気も動機もない。私が月にいたころから私と対立する人々なんていくらでもいた。そんなのいちいち気にしていないわ。」
「お師匠様…。」
「私も同じく拒否。竹林であったあの人でしょ?鈴仙の隣の私を存在からいないように見えてない態度。協力を求める癖にあの態度なんて信用できないかな。それに鈴仙にあんなことするのに、私達にしないとも限らない。」
「てゐ…。」
「あの野心家のことだから大方豊姫達と対立して逃げてきたが、独力では立ち向かえないから私たちを自分の駒にしてぶつける、といったところかしら。もちろん優曇華、貴方も協力しなくていい。」
「ありがとうございます…。」
的を射ている永琳。
だが築都は一時期とはいえ優曇華の上司。優曇華の心境は上司時代の恐怖と断りたい気持ちが混じり複雑。
「みんな意見はまとまったみたいね。」
場がまとまったところで輝夜がそう通達しましょうか、と言うが、輝夜はどうなのか鈴仙は聞いてみる。
「姫様はどうお考えなのですか?」
「私はみんなと同じ。彼には断るわ。私にとってここ永遠亭にいるみんなは私のかけがえのない家族よ。そんな貴方の心を傷つけたというのに、そんな都合のいい話を通す気はないわ。豊姫たちとも争うという問題以前にね。」
「私が大事な家族、ですか…?」
「ええ。かけがえのない大事な家族よ。」
「輝夜様…。」
優曇華は輝夜にとって自分はこんなに大事に大切にされている、と言うことが分かり、嬉しくて涙が流れる。
主である輝夜に単なるお供や従者でなく、かけがえのない家族だと言ってくれた。それが何より嬉しかったのだ。
「鈴仙?どうしたの?」
目の前で突然優曇華が泣き出したのだから輝夜も驚きあたふたと困惑する。
輝夜も予想外の出来事やアドリブには少し弱い箇所があるのでこういうのにはめっぽう弱い。
泣きやまない優曇華とあたふた戸惑う輝夜のやり取りは10分くらい続き、ようやく沈静化する。
「お騒がせしました、申し訳ありません。」
元に戻り落ち着きを取り戻した優曇華はウサ耳と顔を赤くしながら謝罪。
「落ち着いたのならばよかったわ。ではみんなの意見も出そろったところで今日はお開きにしましょう。築都様には何かあっても対処できるように、明日私が直接ここで伝えるわ。」
皆満場一致で拒否に決まったので議題は終了。明日築都に直接輝夜が伝達することとし、永琳が書状を送る。
「それはそうといちいち笑うのやめて。」
優曇華はてゐに先ほどの様子をからかわれながら、自室に戻って寝る。
翌朝。
申し出への返答が出たと聞き、永遠亭に訪れる築都。
それを迎え入れ、居間へ通す永琳。
「ごきげんよう八意殿。御返答があるということで伺ったが、よろしいか?」
「はい。中で姫がお待ちしておりますので。優曇華たちは所用で外しておりますが。」
「では失礼する。」
部屋に入室すると、中には輝夜が座っているのみで、優曇華やてゐの姿はない。
「お待ちしておりました。どうぞ座られてください。」
「では早速だが返答を聞かせてもらえないか。」
「では率直に申し上げます。私たちはあなたの申し入れに賛同できません。お断りさせていただきます。」
拒否の返答を輝夜が伝えると、しばし沈黙が流れる。
築都は目を丸くして驚いている。
「しかしカグヤ。綿月らが貴方達を攻めてきたときはどうするのだ?」
「その時は戦います。でも私たちが現在戦う理由はございません。だから賛同はできません。」
輝夜は真剣な表情で築都に話す。
「そうですか。では仕方ないが諦めるしかなさそうだな。」
「申し訳ありません。」
「では退散させてもらうよ。」
築都は部屋を出ると、周囲に誰もいないことを確認して、優曇華の部屋へ向かう。
「だがいざという時の担保は…。」
築都は優曇華がいるのを確認すると、部屋の襖を開ける。
だが次の瞬間、築都は優曇華の部屋から永遠亭の玄関へ移動している。
「何?」
玄関には永琳がおり、これ以上の深入りはできないことを悟る築都。
「では。」
築都は永遠亭を後にして去っていく。
築都への協力拒否の返答から1週間が過ぎた。
築都は何もしてこなかったし、音沙汰もなかった。
いつも通り永遠亭の診療室で診察をしている永琳と手伝いをする優曇華。
客足が落ち着くと永琳がため息交じりに呟く。
「拍子抜けね。てっきり何かしてくるものだと思っていたけど。」
「でももしかしたら何かしてくるかも…。」
「それはないわ。彼は月の民より過剰に地上の“穢れ”を嫌うのだから。」
「だから長居はできない、と?」
「そうよ。それに私だって自分たちの家を荒らそうと画策している人に寛容ではないわ。」
「?」
永琳が優曇華と話していると、聞きなれない声が診療所の戸を叩く。
「所用があってきたのですが、八意様はいらっしゃいますか?」
「ほらきた。」
「??」
ますますわからない優曇華だが、永琳はその声の主に入室を許可する。
「どうぞ。」
「失礼します。」
「あなたは…。」
「あっ。」
部屋に入ってきたのは月の都のリーダー、綿月姉妹の玉兎、レイセン。
綿月姉妹が時々永琳を慕って訪れに来るため、2人は面識がある。
「久しぶりですね。優曇華さん。」
「そっちこそね。レイセン。でも自分の名前を自分で呼ぶのには違和感があるわね。」
「そんなこと言われても、豊姫様が命名してくださった名前ですので。それに優曇華さんのほうは漢字で書くけど私はカタカナでしょう?」
「わかりづらいわよ。」
「ええ~。」
「こほん。」
久々の再開に話が弾む2人であったが、永琳のせき払いで我に返る。
「久しぶりの再会のところ申し訳ないんだけど、用件のほうを聞かせてくれる?」
「用件、あっ。そうでした。ええと。」
相変わらずのおっちょこちょいぶりに呆れる2人。
「そうでした、そうでした。月の罪人、築都宮様を捕えまして。そのご報告に。」
「ご苦労様。」
「へ?」
レイセンの言葉に冷静に返す永琳だったが、優曇華は今の発言が信じられない。あの築都が捕まったなどと。
「私の情報は役に立ったでしょう?」
「はい、おかげさまで地上へ来てからからなんと3日で捕縛に成功しました。」
「お疲れ様。今日はここでゆっくり休んでいきなさい。」
「あ、でも早く帰還するように催促が来てて。今日はこれで失礼させていただきます。」
「残念ね。任務ご苦労様、気を付けてね。」
「では失礼します。」
永琳と話をして帰っていくレイセン。
「今の話は本当ですか、師匠?」
「本当よ。」
「そう、ですか。」
優曇華は今まで無意識下で貼っていた緊張の糸が切れ、肩の力が抜けていく。
「優曇華?」
そして緊張の糸が解けたことで、精神的疲労が一気に押し寄せる。
優曇華は重くなっていくまぶたを閉じて床に倒れる。
「優曇華?しっかりなさい、優曇華!」