「起きろ、鈴仙。起きろ。」
「うぐぅっ?」
寝ている優曇華を襲う無言の腹パン。痛みで目が覚める優曇華。
「てゐ。」
「起きたか、よかった。あまりに起きないからさ~。」
「加減しなさいよ。」
「優しすぎると起きないじゃない?」
「…。」
腹パンの主、てゐ。強引な起こし方である。
「それで何があったのさ?」
「築都様が逮捕された、って聞いてそのまま倒れちゃって…。」
「へえ。月の兎たるものが情けない。」
「あんたねえ…。」
「まあジョークだよ、ジョーク。それよりよかったじゃないか、これで枕を高くして寝れるんだし。」
「そう、ね。」
安堵の表情を漏らす優曇華。
何かを思い出したようにてゐが相槌を叩く。
「そういえばさ、今日お師匠様も姫様の私もいないから留守番よろしくね。」
「は?」
「言葉通り。お師匠様は小遣い稼ぎ…じゃなくて医療の勉強のために現代へ、姫様が倒れた鈴仙に代わって人里への薬売りを、んで私はそのお供に。安静にしてろってことだね。」
「そう。迷惑かけちゃったわね。ごめん。」
「いいってことさ。これで恩が売れる。」
「…。」
「嘘嘘。」
優曇華はてゐが突拍子もなく言い出すものだから困惑したが、どうやら嘘ではない。
ただ輝夜が自分を気遣って代わりに人里へ赴いてくれることは素直に嬉しい。
「姫様…。」
「私への感謝は?」
「あるけど、あんたのはお師匠様に言われたからでしょう?」
「うん、そうだけどさ。」
「みんなにありがとうって言っておいて。」
「分かってるじゃん。」
「…ふん。」
優曇華は3人の出発する時刻になると玄関まで見送りする。
「姫様、今日はありがとうございます。お気をつけて。」
「いいのよ。私が好きでやっているのだから。てゐもいるから大丈夫よ。夕方には帰るから。」
「そうそう。私もいるから大丈夫。」
「てゐ。今日はよろしくね。」
「任せてください。」
誇らしげに胸を叩くてゐ。
「それはそうとてゐ。姫様に万一のことがないようにきちんと護衛するのよ。いいわね?」
「はいはい。わかってますよ。姫様の護衛なんだし下手はしませんって。」
輝夜第一主義の永琳が口を挟むが、軽くあしらうてゐ。その光景をいつものことか、と苦笑いする輝夜。
「お師匠様もあちらの世界でのお仕事頑張ってください。」
「ええ。築都ももう来ないから今日は任せて大丈夫ね。帰るのは明後日になるだろうけど。」
「そう、ですね。短い時間ですが永遠亭を預からせていただきます。」
「よろしくね。」
「はい!」
築都という重しが外れたのか、元気よく答える優曇華。
永琳も大丈夫そうね、と頷く。
「てゐ、あんたは…大丈夫か。」
「私の扱いひどいよね?」
「あんたは心配しなくてもよほどのことがない限り大丈夫でしょ。」
「まあね。それだけ信頼されてるのか、照れるな~。」
ニヤニヤと優曇華を見るてゐ。事実といえば事実だが。
「では、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
手を振る輝夜たちの姿が見えなくなると、見送りを終え優曇華は部屋に戻る。
「さて洗濯を…。」
「鈴仙さまは休んでてください。私たちがやります!」
部屋を整理して家事に取り掛かろうとした優曇華だが、イナバたちが率先して家事に取り組んでいた。
「姫様に頼まれた、っててゐ様が言われてたからやります!」
「ご褒美もあるっていうし!」
「姫様。ありがとうございます。」
輝夜の配慮に感動する優曇華。いい主に恵まれたな、と嬉しくなる。
同時にイナバたちがただでは動かないんだな、ということを知り少しショックを受ける優曇華。
優曇華は珍しく何もすることがないので、部屋の縁側で横になってみる。
「そんな風に毎日のんびり過ごしていたいわね~。」
そんなことを呟きながらだらける。
暫くだらけた後、稲葉たちが優曇華に来客がある、と知らせに来る。
「来客?私になんて珍しいな。」
誰だろうか、と考えていた優曇華だが、玄関を開けてその人物に驚愕する。
「久しぶりだね、会えなくてさびしかったよ。」
「あ、なたは…。」
冷たい視線と言葉。わざとらしいとってつけたような言葉。忘れられない風貌。
その人物は捕まったとされた自分の元上司にして恐怖の象徴、築都であったからだ。
「築、都様…。」
青ざめる優曇華に怪訝そうな顔をする築都。
「どうしたんだい?ああ、僕が捕まったとかいう報告を受けて驚いているのか。」
「そう、です。あれはどういうことなのですか…?」
「ああ、あれはね。捕まったが使者は幸い玉兎しか来ていなくてね。わかるだろう?僕の力。」
にやりと笑う築都。
ここにいてはいけないと思った優曇華はとっさに走り出す。
「逃げるのか。随分と嫌われたものだ。」
築都が指を鳴らすと、床、天井、壁等四方八方から妖怪たちが姿を現す。
妖怪たちは築都の指示通り優曇華を追いかけてくる。
「妖怪たちも私兵化していたの?」
優曇華は弾幕を放って追手の妖怪たちを退けていく。
「ふむ。やはり玉兎で将来を有望視されていただけはあるな。妖怪どもでは歯が立たん。」
一目散に当てもなく永遠亭の中を逃げる優曇華。
「では“止まれ、レイセン”。」
築都の言葉に優曇華の動作が止まる。
「逃げるとはひどい仕打ちだが、光弾を僕に1つも当てていないのは褒めてあげよう。いい子だ。」
怯える表情の優曇華にささやく築都。
「だが“レイセン”、僕の力を忘れたか?君は僕の力を1回身に受けたではないか。」
築都の力。彼の能力は相手に自分を刻む程度の力。細胞や神経に命令を刻み洗脳・使役でき、遺伝子にまでそれを刻むことができる。遺伝子に刻まれた場合、最悪末代まで築都の奴隷だ。
「この妖怪たちも僕の奴隷さ。ただ君ほど強くはないがね。君たちに振られた後能力を使って兵隊にしたのさ。」
築都が尿力を深く刻ませているため優曇華は逆らえない。
「鈴仙様を助けるんだ!」
屋根から、周辺の部屋から、庭の物陰から、イナバたちが杵や槍、機関銃など武器になりそうなものを手に持って築都たちに襲いかかる。
「貴方達…。」
「なんだこいつらは。」
優曇華、築都双方予期していなかった事態に驚く。
妖怪たちも応戦するがイナバたちのほうが勢いで押す。
「鈴仙様、今のうちに逃げて!」
「え…?」
「時間は稼ぐから!」
イナバたちにそういわれ、永遠亭から竹林へ逃げようとする優曇華。
「触れるな、穢らわしい、地上の小動物どもが!おまけに機関銃などと昔の我々の兵器を使いおって!」
築都が自分に少しでも触れたイナバを強く突き放すと、弾幕を展開して圧倒する。
「うわぁっ。」
イナバたちがあらかた制圧され、築都は優曇華のほうへ歩み寄る。
「“レイセン”。僕の子飼いの君なら、もうわかるよね?」
「やめてください、築都様。」
捕まえたイナバの耳を引っ張りながら刀を抜こうとする築都。
必死に叫び制止する優曇華。
「さすがだね。だが逃げたことは許さん。」
「うっ…。」
築都は腹いせとばかりに優曇華に暴力を振るう。
「鈴仙様!」
イナバたちは意識が残っており、目を覆ったりやめて、と叫ぶ。
優曇華が立てなくなり手足を動かす程度まで弱ると築都も暴力をやめる。
「次は、貴様ら卑しい地上の小動物どもだ。」
「ひぃっ…。」
「何卒、お許しください、築都様。」
築都がイナバ達に近づいていくが優曇華が弱り切ったかすれかすれの声で築都に懇願する。
「レイセン。貴様。」
「…鈴仙様…?」
「何卒、何卒。」
「そうだな。貴様への配慮もかねて特別に許してやろう。」
「鈴仙様、ありがとうございます。ありがとう、ございます。」
築都はそういうとイナバ達から少し遠さがる。イナバたちは優曇華に泣きながら感謝の言葉を述べている。
「だがな。貴様は許さんといったぞ、“レイセン”。カグヤや八意がいなくて残念だったな。」
築都の拳が優曇華に命中する。
「か…っ…。」
優曇華は苦しそうに腹を押さえていたが、やがて痛みからか意識もかすむ。
「ごめんなさい、姫様…、お師匠様…、てゐ…。」
そう呟くと、優曇華の瞳は閉じかけていく。
「帰ったわよ~。」
人里での用事を終えた輝夜が永遠亭に帰ってくる。
ここでイナバ達が玄関まで出てきて元気よく挨拶をするのが日常だ。
しかし誰も返事をしないどころかこちらに来る足音すらない。やけに静かだ。
「おかしいわね。」
いつもと違う永遠亭の様子に疑念を抱く輝夜。
考えていると、優曇華の部屋の方からごっ、と鈍い音がする。
「何かしら?」
気になり様子を見に行く輝夜だったが、優曇華の部屋の近くの縁側に来たところで歩みを止める。
「鈴…仙?イナバ…。」
目の前には傷だらけで床に倒れているイナバ達と鈴仙。
横にはそんなボロボロの鈴仙を踏みつけている主犯の築都と周りにいる複数匹の妖怪。
「姫様、どうしてここに…?」
輝夜に気付き、擦れ擦れの聞き取りづらい声で話す鈴仙。
「そんなことより、どうしたの?なぜこんなことに…。」
「姫様、来ちゃダメです…。」
「貴方はカグヤ。10日…、11日ぶりですね。」
「築都。久しぶりね。」
「ごきげんよう。ああ、これですか、これは、」
「その足をどけなさい。」
築都は普段穏やかな輝夜とは打って変わった強い口調と鋭い表情に気圧されどける。
輝夜は鈴仙とイナバ達に駆け寄り、応急処置を施す。
「皆、しっかりして。」
永琳と長くともに過ごす過程で身に着けたのだろう。
「構わん。やれ。」
処置を施している輝夜にかまわず、イナバ達を襲わせようとする築都。
「サラマンダーシールド。」
しかし見えない炎の壁に阻まれ向かって言った妖怪達は灼熱の炎に焼かれ倒れていく。
「何っ!」
輝夜の予想以上の攻撃に驚く築都。
妖怪達が炎の壁とにらみ合いをしていると、輝夜が中から姿を現す。
「処置は終わったのかい?」
「ええ。どうしてこんなことをしたの?」
輝夜の問いににやりと笑う築都。
「ちょっとした訓練を兼ねた戯れですよ。」
「重症にまで追い込むことが訓練だと言うの?」
「やりすぎたかな。しかしあれくらいで音を上げては困る。」
「ふざけないで。」
「ふざけてなど、おりませんよ。」
指をぱちんと鳴らす築都。輝夜に妖怪が群がっていく。
だが輝夜の周りの妖怪は輝夜の放った大量の光弾、弾幕によって倒れてゆく。
築都も輝夜に仕掛けていくが、数の分があるものの、次第に輝夜に押される。
数十匹いた妖怪も、とうとう2匹にまで減り、形勢は逆転する。
が、突然床から妖怪が1匹のイナバを口にくわえて姿を現す。
「動くな!」
「イナバ!?」
「やはり。もしやと思ったが。」
ぴたりと輝夜が止まり、攻撃が止む。
「姫様、私にかまわずにそいつに攻撃を!」
捕われたイナバが叫ぶが、築都は容赦なくイナバに拳を叩き込み、気絶させる。
「どうすればいいかはお分かりかな、月の元姫君。」
「…っ。」
「形勢逆転だな。」
輝夜は捕われたイナバを気にして攻撃ができない。
一方で人質を得た築都は勢いづいて輝夜に攻撃を叩き込んでいく。苦しい表情になる輝夜。
「くっ…。」
「さあ、このままやられろ。哀れな月の姫君よ。」
築都は素早く刀を抜き、輝夜へ突き刺す。
「かはっ。」
刀が体を貫き、苦しそうな声を出す輝夜。
「手こずらせおって。」
築都は輝夜にとどめとばかりに思い切り斬りつけ、腹に刀を突き刺す。
輝夜の張ったシールドが徐々に消えていく。
「さて。レイセン。君は僕についてくるかな?」
シールドが完全に消え、優曇華に歩み寄る築都。
優曇華は状況を把握し、絶望にふける。
「最後の望みも潰えたな。君が聞かないとこの子達もカグヤのようになるぞ?」
「ありがたく,仕えさせていただきます。」
「そうだ。それでいいのだ。」
築都の脅迫に、優曇華は屈するほか選択がない。
満足そうな笑みを浮かべる築都。
「では、下ろせ。」
「鈴仙様。」
妖怪がイナバを降ろすが、途端に約束を反故にする。
「この私に逆らった妖怪兎どもを始末しろ。」
妖怪が築都の前にイナバを数人差し出す。
「皆。逃げて。」
「ぐぉっ?何をするレイセン。」
刀を振り下ろそうとしたまさにその時、優曇華が築都に弾幕を発射する。
築都は怯み、その隙にまだ元気なイナバが他のイナバ達を担いで逃げる。
「貴様。」
激怒する築都を前に築都の力からか何もできない優曇華。
「貴様は許さん。だからたとえ死んでも徹底的に洗脳して傀儡人形にしてやる。」
妖怪が優曇華の四肢を押さえ、築都が目を見開いて今度は優曇華に刀を振り下ろす。
「おぼへっ。」
優曇華が瞑っていた目を開けると、築都の顔が思いきり殴られて吹っ飛ばされる直前だった。
そしてやられたはずの輝夜が立っている。
「姫様?」
「ごめんなさい、鈴仙。遅くなってしまって。」
「お怪我は…。」
「大丈夫よ。それにこれくらいの痛み、慣れているもの。痛っ。」
輝夜は刺さっている刀を抜き取ると、優曇華にサラマンダーシールドを展開する。
「姫様。」
「大丈夫よ。心配しないで。」
起き上がってきた築都は早速仕掛けるが、やはり人質がないぶん不利であり、輝夜に押される。
「図に乗るな。」
築都の能力により輝夜の放った弾幕が輝夜を襲う。
「舐めないで。」
輝夜は倍の弾幕を放ちそれを相殺する。
築都は怯まず命令を出すが輝夜は潜り抜けていく。
「最大の命令だ。従者たちを皆殺しにし、ここで命を絶て。」
大声で叫びつつ築都は最大の力を込めて命令する。
「舐めないでと、言ったはずよ。」
だが何と輝夜はその精神攻撃を自らの精神だけで拒絶し無効化する。
絶句する築都。
「絶対に、何があってもさっきの命令は下さないわ。たとえその為にどんな道を歩んだとしても。ここにいるかけがえのない彼らを、私の命令で終わせるなんてさせないし、許さない。」
輝夜の言葉は嘘偽りはない。虚偽の言葉で無効、上書きできるほど築都の力は小さくない。
心の中の精神の強さ、正直な嘘偽りない精神の強さが命令、重圧に耐えられるか・押し潰されないかで決まる。
輝夜の場合、それを克服したわけだ。
「くそっ…。馬鹿な。」
妖怪を輝夜に戦わせ、築都は優曇華の方へ向かう。
築都はサラマンダーシールドに焼かれながらも無理矢理優曇華を人質に取ろうとするが。
次の瞬間、優曇華は築都の目の前にはいない。
「いない…?」
「お望みどおりに全力で行くわ。覚悟はいい?築都。」
振り向くと、輝夜が優曇華を抱えて宙に浮いている。
「須臾の、力か…っ。」
須臾とは時間の最少単位。輝夜はそれを集めて誰にも認識されない時の中を動くことができる。
「御名答。でも貴方は絶対に許さない。」
「ひっ…。」
逃げようとする築都だが、いつの間にやら床から樹木が生え手足を絡め取っており、身動きができない。
輝夜が右手から赤青など色とりどりの球体の付いた枝を取り出し、宣言通り100%の力で築都めがけて振りかざす。
「蓬莱の弾の枝。」
部屋を覆い尽くすほどの色とりどりの7色の丸弾が築都めがけて襲い掛かる。
「おのれ、月の、裏切者風情がアアアアアア!!」
叫び空しく、築都は輝夜の弾幕の雨の中に爆音とともに消えていく。
輝夜の弾幕は爆音とともにその後十数分程相変わらず部屋を覆っていた。
ようやく弾幕が落ち着いてくると、輝夜が優曇華を抱えたまま着地。
「能力で何とか時を早めてみたけど、沈静するまでかかったわね。」
「姫様~!」
イナバ達が輝夜に走って駆け寄ってくる。
「貴方達も無事でよかったわ。傷はもう大丈夫なの?」
「走れる程度には。姫様こそ。」
「私は問題ないわ。」
イナバ達は応急処置をしたとは言え、傷が治ったわけではない。やや赤くなっている箇所もある。
「鈴仙と一緒に処置をするから、皆を呼んできて頂戴。走らなくていいから。」
「はい~。」
イナバ達は言われた通り他の仲間を呼びに行く。
「さて鈴仙。貴方は立てる?」
「立てます。姫様、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
「迷惑ではないわ。私たち皆の問題だから、貴方が背負う必要はないわ。」
「でも私が従わなかったから、逃げてたから、皆怪我をして。あの子達だって姫様だって。」
「築都の能力上、貴方が恐がっても無理はないわ。よく頑張ってくれたわね。もう、大丈夫よ。」
鈴仙はフラフラと立つと、輝夜に土下座をして謝罪する。そんな鈴仙を優しく抱きしめる輝夜。
鈴仙はぽろぽろと涙を流して泣き始める。よしよし、と頭を撫でてやる輝夜。
「じゃあ、落ち着いたみたいだからじっとしていて。鈴仙、貴方と比べると幼稚だけどね。」
「そんなこと、ないです。色々と手を煩わせて、すいません。」
「いいのよ。永琳に早く報告しなくちゃね。」
「姫様、私の処置もお願いします~。」
輝夜と優曇華の会話に処置が待ちきれなくなったイナバ達が口を挟んでくる。
「貴方達、順番があるのだからせかしてはダメよ。」
「鈴仙様のケチ~。自分がされたいからって。」
「なっ…。そんなんじゃなくて…。」
若干呆れ気味に答える優曇華と私も私も~、とせかすイナバ。
そんなやり取りを見て輝夜はふふっと笑う。
「ごめんなさい。鈴仙のようにうまくないから中々うまくいかないの。」
「は~い。」
「そういえばてゐはどこ行ったのよ?」
優曇華ははっと思い出したようにてゐの行方が気にかかる。
「知らないです。」
「そういえば見ていないわね。何かあったのかしら。」
「築都…様には聞けないですかね?」
皆行方は知らないので、優曇華が築都に聞けばいいのではと提案するが、彼の方を見て無理だと悟る。
襲撃犯、築都はズタボロの状態で意識は飛んでおり、何とか生きている、と言う有様。
あれではしゃべることもできないのでどうしようもない。
「呼んだ?」
どうしようか皆が悩む矢先、てゐがやってくる。
皆驚き、輝夜も処置の手を止める。
「何さ、みんなしてその反応。」
「どこに行ってたのよ?」
「人里で帰る途中、急患が出たから必死に処置しつつ人里の医者を探して何とかしたてゐさんにその口のきき方はないでしょ。」
「私が先に帰った後、苦労を掛けてしまったわね。ごめんなさいね。」
「いいのよ。私だって他の用事があったから先に姫様に帰っていい、って言ったんだし。途中でイナバ達に聞いたけど、まさかこんなことになってるとはね。」
輝夜とてゐが人里で薬売りの行商を終えた後、てゐには苦労があったようだ。
「それで皆様に朗報。なんとてゐさん、お困りのみなさんの為に人里から医者を連れてきました。」
てゐがドヤ顔でそういうと、襖を開けて数人の医者が入ってくる。
「このために遅くなったの?」
「まあね。姫様に任せちゃったしさ。」
「ありがとう、てゐ。」
「いいってことですよ、姫様。あとご褒美を。」
「そうね。可能な限りで考えておくわ。」
輝夜はてゐの対応に感謝するが、周りはてゐ様だけご褒美ずるいとヤジが飛び交う。
「喋ってないで処置受けましょうね~。」
てゐはそんなことを言ってヤジをある意味無理やり止める。
「ところでこのお医者さん達の報酬は?」
「ええと、お師匠様に請求するから…。」
「アンタが払いなさいよ。」
「えっ?」
「当たり前でしょ。」
呼んできたはいいがてゐの対応に呆れ気味に答える優曇華。
「私が払いましょうか?」
「姫様は払わなくていいです。彼らへ支払う=ご褒美にしないでください!」
「それが本音か!」
「悪いか!」
「悪いよ!」
輝夜の返答に正直に答えるてゐ。優曇華はてゐの本音完全にに呆れる。
てゐがご褒美だけはなにとぞ、と懇願し、イナバ達も自分たちもほしい、というので輝夜も困ってしまう。
永琳が今月は苦しいので出費は控えるように、と言っていたので医者に人数に見合う金額は払えるが、イナバたち全員へ支払う報酬用の金銭の捻出はキツイ。
「そうだわ。皆で宴会にしましょう。」
輝夜の案でイナバ達も納得して黙る。鶴の一声に満場一致で宴会に決まる。
「よければ、御一緒にどうですか?」
「いいのですか?」
「ええ。多いほうが楽しいので。楽しんでいってくださいね。」
てゐの連れてきた医者軍団も宴会に参加。
人里の医者を交えた永遠亭の宴会人妖問わず酒の臭いと笑い声が聞こえる。ある者は酔いつぶれ、ある者は酒をどんどん飲んで、ある者は相手が人、妖怪であることを忘れたように話していたり。
皆今日はつらい出来事があったのを忘れて宴会を楽しんでいる。
「もう飲めない、もう飲めないから~…。」
優曇華はと言うと酒に酔いつぶれうなされながら床で寝かけている。
「宴会はどこでやっても楽しいものね。」
主催者の輝夜は周りの様子を見ると、月を見上げて呟く。
「うん。おいしい。」
輝夜も満足そうに酒杯を平らげてそんな彼らの輪に入っていく。
つらい日が楽しい出来事があった日に変わっていく。
宴会は夜遅くまで続いた。
思い上がりも甚だしいですが書けたら補足を兼ねて後日譚なんて書けたらいいなと思っております。