PSO2水滸伝傍ら(かたわら)の群星   作:垣屋越前守

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新しい我が家

新光暦238年3月20日 午前11時時32分 アークスシップ1番艦フェオ

アークスカフェ ブレイバーの定席

 

アザナミとサガそしてねね、スゥリン、イフェメラはテーブルで向かい合い対策を

話し合っていた、

すでに傷も癒えスゥリンはボディーパーツの換装も終えて予備入院の最中で、

イフェメラもどこで治療を受けたのか傷が治り二人より回復の程度は早いようであった、

 

「・・・ヴォルドラゴンともう一度戦おう・・・今度は負けない・・・」

 

「ちょい待ち、いきなり行っても前と同じ事だよ」

 

イフェメラの言葉にアザナミはヴォルドラゴンに再戦する事にまったをかけた

スゥリンはそれを聞くと不必要にテンションをあげて再戦を遮ろうとする、

やはり戦いたくないのだろう、

 

アザナミは自分の油断も今回の敗北の一因であると考えていた

順調に探索と鍛錬を続けていた3人に根拠のない安心感を持ち

忙しさにかまけて無責任に送り出した事に責任を感じていたのだ、

 

アザナミは入院中にブリギッタから提供されたライブ映像を見ていたため

注意点を3人に聞かせる、

 

「敗因はヴォルドラゴンに油断して先制攻撃を許したのが痛かったね

キャタドランとの交流の成功が過信を生んだのは確かだねぇ~」

 

そしてサガが続ける

 

「相手がダーカー因子に侵食されているかチェックを怠った事、

資料動画を念入りに見て予習する事を怠った事、

そしてここが戦場だという自覚と覚悟が足りなかった事だ、反省し切ってからの

出撃が妥当だろう」

 

サガの言葉に容赦は無いが冷静沈着な彼の意見は重く受け止める必要があり

ねねとスゥリンは小さくなってサガの説教の続きを拝聴していた、

言葉を続けようとするとサガの後ろから張りのある男性の声が聞こえる、

 

「さすがはサガだな的確すぎて取り付く島も無いって感じだな」

 

アザナミが振り向き三人が声の主に目を向ける

赤毛の青年アークスと金髪のニューマンの女性アークスが笑顔で手を振っている

 

「ゼノ、エコー」

 

アザナミは二人を呼ぶと二人は空いた席にすわりウェイトレスに飲み物と昼食を

注文した、

 

3人は助けてくれたお礼を二人にするがゼノとエコーは気にするなと笑う、

 

「助けたのは3人じゃないぜ、エコーのヤツヴォルドラゴンにびびって大慌てしてよ」

 

「ちょっ!ちょっとやめてよゼノ!私があんなヤツにびびる訳ないでしょ!」

 

あせって狼狽するエコーに大笑いした、ゼノもまた3人が気落ちしないように

少々意地悪いやり方だが雰囲気を和らげようと考えての事だ、

 

ゼノはひとしきり大笑いした後、先ほどと打って変わってまじめな顔で3人に言った、

 

「おまえさんたちはお人よしなんだよ、そりゃ人としてすばらしい

だが他の惑星に降り立ったらそこは戦場なんだぜ、相手がやる気なら

例え嫌でも倒さなきゃならない、サガの言うとおりだそれができないならアークスを

やめるべきだな」

 

3人は自分たちの油断が招いた事を自覚していた、ストレートな言葉が胸に突き刺さる、

 

「君たち悪く思わないでね、ゼノはみんなに死んで欲しくないから・・・」

 

エコーは勤めて笑顔で沈んだ面持ちの3人にフォローを入れる

 

「ヴォルドラゴンとクォーツドラゴンはあたしらアークスの高い壁だからねぇ」

 

アザナミは遠い目をしてそう遠くない昔を思い出しているようだった、

 

「ありがとうなのじゃ!」「なのじゃー」「・・・ありがとうございます・・・」

 

3人ははゼノの指摘とエコーのフォローに感謝を伝えた、

アドバイスを素直に受け入れられるのはお人よしの3人の良い所ではある、

 

ゼノとアザナミは3人にアークスを続けたいかと尋ね

3人のレベルと能力と装備を確認する、ゼノはスキャンを終えると

 

「こりゃ覚悟と警戒もだが装備も何とかしなくっちゃな、さすがに貧弱すぎるぜ」

 

装備とレベルの底上げとヴォルドラゴンの対策を体に覚えさせる事

そしてサポートと指導をしてくれる人物を探して教えを乞うべきだと言った、

 

アザナミもその意見に賛成し自分もできうる限り時間を割く努力をすると申し出た、

ゼノとエコーは率先して他の隊員の救助や面倒事を解決してくれると

期待する人々に応えるためその余裕がないのは承知している、

 

状況は3人がパーティーを組んでいた時と変わらない、それぞれに自分の任務で

手一杯である、一瞬自分が修行中にサポートをしてくれた

熟練の老レンジャーであるジャンが思い浮かんだが名物の長い体験談の披露が始まると

あの3人が我慢して聞けるとは考えられず頭の中でジャンの姿をかき消した、

 

アザナミは自らが率いるブレイバーズのメンバーと対等になるまで

鍛えてくれるメンバーを何とか見つけると申し出るがそれが容易ではない事は

今現在まで出来ていない事から容易ならざるは誰の目にも明らかであった、

さりとて他チームに一時的に加入するにしてもメンバーを募集しているチームは

多々あれど人数ほしさに入れた後はほったらかしであったり、酷い所ではメンバーが死のうが

どうしようが知った事でない所も少なくない、

 

ちょうどゼノたちの注文した食事が運ばれ一同の昼食が揃い、休憩を挟む事となった

暗い話が続くのを嫌う者が集うテーブルで先ほどと打って変わって先輩アークスたちの珍道中や

体験談の披露となった、

しかしその話の内容は臆病で実力的にゼノとつり合わないエコーのドジやしくじりが

話題の中心となり、ばらされて狼狽するエコーをいじる展開が続いた、

 

一同は時間がとれていたので食後のひと時を楽しんでいた

食事時ともあってカフェには多くのアークスや市民がなだれ込んでくる

にぎやかな雰囲気で周囲が雑然としていく中アザナミはふととあるテーブルに目が向いた、

 

15m程だろうかさほど離れていないテーブルに若い学者風のニューマンの男性と見覚えのある

老人が座っている、2mを超える隆々としたその姿・・・垣屋博士だ・・・

垣屋は無精ヒゲを生やし長いボサボサ髪の若い学者になにやら資料を見せながら説明をしているようだ、

遠巻きにかすかに聞こえる声は専門用語が飛び交いアザナミは理解できない、

 

「(あいかわらず何言ってるか分からないねぇ・・・ってか!垣屋博士にねねちゃんと顔を

合わせなくていいようにしてくれって頼まれてたんだ!まったくなんでこんな時にここで話するかなぁ!)」

 

アザナミは頭の中で考えをめぐらせていたまずい・・・このままだとねねに気付かれてしまう、

あきらめるか忘れるまで顔を合わせないように時間稼ぎをしてくれと言ったのに

なんでアークスカフェにのこのことやって来るんだこの人は、

 

額から脂汗がかすかに滲んでいるアザナミはこういう事は苦手な性分なのだ

アザナミはしょっちゅうあちこちをよそ見するねねの目に垣屋が入らないように

必死になって注目を集めようと馬鹿げた話で注意を引こうとする

急にテンションの上がったアザナミをねねは怪訝な顔をしながら見ている、

 

エコーは視線の外に垣屋を見つけた、ゼノとエコーは以前に幾度も関わりがあり

垣屋と面識があった、貧乏な時期にお金の無心も受けた事がある

もっともそれを相手が催促せぬを良い事に借りっぱなしなのも遠い記憶のかなたである、

 

「おーーい垣屋博士ぇーっ!」

 

エコーは席を立つと垣屋にむかってその名を呼び手を振る、

 

アザナミは思った

 

「終わった・・・・バレた・・・・」

 

額に浮かんだ脂汗が頬からあごへとつたいテーブルに滴り落ちる、

 

ねねはエコーの手を振った先にゆっくりと目を向けた、そして顔が徐々に

ほころび始める忘れるはずもない、ねねは10年以上会いたいと思い続けていた

その顔を全てが輝いて感じた探検隊の思い出が一気に蘇る、

 

無意識に席を立っていたそしてねねはテーブルに飛び乗り料理を蹴散らかして

次々とテーブルを飛び石のように跳ね垣屋に向かって駆け寄って行き

距離が詰まると飛び上がり叫びながら飛びついて行く

 

「旦那しゃまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

垣屋と同席していた若い学者は声のほうに振り返った瞬間何かが飛びつき垣屋は

イスごと地面に仰向けに倒れた、

ねねは垣屋と地面に倒れこみ、アザナミは顔に手を当て起こった事実を受け入れた、

 

「うぉ!なんじゃ?何が起こった!」

 

垣屋は何が起こったかわからずしばらく仰向けに倒れていたが

我に返って抱きついているねねを引き剥がしてイスを立て直し席に着いた

 

アザナミはエコーの迂闊を呪った、完全な油断であった・・・

 

何事かと周囲の客の視線が一点に集まっている、無理もない若い娘が

学者の老人に旦那様といって飛びついてきたのだ好奇の目を持つなと言うのが無理だろう

 

一同はいまだに唖然としている、アザナミはエコーにもの言いたげな視線を向けた

その視線には 「バカ・・・余計なことを・・・・」という思いが無言で

エコーにひしひしと伝わってくる、

 

「え?私?私何かした・・・?でなんであんな事になってるの?」

 

エコーは当惑しているただ面識のある人物に声をかけただけなのに

何ゆえ圧迫感と責任追及の視線を向けられなければならないのか

しかしエコーに罪がないのは確かであった、

 

垣屋は周囲の視線をにらみつけて逸らすと、席を再び整えて座りなおす

同席していた不精な容貌の若い学者が垣屋に話しかける

 

「お・・・おじさんいつ結婚したんですか?僕聞いてないですよ?」

 

その学者は垣屋の親族のようだ、あまりの展開に長い耳が上下に動き

驚きを表している、その学者の脳天に平手が振り下ろされる

 

「ジラード!このボケ!わしに嫁なんざいるわけなかろうが!」

 

ジラードと呼ばれた学者は慣れっこらしく頭をさすりながら受け取った資料を

アイテムパックに詰めて座ってる席を空けてこちらに来るようにとの誘いに応じ

席に並んだ料理をアザナミたちの定席に運びはじめた、

 

和やかでもなく険悪でもない不思議な空間がかもし出されたアザナミの定席

ゼノとエコー、ジラードと呼ばれた若い学者、イフェメラとスゥリンは完全に蚊帳の外だ

ただただ事の次第を見守るしかなかった、

 

アザナミと垣屋はその事情は知っていた、ねねは嬉しさが外からも伺えうきうきとしていて

いつもより落ち着きがない

 

 

「僕・・・なんだか良く分からないんだけど・・・」

 

「事情の説明が必要なようだ」

 

「そうだぜ博士何がどうなってんだ?」

 

事情の知らないイフェメラとサガ、ゼノとエコーは次々と起こる奇天烈な展開を

理解しようと真相の追究を始める、

 

「こういう事だよ・・・」

 

アザナミはそう言うとねねから押し付けられた けものでポン探検隊の録画ディスクを

再生してこの一連の出来事の原因はこれである事を説明した、

 

蚊帳の外のメンバーはようやく事情を飲み込むがあまりにも常識外れな

出来事にただ呆然とするしかなかった、

ジラードはいちはやく我に返り通信インカムを取り出し

 

「おばあちゃんにっにっ連絡しないと!これはたいへ・・・」

 

ジラードは再び垣屋に脳天をはたかれ勢いで頭がうつむく

 

「要らん事すんなボケナス!」

 

垣屋はジラードを叱り付けると連絡を取るのをやめさせねねに向かって言った

 

「あのなぁお嬢ちゃ~ん、ワシはそうすんげぇ忙しくて下らん冗談に付き合ってる暇は

ねぇの!さっさと家に帰りんさぁ~い!」

 

「冗談じゃないのじゃ、妾はこのためにいーっぱい勉強して運動して

パスチャライズなアークスになったのじゃ!」

 

「常識で考えろや、なしてワシが孫くらいの歳のクソガキと結婚せにゃならんのだ!」

 

「結婚してくれないのかや?」

 

「はいしませんよ・残念でしたとさ」

 

ねねの顔はみるみるうちに泣き顔に変わって行く、けものでポンで人生をなめた顔をした

MCと観衆に馬鹿にされた時と同じ顔だ、

切れ長の目から大粒の涙が絵に描いたようにぼろぼろとこぼれ落ちてくる

まるでさながらダムの決壊寸前のようなありさまである、

 

「ううっ・・・・そんな・・・・わらわの今まで・・・

ぶぅわぁぁぁぁぁぁぁうぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぶぅわぁぁぁはぁ~!」

 

ねねは声を上げて泣き出した、周囲が飛び上がりそうな恐ろしいほどの大声だ

周りの食器がカタカタと音を立てビリビリ小刻みに震えている

声の大きさだけなら無様な敗北を喫したヴォルドラゴンに勝利したといえるだろう、

 

「ひどいのじゃぁぁぁぁ!妾の人生はこれで終わりなのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

耳を塞いだ周囲の人々の視線が再び注がれる、涙を流し鼻水を流し泣き続けるねねを

ゼノとエコージラード、イフェメラが手にハンカチ、スゥリンが揚げたての

フライドチキンをねねの口のそばへ持って行き必死に泣き止ませようとする、

 

「早く泣き止ませないと死人が出るぞ!サガも手伝えよ!」

 

ゼノは必死だしかしサガだけは静かにテーブルに鎮座している

 

「馬鹿らしいにも程があるな、呆れて物が言えない」

 

サガはあくまで無視を決め込むようで様々な人生模様がカフェで繰り広げられる瞬間である、

周囲の非難はもはや避けられそうにない、これは非常に不味い状況だ

垣屋はこの場を何とか収めねばならぬと思いいつもの悪い癖が出た、

 

「あ~分かった分かった!好きにしたらええのんよ!」

 

垣屋はなんとかその場を収めようとねねにそう言った

軽口を叩きあとで後悔する、彼が69年間生きてきて何度それで後悔しただろう悪い癖である、

 

ねねは急にぴたりと泣き止み涙と破壊兵器のような声が止む、

 

「ほんとかや・・・?ほんとにほんとかや?」

 

自分の要求が通りそうになりねねは垣屋に確認する、涙と鼻水まみれで

泣いているのか笑顔になりそうなのかよくわからない珍妙な顔だ、

 

「はいはいほんとですよぉ~」

 

垣屋はテーブルに頬杖を突きひとまず泣き止んだねねを尻目にため息をついた、

 

今後の事、ヴォルドラゴンに対する対策の話など吹っ飛んでしまった

皆の総意で議題は後日に持ち越される事になった、

 

垣屋は用が終わったので席を立ち帰ると告げると席を立った

 

「いいかジラード!姉ちゃんに絶対余計な事を言うなよ!言ったら耳を引っこ抜くからな!」

 

「分かりましたおじさん、じゃあ僕は帰りますね」

 

ジラードは垣屋の姉である祖母にこの件を告げ口するなと念を押され自分の研究所に

戻って行った、

 

「んじゃ俺たちもロビーに行くわ救援要請入ってるかもしれねーし」

 

「んじゃお二人さんお幸せにね・・・式の時はよんでね」

 

「うるせぇクソエコー!とっとと行きやがれ!」

 

「ひぃっ!」

 

ゼノとエコーも呆れ顔でアークスロビーへと戻って行く泣き声を近くで聞かされた

エコーは耳が痛いらしく両耳を押さえかばいつつ去って行く、

 

「では俺はこれで話は後日だ・・・」

 

「・・・さよなら・・・またね・・・」

 

イフェメラとサガも用向きがあるとの事でテーブルから去っていく

いつものようにいずこかへ行くとも知れず、

 

「あたしはここで仕事の続きでもするかな、あとはよろしくね」

 

アザナミは去って行く皆を見送ると食べ終わった食器を端に片寄せて端末を開き

事務仕事を始めた、

 

「じゃアザナミちゃんよワシ帰るわい!引き離し工作お疲れさんだとさ!」

 

自分のミスと無用心を棚に上げアザナミに皮肉を言うと垣屋は家路をたどる事にした、

 

しかしいつもと違いその背後に不快感に近い違和感も共について来る、

 

ねねとスゥリンが後ろから付いてきている、垣屋はついてくるなと言いそうになるが

さっきの好きにすればいいとその場で言った軽口を後悔するしかなかった、

また泣き出せば次は確実に耳をやられるだろう、

 

「・・・・」

 

いなくならないかと一縷の望みをかけて振り返る、しかし振り返るたびに白い歯を見せ

満面の笑みを浮かべるねねとちっこいスゥリンが後ろに張り付いている、

そしてあまりの嬉しさなのかオラクル第5チャンネルの看板リポーター

うららの歩き方を二人で真似をしながらぴったりと後ろにくっついて行く、

 

「うっとおしい・・・ダッシュで引き剥がせなさそうじゃな・・・隠れる場所がねぇ」

 

どの面をさげて研究所に戻れば良いのだろう、下宿人や客人に見つかれば確実に

いぢられるだろうしこんな馬鹿げた理由をどう説明しろと言うのか・・・

足取り重く自分の研究所に一歩また一歩近づいて行った。

 

 

新光暦238年3月20日 午後1時時27分 アークスシップ1番艦フェオ

原生生物研究所

 

垣屋は自宅である研究所に戻ってきた、5階建てのビルヂングのその入り口には様々な車両や

物資が山積みにされており、視線をおくに向けると果てがどこだかすぐに見当が付かない

森と草原が広がっている、

玄関にはいつものように秘書のチヒロが笑顔で出迎えた、

 

「博士お帰りなさいませ、特にお知らせする事はございません」

 

そういうといつものようにキッチンへと向おうとするが垣屋の後ろに隠れて

見えなかったねねとスゥリンに気付き挨拶をする、

 

「お客様ですか?」

 

「迷惑な付きまといじゃよクッキーでも持たせてさっさと追い返せ!」

 

垣屋は本当に迷惑そうにチヒロに言った、ねねとスゥリンはチヒロに挨拶をする、

 

「始めましてなのじゃ旦那様の妻のねねなのじゃ!」

 

「?」

 

チヒロは首をかしげた垣屋が嫁を取ると言う話など聞いてはいないからだ

垣屋はチヒロに信頼を置いているので隠し事はしない、

普段は比較的冷静な判断が出来るチヒロだがこの度ばかりは状況の整理に戸惑っているようだ、

 

垣屋はさっさと上着を脱いで玄関のフックに引っ掛けリビングへそこに誰かいる気配を

ねねとスゥリンは感じていた、

スライドドアをあけると清潔感があり観葉植物がかすかな風にそよいでいる

中央に据えられた大型のテレビモニターを一人はソファーに座りながら

もう一人はハンモックに揺られながら二人のキャストが番組をだらだらと眺めていた、

 

「戻ったぞ」

 

垣屋はふたりのキャストに声をかけると振り返る

 

一人は2mをゆうに超える大型の女性のキャストで威圧的なパーツ構成と亡者を思わせる

メイクのため美しい顔立ちだが強烈な威圧感と恐怖感をかもし出している、

 

もう一方は130cmあるかどうかの小型のキャストの男性、こちらはどぎつい緑のボディーと

黄色のラインが入ったキャストの標準ボディの一種である

ディスタパーツで構成された体を持ちどことなくゆるさを感じさせ

ハンモックをゆらゆらと揺らす姿に愛らしさすら感じられる、

 

キャストの女性がテレビから視線をそらし手を差し出す

 

「報酬」

 

垣屋はそれを聞くと二人のキャストの端末にアクセスして報酬を半分づつにして送金した、

 

大柄なキャストの女性は入金を確認すると

 

「ケッ!こんだけかよ・・・クソジラード、マジ死にやがれ!」

 

と悪態をついた、顔中に怒りのしわが強く刻み込まれ気の弱い者が見れば

卒倒せんばかりのおそろしい形相である、

一方の小柄のキャストの男性も腕に付いた端末から入金金額をちらりと確認して

 

「ほんとケチいね~源さんはどうせ報酬とってないんだろ?それでこんだけかよ」

 

小柄のキャストの男性も悪態こそつかないが同意見の様だ

 

「まぁそう言うなや、あいつん所も台所事情がよくないからの」

 

垣屋はふたりをなだめるとこの展開を予想していたのだろう、あきらめ顔で

テレビモニターに視線を移そうとする二人のキャストは後ろに立っている二人に気付いた、

 

「源さんお客さんかい?」

 

小柄のキャストは垣屋に訪ねた

 

ねねは小柄のキャストの方に向き挨拶をした

 

「妻のねねなのじゃ!よろしくなのじゃ!」

 

予想だにしなかった自己紹介に二人はビックリし気色ばむ

 

 

【挿絵表示】

 

 

「妻!?おいおい源さんついに気でも狂ったか!?あのガキとか?」

 

大柄の女性キャストは真顔で垣屋にたずねる

 

「バカタレ!ワシが狂ってるわけなかろうが!おめーじゃねーんだそおめーじゃよぉ!」

 

そうこうしているうちチヒロがキッチンから飲み物と菓子をトレーに乗せ

リビングへ入ってきた、

 

「あらあらにぎやかですね、お茶とお菓子はいかがですか?」

 

チヒロは全員の分のそれぞれの好みの飲み物を配り菓子を入れた皿をテーブルに置き

 

「博士クッキーはこれでよろしいですか?」

 

垣屋にクッキーの缶を示しこれで良いかと訪ねた、

 

垣屋はクッキーの缶を開けると包み紙にクッキーを手づかみで二つに分けて乗せた

その手つきは適当で量も種類も公平とはいえず包み紙の口をねじって閉めると

ねねとスゥリンに投げるようによこしこれをもってさっさと帰るように言い放つ

 

ねねは即座に答える

 

「いやなのじゃ!わらわとスゥリンちゃんはここに住むのじゃ!」

 

垣屋は思った

 

「(ふざけんなよこのクソガキども!)」

 

ねねは胸元から例のディスクを取り出した、また けものでポン探検隊を

再生するつもりらしい、ねねは端末を用いて垣屋の望まぬ探検隊VTRを再生した

 

始めて見るシンジュクとテツとチヒロ、反応はそれぞれで

 

「ずいぶん昔のクソ番組だねぇ」

 

「んまぁ~かわいいみんなとってもかわいいですぅ~」

 

チヒロは小さい子供たちが愛らしいと頬に両手を置き嬉しそうに見ている、

テツとシンジュクは呆れ顔だ、

 

「源さんってロリコンだったんだねぇ~」

 

「違うわいボケェ!」

 

テツが言い終わるのを待たず、テツの脳天にクッキー缶のふたが振り下ろされ

安っぽい金属音が部屋に響く、

 

「まぁいいんじゃない~いさせてやれば~」

 

シンジュクはどうでもいいらしく反応は投げやりだ宙に放ったナッツを口でキャッチして

食べ続けている、

しかし心の中ではこんな希少なバカが近くにいればいぢりがいがあるこれは見逃す手はない

 

「あのなぁここに住むって勝手に決めるんじゃないの、それにここは研究所だから

冒険したきゃ他所でやりやがれ」

 

垣屋はこの迷惑な来客をさっさと帰らせたくて仕方がなかった、

しかし自分の軽口が招いた結果で自業自得で手詰まりである、

次にねねが泣けば皆の鼓膜は破壊されるであろうし馬鹿ほど自暴自棄になると

恐ろしいものはない、「活動的な馬鹿より恐ろしいものはない」かつて人類がテラにいた頃

古代のゲーテとかいう詩人がのたまわった言葉が思い起こされる、

 

垣屋はしばらく追い出す算段がないか思いを巡らせた

 

「(う~む・・・完全に手詰まりじゃな今良いアイデアが思い浮かばん・・・)」

 

がてあきらめて居候させてやる事にした、一番程度の低いヴォルドラゴンごときで

この様なので直に尻尾を巻いて家に帰るだろうと思った

 

「(今までの下宿人が研究所にいたのでそれと同じに扱えばよかろうし

たかだか2匹の餌代で研究所が傾く事もなかろうよ)」

 

「おいガキども!ここにいたければこの研究所の掟は守ってもらうからの!

できなきゃ首根っこ掴んで放り出す!ええの!」

 

「いていいのかや?やったのじゃーっ!」「なのじゃー」

 

ねねとスゥリンは新たな生活の場を見出し喜びに沸く、

垣屋はねねとスゥリンにこの研究所での生活の掟を話しはじめた、

この研究所で何をしているか、研究所のさわっていい物と悪い物

ここには若い学生や研究者など色々な人間が出入りする事、

そして壁に横長に貼り付けた紙を指し示した、

 

そこには「原生生物研究所の掟」と墨書きされた紙が張られていた

やたらと長ったらしくまだ追加する気なのだろう余白が長く取ってある

これが守れないヤツはここからつまみ出すと垣屋はふたりに言った、

 

ここにいられると決まってねねは満悦だ、そして自己紹介をしていないことに気付き

皆に向かって元気良く自己紹介を始める、

 

「わらわはねね、みんなよろしくなのじゃ!」

 

「わらわはスゥリンよろしくなのじゃー」

 

二人は自己紹介をすると

 

「私、ここで博士の秘書をしていますチヒロ7・・・いいえチヒロと言います

何が用があったら遠慮なく言って下さいねよろしくお願いします」

 

「俺はテツ、源さんの助手だよよろしくねぇ」

 

「あたしはシンジュクせいぜい源さんをいじってやってくれ、」

 

垣屋は3人の自己紹介が終わると首から提げていた笛を取り出して吹くと

階上からパタパタと足音が下へと降りてくる、

 

リビングに黒い影が二つ滑り込んでくる、よく見ると人ではなく動物で

一匹はオラクル内にも定着しているラッピーと言う鳥であるが普通のラッピーと

違い全身の羽の色が淡い桃色をしている、

もう一匹は140cm程度の大きさだろうか、背中に甲羅を背負い金色の体毛に覆われた

アークスのデータベースにウォパルに生息する原生生物と記載のあるタロベッコである、

 

「鳥がラピ子、となりのはベッコ、こいつらもうちの家族じゃよ」

 

垣屋は話せない二匹に代わって紹介すると包み紙に包みそこなったクッキーの

かけらを二匹に投げるとベッコは器用に口ばしでクッキーを受け取り

ラピ子は投げたクッキーが頭に当たり床に落ちたクッキーをついばみ

それをみたベッコはほんの少しくちに含んだ後にクッキーの残りををラピ子に与えると

むしゃむしゃと食べ飲み下し階上へと走って戻って行った、

 

垣屋は自分の端末に通信が入ってるのに気付いた、相手はアザナミである

垣屋について行ったねねとスゥリンの事が気がかりになったらしい

 

「ああ博士どう?ねねちゃんたち・・・」

 

「不本意ながらここに居候する事になりましたとさ、つぅかこいつら未成年じゃけど親は

何も言わねぇのか?」

 

「大丈夫みたいだねぇあたしにも何も言って来なかったし」

 

「まぁ今からメシなんだがアザナミちゃんも久しぶりに研究所に来いや

食わせてやるでよ」

 

「え!そりゃありがたいねぇ!じゃこっち片付けてすぐ行くよぉ」

 

「じゃろうな、なにせ所持金が2.2メセタじゃどうにもならんじゃろ、ガキどもの事も

聞きてぇし、金も無心してやるよ、後はそっちの話も聞かせてくれや」

 

「ちょっ!なんであたしがピーピーなの知ってるのさ!」

 

「だてに学者はやっとらんよ」

 

垣屋は「不本意だが」こちらで下宿させて面倒を見る旨を説明し

晩に久し振りに研究所に飯を食べに来いと誘いを入れた、

 

夕刻、残念ながらゼノとエコーは言葉通り緊急出動したらしい、

サガとイフェメラとは連絡が付かず研究所の住人と居候、アザナミを交えて手配した

大量の肉と野菜を研究所の屋上でバーベキューにして振る舞い今後の事を話し合った、

ひとまずはねねとスゥリン、そしては垣屋たちの調査についていきその過程で戦闘の

練度を上げる事と決まった、

 

「なるほどヴォル公にやられたってか、なら丁度いいぶっ殺してやろうぜ!」

 

シンジュクがまたも恐ろしい形相をしながら大きな肉の塊にかじりついている

黒目をもたない彼女であるがその視線が嫌というほど突き刺さる、

 

「近いうちに調査があるからねついでにやってみようか」

 

テツが言うにはちかいうちにアムドゥスキア火山地帯で調査を行うとの事

そのついでにヴォルドラゴンを始末してステップアップにつなげる事も決まった、

 

楽しいバーベキューが終わり風呂へと繰り出したねねとスゥリンとアザナミは

大きな湯船に浸かりながら他愛のない雑談や今日の喜びを語り合った

風呂の横に据えつけられた冷蔵庫の中の牛乳を飲み風呂から上がると

チヒロが3人の寝巻きを用意してあり、今日は泊まっていく様に促し

下宿人の部屋の鍵を渡した、

 

あてがわれた部屋は下宿人の部屋とは言えどチヒロが手入れをしているらしく

まるでホテルの客室のように清潔で快適に保たれている、

ねねはベッドに飛び乗ると通信機でパイオニア一号に連絡を取った

 

「お嬢様!いったいどこに!パイオニア一号は心配で心配で!」

 

「パイオニア一号、わらわとスゥリンちゃんの新しい家が決まったのじゃ住所を送るから

明日部屋の荷物を全部持ってくるのじゃ!」

 

「え?しかしそんないきなりに・・・奥様に叱られますよ?」

 

「いいのじゃいいのじゃっ!叱られるのはパイオニア一号の仕事なのじゃ!お休みなのじゃ!」

 

「ちょっ!おじょ・・・」

 

通信機の向こうで心配しただの人攫いにさらわれたのかとわめくパイオニア一号に

研究所に引っ越すことに決めたので部屋の荷物をすべてここに持ってくるよう手配するように

指示を出すと通信を切り毛布をかぶりいつしか眠りについていた。

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