PSO2水滸伝傍ら(かたわら)の群星   作:垣屋越前守

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惑星リリーパ地表エリア
熱砂の星への中休み


新光暦238年3月23日 午前8時時18分 アークスシップ1番艦フェオ

原生生物研究所

 

昨日は帰って来てから焼肉だった、持ち帰ったサンプルを直に取りに来た

若い学者や垣屋の又甥のジラードも垣屋の所へ本を借りに来ていたので

大人数でにぎやかな宴となって大いに盛り上がり

その楽しい余韻に皆が包まれ平穏な時が流れている、

 

垣屋たちは平素各惑星の戦火を交える地域に降り立てない学者や

お金のない若い学者の求める研究用のサンプルの採取や調査も請け負っている

お金のない者には安くある者からはそれなりに報酬を受け取り

それに異を唱えるものからの依頼は受けない、

 

垣屋を頼りにする若い研究者や学生等も研究所に出入りしているため

タイミングが合えば研究所はにぎやかにもなるのだ、

 

朝食も済み満腹感で床に転がるねねとスゥリン、少し離れたところではラピ子とベッコが

ボールを追い掛け回して遊んでいる、

そしてテツとシンジュクはモニターで伝統行事であるスモウの中継を見ている、

 

 

【挿絵表示】

 

 

「やっぱ伝統行事ってのはいいねぇ~」

 

テツは山盛りのお菓子を手づかみでむさぼりながら感慨深く鑑賞している、

 

今日は出撃もなければ何か特別な予定もなく研究所の面々は

休日を楽しく満喫する予定だ、温かい日差しが心地よく

垣屋は書斎でなにやら書き物に夢中だ、その後ろではねねが垣屋の気を引こうと

なにやらやらかす模様だ、また頭を張られる運命にもかかわらず・・・

 

 

 

時を同じくして  アークスシップ1番艦フェオ

ヘスティア慈善事業団フェオ本部 エントランス

 

オラクルは貧富の差が激しく、その理由は様々だが多くの貧しい人々も多くいる、

政府は何かの命令でも受けているかのように生活困窮者への援助が後手後手で

それが時として仕事や食料を求め頻繁に起こる暴動に発展したり

貧しいがゆえの犯罪なり餓死という悲劇的な事件も時として報じられる、

政府いわく「汚い者」「ゴミ」たちの存在を無視したいらしいが反対に貧民を救おうとする

勢力も存在する、

 

その一つが150年ほど続くヘスティア慈善事業団と呼ばれる慈善団体で

主に富裕層の出資や事業展開で資金を調達し運営されている、

そのエントランスには左右に二枚の絵が掲げられている

その絵はこの慈善事業団の精神を表す絵で人類がテラにいた時代に描かれた

物の複製再現品らしく絵の下にその題名が描かれ来るものを優しく見守っている、

 

もうひとつはここ15年位前から貧民層の支持を集め急速に勢力を伸ばしている

スパルタクス党と呼ばれる団体で政府は事あるごとに反政府テロリスト集団として

報道されているがそれはまたいつかの講釈、

 

そのヘスティア慈善事業団では朝昼晩に困窮者への食事の配給が各シップで行われており

今朝も寄る辺なき人々が数多く訪れ食事が配られるのをテーブルについて待っている、

その顔にはその場の空腹がしのげる安堵とこれから先の希望が見えない現実への

焦燥感が見え隠れしていた、

 

その食堂の片隅のテーブルで困窮者に配るサンドイッチを作る三人の女性がいる

長テーブルには食材が山と詰まれ一人の女性はパンを半分に切り

一人の女性は半分に切られたパンに肉と野菜の具材を乗せてはさみ

もう一人の女性はそれを器に盛り付け

配給をテーブルに配膳する女性がひっきりなしにカートに乗せて回収してく、

 

真ん中で具材を乗せていた女性が訪れる困窮者の数が減り一息ついたのを遠くから見て

口を開く

 

「ナターシャさん、ステファニーさん、配給がおわりましたら行きますわよ」

 

ショートにカットされた銀髪を真ん中で丁寧に分け癖っ毛なのかその端々が

左右後ろ側の外に向かってピンと跳ね上がっておりまるでミミズクの羽角のようだ、

細面で気の強そうに釣りあがった眉と鋭いキツネ目の上から神経質そうな

赤い縁取りめがねをかけている、どうやらこの二人より立場が上の様だ、

 

パンを切っていた女性とサンドイッチを盛り付けていた女性は良く見ると

キャストの女性で二人とも古風なメイドの制服を身に着け頭にはこれまた古い様式の

プリムを付けておりどこかの家の使用人のようなたたずまいである、

盛り付けをしていた女性は極端に背が低く踏み台の上に乗って作業をしていたようだ、

 

「とりゃぁ~ホアチョョョョョョ!」

 

もう一人の女性は平均よりやや高いくらいだがまるでまきを割るような荒っぽいしぐさで

奇声を発しながらパン切りナイフをたたきつけるようにパンを半分に切る

心の底から面倒で子供のような悪ふざけの佇まいが目立つ、

 

二人とも口を開いた女性に

 

「承知しました奥様」「は~い・奥様ぁ」

 

と返事をすると背の高いメイド服の女性は遠くから配給係の女性のサンドイッチは

もう作らなくて良いというハンドサインを見てパン切りのナイフを逆手にとって

パンに無慈悲に突き刺す、残った食材をコンテナに詰め調理室へと押していく、

 

「そぉれいっくわよぉ~」

 

背の高い方の女性は少し後ろに後退しカートを廊下から助走をつけて押し出し

開いた調理室の入り口で手を離すと食材を乗せたカートは奥の壁にぶつかり大きな音を立てて止まり

 

「うわっ!」

 

「キャッ!」

 

食器を洗っていた職員が驚いて飛び退くとステファニーはからからと笑う、

 

「ステファニーさんっ!」

 

キツネ目の女性は背の高いメイドを叱りつけようとしたが

 

「あ~あ・めんどくさかったっと・・・」

 

「めんどくさいではございませんのっ!困った皆様の少しでもお役に立てるよう努力するのが

成金たる私の!そして仕えるあなたたちの使命なのでございますのっ!」

 

「はいはいそうですかぁ~食べに来るのはいいわよ、体が動かない人はしょうがないけど

動くヤツはご飯作るの手伝うなり食器を片付けるくらいしろって言うのよね

あんなの甘やかしちゃダメよ」

 

ステファニーは伸びをしながらそう言い放ち調理室に背を向け外へ向って歩き出していた、

 

「まったくもぅっ!なんてお行儀が悪い!

 

そして3人は慈善事業団を後にしてショップエリアに足を運んだ

キツネ目の女性はお菓子屋で足を止めると店員を呼び止め

 

「これは奥様いらっしゃいませ」

 

「贈答用のクッキーを30缶お願いいたしますの、すぐお願いできます?」

 

「はい、いつもありがとうございますすぐご用意致しますので少々お待ちを・・・」

 

お土産用のクッキーの缶を何に使うつもりか大量に注文すると小奇麗な花模様の包装紙に

包ませステファニーのアイテムパックに詰めさせると店を後にして

アークスの居住エリアに向けて歩き出した、

 

キツネ目の女性を先頭に後ろから二人のメイドが付き従う背の低いメイド、ナターシャは

茶運び人形のような妙な歩き方で静々と付き従いステファニーは両手を頭を後ろに組みながら

ぶらぶらとついていく、

 

しばらく歩くと3人ははとある建物の前で足を止めた、5階建てのビルは3人の頭上に

暗い影を落としそれを見上げた後建物の入り口へと足を進める、

外に積まれている大量の物資や車やバイクを横切り入り口の看板とそこに書かれた住所を確認し

間違いがない事を確かめる

「原生生物研究所」その横にいつもどおりの汚い字で御用の方はお気軽にどうぞと

書きなぐられている、

 

「ごめんくださいませ!」

 

キツネ目の女性は玄関で中へ呼びかける、しばらくしてもう一度呼ぼうとすると奥から足音が

聞こえてくるのを聞き再び呼ぶのをやめた、

 

「はいはいはいはい」

 

優しげな声とスリッパの音を響かせてチヒロが玄関に応対に出た、キツネ目の女性は

笑顔のチヒロを軽く見回し

 

「(お召し物が古いですが着こなしは良いようですね・・・オペレーターの資格ありですか・・・

物腰もエレガント、うちのステファニーさんとはえらい違いですの、

ステファニーさんもこう少しは見習って・・・)」

 

「何か御用ですか?」

 

チヒロは3人に尋ねる

 

「ああ・お姉さんごめんね、ここにねねがいるって聞いたんだけどいる?」

 

ステファニーに言われチヒロは用件を飲み込み来客の用向きを理解した、

 

「ねねさんのご家族の方ですねどうぞおあがり下さい」

 

チヒロは3人分のスリッパを出し中へと案内する、3人は導かれるままに中へと進み入った、

様々な物資が山積みにされ興味深げにキツネ目の女性は眺めている、

 

「(研究範囲は広いようですわね・・・生物学と植物学中心かしら・・・)」

 

客室に通されるとキツネ目はこの研究所の主人と話があるとチヒロに申し出た、

チヒロは用件を承り書き物をしている垣屋がいる書斎に用件を伝えに入った、

 

「博士お客様です、ねねさんのご家族のようですよ」

 

「ああ・そうかいやっとクソガキ家に突っ返せるな!ええよ出るわい」

 

垣屋はそれを聞くと書き物の手を止めチヒロと共に客間に足を向けた、

 

垣屋が客間に入るとキツネ目は尋ねる

 

「あなた様が垣屋博士でございますの?」

 

「ああ・そうじゃよ、ねねの家族なんじゃって?あいつの姉ちゃんか?」

 

垣屋はこの3人の正体が分かって安堵感を感じそうになったその時キツネ目はやおら

勢い良く立ち上がると

 

「いえ!わたくしは、アルニム家37代当主ユキノ・マルガレーテ・アルニム!

ねねの母でございますの!」

 

と大声で言うと重そうなめがねを右手の人差し指で押し上げながらぷいと斜め上に

顔を向ける、

どうやら決めポーズが決まったらしく満足感が外からも伺える、

垣屋は面食らっている、まさかねねの母とは・・・見た感じだと20代前半かそこいらの

若さにしか見えず姉だといっても充分に通るだろう

若々しさだけでなく服の下からも分かるほどに引き締まって筋肉質な体と

みなぎるような気迫を感じられる、

 

「んで・・・用件は何かね?」

 

「(しかしどこかで見覚えがあるような・・・どこででしたっけ・・・それにしても

粗野な感じでございますの、しかもこの体に渦巻くフォトンの感じ・・・

邪悪な感じも入り混じっている・・・しかもひとつではなく奥からも・・・

この環境はねねさんに良くありませんの!)

 

「我が家の使用人であるパイオニア一号から聞きましたの、うちのねねさんが

こちらに下宿していると聞きましたの」

 

「あれが勝手に転がり込んできたのよあんた連れ帰ってくれるんじゃろ?」

 

「ん?おい源さんどうした?」

 

その大声に住人も気付いたらしくシンジュクにテツ次々となだれ込んでくる

 

「ひとまず客間へどうぞ」

 

チヒロがその場にいる皆を客間へといざなった、住人が席に着くと手際よくお茶と菓子を配る

 

「なんて優雅で手早い・・・この方はなかなか優秀なようですの・・・」

 

ユキノはチヒロに好印象を持ち始めたようだ、柔和でどこか安心感をかもし出す

チヒロを嫌う者はすくなくユキノも好感を持つ一人となりつつあった、

皆が席に着き落ち着くとユキノはステファニーに合図を送ると彼女はアイテムパックから

次々と花模様の包み紙にはいった箱を取り出してテーブルの開いた場所に

どんどん積み重ねていく、周囲の呆れ顔と困惑をよそに次々と、

 

「うちのねねさんがお世話になっておりますのこれはつまらないものですが・・・・」

 

「お・みやげかぁ気が利くじゃねぇかネェちゃん」

 

「なんだろねぇ~食い物かな?」

 

テツとシンジュクは菓子折りに手を伸ばすと乱暴に可憐な花模様の包装紙を破り捨て中身を確認する

 

「うお!ナウラコンフェクショナリーのクッキーセットじゃん!」

 

テツは舌が肥えているため菓子折りが高級品であることを一瞬で見抜きシンジュクは

 

「へぇ~バカのねねちゃんのおばちゃんにしてはやるねぇ」

 

そう言うとふたを引き剥がし二人で勝手に食べ始める、

 

「こら!やめんか行儀の悪い!おめぇら・・・ほんに犬以下だのぉ・・・」

 

垣屋は二人の狼藉を注意するがお構いなしだ、

 

「うんめぇ~この濃厚な味わいがたまんないねぇ~」

 

「噛めば噛むほど味が出るぜぇ」

 

食べ終わった缶を乱暴に床に投げ捨て二人は高級クッキーに舌鼓

ユキノはおばちゃんと聞くと即座に額に青筋を立てていたが話を切り出す、

 

「垣屋博士、うちのねねさんと結婚して添い遂げると聞きましたの!

申し訳ございませんがねねさんは花も実もある16歳!棺桶に両足入れてアップアップしてる

死に損ないのお年寄りとの結婚は反対でございますの!ねねさんの事はどうかどうか

あきらめてくださいませね!」

 

と勢い良く言い放った、初対面の人間に死に損ないだの花も実もある16歳だのと

随分と失礼な話だが垣屋は冷静になって状況の整理を始めた、

 

このような誤報の犯人は当然パイオニア一号だろう、小心者の癖にすこし一言余計な

ねね命のあいつならやりかねない、

そしてここに住み着き始めた報告を怠りねねの母が心配して慌ててやって来たのだろう

 

そうこうしているうちに騒がしさにつられてねねとスゥリン、パイオニア一号も

応接室にやって来た、

 

「かぁしゃま!」

 

「これは奥様ご機嫌麗しゅうございます」

 

ねねの母を見るとうれしげに余計な事いいの従者は深々と頭を下げた、

 

「ねねちゃんのママはじめましてなのじゃー」

 

「(この子がねねさんのお友達のスゥリンちゃんねなんてかわいらしい)

初めましてスゥリンちゃんねねさんと仲良くして下さってありがとうござますの」

 

見た目の幼いスゥリンに対してだけはユキノも目を細めにこやかに迎えるが

ねねとパイオニア一号には厳しい目を向けている、説教をする気なのだろう、

その後ろからぺたぺたと言う足音と共にラピ子とベッコもついてきている、

 

この研究所にいる全員が揃った・・・・

 

ねねが部屋に入ってくるとねねの母は一瞬安堵したかのような顔を見せたが

その次の瞬間にはただでさえきつい目つきをさらにきつくしてねねを見据えた、

 

「パイオニア一号逃げるのじゃっ!」

 

「はいお嬢様!」

 

ねねは叱られると思い部屋から逃げようとするがドアの所にラピ子とベッコが

立ちふさがっているためそれは叶わなかった、

 

ねねに真向かいに座るように促し垣屋はソファーから立ち上がりねねに席を譲る

ねねの母はずり落ちたメガネを指で押し上げるとねねに説教を始めた、

 

「勝手に宿舎を引き払ってどこに行ったかと思ったら・・・んまぁぁぁぁっ!

こんな蛮族の巣窟に転がり込むなんてっ!」

 

「ふぉいふぉい蛮族なんだっれさだれのふぉとだろうねぇ~」

 

「あなたたちですのっ!」

 

4缶目のクッキーをむさぼるテツにユキノは厳しい言葉を投げかける

よほどねねが心配だったのだろう

 

「いきなりきてそりゃねーだろぉ~こっちは暴れっぱなしのクソガキのせいで

家の中引っ掻き回されて死にそうなんだぜ?」

 

シンジュクはねねが来てからの落ち着かない毎日の不満をユキノにぶつける

 

「それに・・・ヴォルドラゴンに負けて病院に搬送されてから今日まで一度も連絡を

よこさなかった事!

そして知らないうちに邪悪のフォトンをまとった年寄りと結婚するなどと言って!」

 

「まぁまぁ奥様お嬢様も・・・」

 

「お黙りなさいっ!パイオニア一号!だいたいあなたが付いてながらなんですのこの様は!

ねねさんはおばかなのですからあなたがちゃんと見ていなくてなんとするのですっ!」

 

「ひぃっ申し訳ございません奥様!」

 

ねねと勤めに抜かりのあったパイオニア一号にはその一言一言が鋭い槍のように

突き刺さり針のむしろという言葉がふさわしい有様だ、そして一息つくと

 

「幼少のみぎりから大好きな人のお嫁さんになると言って運動に勉強にがんばって

アークスになったのが許婚のジークフリードさんの為じゃなくて

よぼよぼのクソジジイのためだったなんて非常識でございますの!」

 

死に損ない、花も実もある16歳に引き続く暴言を吐くとまた再び顔をぷいと斜め上に向け

決めポーズを披露した、

今度は部屋の中を歩き回っていたラピ子とベッコも左右にならんで決めポーズの真似を

していたがねねの母ににらみつけられてチヒロの後ろに逃げて行った、

 

垣屋が口を開く

 

「おいおいねねよ許婚いるんならそいつと結婚しろよ」

 

「妾が決めたのは旦那しゃまなのじゃ!それにジークフリードちゃんはもう死んだのじゃ!」

 

ねねは垣屋にそう答えた

 

「それにヒルダちゃんが妾の姑になるなんて堅苦しくて死んでしまうのじゃ~」

 

垣屋とシンジュクとテツはその名に思い当たりがあった、たヒルダにジークフリードという

二つの名前・・・

間違いがなければオペレーター部門の責任者のヒルダ少佐の事と思われた、

その息子の名前がジークフリードで将来を嘱望されつつも若くして病死している、

100年に一度の逸材と呼ばれ、もし生きていれば大いに活躍が期待できたであろう人物だ、

 

世の中は狭い物だと垣屋たちベテランアークスは感慨深く思った

しかし優秀にして模範的だったジークフリードとねねとでは釣り合いが

取れないのは確かで実現しなくて良かったのかもしれない、

 

ユキノはねねに

 

「さぁ・母様と一緒に帰るのです!」

 

そう言うとねねの強く手を取り研究所を引き払うように促す

 

ねねはユキノの手を振り払うと子供のように駄々をこね

 

「いやじゃいやじゃっ!妾はここにいーるのじゃぁ!」

 

と抵抗してユキノの後ろに回りこみふたりのメイドの肩に手を置いて揺さぶり始める

 

「おばちゃーんわらわもいやなのじゃーねねちゃんがいないとさびしいのじゃー」

 

ねねの左手を引っ張り必死に引き止めようとする、

それを見てユキノはスゥリンの愛らしさに手を緩めその場に立ち尽くした、

友達がいなかったねねにできた小さな友達の声に心が少し動かされていた、

 

「ねぇ~ナタァシャァ~ナターシャからも頼んでほしいのじゃあ~」

 

ねねは好機とばかりに仲間を増やそうと幼稚な作戦に出る、情に訴えるやり方である、

スゥリンは確実、次は使用人のナターシャとステファニーがターゲット

前後にゆらゆら揺られてナターシャは軟体動物のように揺らぎ

 

「ステファニィ~イ妾がここにいられるように頼んでほしいのじゃ~あ」

 

と彼女も左右に揺さぶる

 

「パイオニア一号は賛成なのじゃ!」

 

「もちろんでございます!私はお嬢様になにがなんでもついていきます!」

 

「お黙りなさいっ!」

 

そういうとまるでご主人様から褒美をもらう犬のように目を輝かせてパイオニア一号は

同意するがユキノににらまれて萎縮するやはり小心者のパイオニア一号であった、

 

それでもユキノの目はねねの多数派工作に動じる様子は見えない

鋭いキツネ目がねねの意思を挫こうと見据えている、心理戦ではユキノのほうが上手であった、

 

ねねはシンジュクにも泣き付いたがシンジュクは

 

「ばいばいねねちゃんまたどこかでね」

 

と言うと缶に入ったクッキーの最後の1つを口に運ぶと部屋の隅に缶を投げ捨ててソファーに

腰を下ろす、テツも満足したのかどうでもよさげに床に寝そべっている、

 

ねねはいよいよ自制心の限界に来たのか小刻みにピョンピョン跳ねながら

だだをこね始め、その横でラピ子とベッコはそれを真似して跳ね回り

まるでかつてテラにいたマサイ族という民族の踊りのような様相だ、

 

ねねの目にうっすらと涙がたまり始めたのを見計らいナターシャがユキノの

顔を見つめながら諭すように話し始めた、

 

「奥様お嬢様の好きにさせてみては如何ですか?もう子供でもありませんし

ご自身で判断したのです、ここの主人のあの子も皆様も悪い人のようには見えませんよ」

 

「あの子?・・・・ってワシの事か?何言ってるんだこのチビ助!」

 

垣屋は席を立つとナターシャの頭に手を置きいじくり回し始めた

 

「私ゃ今年で147歳になりますじゃ、ひゃっひゃっひゃっ」

 

ナターシャは幼い見た目につり合わない話し方と鷹揚さで垣屋の無礼を

かるくいなしている、年齢を重ねた熟練の処世術である、

 

「それに奥様がお嬢様の歳と同じ位の頃を思い出しましたよ、あれは・・・」

 

ナターシャが余計な事を話そうとするのを察しユキノはソファーから身を乗り出して

口を手でふさぐ、ナターシャは何事かもごもごと話しているようだったが

その内容は聞き取れない、

 

「またあの話?あれはほんとないわよねぇ~ふふふっあははははははは」

 

「お黙りなさいふたりともっ!」

 

ステファニーは笑い出しユキノの顔は紅潮する、

 

しかしユキノの平素の態度といいねねの母としてはやたらと若すぎる事と言い

触れられたくない何かがあるのだろう、

垣屋とユキノがあまりにもナターシャの頭に力を入れすぎたために

ナターシャの頭が胴から離れて地面に転げ落ちて急いで取り付けるために

一同が大わらわとなり話は中断された、

ナターシャは見た目とは裏腹に高齢のため要所要所の接合が甘くなっているらしかった、

 

テツが取り急ぎ自室から工具を持って来てナターシャの頭を胴に接続して事なきを得

ユキノは状況が落ち着くとため息をついてねねに言った

 

「分かりました・・・!必ず定期的に母に連絡を入れる事!

母が時折ここに立ち寄ってきちんと生活が出来ているか見に来る事!

不適切な生活をしているとみなされればすぐに家に母と帰る事!

守ってもらいますからね!いいですね!」

 

この3つをねねに約束させたねねは自分の要求が通ると知るとろくに内容も確かめず承知する

 

「ふぅ~まったく・・・」

 

ユキノはため息をつくと研究所の面々に真正面に向き直り

 

「皆様娘をよろしくお願いいたしますの」

 

と頭を下げメイドの二人も頭を下げた、ねねの思いはまたひとつ前に進んで実を結んだ、

 

「さて・そうと決まりましたら程よい時間でございますの、皆さんと

一緒にティータイムと致しましょう」

 

「ティータイムだぁ?」

 

「成金のたしなみとして時間通りのティータイムは必須でございますのよ!」

 

「なんか俺たちの事また蛮族呼ばわりしたそうな顔してるねぇ~俺もうお腹一杯だよ」

 

ユキノはひとつ拍手を叩くとナターシャは垣屋とチヒロが研究所のメイド長と

思い込みキッチンを借りる旨を了承されるとステファニーとキッチンへ

チヒロにいざなわれ消えて行った、

 

「いまクッキー食った後でティータイムってないよなぁ」

 

シンジュクは不満を漏らしテツも同意する、しかし勝手にお土産のクッキーを

食い散らしたのは自分たちである、わがままの極みとも言えるだろう、

 

しばらくしてベランダにしつらえられたテーブルに皆の席が用意され

清潔なテーブルクロスに先ほどテツとシンジュクが食い散らした

ナウラコンフェクショナリーのクッキーやあまいお菓子が小皿に盛られ

厳選された茶葉で淹れられた紅茶が並べられている、

 

全員がテーブルにつくとユキノがティータイムの開始を告げて歓談へと

皆を誘うがティータイムの習慣がない研究所の面々は当惑気味だ

ユキノは肩肘はらずに楽しめば良いと言って置きながら由緒ある成金の家に

ふさわしいティータイムと支離滅裂な事を臆面もなく皆に言って聞かせる、

 

ナターシャとステファニー、パイオニア一号は着席せず後ろに控え

アイテムパックから楽器を取り出す、そして静かに厳かに演奏を始めた、

 

「なんとも豪華だねぇ~・・・」

 

あまり音楽に興味のないテツはさして気が動かされることなく紅茶だけをすする

 

そしてシンジュクは

 

「バッハのG線上のアリアか・・・無難な選択だね」

 

かつてテラに人類がいた頃より連綿と奏で続けれられている調べに心を落ち着かせ

先ほどより少しだけ上品に紅茶をくちに運ぶが次の瞬間に紅茶を噴出した

 

ペンペペンペンシャラララララ~♪

 

先ほどまでのバイオリンとチェロの調べに突然と割り込むタンバリンの音が

不協和音をかもし出す、犯人はまたステファニーだ

 

「おい!なんでG線上のアリアにタンバリンがいるんたよ!」

 

シンジュクはテーブルを叩いて怒り出すステファニーは気に留めるでもなく

 

「だって演奏めんどくさいじゃんタンバリンでいいじゃん楽だし」

 

とぺんぺん叩き続けるのでせっかくの演奏が台無しになってしまった

そして続くパッヘルベルのカノンも同じ運命を辿った、

 

しかしユキノだけは動じない些細なことでは動じない何かが彼女をそうさせているのだが

雑談を進めるうちにかつてはねねのようにアークスとして短い期間前線に出ていた

との事であった、

そしてその頃に最前線で戦いバディを組んでいたのがオペレーターの責任者でもある

ヒルダ少佐だったと言う事であった、

これで話はつながったユキノとヒルダは前線で共に戦い親しくなるうちに

お互いに子供が生まれて性別が合っていれば結婚させようと決めていたと言う事を、

しかしそれは悲しい現実で叶う事がなかったと言う事を、

そしてその後二人はオペレーターに転属となった後それぞれの道を歩んだ事も、

世の中はやはり狭い物だと研究所の面々は思った、

ユキノの都合に合わせた昔話が披露され前線で戦う面々はそれぞれに情報交換を

したり失敗談を笑い合うなどしながら午後の一時を過ごすとユキノたちは自分の屋敷へと

戻って行った、

 

ねねは家に連れ戻される事が回避できた事に安堵してか早々とベッドに潜り込んだ

次の戦場は砂漠の星リリーパである、

 

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