PSO2水滸伝傍ら(かたわら)の群星   作:垣屋越前守

16 / 39
凍土への旅立ち

新光暦238年4月3日 午後7時24分 アークスシップ1番艦フェオ アークス居住区

 

アークスシップ1番艦フェオにあるアークスの居住区の外れに向かってとぼとぼと歩く

二つの影がある、その影は光りの加減で伸び上がった分を差し引いても

上背が低い事が見て取れその足取りは重い、粛々と影と泥酔者のように

ふらふらと千鳥足になった二つの影が伸びる、その影の袂を追うと二人は

まだ年若い少女である事が伺える、

 

「おながへったぁぁぁ・・・もうだめがも・・・」

 

千鳥足の影が言うその原因は飲酒ではなくどうやら空腹のせいだった、

 

「はいはいパティちゃんご飯が食べられないのは誰のせいかしらね」

 

千鳥足の影はパティという名前のようで小柄で華奢な体つきをしたニューマンで

体に見合わない大きな胸が千鳥足に連動してたわわに揺れる、

どうやらパティというこの娘の失態が飢えを呼びもう一つの影が巻き添えを食う形に

なっているようだ、

 

「だってさぁティアあれは絶対儲かるって言われたから二人で豪華にぱーっとやるために

投資したのにぃ~」

 

「私はやめとけって言ったでしょバカ姉」

 

ティアと呼ばれた影はパティの妹のようでよく見ればとても容貌が似ているが

豊かな胸の持ち主である姉と比べて胸のサイズは平均的、唯一の見分け所と

言っても差支えがなかった、

 

「ああ・もうだめ・・・ティアちゃん強く生きてね・・・」

 

そういうとパティは力なく崩れ落ち静かに地面にうつぶせに倒れると動かなくなった、

 

「ほらパティちゃんバカな事言ってないで早く立ちなさい、あそこに行けば

何か食べ物もらえるかもしれないから」

 

ティアは腰を下ろすと死んだふりをするパティの肩を揺さぶり起こそうとする、

その後ろから人の歩く足音が聞こえてくる、その足取りは力強く活力のない二人とは対照的だ、

足音はみるみるうちに近づいてくるパティを揺り起こそうとするティアはそれに気づかない

後ろからの足音も気付いていないようで歩む勢いは衰えていないようだ、

 

次の瞬間ティアの横から大きな影が飛び出して見えティアは驚き振り返る

同時にうつぶせに倒れたパティの頭にその影の足が下ろされ

パティは死んだ振りから一転、緑色の服とあいまって踏まれた亀のようにもがき

息を吹き返した、

 

黒い大きな影は驚き

 

「おお・すまんすまんまさか人がいるとはな、怪我はないかね?」

 

と優しく声をかけてきた、身の丈は190cmは超えているようだ、黒い肌に隆々とした体つきを

へヴィスクードと呼ばれるレンジャー向けの防御に重点をおいて開発された戦闘服に身をまとい

年のせいだろうか白髪の長髪を束ねしわの刻まれた顔には深い傷が見て取れる

優しそうな声とは裏腹になかなか厳つい容貌の持ち主だ、

 

「ジャンさん!」

 

ティアは知っているらしく立ち上がると丁寧に頭を下げて黒人の男性に挨拶をした、

 

「おお・ティアちゃんか久し振りだな元気そうで何よりだ」

 

ジャンと呼ばれた男性はパティの頭を踏んでることを忘れ

 

「しかしこんな晩に二人歩きとは用心が足りんな私が若い頃は・・・」

 

ティアはジャンが話し終わるのも待たず事の顛末を語りだす

 

「実は恥ずかしいんですがお金がなくなってしまって・・・垣屋博士にお願いして

何か食べさせてもらえないかたずねていく所なんです・・・」

 

「おお・そうかそうかそれは大変だったな、いい判断だ垣屋なら食わせて

くれるだろう、私も垣屋に用があるから一緒に行こうじゃないか」

 

アークス一の情報屋、双子姉妹の二人チーム パティエンティアとして活動する姉妹は

様々な情報を仕入れてお金でその情報を売ることも生業としているが

アークスは必要な情報は自分で集めるかアークスネットワークで提供されるため

能力的には理知的な妹ティアに頼りっきりでそれでもってしても能力はお察し

信用も実績もない事も重ねて二人の食い扶持はクエストに出撃するくらいしかない、

 

しかしパティは生来頭がよくないらしくつまらない相場師に騙されて

宝石の販売の投資に全財産を勝手につぎ込み失敗して全財産を失い

ここ3日ほど食事にありつけず、さりとてクエストに行こうにもその気力と体力が

おぼつかず、悪名高いアークス専用の無料で命の保障ができない食事が食べられる

激マズ食堂に「だけは」行きたくなかったため垣屋の原生生物研究所に食べ物を恵んでもらいに

行く途中だったのだ、

 

垣屋は貧しい学生や若い研究者、困窮した若手アークスに飯を食べさせたり

下宿させてやる事があり垣屋たちを恐れない若手のアークスが最後の頼みに

こうして訪れるのである、

 

「もががが・・・・ぐるじぃ・・・ぐるじぃって・・・」

 

無様にもがくパティにジャンも気が付きようやく重い足をのけパティは仰向けに

転がりまた力なく大の字に寝転がった、

 

「もうだめぇぇぇぇ・・・うごげないい・・・・」

 

足をようやく頭からのけてもらったパティはのびたままでもう歩けないと

地面に寝そべりごねて見せる

自分の不手際が原因でありながらなかなかに豪胆にして無神経である、

 

「ちょっとパティちゃんいい加減にしなさいよ」

 

「動けないかよしよし私が研究所まで背負っていこうさぁ背中に乗りなさい」

 

ティアは怒るがジャンは優しく手を差し出し起こしたパティに背を向けると

その背中にパティを背負い研究所に行こうと促した、

ジャンに迷惑をかける事をティアはとがめたがパティは楽が出来るとジャンの背中で満悦だ

ジャンは見た目によらず鷹揚で子供をあやすように優しく研究所へ足を進める、

理由は分からないがその笑顔がどことなく少し寂しげにティアは感じていた、

 

一方原生生物研究所では

 

所用などがあり少し遅い夕食を住人たちは堪能していた、先日のリリーパ砂漠エリアで

グワナーダを撃退し凍土へ向かうために英気を養う研究所の面々、

研究所の住人は良く食べる育ち盛りのねねとキャストであるためさして食べなくても

体内の生体機関の維持だけですむはずのテツとシンジュクとスゥリンも

盛大に食べる、そのあたりはヒューマンとして生きていた頃の名残なのだろう

いつもチヒロが腕によりをかけて山盛りに作る料理が残る事はほとんどない

むしろ足りなくなる位消費量が多い、

 

そして研究所の食事では会話が多く差しさわりがない時には時間をかけてじっくりと行われる

 

 

「こんばんは・・・」

 

「あら・お客さんですね・・・見てきますね」

 

「いえいえチヒロさんはごゆっくり私パイオニア一号が・・・」

 

どことなくか細いティアの声にチヒロとパイオニア1号は気付き食卓を離れて

玄関へと向う、玄関には二人の人影、

 

「失礼ですがどちら様でしょうか?こちらは原生生物研究所で偉大なる成金

アルニム家次期当主であらせられるねねお嬢様の館・・・」

 

「パイオニア一号さん、博士のお知り合いの方です、大丈夫ですよ」

 

「そうでしたかそれは失礼致しました」

 

チヒロは面識があったのでそれがティアとジャンであることが分かりパイオニア一号に

怪しい人物でないと説明すると彼は納得し二人を中へと通した、

 

その時に始めてジャンの背中にパティがいる事に気付き中へと進むとやおらパティが

しゃきりとして鼻でにおいをかぎ始めた鼻に通るは彼女が焦がれた食料の匂いである、

パティはジャンの背中を足場に前に飛び出す、

 

「ぐぉっパティちゃんどうした!?」

 

「ちょっとパティちゃん!」

 

ジャンは突然のことに驚き蹴られた背中をさすりティアはパティの無礼に怒る、

チヒロとパイオニア一号は笑顔でその程度で動じていては正義の原生生物研究所では

やっていられない、パイオニア一号も徐々に知らずとこの環境に慣れてきているようだった、

 

「うぉぉぉぉぉぉくいものぉ~♪」

 

パティは匂いのする方へと突進していく、やはり今までの死んだふり等は仮病だったのだ

そして食事をしている研究所の面々の部屋のスライドドアを開けると

目の前にある食べ物が山と乗せられているテーブルにダイブした

突然の事に驚く住人を尻目にパティはテーブルの上に立つと

 

「食べ物食べ物ぉぉぉぉ」

 

と叫ぶと手当たり次第に素手で掴み口に運びガツガツと食べ始める、その様は地獄にいるとされる

餓鬼を彷彿いや餓鬼にたいして失礼であろうと思わせる浅ましさであった、

 

「ちょっと何やってるのよ!やめなさいやめなさいっ!」

 

ティアはさらにパティを叱りジャンと研究所の住人たちはあきれて呆然としている

パティは吸引機のようにテーブルのありったけの食べ物を口に運び

うまいうまいと涙を流しつつ喫食し住人の食べかけの食事にまで手をつけ

ベッコの焼き魚にラピ子のフルーツの皿まで横取りして貪り食った、

 

「ピギィィィィィィ!」「キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」

 

食事を取られて怒りに燃えるベッコとラピ子を突き飛ばしパティの食欲は留まるを知らない

部屋には涙を流してピーピーなくラピ子の声が響き混沌の様相を呈している、

 

状況をようやく飲み込めた住人たち、垣屋がテーブルから立ち上がると

 

「なに晒すんじゃいこのボケェ!」

 

満足げな顔で「人の」食事を租借するパティの脳天をバレーボールよろしく

平手でアタックをびしりと決めるパティは再び地面にうつ伏せと相成った、

パティが食い散らかした食卓をチヒロとパイオニア一号は手早く片付け

自分の食事を横取りされたシンジュクとテツは不機嫌を隠せなかった、

 

「なんだこいつらぶっ殺されてぇのか・・・・おい・・・」

 

シンジュクは戦いの際の鬼女の顔に

 

「俺が最後に楽しみに残してたデザート食いやがったよ!殺す!」

 

テツも小さい体をわなわな震わせて黄色い目を強く光らせ怒りを露にしている、

 

「ピィィィィィ・・・・」「フィィィィィィィィィィィィィィィ!」

 

さしものラピ子とベッコも怒り心頭くちばしが照明を受け怪しく光る

 

「ひぃぃ皆さんごめんなさい!ごめんなさい・・・」

 

ひたすらに姉の非礼を頭を下げて謝るティアがいなければどうなっていただろうか

ねねとスゥリンは何が起こったのかまだ呆然としている、

 

「まぁまぁみなさん、お腹すいてるんですねすぐ何か作りますね」

 

チヒロが皆をなだめパイオニア一号とちらかったテーブルを片付ける

 

ひとまず垣屋は事態の収拾を図るためジャンと馬鹿姉妹を座らせて

順番に事情を聞く事にした、

 

「しかしチヒロさん、明日が買出しですから使い切りましたもう食材ありませんよ・・・」

 

「あらいけない・・・どうしましょう」

 

「なんか出前でもとれやいくらかかっても構わんから」

 

垣屋が不機嫌そうに出前の許可をすると皆が口々に食べたい物をあげていく

 

「あたしは寿司だね」

 

「じゃ俺はピザとアイスクリーム」

 

「わらわはらーめんなのじゃー」

 

それぞれ嗜好がばらばらだが人の金なので意に介さない、チヒロとパイオニア一号は

それぞれ分担して出前の注文を行いついでにすぐにつまめるものも

通信販売で注文をしている、

 

浅ましいパティが横取りした食事はチヒロの負担を鑑みて全員の総意の下出前を取ることで

落着となった、

 

「んでおめぇら何しにきたんだ?メシの邪魔?ケンカでも売りに来たんかね?」

 

垣屋はまずパティとティアに事情を聞く事にした、

ティアはジャンに話したことを再び繰り返し

 

「実はお金がなくなってしまって博士に何か食べさせてもらえないかと・・・

そしてさせてくれればお礼にできることは手伝います」

 

「なんだメシ食いたいのかならなぜそう言わんこんな泥棒猫みたいなまねしてよぉ・・・」

 

「ほんとにバカ姉がすいません、ほんとにすいません・・・」

 

「もっと食べさせてくれたらいい仕事するよぉ!アークス一の情報屋パティエンティアに

どーんと任せてよ!」

 

パティは自分のしでかした事への反省もせず調子の良い事を言ってのけるが

 

「図に乗ってんじゃねぇよ!この泥棒猫が!」

 

シンジュクに脳天張り倒され好物のフルーツを奪われ復讐に燃えるラピ子に足を

つつかれ上下の責めに悶絶した、

 

垣屋は飯を食ったんだからとっとと帰れと言いそうになったがふと思いついた、

同時にテツとシンジュクも同じ事を思いついたようでテツの口から

同意権が吐き出される

 

「イフェメラが復帰するまでねねちゃんとスゥリンちゃんと組んでもらったら」

 

「そうじゃな二人より4人のほうが楽じゃろうし」

 

3人の意見が出揃い垣屋は姉妹にねねとスゥリンを紹介し共に戦うように命じた

そして金が無くて生活できないのなら立て直すまで下宿を使えと二人に言った、

 

「んでジャンはこのクソガキのお守りか?」

 

「いやこれを買い取ってくれんかと思ってな」

 

垣屋はジャンに用向きを尋ねるとジャンはアイテムパックから

鉱石や昆虫の化石等の垣屋がいつも拾ってるような代物をいくつもテーブルに乗せ

買い取ってくれるようにと言う、

 

「あいかわらずいいモン持って来るの、いいぜいいぜあるだけ頼むわ」

 

垣屋はそのような回収指令の余剰を買い取り必要になれば横流しもするために

買い取りも行っている、

アークスの司令部を介すと需要のある買い手が手数料を上乗せしなければならないが

垣屋が裏でやっている横流しだと手数料が要らず必要数が安く手に入るので

需要が見込まれるのである、

 

「こんなにもらっていいのか?助かる」

 

「ああ相応の物だから当然じゃよ、また頼むわい、しかしまだ何かありそうじゃの」

 

さっそくジャンの端末に金を振り込むと予想以上の額にジャンも満悦であったが

もう一つの用件を垣屋に申し出た、

 

「本題に入ろうか」

 

ジャンは垣屋の顔をじっと見て少しため息混じりに話し始めた、

 

「ジグがとうとうやる気を完全に失ったようだ全く鍛冶をしなくなってしまって・・・」

 

「そりゃまじぃなぁワシの双淡月がつぶれたらどうするんじゃ」

 

ジグ・・・・刀匠ジグ、オラクル一とも言われる刀匠で打たれ仕上げられた武器は

アークスの頂点に位置する六芒均衡の獲物である「創世器」と呼ばれる

武器の中の頂点を行く業物に届くとされる、

 

しかし近年のジグは不幸が続いた、ヴォイドとそれらにかかわりの深い企業の

生産ラインが飛躍的に発展しライン生産で高品質な装備の供給が始まった事

高峰の花でかつてはカスタムオーダーであったラムダ社やディオ社の装備ですら

その範囲に含まれる、

 

ダーカーとの戦闘こそは続いているものの10年前の大襲撃で損耗から

ようやく立ち直り始めたアークス所属の隊員の質の問題や

需要の波から彼が打つような業物を求め扱える上級アークスも減って行き、

それは必然的にやりがいのある仕事が減ると言う事である、

武器とユニットの鍛錬もヴォイドと政府の結託の結果現在のアイテムラボのみが

店舗としての営業を許され

不許可店舗とされた彼の出店もことごとく閉鎖に追い込まれ、

弟子もやむなく暇を出すしかなくなってしまい弟子たちは再起を誓いつつも

生きるために泣く泣くジグの下を去っていった、

 

かつては戦場に赴く事もあったジグだか生まれついての刀匠であった彼から

鍛冶を奪うと言う事ほど酷な事はない、

すべてが自分の思わぬ所で生き甲斐を奪われもう自分を必要ないと

言わんばかりの世の仕打ちに完全にやる気を失ってしまったのである、

 

「そこで私は思ったのだジグはオラクルに必要な人材だ、朽ち果てさせるわけにはいかん

そこでやる気を取り戻すような・・・・そう業物を見せてやる気を取り戻させたい」

 

「んなに簡単に行くか?あのクソジジイ目だけは肥えてるからのぉ並みのしろモンじゃ

効き目が無いと思うぞ」

 

垣屋はチヒロの出したココアを飲みながら最もであり一番効果的な方法だと

ジャンの提案に賛成した、

垣屋らとて他人事ではない、ジグは年こそ垣屋より一回り上ではあるがかつては40年前の

エルダー戦争を戦い抜いた仲であるし、垣屋たちのような上級ランクのアークスが

使う武器は修行と研鑽で磨き上げられた刀匠でなければ修理と鍛錬はおろか調整すらおぼつかない

店を失ったジグには個人的に注文する以外上位武器を扱うアークスの

武器のコンディションを保つ方法はない、

そしてまだジグと並ぶまでに育っている弟子がいない以上これは極めて深刻な問題であった、

 

現に調整の注文をこなしていないためジャンも平素のライフルではなく一つランクの下がる

ステブウェポンと呼ばれるアサルトライフルを携帯している、

今の最高の手持ち武器が壊れぬようにとの用心のためであろう

当然ほかの上級アークスも似たような状況に置かれているであろう、

ジグに並ぶ刀匠がいない今これは深刻な問題なのである、

 

後ろでまだその域に達していないねねとスゥリンと馬鹿姉妹は退屈そうにし始めたので

垣屋は風呂にでも入ってこいと提案し子供らを部屋から出し自己紹介も終え

すでに打ち解けた4人は浴室へと向かって部屋を出て行った、

垣屋もジャンも話し出すと長いという悪癖がありこれも的を得た対応であった、

 

「そこで最近凍土でダーカーたちが変わった行動を取ってるのを知っているな?

本来なら最優先で我々に襲い掛かってくるやつらが何かを探すように

整然と周囲を徘徊しているようだ、私はそこに何かあるかもしれないと感じている」

 

そしてジャンは凍土へ向かうアークスたちにも何かがあれば知らせて欲しいと

既に方々に声をかけているとの事であった、

 

このジャンの推察に再び垣屋は同意した、ついでに司令部も原因を知りたがっている

一連の行動の謎を解く鍵があるかもしれない

そしてちょうどねねとスゥリンの鍛錬のため凍土へ向うところであったのだ、

 

そして普段起こらない事が起こっている時はより警戒を強め

より確実な陣容で臨む方が良い、

凍土もまた厳しい環境であり油断をすると熟練の者でも命の危険にさらされ

現に凍土で命を落としたアークスも数知れず存在する、

そこでレンジャーと言うクラスの中で実力と経験が上位に位置するジャンが加われば

心強い事この上ない、

 

「なら丁度ええなわしらも明日凍土へいく予定なんだわ、皆で行かんかね?」

 

垣屋は今研究所に集まっているメンバーで凍土の探索をするように提案し

残っている大人たちシンジュクとテツもそれに同意した、

 

ジャンは安心したらしくチヒロが出した少し冷めたココアを一気にあおり

垣屋はジャンに支障がなければ今夜は泊まって行けと薦めジャンも遅い時間に戻るのが

面倒と思ったのか申し出を快く受けしばし4人は雑談に興じた、

 

お子様四人は垣屋たちの退屈そうな話が始まる前に促されたとおり

浴室に向った、研究所の浴室は下宿人のためでもあり

ストレスからか頭痛持ちでその対策としてリラックスを重視する垣屋の方針もあって

大きくゆったりと作られている、

研究所の広い裏庭に張り出す形で設えられその庭には良く育った樹木が生い茂り

部屋に置けないような大型のオブジェやどこから持ってきたのか

エーデルワイス号と横っ腹に名前が書かれた戦車や先日鹵獲した

スパイク付きロードローラーやその他重機車輌も雑然と放り出されている、

 

外から覗かれることがないように完全な工夫された露天風呂で獅子の口から

温かい湯が勢い良く流れ落ち、脱衣所には冷蔵庫と冷凍庫がそれぞれに設えられ

冷たい飲み物とアイスクリームが好きなだけ食べられるよう常にぎっしりと

詰められており片隅にゲーム機や卓球台などが置かれていて

昔ながらの銭湯や温泉のような佇まいを見せている、

 

「おふろじゃおふろじゃー」

 

「みんなでどほーんなのじゃっ!」

 

「よぉ~しいっくよぉ~」

 

4人は服を脱ぐとタオルを体に巻きつけ浴室へとなだれ込んだ

脱がれた服から自動洗浄消毒モード開始と音声が発せられクリーニングされていく、

上がる頃にはそれも終わって清潔な着衣となっているであろう、

 

「まったくもう・・・」

 

ねねとスゥリンとパティは無邪気に浴槽へと小走りに向っていくが

少し大人なティアはつつましく静々と後に続く、

 

3人が勢い良く飛び込もうとすると浴槽の中からなにやら2つの黒い影が

ゆらゆらと浮かび上がってくる、

敵襲か!丸腰でありながらも咄嗟に構える3人に黒い影は水面に顔を出すと

勢い良くお湯を噴射してきた、大量のお湯を浴びせられ視界がふさがる

噴射が終わり目を開くとそこには研究所のペットであるベッコとラピ子が

湯船に浸かっていた、

 

「ウケケケケケケ!ウケケケケケ!」

 

隙を突いたことがよほど嬉しかったのだろうベッコは馬鹿にするように

3人を笑い3人は顔を真っ赤にしてこの変態カッパと好色鳥を追い出そうと追い回す

 

「待つのじゃ待つのじゃっ!」

 

「この変態カッパまてぇぇぇぇい」

 

ねねとパティは裸であるのも気にせず捕まえようと走り回るが相手のほうが上手で

二人の腕をすり抜けて華麗に走り回っていた、

 

「ねねちゃんがんばってつかまえるのじゃー」

 

スゥリンの応援むなしく2匹はつかまらず肩で息をする二人

すると脱衣所からチヒロが4人に呼びかける

 

「ベッコちゃんもラピ子ちゃんも女の子ですからここで良いんですよ

みんなで仲良く入ってくださいね」

 

そういうとチヒロの足音は遠のいて行く、するとベッコとラピ子は今度は体を

ぶるぶると振って水を切るとチヒロを追って浴場から出て行った、

 

ゆっくりと湯船に浸かる4人はそれぞれに自分の事を知ってもらうため

色々な雑談をした、身の上の話、自分の好きなおいしい食べ物の話

おしゃれの話に将来の夢、体が火照ってくると湯船から上がって

ビーチチェアーに寝転んだり据付のアイスや良く冷えた飲み物を飲みながら

楽しい時間が過ぎ去っていく、

 

そこで情報屋たるパティエンティアという名のバカ姉妹の関心を引いたのが

やはりねねが垣屋のところで下宿している理由であった

ねねはいつものとおりの理由を話しパティは分かった顔をしてうんうんうなづく、

 

「分かる分かるよおねえさん、恋する乙女の切ない気持ち!このパティちゃんが

ご飯のお礼に恋のキューピッドなってあげようじゃないか!」

 

「やめとけバカ姉失敗するに決まってるだろうが」

 

ティアの突込みを無視してパティはやる気満々だ

 

それを聞いたパティはどんな男もいちころの技を知っているとねねに言うと

ねねの後ろに回りこみティアの制止を聞かずその技を実演して見せた

女同士でここまで密着した事が初めてのねねは恥じらいで顔が目立って赤くなるが

パティはそのくらいできなければアークスとしてもいとしい人を

射止める事はできない!と断言した、

ねねは強くうなずくとパティは一人でやる勇気がなければ私も手伝うと

鼻息を荒くした、

 

風呂から上がり寝巻きに召し換えクリーニングが終わった服を小脇に抱えて4人は

風呂から上がった、暖かい風呂に長く浸かってほだされ

ねねが実家から持ち込んだ愛用の「高級石鹸桃源郷」の香りに包まれた4人は

リビングで垣屋たちと鉢合わせる、

なぜかもじもじするねねをパティが後ろからせっついている、怪訝な顔をする4人に

ねねは垣屋に向かって

 

「旦那しゃまっ!」

 

と言うがその顔は真っ赤で湯あたりでもしたのかと思っている垣屋の後ろに回りこんで

パティの指導の下に体を、いや性格には胸の部分だけをペタペタと付けたり離したり

しはじめた、

パティちゃん直伝の奥義 「乳競饅頭」を羞恥を超える勇気を持って発動させたのである

パティーはその勇気に感服し援護を申し出ると二人で垣屋の背中でペタペタとはじめ

 

「乳競饅頭~逝ったら負けよ!」と歌いながら単調な動作を繰り返す

 

ジャンは呆然としパイオニア一号は驚愕、テツとシンジュクはあきれて物が言えないという顔で

ティアはあわてて止めに入りながらひたすら頭をペコペコと下げている

スゥリンは仲間に加われるほどに胸がなく微妙な顔つきで少し不機嫌そうな佇まいである、

 

垣屋は振り返りバカ二人にに怒りを隠して笑うふりをして見せ、ねねとパティが

笑顔を見せると同時に平手を脳天に振り下ろした、

 

悶絶するバカ二人、それを尻目に垣屋は書斎に向うとすぐに戻ってきて

手に持った筆とすずりで壁に貼られていた「原生生物研究所の掟」という

横長の紙になにやらさらさらと書き足している

 

「掟 ちちくらまんじゅう禁止」

 

そしてまだ頭を抑えている二人の顔に墨汁のついた筆をべちゃりと押し付けると

パティの顔に「バ」ねねの顔に「カ」と達筆に書き加えると

 

「ガキが色気づいてんじゃねえ!明日朝一で凍土探索じゃからさっさと寝ろ

クソガキども!」

 

そう言うと筆とすずりを持ったまま書斎へと消えていってしまった、

 

「ううう・・・パティちゃん・・・失敗したのじゃ・・・」

 

「あたしの作戦は今まで完璧だったのになんで・・・!」

 

どうやらパティーの情報と究極奥義は的を得ず役に立たなかったらしい

これがパティエンティアの誇る情報と言うものの品質である、

 

二人は風呂に戻って顔の墨を落とすと今度は寝室で明日に備えて準備と予習を

怠らないティアを除いて枕投げに興じにぎやかで楽しい夜は更けていくのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。