救援に駆けつけてくれた輸送船はナベリウス凍土から離陸し成層圏を超え宇宙へと上昇し
既に定めていた方向へ舵を取り航行するが何分輸送用の船であり
船足は決して速いとは言えない、
一行は船員とラヴェールから温かい飲み物を差し出され感謝を述べながら冷えた体に
熱い飲み物を流し込み体が少し温かくなった、
しかし一行の顔に、特に未成年のお子様たちの顔には疲労が隠せなかった
無理もないその場にいるだけで体力を消耗する凍土でしかも150匹近くはいたであろう
ダーカーとの戦闘、
続いてヴォイドとの接触にモモラーノの救援と立て続けに馴れない緊張を強いられたのである、
パティはその場にへたり込みキャストのスゥリンですら意識が少し朦朧としているのが
見て取れた、
垣屋は飲み物を飲み終えるとすぐにモモラーノの状態を確認している
その横でねねはたずねた
「旦那しゃまこれからどこへ行くのじゃ?」
お子様たちやジャンには当然見当が付かなかっただろう
「今から行くところか?、オラクルシップ第447番艦、ジャン・レオン・ジェロームじゃよ
そこでモモラーノの治療と身柄を匿ってもらう」
と無駄なくねねに答えたがねねは世間知らずな事もありよく飲み込めていないようだ、
しかしジャンはそれを聞いて状況を飲み込めたようで
「まさか反政府テロリストのスパルタクス党の力を借りると言うのか?」
と垣屋に返した、
その横ではジャンに対しラヴェールと船員の鋭い視線が投げかけられ
ジャンの言わんとしている本音に抗う気持ちがにじみ出ていた、
「あたりぃ~、しかしその言い方からしてあいつらを犯罪集団とでも思ってるな?
それは政府のプロパガンダじゃしあのクソ野郎どもに惑わされてる証拠だからの」
とジャンを戒めるように言うと空間にも消毒液の噴霧を始め
「しかしニュースで伝える各地での虐殺や破壊行為は・・・」
「そんなのデマに決まっておろうが、やったとしてもヴォイドの連中よ
試しに被害地域の戸籍や人口推移調べてみ?すぐに捏造だって分かるからよ
手がお留守なら消毒手伝ってくれや」
ジャンにも消毒液の噴霧を手伝うように促す、
一行がこれから向う先、オラクルシップ第447番艦、ジャン・レオン・ジェロームは
スパルタクス党と呼ばれる反政府組織の本拠となっているシップである、
ヴォイドの言いなりで福祉や社会整備に力を入れずその予算を
着服して私服を肥やす政府の高官らに
反感を持つ者は多い、そして無実の罪でオラクル追放刑になった者や
被災し政府から受けられるはずの支援も受けられず暮らしが成り立たなくなった者
たちの受け皿になっているのがヘスティア事前事業団であり
スパルタクス党である、
オラクルの市民の大半はその思いを押し殺し普段の生活を守るために耐えているのだ、
しかしその中で積極的な者たちや政府の卑劣な方法で社会的に押し遣られた
人々の中には反政府勢力となる人々が少なからず存在する、
スパルタクス党はその中でもここ12年ほどで近年急速に貧困層を中心に
勢力を伸ばしオラクルシップの400番台の艦が集中するエリアに勢力を保ち
政府とヴォイドが手をつけあぐねている半ば治外法権のエリアでもある、
政府は自らの保身のためにプロパガンダを流し彼らを過度の悪人として報道し
時として凶悪事件の首謀者などとデマも流しているがそれを真に受ける人
ばかりではなくジャンのような頭の固い人々は少数派になりつつあった、
そんな折にねねの通信機に通信が入る、母のユキノからの入電である
「ねねさんよろしくて?博士はそばにいますの?」
ねねは垣屋に通信を回し垣屋は礼を言うとユキノの通信に出た
「救援要請しかと承りましたの、今からそちらに高速救急艦カドゥケウスで向います
ナベリウスから離れているようですけど発信元を辿ればよろしいのかしら?」
「カドゥケウスかありがたい感謝するでよ!」
垣屋の顔が明るくなる、高速救急艦カドゥケウスと言えばヘスティア慈善事業団の
最新医療を実践できる言わば団体の思想を具現化した最新鋭の船である
不足している薬品どころか各分野における最高レベルの医師が乗船しており
今までの不利は全て覆すことが確実視される事が決まったようなものである、
ユキノは皆の思いに最高な形で応えたのである、
足の遅い輸送船だカドゥケウスが追いつくのはそうかかるものではなかろう
モモラーノもショック状態から皆の応急処置で少し持ち直している
シンジュクとテツは周囲を見回し少し安全になってきたのでお子様たちを
少し休ませたらどうかと提案し垣屋とジャンもそれに同意しお子様たちに
隅にしつらえた乗務員用の休憩スペースで横になるように促すと
お子様たちはベンチに座るとよほど疲れてもはや気力で立っていたのだろう、
ほぼ同時に目を閉じて倒れるように眠りについた、
後は第447番艦、ジャン・レオン・ジェロームまでの1時間半ほどの道のりを
途中でカドゥケウスと合流しモモラーノの処置をしながら向うだけである
起きている皆にようやく宇宙の星空を眺める余裕ができ、血で汚れた装備を
ぬぐうために自動洗浄システムの起動をする余裕が生まれた、
装備の洗浄が終わり一息ついて皆がイスに着席するがラヴェールは周囲を
警戒しているようだ、その長い耳が小刻みに動き熟練のアークスにはそれを
うかがい知る事が出来る、
テツは少し休んだらどうかと声をかけるがラヴェールは返す
「油断大敵だよ、まだこの人が生きてるんだしヴォイドの連中が大人しく
ジェロームまで私らを帰すと思えないね、証拠隠滅のために私らを狙って当然さ
ジェロームに帰還すればそうも行かないだろうけど今なら狙える
そのチャンスはこの1時間半、警戒して当然だろう」
そう言うと愛刀である二レンカムイを持つ手を緩めず警戒を続けるが
「みんなは疲れただろうから少し休んでいてね」
一行には今までの経緯から疲れているだろうから少しでも休むようにと
表情を和らげねぎらいの言葉をかけた、
スパルタクス党の輸送船ツシマは可能な限りの努力で急ぎジェロームへと向っている
「垣屋博士よろしくて?15分ほどでカドゥケウスが追いつきますの
受け入れ準備をしていて下さいませね」
「こちらはいつでもええのんよ、すまんがよろしく頼むわい、現在の経過データを
送るから医療チームに見せてやってくれんかの」
その連絡から10分ほど経過したであろうかお子様たちは寝息を立てて眠り
ジャンも老齢のためか少しうつらうつらとしている、テツはチョコバーを取り出し
何本も口に運びシンジュクもアイテムパックからナッツを取り出しいつものように
宙に投げ口で受けて食べている、垣屋はモモラーノの経過を観察中だ
その静寂がそのまま続いてくれればと祈るばかりの状況だがそれはラヴェールの
予想通り破られる事になってしまった、
艦橋より船内連絡が入る
「甲板にテレポートと思われる物質反応あり!対象は2つ!1つはでかいぞこれは!」
その放送に全員の背筋が伸び眠っていたティアも飛び起き急いでパティとねねとスゥリンを
揺り起こす、
「やっぱり来たね蛆虫ども・・・」
ラヴェールはつぶやくと甲板に向かって走り出しテツとシンジュク、そしてジャンが続いた
お子様たちは横になっていて一足遅れたがテツが指示を飛ばす
「俺たちが出たらここをロックして内部に何か入ってこないようガッチリ固めるんだ
いいって言うまで開けちゃダメだよ!俺たちが何とかするから源さんはモモラーノを頼んだよ!」
「わかったのじゃー」「テツちゃん、シンジュクちゃん、ラヴェールちゃん頼んだぞ」
垣屋とお子様たちは分かったと言うと大人たちが外へ飛び出すとロックをしてねねとパティは
ドア周辺を、ティアとスゥリンと垣屋はモモラーノの周りを固めライフルを構える船員と
今いる船底部を守る事にした、
甲板にでるとそこは宇宙空間で再び低温に大人たちは晒されるがアークスはフォトンの
バリアで体を覆われているため長時間は難しいが宇宙空間での活動が可能である、
そしてテレポートしてきた2つの反応は甲板から第二層の倉庫へと移動していた、
第二層に降りるにあたりハッチを破壊したようだが船員が緊急の補修材でふさいだらしく
閉じ込められる形になっているようである、
第二倉庫でその2つの反応と研究所の大人たちは鉢合わせその2つの反応の正体が
何であるかを知る事が出来た、
1つは少女だろうか、見た事のない体にぴったりしたスーツをベースに随所に
プロテクター状の物が付いたスーツに身をまとい
両腕に装着しているのか2本の刃が突き出ているその刃は傷を深めるためか
大雑把に鋸状をした形状で青とはしが赤く染まったツートンカラーの髪を揺らしている
もう一つの反応は巨大であったなんと形容すればいいのだろうか細長く絞まった体つきに
肋骨と腹部が張り出し顔には鋭くとがった角状の突起がありまるでカジキマグロを想起させる、
「なんだこいつは!データにないぞ!」
ジャンはアイディスプレイに映し出されるデータを追いながらつぶやくが既にライフルに弾丸を
装填し終えていた
そこに垣屋が通信を入れる、甲板に向かって出撃した大人たちにマグのオパオパを
付いて行かせたためマグを介して映像を見ているようだ、
「アークスはヴォイドとべったりじゃからのぉこんな不味いデータ公表するわけないのんよ
ヴォイドの造竜計画で作られた人工ドラゴンじゃよ、てごわいぞこいつは
あとのメスガキはオマケじゃな」
ジャンはうわさで聞いていたヴォイドの非道な実験や生物兵器の話をモモラーノといい
目の前の気味の悪いドラゴンといいまざまざと事実を突きつけられ
久方ぶりの焦りとわずかな動揺そして自分の価値観が崩壊していく様を
感じていた、今のオラクルはおかしく見過ごせぬ闇がある事を、
「今なら見逃してやるよとっとと消えなヴォイドの犬ども!」
シンジュクは周囲が凍りつくような大声で少女と竜らしき物を怒鳴りつける
すると少女は薄ら笑いを浮かべ
「私は暗殺者美しい私と弟にかかればあなたなんて無力に散っていくの
命乞いでもしなさい、最も助けるつもりはありませんが」
そう言うと腕に装着した2本の刃を大げさに振って構えて見せた、
その仕草に図に乗ったものを感じたシンジュクが銃を向けようとすると
その横からラヴェールが進み出てシンジュクに言った
「気に食わないね、悪いけどあたしに譲ってくれないかいこのメスガキをさ」
「いいぜぶちのめして女にしてやんな!」
シンジュクは一瞬ぽかんとしていたが殺意のこもった凄まじい形相でにやりと笑うと
獲物を譲る旨をラヴェールに伝えた、
「悪くないねじゃあ遠慮なくお仕置きしてやるよ」
言葉にこそしていないがさっさと殺してしまえと言う意思表示がひしひしと伝わってくる、
ラヴェールーも愛刀二レンカムイの刃をすり合わせシンジュクの言葉に無言で返していた、
「じゃああたしはこのカジキマグロ相手にしてやるか」
シンジュクがテツとジャンの元へ歩きだす、それに気付いた二人が振り向かず
声をかける、
「あれ?シンジュクちゃんあのメスガキの相手はいいのかい?」
「ああ、ラヴェールが女にしてやるって張り切ってたよ」
「じゃこっち手伝ってよ面倒だからさっさと殺してしまおうぜ!」
一方のドラゴンもどきは激しい雄たけびを上げながら空を引っかきこちらを威嚇している
テツとジャン、そしてラヴェールに生意気な小娘を譲ったシンジュクが
銃口を向け誰が発するでもなく戦火は切って落とされた、
かくして戦いは始まった、ラヴェールは暗殺者を気取る娘と一対一で対峙し
ドラゴンもどきにはジャン、テツ、シンジュクが相対する、
乱戦になってかち合わぬようドラゴン組みとラヴェールはそれぞれ左右に展開し
互いが間合いに入るのを避け敵もそれぞれを追うことで左右にきれいに分かれ戦いが
始まった、
「まずはセオリーどおりに」
ジャンはそのドラゴンの顔にめがけて既に装填していたウイークバレットを
狙いあやまたず叩き込む、めり込んだ弾丸は鋭くとがった鼻先の付け根に当たり
周囲の硬そうな表皮が弛緩して見た目にもたるんで脆弱化したことが見て取れる
「グシャァァァァァァ!」
ドラゴンモドキは顔を細長い腕で覆い吼えるがその隙を無駄にする3人ではなかった
「まともに避けられもしないか未熟だな、散開して叩き伏せるか」
ジャンは左回りにテツは背後にすばやく回りシンジュクはランチャーに持ち替えて
一時的な弱点になった鼻っ面にコンセレイトワンを外さないように慎重かつ迅速に
叩き込んでいく、野外ならそこまで神経を使う事はないが今は輸送船の中である
弾を外せばすなわち船のダメージとなり自らはもちろん仲間も危険に晒すのだ、
左に回ったジャンも慎重にステブウェポンの銃口からワンポイントを
作られた弱点に叩き込むがいつものように何かしらの指示や助言を語る事はなかった
それはテツとシンジュクが自分と同等いやそれ以上かもしれない力量を
持っている事を見抜き無用と考え信頼している証であった、
テツは真後ろに回り込むとフォークのように三叉に分かれた尾に
愛銃マーリーベルガからウィークバレットを叩き込み鼻面のバレットがまだ効いていて
弱点が二箇所になった、ジャンとシンジュクのヘッドショットとテツの尾の舳先への
ウィークバレットからワンポイント、グレネードシェル、と叩き込まれ
ドラゴンモドキは如何対処するか迷い体を振り回している、
熟練した敵なら迷いは禁物である事を理であろうが本能であろうが理解しており
いずれか一点に活路を見出し突出してくるものだがドラゴンモドキは
両方に気を取られわずかであるが動きが止まっていた、熟練の者達との戦いでは
このわずかが命取りになる事がままあるのである、
「未熟だねぇ~弱すぎるじゃんこいつは手ごわいって言ったの誰だったかねぇ~」
テツはせせら笑っていた、キャストであり顔がディスタヘッドのため表情こそ変わらないが
あきらかに相手の力量をこの一連の動作で推し量ったようだった、
「反撃かでも遅い!」「見せ掛け倒しだなこのカジキ」
敵は怒り狂ったのか前足の爪で相手を引っ掛けようと腕を振り上げ続けるが
ジャンとシンジュクはすばやくダイブロールをして定位置に留まらず
動き回るので敵は捉えることができずその苛立ちからより動きが雑になっていく
そして背後にテツいてその注意がおろそかになってきている、
テツは小型のボディーはこのような時にも有利に働く、存在を忘れさせやすいのだ、
テツはウィークバレットの効果が後10秒程度と目測しライフルの銃口に
フォトンを集中させ始めている、
それを見たシンジュクとジャンはさらにドラゴンモドキを挑発し、顔面だけでなく
胴や足などに散発的に弾丸を撃ち込んでいく、
体のいたるところに弾を撃ち込まれその痛みと自分の予想外の攻撃に
さらにドラゴンモドキは苛立ちを募らせ完全にテツの事を忘れていた、
そこにテツのライフルから強烈なフォトン弾が撃ち出される
エンドアトラクトが放たれたのである、貫通性が高いフォトンアーツである
ピアッシングシェルの上位版に当たるこのフォトンアーツを
艦内で撃つとは非常識な!とジャンは一瞬思ったがそれはすぐに杞憂に終わった
鉄の放ったエンドアトラクトは敵の尻尾の下半分を吹き飛ばし
弾速が減退した後ちょうど最初に三人が立っていた後ろに積んであった空のコンテナに
弾が当たりコンテナが一つひしゃげ弾は勢いを失いコンテナに受け止められその動きを止めた、
テツの完全な計算の元、敵は尻尾を吹き飛ばされその苦痛でのた打ち回っている
「ギシャァァァァァァァァァァァア!」
振り回された尻尾から黒紫の血があふれホースで放水するかのごとく血を撒き散らしている、
すでに戦闘どころではないが3人は手を緩めず3方向に散開して
相手が動かなくなるまで弾丸を叩き込み続ける、体の所々の突起が破片になって飛び散り
耳のような突起に弾が貫通して大きな穴がうがたれている
そして威勢の良い吼え声が慈悲を請うような惨めな声に変わっていくが
3人は一切手を緩める気はなさそうだ、
「ハドレット!」
暗殺者を語る少女は叫び声を上げる
そしてハドレットと呼ばれたドラゴンモドキに駆け寄ろうと身をかがめた瞬間
その顔にめがけて鋭い斬撃が振り下ろされ、寸での所でそれをかわす
ラヴェールが一気に踏み込み少女を切り刻もうと左右から二レンカムイで斬り付け
その刃の軌道は恐ろしく早く見切る事さえ叶わない、
「早い!そして一撃一撃が重過ぎる!なんなのこの女!」
少女は腕からまるで生えているかのような両腕の刃で敵の刃を弾こうとするが
全てを弾くことができず所々に浅い切り傷が体に刻まれていくが
負けじと刃を振るいラヴェールは的確にそれを弾いていく、
多少の切り傷は受けているがそれは致命傷に程遠い物であった、
いつも自分とハドレットで始末してきた相手とは比べ物にならない圧倒的な経験の差
完全に相手を見誤っていた、
「ラヴェール遊んでやってるのかい?」
既に虫の息で横たわるハドレットを踏みつけながらシンジュクはラヴェールに笑いながら
話しかけている、
「すぐに殺しちゃつまらないからね、暗殺者なんて抜かしてるけど実力がこの程度とは
私らも舐められたものさ!」
ラヴェールはニヤニヤ笑いながら少女の装備を削るように切り付けていく
その目はより赤くらんらんと光り少女の心に恐怖心が芽生え平静を失いつつある
すでに相棒のハドレットがいとも簡単に討ち取られ自分も4対1と数の上でも不利
その相手1人すら倒せるか危うい状況である、彼女は最後の秘策が発動するまで
時間を稼ぐしかないと心の中で決め込んでいた、
既にどれだけラヴェールに切りつけられたか分からない、まるでカキ氷でも作るかのように
装備と衣服が薄片になって飛び散り斬撃を受ける衝撃で体の感覚がなくなりつつある
そして恐れていた事が現実の物になった、
彼女の腕から突き出ている2本の刃がその衝撃に耐えられなくなり
まずは右続いて間をおかず左の刃も徐々に削れついには折れて吹き飛んでしまった、
動揺と恐怖が一気に心の中に流れ込んでくるそして自分の自信の源であったのだろう
自慢の武器が削り折られ完全に戦意が損なわれた、
「殺される・・・」
その恐怖が心の中を駆け巡り徐々にガードが甘くなっていく・・・
「ほぉら脇がお留守になってるよ!」
ラヴェールはそう叫ぶと少女の腹に二レンカムイを握った拳を下から上に
思い切りめり込ませ、同時に少女の口から鮮血とも嘔吐物とも取れない赤い液体が
吐き出され地面に崩れ落ちる、
「うげぇ・・・ゴボッ・・・・うぇぇぇぇぇ」
口から血を吐き出し腹部を押さえるがラヴェールはその抑える手をかいくぐり
腹部に何度も鋭い蹴りを叩き込んでいく
「だいぶ女らしい顔になってきたじゃないか!おらよっ!もっと喰らいな!」
そのたびに苦痛にうめく声が倉庫に響きダメージを抑えるために初めこそ
腹筋を引き締めて最後の抵抗をしていたが徐々にその抵抗感が感じられなくなり
何度か鈍い何かが折れる音も聞こえてくる、
血反吐を吐いてうめき恐怖を帯びた目でうずくまる暗殺者に一切容赦のない
ラヴェールの何十発もの執拗な蹴りはさらに激しさを増す
少女の態度が余程気に障ったのだろう、
それは命のやり取りを遊び感覚で行い身の程をわきまえず図に乗った
態度で敵に臨むというラヴェールが嫌う振る軽薄な舞いであったからである、
「命乞いでもするんだね、最も助ける気はないけどねぇ!」
ラヴェールの顔が怒りで凄まじい形相に変わっている、その顔はシンジュクにも
引けを取らず新たな鬼女の登場であった、とても常人が近付けるような物ではない
迫力があった、
「どうせてめぇらは無抵抗な相手ばかり殺して図に乗ってたんだろうが!」
怒声を発しその足は腹の次に仰向けになった少女の顔面を激しく踏みつけていた、
顔面に鈍い激痛が頭蓋がメリメリと音を立て骨が崩壊しようとしているのが
嫌がおうにも感じられた、戦意は喪失し心の中は恐怖で支配されていた、
自分でも分かるほどに激しい動悸と脂汗が全身からにじみ出て体が自然と震えている
しかし彼女は幸運だった、ラヴェールの恐ろしい形相は見えなかった
それを見ていたら失神していたかもしれない、そんな顔も
ラヴェールの殺人級とも称される大きな胸が顔を遮り見ずに済んでいたのだ、
少女がぐったりした、奥の手を出すまで持ちそうにない、あきらめと絶望感に
支配されていた、
「そろそろ楽にしてやるか」
「ラヴェールやさしいなぁもう2.300発食らわせてやりなよ、ズッタズタの
ボロ雑巾にしてあいつらに送り返してやろうぜ」
シンジュクはゲラゲラと笑いながらラヴェールの教育的指導を眺めている
ラヴェールは二レンカムイを再び逆手に持つと少女にとどめを刺そうと
腹と首に向けて振り下ろしたが次の瞬間ドラゴンモドキ共々デジタル分解されて
その場から姿を消しラヴェールの二レンカムイは倉庫の床に浅く突き刺さっていた、
「強制回収されたか・・・という事は近くに仲間がいると見て良さそうだね」
女は恐ろしいものである・・・
ジャンはラヴェールの凄まじさに内心動揺していたが態度に出さないよう振舞う
そして周囲をスキャンして船内に敵がいない事を確認するとモモラーノを守るために
別室で守りを固める垣屋たちと操舵室に通信を入れる、
「こちらジャンだ侵入者を撃退した、再度の侵入があるかもしれない現状を
維持した方が良さそうだ、警戒を頼む」
と入電して警戒を緩めないように全員に促す、
そして数分が経ったであろうかツシマに艦船からの通信が入る
ヘスティア慈善事業団の救急艦が後ろから追い付いたのである、
「輸送船ツシマへ入電、こちら救急艦カドゥケウス、応答せよ!これより貴艦の
救援要請のため館内へのテレポーターの接続許可を要請する、繰り返す貴艦艦内への
テレポーター接続を要請する」
これでモモラーノを救う医療的な手立ては取る事ができる、これは大きな福音であった。
ヘスティア慈善事業団が誇る高速救急艦カドゥケウスはツシマの真横に併走し
テレポーターの接続作業に取り掛かったようだ、
人間だけならそう苦労をする事はないがモモラーノを現段階で動かすことが出来ず
医療設備などを運び込む為に少し時間がかかりそうである、
「垣屋、クルーのみんな聞こえるか?敵はこちらで撃退した閉鎖は
といて良いだろう後はよろしく頼むぞ」
「すまんの助かるわい」
「まぁこの組み合わせならあの程度はどうって事無いな」
ジャンとシンジュクの通信にモモラーノを守るために船底を固めていた船員と
パティ、ティア、スゥリン、ねね、垣屋は敵襲が苦もなく退けられた事を知り安堵した、
オパオパを介して映像が見られた垣屋はある程度状況を把握できたが
他のお子様たちは上で何かがぶつかったり銃弾の音が鈍く聞こえたりするだけで
未熟さも手伝って音だけでは今ある状況を判断するまでには至っていないのである、
ねねはカドゥケウスと共に母とナターシャそしてステファニーが駆け付けると
聞いていたのでもうすぐ会えると思い安堵感がより一層強く感じていた、
「どれどれ調子はどうかねぇ・・・医者が来るぞもう少しの辛抱だ」
垣屋は再度モモラーノの状態をチェックし端末から途中までで中断していた電子カルテを
一気に仕上げてカドゥケウスに転送し通信を介して乗船している外科医や内科医
ロックベア等原生生物の体組織にも精通した獣医とも細部に至るまで現状を伝えている、
「・・・現状はこんな感じだわ、予断は許さんので手早く頼むわい」
「分かりましたこちらは準備が出来ていますから後は任せて下さい」
「応急処置としては少々荒っぽいですがよくできたと思いますさすが垣屋博士ですね」
「そうかね、しかし荒っぽかったか?出切る限り丁寧にして差し上げたんだがのぉ」
それを聞いて垣屋もようやく安堵の表情を浮かべた
もっともやり方が荒っぽいと言う指摘に少し口をへの字に曲げてはいたのだが、
垣屋は獣医免許こそ持っているがあくまで対象は牛や豚等の家畜動物の物であり
ロックベア等は専門外で随分前に見た文献などを記憶頼りに一か八かで応急処置をしていた
余りにも急な事で再度調べている余裕などなかったのだ、
正直これで良いかは自分にも分からない一発勝負からようやく解放されたのである、
「お待たせしました!すぐにとりかかります、移動が困難なためここでオペを
させて頂きますよ、」
そしてテレポーターの接続が終わりカドゥケウスから医師たちが機材と共に転送され
次々にモモラーノが待つ船底へと駆け寄ってくる、
皆命を助けたいという強い情熱にあふれた心優しい医師たちである、
「よっしあとはお任せさんじゃな」
垣屋は自分の用は終わったと見て取り医師たちの邪魔にならぬよう後ろに放り出していた
自分の装備を拾い上げるとそれを装着し後は頼んだと告げると
医師たちは強くうなずき親指を立て施術の準備に取り掛かった、
「私たちも上を手伝いにいこっ」
パティの声にお子様たちも場所を医師たちに譲りベテランチームたちが警戒をしている
船倉部へ向って階段を上って行った。
「よぉ手伝いに来たのか?こっちは問題ないよ」
シンジュクたちは手を振り余裕の表情を浮かべる、船倉部ではドラゴンモドキと
暗殺者気取りの少女との戦闘を終えたシンジュク、テツ、ラヴェール、ジャンが待っていたが
アークスの中でも上位に位置する彼らは息も上げる事無くまた船内も空のコンテナが一つ
ひしゃげただけで目立った傷も見当たらない、強いて言えば少女が吐き出した血反吐と
ハドレットと呼ばれたドラゴンモドキの千切れた尾と黒紫の血溜まりがあるばかりである
常に考えずに力を全開にしてぶっ飛ばすのではなく状況を即時に判断して火力を
コントロールする、それは上級アークスの証でもあった、
ジャンはラヴェールを直視するのを避けながら弾丸を新たに装填していた
暗殺者の腹を殺すつもりで蹴り続けるあの顔があまりの形相だったため
対人に於いて少し小心な彼の心胆寒からしめるに充分であった、
その一方でラヴェールはさっさと気持ちを切り替えたらしく
幾筋か付いた切り傷をふさぐためにモノメイトの封を切り
穏やかな顔で飲み目を細めている、
ジャンは視線をそらすと床にまだ小刻みに波打って動くハドレットの尾以外に落ちている物に
注意が向いた、それは目の粗い鋸状の刃がついた暗殺者の少女が操っていた武器の刃であった、
その刃は断面に空洞部分がありそこから赤い血と言うのか髄と言うのかが床へとあふれている
まるで昆虫等の外骨格生物の足が折れて体液が流れ出るようなそんな感覚を催させる、
「これは・・・ジグが興味を示すかな・・・」
ジャンはライフルの銃口でその刃を軽く小突いて何か起こらないか反応を見
端末でデータの収集を行う、
いつのまにか横に来ていたテツはそれを拾い上げると中に溜まっていた血を
床に流して言った、
「これ刀身全部が純度97%以上ゼルシウスでできてるねぇ~しかもフォトンコートも
相当念入り!切れ味もすごいよこれは、スクラップ屋に売ったら結構なお金になるね!」
「ゼルシウスの固まりかジグへの土産になればと思ったが」
「二レンカムイに負けてるようじゃ興味示さないんじゃないかな
もっとも地金としてはお土産になりそうだけどね」
テツはこの刃の構成物質を既に見抜いていてふと何かを思う仕草の後に言葉を続ける
「これインプラントでさっきのガキの腕に植えつけられてたんじゃないかな
ほら・内部に血管とか癒着した骨組織がくっ付いてる、多分体組織の
一部として癒着していて戦う時は武器としても使えたんだと思うねぇ~」
「なるほどなだから血が内部から出ているわけか」
ジャンはその説明で刃の中が空洞部分があり血が中から出てきたと納得しつつあった、
凍土に来てから自分の思い込んでいた常識や思い込みが幾度も
打ち崩されていたのである、今の彼には物事素直に受け入れる柔軟さが備わっている、
「まぁジグにはあの棒をもっていけばいいよ、あとは機を見てスゥリンちゃんから
取り上げるだけだね」
ツシマとカドゥケウスは併走し目的のジャン・レオン・ジェロームへと道を急ぐ
このまま順調に行けばあと30分もあれば到着するであろう
しかしジャンは胸騒ぎを感じ不安がもたげてくるのを抑えられなかった、
先ほどの刺客の強制回収といいそんなに離れていない
まだ何かが来る様な気がしてならなかったがその予感は的中した、
船内に突然警告音が鳴り響く
「後方より高速艦船急接近中!総員配置に付け!総員配置に付け!」
船員が各自の持ち場に散っていく、仔細が分からなくても相手が何者かは既に見当は付いていた
船員が垣屋たちと医師たちに大声で叫ぶ、
「揺れるぞ!何か掴まれる物のそばにいてくれ!」
その言葉に従い研究所の面々はそれぞれに掴まれる物を見つけその場で武器を構える
「全速前進!」
船長の号令の下船は大きく揺れ進行方向へ体が強い重力がかかってくる
ツシマは資源を運ぶ平凡な輸送船である、積載を優先するため武装は最低限しか
搭載されておらず敵の追撃に応戦するのは事実上不可能に近い
速度的にも不利と分かってはいたが可能な限り急ぎジェロームに逃げ込む以外
方法はなかったのである、
ツシマは併走するカドゥケウスにジェロームまで急ぎ退避する旨を入電する
カドゥケウスは了解すると自艦が時間を稼ぐのでそのまま前進するように
通信を返し、カドゥケウスはその場で旋回し船首を後方から迫ってくる艦船に向け
艦船用のフォトン粒子砲を旋回させ相手に向けると狙いを定める、
後方から急接近してきた艦船は4隻黒と紫のツートンカラーに塗装され
ゴシック様式を思い起こさせる刺々しいまでにとがった船体は
いかにも高速で航行できそうに伺える、アークスの軍部ですら数隻しか
配備されていない最新鋭の艦である、
高速艦の一隻からツシマとカドゥケウスに入電する、
「おい!そこの二隻!ぶっ殺されたくなければ停船しろ!今すぐだ!」
宇宙を行く船の男たちは紳士的な振る舞いを矜持としているため応答は
礼儀正しい物だがやはりヴォイドでありその下劣な振る舞いは船に乗ろうが
変わる事はない、
無論ツシマとカドゥケウスはこの下種な連中の思い通りになるつもりは毛頭ない、
ツシマはジェロームに向かって全速前進しカドゥケウスはヴォイドの高速艦の一隻に
狙いを定めた、その距離直線にして約15km、
もはや警告は無駄と思ったのか敵の高速艦は一斉にフォトン粒子砲を一斉に
発射し青白い光りの筋がうなりをあげカドゥケウスに向って放たれ
負けじとカドゥケウスも搭載されたフォトン粒子砲を放った、
ヴォイドの放った粒子砲の光線はカドゥケウスの左舷にかすり白い船体に
一筋の傷を刻んでいく、わずかに船体が傾いてその衝撃の凄まじさを物語っている、
しかしヴォイド側もどこかに被弾したらしく何かの断片が放射状に
飛び散っている、
そこからは互いに躊躇する事無く互いに粒子砲の応酬となった
どちらかが沈むまでその戦いは終わらないだろう逃避行はまだ続く。