カドゥケウスは最初に狙いを定めた艦船をまずは航行不能にせんと砲撃を続ける、
敵艦も直線の航行スピードこそ速いものの停船して艦と艦との艦砲射撃戦になれば
そのハンデはほぼなくなると言って過言ではない、しかしカドゥケウスはたった1隻で
4隻の最新鋭の高速艦を相手にしなくてはならず相手の弾幕は単純に4倍で
回避もままならず少しづつ白い貴婦人を思わせる装甲に行く筋もの傷が刻まれていく、
「これまずいんじゃないの?沈むわよ」
ステファニーはブリッジでまるで他人事のように今の状況への率直な意見を述べている、
「はいはいしずみますねしずみますねぇ~」
老齢のナターシャはステファニーに相槌を打つとあてがわれた席に人形のように
微笑みながら座っている、ユキノは自分の予想に反して追い詰められたこの状況に苛立ちを
隠せなかった、
「船長さんどこかに助けてくれる船はございませんの?!」
カドゥケウスの船長に尋ねてみるが的確な指示を出すため集中しており
それを邪魔させまいと副艦長が代わって答える、
「だめですね・・・ヴォイドの連中が訓練と称して周囲の船に退避命令を出しています、
周りの船はずっと前にこのエリアを離脱していますよ」
「きぃぃぃぃっ!」
ユキノは歯噛みしている、この状況ではアークスに援護や救援は望めず
ヘスティア慈善事業団に応援を要請するにしてもとても間に合わない
カドゥケウスはそれだけ短時間に高速移動できる船であるためだ、
「奴ら訓練と称して我々の船を沈める事で後の事後処理を容易に
しようとしているのでしょう、事が事だけに当然と言えば当然ですな」
船長は帽子を深くかぶりなおすとユキノに言ったが船の感覚が分からないユキノと違って
未だ落ち着き払って現状を目で追っている、
陸地とは違い閉鎖空間でパニックが起きるとその影響は陸とは比べ物にならない
船の乗組員はそれを熟知し体で覚えている物で、胆力が強く求められる、
「ひとまずツシマと距離を保ちながらこちらも後退するしかありません
一縷の望みを賭けてジャン・レオン・ジェロームまで逃げ切るしかないですね、」
オペレーターは消極的な意見を述べているがその顔に絶望感や諦めの表情はなかった
「先ほどヴォイドの艦船が確認できた折にツシマからジェロームから応援が出せないか
打診するよう頼んでおきました、友好的とはいえ私たちは別勢力ですからね
うまく来てくれるといいんですが・・・」
最新鋭の船で宇宙を駆けるだけあって副艦長の対応は隙のないものでユキノは
幾分か落ち着きを取り戻したが同時に艦船の知識の習得を怠った自分を許せない気持ちが
もたげてくる、それは自分の発言が周囲に不安を植えつけかねないものであり
自分の軽率さが許せなかった為でもあった、
依然として敵からの砲撃は続き操舵手はツシマに敵の砲撃が直撃しないよう
自艦でうまく直線射線上を覆いながら万一に被弾した場合に少しでもダメージが和らぐよう
相手の射程距離ギリギリ足りない位置にツシマが来るるよう
艦砲射撃で相手が突出して来ないよう牽制し距離を取って後退する
それはまさに神業と言っても過言ではなかった、
砲撃の応酬は続き双方とも目立ったダメージが傍目にも分かるようになり始めた
そしてしびりを切らしたのかヴォイド側に動きがあった、
水平に並列して応戦していた4隻のうち両端の艦船が下に下がって
前進の様子が伺えた、二手に分かれてカドゥケウスとツシマを同時に撃沈しようと言う
作戦に切り替えたようだ、
カドゥケウスに向けてより強く一斉射撃による弾幕が張られカドゥケウスは辛うじて
反撃するのがやっとであった、前進した左右の高速艦は側面の銃座より腹部を狙い
一斉射撃を加えてくる、左右からの衝撃で船が揺れ
船員とユキノは体のバランスを取るのがやっとであった、
カドゥケウスも側面の機銃で応戦するが2隻を沈めるには至らず高速艦はカドゥケウスを
すり抜けツシマに向かって全速前進し通過して行った、
ツシマに追いつかれれば持ちこたえるのも時間の問題でカドゥケウスも前後を
はさまれると言う状況に追い込まれたのである、
カドゥケウスはこの口惜しい現状を耐え今はこの二隻と相対するしかなかった。
一方モモラーノを載せたツシマでは
ジェロームまでの道のりはおおよそ残り20分ほどでツシマは力の限りひたむきに走り続ける
医師たちは応急処置を寄り完璧な状態にするための手術の準備に取り掛かり
その様子は慌しいようで2層目に上がってきた研究所の面々にその喧騒が伝わってくる
船底は熟練の乗組員が周囲を固め不測の事態に備え研究所の面々は
人手が足りない2層目を守る事となった、
陸上では自分達のすべき事があるのであるが艦船の事となれば自ずとできる事は限られてくる
垣屋は2層目に上がってくると周囲の状況を見回して把握すると
ようやく波打って動くのをやめようとしているドラゴンモドキハドレットの尾の一部を
掴みあげてアイテムパックからビニール袋を取り出してそれに入る大きさに
切断すると袋の中に放り込み厳重に封をしてアイテムパックに詰めて
テツから状況を聞いた後に暗殺者の少女の血液と血反吐もビニール袋に採取して
アイテムパックに詰めた、
「垣屋そのドラゴンの尻尾をどうするつもりだ?」
ジャンにたずねられると
「ひとまず落ち着いたらこいつらのゲノム情報は把握しておくのよ、色々と
情報詰まってるんじゃよ、ばっちいけどのぉ
あとそのガキのつけてた刃物そいつも貸してくれや分析終わったら返すでよ」
「ああ、分かった」
そして視線を再び艦内に向けようとすると乗組員が皆にカートに載せた
グレネードランチャーのような銃を配って回っている
「カドゥケウスからの通信ではヴォイドの船が2隻こっちへ向ってるらしいです、
もし船体に穴が開けばこいつを使って応急的に塞いで下さい」
船員は全員に船体に穴が開いた時に応急で塞ぐ粘着弾を発射するリペア銃を
配っていたのだ、研究所の面々にも銃1丁と弾が10発づつ配られ
船員が使用方法をとかくお子様たちに向けて説明している、
銃座の数も知れていてそれは乗組員が扱うため万一に備える事くらいしか
出来る仕事はなくそれぞれが急ぎ持ち場を決め号令の元散って行った、
乗組員は持ち場が船底であるらしく余った銃と弾をカートで押しながら
船底へと降りて行った、
ラヴェールは全員が持ち場に着いた事を確認すると乗船時に渡しておいた
命綱をどこかに引っ掛けて万一にも宇宙空間へ放り出されないように
注意を促した、アークスならば宇宙空間でもよほどの長時間でなければ
フォトンの膜で覆われて活動可能ではあるが回収できなければいずれは死を迎える
それに備える為である、
船内に警告音がけたたましく鳴り響く、
「敵艦船接近!総員配置に付け!」
そう言い終るかどうかと言う刹那ツシマは左側に強い衝撃を受けそのまま左に傾いで
立っている者は体のバランスを崩し積載された固定されていない物資も左へと流れていく
「挟まれない様に注意して下さい!」
船員から注意が促され、さらに後ろから強い衝撃が加わり次は船体が前へと傾ぎ
船内の照明が切れて周囲が真っ暗になるが照明はすぐに元に戻り
船体は左前に傾いだままになって前に進む感覚が感じられなくなっていた、
「左舷メインエンジン損傷!補助エンジンに切り替えます!」
船内放送で被害状況が報告されるとツシマは身震いすると再び前に進みだすが
その歩みは先ほどと比べ物にならないくらい遅い物となった
敵の高速艦は船足が遅くなったツシマとの距離を縮めてくるが一定の距離を
取るとそこから砲撃を仕掛けてくる、
先ほどの少女とハドレットが敗北した情報が共有され内部への侵入は危険と判断し
船を沈めることで方をつけようと方針を固めたのであろう
それは極めて賢明な判断であった、
そして乗組員の予想通りに事が運び敵艦船の砲撃によりツシマの船体の所々に
穴が開き内部の空気が外へと吸いだされる、
「よしリペア弾で塞ぐよ弾が少ないから無駄にするんじゃないよ!」
シンジュクからの通信が皆に伝えられそれぞれの持ち場に散った面々は
自分に近い場所に開いた穴にリペア弾を打ち込み割れ目に当たった弾は
粘着性と弾力性を伴った膜が広がり穴を応急的に塞いでいく
しかし予想以上に穴が大きくそれぞれが弾を使いジャンとシンジュクは
持ち弾が0、垣屋は残り2発、ねねとスゥリン、パティとティアもそれぞれ3~4発
あるかどうかであり既に体を胴線で固定しているため
お互いが行き来して弾を融通しあう事は困難であった、万一胴線を外して
移動している時その横で船体に穴が開いたらどうなるかは子供でも分かる道理であり
避けなければならなかったのである、
しかし容赦なく敵艦からの砲撃は続き船底から強い衝撃が伝わり再びツシマは歩みをを止めた。
「右舷メインエンジン中破!右舷メインエンジン中破!」
船内放送で現在の状況が総員に報告される船底から慌しい声が聞こえメカニックが
エンジンルームへ向う足音が聞こえ、船底も損傷を受けたらしく
先ほど自分たちが撃ったリペアガンの発射音が聞こえてくる、
垣屋は居ても立ってもいられなくなり胴線を外した、同時にテツも自ら胴線を外し
メカニックたちが走り去った方向へ駆け出す、
研究所において一番機械関連に詳しいテツはエンジンの応急処置を自分のできる範囲で
手助けしようと思い立ち、一方の垣屋はモモラーノと医師たちが気になり
船底へ向かう事にした、
二人はそれぞれ逆方向に走り出し他の面々にはそこを死守するように促すと
リペア弾を弾切れのジャンとシンジュクにすべて託すとそれぞれの行き先へと
走って行った、
エンジンルームにかけつけたテツはメカニックたちに被害状況を聞くと
フォトンケーブルと一部の部品が破損している旨を聞き自分のアイテムパックの中から
間に合わせで使える物がないか探し始めた、
一方垣屋は船底に降りてきて周囲を見回す、
幸い敵の砲撃で開いた穴は既に船員たちがリペア弾で塞いでいたが破片を受けたのであろう
数名の船員が負傷して医師の止血処置を受けている、
大丈夫かと訪ねると船員たちは笑顔を作って見せ、
「俺たちはいい、モモラーノさんは無事か?」
と彼女を気遣っていた、
大丈夫だと垣屋は答え手持ちのモノメイトをそれぞれの船員に渡して
痛むようならこれを飲めと薦める、船員は感謝すると垣屋にモモラーノのところに
行ってやってくれと促した、
垣屋はモモラーノと処置を続けていた医師たちに駆け寄る
「調子はどうかね?」
垣屋は訪ねるが医師たちは状況が状況なので手術が出来ず応急処置に留まっていると説明する
尤もな事なので垣屋はそれ以上詮索はしなかったが問題はモモラーノにあった、
いつ命の日が消えるかだけではない見えない所から自分を助けようとしている人々が
自分のせいで命の危険に晒されている、それは自分の苦痛とは比べ物にならぬ
心苦しさを感じていた、重症を負った者はその気の持ち方に生存率が大きく関わってくる
今弱気になるのは禁物であるがモモラーノの口から弱気が声になって吐き出される、
「みんな・・・ありがとう・・・もういいよ・・・私を宇宙に捨てて逃げて・・・」
モモラーノの眼から涙がこぼれその顔は絶望感が漂っている
しかし医師たちと船員たちは声を揃えて叫ぶ、
「諦めるな!」「俺たちに任せとけよ!」
「例えあんたが諦めても俺たちは諦めないぜ!絶対助けてやるからどーんと構えときな!」
誰もがこの状況でも諦めはしていなかった、そしてネガティブな言葉は一切なく暖かい励ましの言葉に
あふれていた、すでに皆の心は「救う」事一つに団結し揺るぐ事はなかった、
一方エンジンルーム
「こりゃぐちゃぐちゃだなぁ・・・・」
ツシマの整備士長は困惑していたフォトンエネルギーを噴射口に連結するケーブルが
見事に切断されていた、このケーブルがつながらない事には再びエンジンが動く事はないだろう
「緊急用のエンジンがあるだろうからそれ付けるしかないねぇ」
テツは積載されているだろう航行不能に備えた予備のエンジンを出すよう整備士長に促すが
帰って来た答えは素っ気のないものだった、
「うちは貧乏だからなそんなもんねぇよ!」
「マジか・・・」
それを聞いてテツはがっくりうなだれる、エンジンの載せ替えならさしたる苦労はないが
ケーブルのつなぎ直しとなると結構な手間である、
しかも今は悠長に停船して修理をしている暇はない、隣でフォトンをふかし込んで
高温化しているサブエンジンの噴射口の近くで作業をするしかないのである、
そしてそのお鉢がここにいる唯一のキャストであるテツに回って来ることは必定であった、
「俺が行くよ!さすがにケーブルの予備はあるよねぇ」
「そいつは大丈夫だすまんなよろしく頼むぜ!」
テツは胴綱を耐熱ワイヤー製の物に付け替えると固定フックに装着してエンジンルームの
噴射口近くへと走って行った、
「ひとまず動くようにするしかないねぇ・・・」
テツは腰につけた体に見合わない大きなツールパックからケーブル切断用の
フォトンクリッパーを取り出して11本あるケーブルのどれが損傷を受けているか
確認し左右のメインエンジンの破損状況を確認した、
左はケーブルの切断で右はフォトンエネルギーの廃熱スラスターの破損と
制御装置の破損であった、テツは面倒な左から着手する事にした、
エンジンケーブルは最も太いケーブルを骨にしてそのまわりを細いケーブルで
囲んでありメインの切断が停止の原因と判断した、
クリッパーでは刃の長さがケーブルの太さに足りないため予備ケーブルを上から足して
その上から補修材でふさぎフォトンが流れ込むように処置することに決めた、
「しっかし熱いねぇ・・・こりゃ早くしないと溶けちゃうかもね」
テツはいつもののんびりとした口調だがサブエンジンの横周囲の温度は900℃以上に
なっており生身の人間なら耐熱服を着用していても生きているのは無理であっただろう、
周囲の細い線をクリッパーで切断して作業スペースを確保する
メインケーブルさえつながれば予備は何本か不足があっても
メインエンジンを吹かせた状態で15分程度で到着するジェロームくらいなら
何とか持たせる事が出来る、
メインケーブルの切れて痛んだ部分を切除して圧着スリーブを差し込む、
半分ほどスリーブを差し込んでから手繰り寄せた予備のケーブルをもう半分に差し込むと
スリーブの外側にセットされた圧着器のスイッチを入れると
手を離す猶予のために圧着までのカウントダウンアナウンスが器具より聞こえ
バシュッ!と言う音と共に切断されたケーブルの接続が完了しテツは通信機で整備士に連絡を取る、
「つながったよ!あとはそっちでジェネレーターと接続してね」
テツは息もつかずに右のエンジンへと走って行った
こちらはケーブルのような面倒な物でなく歪んでへこんだ廃熱スラスターを手で無理やりこじ開け
廃熱が可能なようにして破損した制御装置を取り外し再び連絡を入れて
エンジンルーム外で手動運転に切り替えるよう指示を送った、
「さて・・・逃げないとやばいねこれは!」
エンジン周りでの応急処置はこれで終わった、ひとえにテツの勇気と機械に対する
知識の深さが皆の命をつないでいるのだ、
そしてテツは自分の体を見回すと短時間ではあるものの高温に晒されたことで
自分の体の緑色の塗膜がはがれめくれ上がりかろうじて張り付き
ボディーの細部のエッジが熱で変形するまでにダメージを受けていた
テツは急ぎエンジンから離れ戻る前にもう一度通信を入れる
「今から戻るけど俺すっごく熱くなってるから近寄らないでね!」
整備士たちが了解と応答するとテツはダッシュでその場を離れた、
次は整備士が活躍する番である、
整備士たちが必死の努力でフォトンジェネレーターへの接続作業をしている所から
少し離れてテツは自分のボディーを自然冷却させる事にした
「ちょっと冷やしてくるよ水とか消火剤はかけないでねボディが割れるから」
いきなり水をかけるとボディーに亀裂が入ったり沸騰した水蒸気が周囲に飛び散り
エンジンを救った英雄から皆の嫌われ者になり下がるためでもあった、
アイディスプレイで自分の表面温度を観測し80℃程度に下がってきて
テツは一息つくと同時に後ろで敵のフォトン粒子砲が直撃しテツは爆風で吹っ飛ばされ
壁に顔から激突し地面に落ちた、
「全エンジン大破!全エンジン大破!航行不能!航行不能!」
警告音と共に現状が無常に知らされるテツは地面からゆっくり起き上がると
エンジンのほうを恨めしそうに向くと体を震わせそれにあわせてお情け程度に
体に残っていたどぎつい緑色の塗膜がはらはらと舞い散る
「うぐぐ・・・・うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!ふざけんなよ!」
怒りと我慢の限界に来たテツのうなり声が船内に響き渡った、
ツシマは完全に停止しその状況はカドゥケウスにも急ぎ伝えられ事態はより最悪な方向へと
向かって進んで行く、
ヴォイドの高速艦からの砲撃はより勢いを増しツシマは装甲に塞ぎ切れないほどの
大穴がいくつも穿たれその場に漂うしかなかったがクルーたち、そして研究所の面々は
まだ諦めてはいなかった、
皆が必死にできる事を全うしようとしている、諦めるのはそのひたむきな努力を裏切る事
以外の何物でもないからであった、
そして後方で2隻の高速艦を食い止めていたカドゥケウスの装甲にも限界が近づきつつあった
高速艦は元来装甲が薄く武装も航行速度を優先するために最低限に留めている
お互いがその欠点を持ち合わせていたからそこ今まで持ち堪えていたと言っても過言ではない、
そしてカドゥケウスはツシマの航行不能を知るまでの間に前へと航行していたために
ツシマとの距離が縮まりより敵の有利な状況へと進んで行くしかなかった、
ツシマを後ろから砲撃していた2隻は勝利を確信したのか左右に展開し
カドゥケウスとツシマを半包囲する陣形を取りはじめ
フォトン粒子砲のエネルギーの充填を初め2隻にとどめを刺そうと狙いを定めた、
「さすがにこれは厳しいか・・・・」ふとジャンがつぶやいた
フォトン粒子砲のエネルギーが充填し終わるまであと10秒と言った所であろう
だれもが覚悟を決めた時、遠くから強いエネルギー波がうなりを上げて近づいてくる
その数は数本いやそんな数ではく数十本はあろうかツシマとカドゥケウスを
狙ったかのように避けてヴォイドの高速艦の正面と側面へ直撃し敵艦は大きく揺らぐ
そしてツシマとカドゥケウスに通信が入電される、
「こちら戦艦ファナティックウール、ツシマ、カドゥケウス、応答せよ!
これより貴艦らを援護する」
遠くから徐々にジェロームから派遣された艦船たちの姿が見える1隻二隻と姿を現し
その数は徐々に増え目視だけでもゆうに30隻以上はいるだろう
「やべえ・・・増援がきやがったぞ」
ヴォイドの艦隊の将兵たちの顔がみるみる蒼白になっていく、
この時初めて彼らは己の艦船と無抵抗に等しい敵に奢り絶望的な状態になった事を
気付いたのである、
そして前方の艦船に気を取られていると後方かに強い衝撃を受け船体が大きく揺らぐ
急いでソナー主が確認すると油断している間に既に敵艦に後ろを取られ
逆に包囲されていた事に今更になって気が付きより恐怖が心を押しつぶそうとしていた、
そしてソナー手はその援軍の中心に浮かぶ薄汚れたベージュ色の戦艦が気になり
ビューでその姿を確認する
「ん・・・・待て・・・・あの艦船の先頭の船・・・ラリったヒツジの船首像・・・・
まずいぞ・・・・宇宙海賊!宇宙海賊キャプテンヒツジの
ファナティックウールじゃねぇか!逃げろ!逃げろぉぉぉぉ!」
ソナー手の絶叫は戦意が急激に喪失したヴォイド将兵の精神的な限界を突き破り
それぞれの船内は大混乱に陥り始めヴォイド艦船の動きが止まった、
救援に来た艦船はほとんどがろくな武装も持ち合わせていない民間船であり
自らが危険に晒されようともこの2隻を救いたいという義勇心から出撃してきた
船である、
「攻撃は出来ねぇけど牽引くらいは出来るんだぜ!アンカーケーブル打つから
受け入れ頼むぜ」
輸送船のクルーたちはツシマに通信を入れるとまずは動きを完全に止めてしまった
ツシマに4隻の輸送船から牽引用のアンカーケーブルが射出され乗組員は被害を免れていた
ケーブルの接続機に急ぎ固定し完了と共に合図を送ると4隻の船が反転し
ジェロームに向かって発進するとツシマは少し揺れた後ゆっくりと再び前に向かって進みだした
ジェロームまではもう10分ほどで到着するであろう、
一方残る4隻の高速艦は怒りに燃えるジェロームの船舶とヴォイドが恐れおののいた
宇宙海賊の戦艦に囲まれ形勢が逆転しもはや逃げる事もかなわなくなっていた。
これから正義に対し厳格なジェロームの住人たちの凄惨なお仕置きが彼らには
待っている、
艦橋にいる二人の人影が船員に通達を出す
「敵艦に乗り込んでこの船そっくり頂いちゃうわよ、準備はいい?」
「了解!根こそぎもらっちまいましょうぜ!」
船員たちの士気が上がるのを確認すると船団は混乱して動きが止まった
ヴォイドの高速戦艦へむかって突き進んで行った、
一方ツシマでは医師たちと船員たちは喜び合いモモラーノにこれで助かった旨を伝えると
モモラーノの表情は苦痛の中少し明るさを取り戻した、
そしてカドゥケウスに通信が入りカドゥケウスもツシマに続くよう入電され
混乱状態で動きを止めている敵の高速艦を尻目にジェロームへ船首を転回し
エンジンをふかしこんでその場を離脱し対馬のすぐ横へ併走した、
航行不能なツシマはもちろんカドゥケウスにももう戦う余裕は残っていない
それは物理的な問題とモモラーノの命が優先されるからであった、
「ふぅ・・・何とかなったみたいだね」
ラヴェールは体に巻きつけていた命綱を外すと汗にまみれた額をぬぐい
大きく息を吐いた、
他の面々も胴線を外し誰からともなくわらわらと一所に集まってくる
そしてその中で真っ先に話題に上ったのがテツであった、
どぎつい原色の緑色のボディーは灰色のボディーの地がむき出しになり
所々が溶けてみるも無残な様相を呈している、
「おつかれさんテツちゃん随分男前になったねぇ~」
シンジュクはテツをしげしげと眺めながらからかうように言った、
「うるせーよ、ほんとに偉い目にあったね!」
「ついでたからあのダサい緑色やめて新しい色にしてもらったら?金なら源さんに
請求回ときやいいじゃん」
シンジュクは当たり前のように言ってのけ
「おいおい・なしてワシが払うんじゃ、・・・まぁええわ今回はがんばったからの
ジェロームについたら新しいの買ってやるからしばらく我慢の」
と言うと一連の緊張が解けたのか一同大笑いし着艦準備に入れと言う船内放送が
聞こえ一同は装備をまとめハッチに向かって歩き出した、
その窓からの景色は先ほどと一変しすぐ横に目的地であるジャン・レオン・ジェロームの
姿が見える、白銀色のどことなく古めかしいシップだがえも言えぬ威厳のある
佇まいでその威容はアークスシップと比べても決して劣る物ではなかった、
ジェロームから着艦にあたり誘導がなされ牽引されたツシマはより高度な修理が可能な
ドッグへと導かれていくカドゥケウスもその横を先ほどより距離を開けて併走し
牽引してきた船舶はそこでツシマに接続したワイヤーを外し
ツシマはピットから伸ばされたカタパルトに胴体着陸するとカタパルトはツシマを
乗せたまま中へと引っ込んで行った、
ねねとパティは窓から外を覗き込む、すると外はこのシップの住人だろうか
多くの出迎えが手を振っていた、
音は全く聞こえないが出迎えた人々の顔は笑顔で千切れるばかりにいろいろな物を
振り歓声をあげていることが分かる、
「皆さんジャン・レオン・ジェロームへようこそ!!外で頭領と皆が待っていますよ!」
船員がハッチの開閉ボタンに手をかけ一同に笑顔で応える
敵艦の砲撃でひしゃげたハッチはギリギリと悲鳴のような音を上げ半分ほど
開いたところで動かなくなり船員はこれもやられたかとあきらめたように笑うと
皆に外へ出るように促した、
そとには先ほどまで聞こえなかった大きな歓声が上がり一同の今までの苦労を
労うに余りあった。